脳血管疾患による後遺症で、日常生活に支障が出たり思うように仕事ができなくなった場合には障害年金を請求(申請)することができます。
脳梗塞や脳出血の後遺症は、手足の麻痺以外にも言語障害や高次脳機能障害など人によって様々です。
障害年金をしっかりと受給するにはポイントがありますので、それをご説明していきます。
目次
脳梗塞・脳出血で障害年金を受給するためには
障害年金を受給するには、必ず満たさなければならない要件があります。
脳梗塞や脳出血で初めて病院に行った日を障害年金では「初診日」と言いますが、その初診日はいつだったのか、どこの病院だったのかを確かめます。
初診日が確定できたら、①初診日の要件と②保険料納付要件を確認します。
脳梗塞や脳出血で障害年金を受給するためにはいくつかの条件があり、それを全て満たさなければなりません。
- 初診日の要件とは、脳梗塞や脳出血の初診日において国民年金か厚生年金の被保険者であること。
- 保険料納付要件とは、初診日の前日において年金保険料を一定期間以上納付していること。
具体的には、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間についての保険料納付済期間と免除期間を合算した期間が加入期間の3分の2以上納められていること。
または、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に滞納期間がないこと。
20歳前に初診日がある脳梗塞や脳出血の場合には、保険料納付要件は問われません。
①初診日の要件と②保険料納付要件の両方を満たした上で、脳梗塞や脳出血の障害状態が障害年金を受給できる程度かどうかを判断していきます。
ですので、どんなに脳梗塞や脳出血の症状が重く寝たきりの状態なったとしても、①初診日の要件と②保険料納付要件を満たさなければ、脳梗塞や脳出血で障害年金を受給することはできません。
また、初診日がいつで、どこの病院に行っていたかどうかは、「受診状況等証明書」という書類で証明しなければなりません。
障害年金で受給できる金額について
受給できる障害年金の金額は、初診日に加入していた年金制度によって大きく変わります。
初診日に加入していた年金制度が国民年金の方は「障害基礎年金」、厚生年金の方は「障害厚生年金」を受給し、それぞれ等級によって金額も異なります。
障害年金の額
障害基礎年金1級と2級の方には子供の加算がつき、障害厚生年金1級と2級の方には配偶者の加算もつきます。
脳梗塞・脳出血で障害年金がもらえる程度とは~「障害認定基準」
脳梗塞や脳出血の後遺症がどのような状態であれば障害年金が受給できるかどうかを定めた基準があり、それを「障害認定基準」と言います。
脳梗塞や脳出血の後遺症とひとことで言っても、身体の半身麻痺、言語障害や構音障害、高次脳機能障害などあり、それぞれに基準が定められております。
肢体(身体の)の障害
脳梗塞や脳出血の後遺症による肢体(身体)の障害の認定基準は以下の通りです。
1. 一上肢及び一下肢の状態が、日常生活における動作のすべてが「一人で全くできない場合」又はこれに近い状態
2. 四肢の機能の状態が、日常生活における動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」
1. 一上肢及び一下肢の状態が、日常生活における動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活における動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」
2. 四肢の機能の状態が、日常生活における動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」
1級から3級までありますが、初診日に国民年金に加入していた方は1級か2級で、3級はありません。
社労士 石塚
また、脳梗塞や脳出血で障害年金を受給できるかどうかは以下の点も考慮されます。
- 肢体の機能の障害が両上肢、一上肢、両下肢、一下肢、体幹及び脊柱の範囲内に限られている場合には、それぞれの認定基準と認定要領によって認定する。
- 肢体の機能の障害が上肢及び下肢の広範囲にわたる場合であって、上肢と下肢の障害の状態が相違する場合には、障害の重い肢で障害の程度を判断し、認定する。
- 肢体の機能の障害の程度は、関節可動域、筋力、巧緻性、速さ、耐久性を考慮し、日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定する。
- 手指の機能と上肢の機能とは、切り離して評価することなく、手指の機能は、上肢の機能の一部として取り扱う。
日常生活における動作と身体機能との関連は、厳密に区別することができませんが、おおむね次のとおりとなります。
以下の動作について4段階評価をします。
杖や装具を使用している方は、それらの補助具がない状態で評価することに注意してください。
ア:つまむ(新聞紙が引き抜けない程度)
イ:握る(丸めた週刊誌が引き抜けない程度)
ウ:タオルを絞る(水をきれる程度)
エ:ひもを結ぶ
ア:さじで食事をする
イ:顔を洗う(顔に手のひらをつける)
ウ:用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)
エ:用便の処置をする(尻のところに手をやる)
オ:上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)
カ:上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)
ア:片足で立つ
イ:歩く(屋内)
ウ:歩く(屋外)
エ:立ち上がる
オ:階段を上る
カ:階段を下りる
脳梗塞や脳出血による肢体の障害で障害年金の請求(申請)をする場合には、肢体の障害用診断書(様式第120号の3)を使用します。
音声又は言語機能の障害
脳梗塞や脳出血の後遺症に音声又は言語機能の障害がある場合の認定基準は以下の通りです。
この中には、構音障害又は音声障害、失語症等が含まれます。
- 構音障害又は音声障害…発音に関わる機能に障害が生じた状態
- 失語症…大脳の言語野の後天性脳損傷(脳梗塞や脳出血)により、いったん獲得された言語機能に障害が生じた状態
※音声又は言語機能の障害には、1級はありません。
脳梗塞や脳出血による音声又は言語機能の障害で障害年金の請求(申請)をする場合には、音声又は言語機能の障害用診断書(様式第120号の2)を使用します。
症状性を含む器質性精神障害(高次脳機能障害など)
脳梗塞や脳出血の後遺症で、失語(言葉を忘れたり、正しく言えない)、失認(対象物を認知できない)、失行(運動機能に問題はないのに目的の動作ができない)、記憶障害、遂行機能障害などの認知機能全般の障害が残る場合があります。
これを高次脳機能障害と言いますが、障害年金では症状性を含む器質性精神障害として認定基準が定められております。
1. 認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの
2. 認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの
脳梗塞や脳出血による高次脳機能障害で障害年金を受給できるかどうかは以下の点も考慮されます。
- 症状性を含む器質性精神障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。
- 脳の器質障害については、精神障害と神経障害を区分して考えることは、その多岐にわたる臨床症状から不能であり、原則としてそれらの諸症状を総合して、全体像から総合的に判断して認定する。
- 障害の状態は、代償機能やリハビリテーションにより好転も見られることから療養及び症状の経過を十分考慮する。
- 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。また現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
脳梗塞・脳出血による高次脳機能障害の診断書と日常生活能力について
脳梗塞や脳出血による高次脳機能障害で障害年金の請求(申請)をする場合には、精神の障害用診断書(様式第120号の4)を使用します。
そして、高次脳機能障害の症状がどの程度かどうかは日常生活能力によって審査され、等級が決められます。
その等級を公平に判定するために平成28年(2016年)9月より「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の運用が始まりました。
この「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には、精神の障害用診断書に記載される「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」に応じた等級の目安が定められています。
脳梗塞・脳出血の障害年金を受給する手続き方法について
脳梗塞や脳出血で障害年金を請求(申請)する場合の流れは、以下のとおりです。
障害年金を申請する際には、多くの書類を取得したり作成しなければなりません。
一つずつ確実に進めていけば障害年金を受給することができますが、申請準備に数か月かかることもあります。
脳梗塞・脳出血で障害年金受給は難しい?
脳梗塞や脳出血で障害年金の請求(申請)をする時に気を付ける点がいくつかあります。
肢体麻痺の後遺症の場合には、障害年金を申請するのは簡単だと思われがちですが、しっかりと準備をしなければその方が受給すべき等級で障害年金が受給できないことがあるのです。
特例で障害認定日を早めることができます
本来、障害年金を請求(申請)することができるのは、初診日から1年6か月を経過した障害認定日以後となります。
しかし、脳梗塞や脳出血のような脳血管障害の場合には、1年6か月を経過する前を障害認定日として取り扱うことができる特例があるのです。
初診日から6か月経過した日以後に、医学的観点からそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められるときは、その日を障害認定日とします。
「医学的観点からそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められるとき」とは、簡単に言うと後遺症の症状が固定した状態のことです。
脳梗塞や脳出血を発症した方は、まず手術や薬物治療をし、その後リハビリテーションを受けるという流れが一般的です。
リハビリテーションを受け、今後もほとんど症状が変わらないであろうと医師が診断した場合には、その時点で症状固定となります。
症状固定された場合には、1ヶ月でも早く障害年金を受給したほうが安心ですから、症状固定した日が初診日から6か月経過後であれば、その時点で障害年金の請求(申請)をしましょう。
脳梗塞や脳出血の方が働いている場合の障害年金
脳梗塞や脳出血を発症し後遺症がある方が、障害年金を受給しながら働くということは少なくありません。
精神疾患等の場合には、「働くことができる」=「障害の程度が軽い」と判断されることはありますが、脳梗塞や脳出血の肢体(身体)の障害の方であれば、働いていることによって障害年金が受給できないということはほとんどないと言えます。
しかし、肢体(身体)の障害がない高次脳機能障害の方が働いている場合には、注意が必要です。
他の精神疾患のように、職場での配慮や仕事上の支障があればそれを診断書や病歴・就労状況等申立書に反映させることが重要です。
診断書作成を断られた場合や実際の症状よりも軽く書かれた場合
脳梗塞や脳出血で障害年金を受給するために最も重要なのが、医師に診断書を作成していただくことです。
しかし、医師によっては「あなたの麻痺の後遺症は軽いので障害年金はもらえないから診断書を書かない」と診断書の作成を拒否されたり、出来上がった診断書は自分の症状よりもはるかに軽い症状の記載だったりすることがあります。
診断書の作成を医師に断られた場合は、考えられる理由として、その医師が障害年金制度や脳梗塞や脳出血の障害認定基準を理解されていないということが多いので、無理に診断書作成を依頼するのではなく、脳梗塞や脳出血で障害年金が受給できることをご説明し、ご理解いただけた上で初めて診断書作成を依頼するのがスムーズです。
ソーシャルワーカーや理学療法士がいる病院であれば、診断書作成にご協力くださったり、主治医との間に入ってやり取りをしてくださったりすることがあります。
また、出来上がった診断書の内容が自分の症状よりもはるかに軽い症状だった場合には、特に日常生活動作についてしっかりと医師に伝えきれていないことが考えられますので、無理に診断書の修正を依頼するのではなく、日常生活はどのように送っているのか、どのようなことを誰に援助してもらっているのか、というようなことを具体的にお伝えするようにしましょう。
65歳を過ぎた方でも受給できるのか
障害年金は原則として65歳に達する日の前日(65歳の誕生日の2日前)までに請求します。
しかし例外的に65歳以上であっても請求できるケースがあります。
- 障害認定日請求(本来請求)
- 初めて1級、2級(基準障害による請求)
②については、65歳に達する日の前日までに2級以上に該当している必要があります。
そのため、65歳以上で障害年金の請求(申請)ができるというのはとてもレアケースと言ってもいいでしょう。
さいごに
脳梗塞や脳出血で障害年金を申請する場合、脳梗塞や脳出血独特の特例や考え方があり、コツを掴んで申請をしないと損をしてしまう可能性があります。
まずは後遺症が肢体麻痺なのか高次脳機能障害なのか言語障害なのかによっても申請の仕方が変わりますので、後遺症を見極めるようにしてください。
当事務所は脳梗塞や脳出血での実績が多く様々ケースを扱っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。