事後重症請求とは【請求時の注意点までを解説します】

きれいな病室

「今は障害の状態が軽いけれど、もし障害が重くなったら障害年金はもらえるのかな」

自分や家族に障害がある方の中には、こんな不安をお持ちの方は少なくないでしょう。

障害年金の請求には3つの方法があり、だんだん障害が重くなって、障害年金が受け取れるケースがあります。

現在の重くなった障害の状態で障害年金を請求する方法を「事後重症請求」といいます。

この記事では、事後重症請求について、わかりやすく解説します。

事後重症請求の必要書類や年金額もご紹介するので、最後まで読んで事後重症請求の理解にお役立てください。

事後重症請求とは

障害年金の事後重症請求とは、障害認定日※には障害状態が軽かったけれど、その後障害の状態が重くなり、障害等級に当てはまる場合に行われる請求方法です。

※障害認定日とは、初診日から1年6か月経過した日のこと

事後重症請求では、障害年金の請求をした月に受給権※が発生し、その翌月から障害年金の支給が開始されます。

※受給権とは、年金給付を受け取れる権利のこと

事後重症請求の流れを糖尿病を例にしてご紹介します。

糖尿病は病状がゆっくりと進む病気です。

糖尿病で初めて医療機関で診療を受けたあと、障害認定日には障害の程度が軽くても長い期間を経て糖尿病腎症になることがあります。

このケースでは、糖尿病で医療機関に初めてかかった日を初診日とし、現在の障害の状態で障害年金の請求を行います。

下図は、事後重症請求の流れを表したものです。

出典:障害厚生年金の請求手続きのご案内|日本年金機構

事後重症請求をわかりやすく言うと「今の時点から障害年金を支給してください」と障害年金を請求するということです。

そのため、障害年金を請求した月以前に遡っての年金支給は受けられません。

障害年金には、事後重症請求のほかにも「障害日認定請求」「遡及請求」という請求方法があります。

障害年金の請求方法と特徴を下表にまとめました。

請求方法請求開始の時期いつから年金が受けられるか遡りはあるか
事後重症請求障害認定日以降に障害が重くなったとき障害年金の請求の翌月なし
障害認定日請求障害認定日から1年以内障害認定日の翌月あり
遡及請求障害認定日から1年以上が経過後障害認定日の翌月あり(最大5年)

上記のように障害認定日請求と遡及請求では、障害年金の請求が遅れたとしても障害認定日に遡って年金を受けられます。

遡って年金の支給が受けられる点が、事後重症請求との大きな違いです。

障害認定日請求と遡及請求については、下記の関連記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

障害認定日請求とは|2通りの請求方法とできない場合の対処法 ポイント 障害年金で数百万円がもらえる遡及請求とは?

事後重症請求をするケース

障害認定日以降に障害の状態が重くなった場合以外にも、事後重症請求をすることがあります。

下記のような場合は、障害認定日時点での障害の状態のわかる診断書を用意できません。

  • 障害認定日に通院していた病院のカルテが破棄されている
  • 障害認定日に通院していた病院が閉院している
  • 医師が診断書を作成してくれない
  • 障害認定日から3か月以内に病院に行っていない

診断書が取れず、障害認定日に障害の状態が重いことを証明することができないため、障害認定日請求を諦めて、事後重症請求を選択します。

石塚社労士
石塚社労士

簡単に諦めず、あらゆる方法を考えても障害認定日請求ができないときは、事後重症請求に切り替えましょう。

事後重症請求の必要書類

事後重症請求には主に下記のような必要書類があります。

事後重症請求に必要となる主な書類
  • 年金請求書
  • 年金手帳または基礎年金番号通知書等
  • 診断書※
  • 受診状況等証明書
  • 病歴・就労状況等申立書
  • 障害年金を受け取る金融機関の通帳等

※事後重症請求には、現在の障害の状態を記載した診断書を提出
※診断書の日付から3か月以内に、年金事務所または市区町村役場に提出

このほかにも、戸籍謄本住民票配偶者の所得証明子の在学証明書障害年金の初診日に関する調査票などが必要なケースがあります。

事後重症請求の必要書類は一人一人違うので、年金事務所や障害年金専門の社労士にご相談ください。

障害年金の必要書類をもっと詳しく知りたい方は、下記の関連記事をご覧ください。

障害年金請求の必要書類は?提出先やよくある質問もまとめて解説 障害年金請求の必要書類は?提出先やよくある質問もまとめて解説

参考:障害厚生年金を受けられるとき|日本年金機構

参考:障害基礎年金を受けられるとき|日本年金機構

参考:障害年金の初診日に関する調査票を提出するとき|日本年金機構

事後重症請求の年金額

先ほど解説したとおり、事後重症請求では請求の翌月から年金が支給になります。

「事後重症請求だから」という理由での加算や増額はなく、遡って年金を受けることもできません。

次章で、障害基礎年金と障害厚生年金の金額について解説します。

障害基礎年金の年金額


障害基礎年金は定額の支給です。年金額は下表にまとめました。(令和6年度の年金額)

1級

68歳以下の方
(昭和31年4月2日以後生まれ)
1,020,000円+子の加算額※
69歳以上の方
(昭和31年4月1日以前生まれ)
1,017,120円 + 子の加算額※

2級

68歳以下の方
(昭和31年4月2以後生まれ)
816,000円+子の加算額※
69歳以上の方
(昭和31年4月1日以前生まれ)
813,700円+子の加算額※

子の加算額

2人まで1人につき234,800円
3人目以降1人につき78,300円

子の加算額はその方に生計を維持されている子がいるときに加算されます。
なお、子とは18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子です。

引用:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構

障害基礎年金の受給例を下記に示します。

【障害基礎年金2級のみを受ける人に高校生の子が一人いる場合】

障害基礎年金2級 816,000円
子の加算額234,800円
年金額の合計1,050,800

上記の例では、子が高校を卒業したあとは子の加算額(234,800円)がなくなります。

障害厚生年金の年金額

障害厚生年金の年金額は、定額ではなく厚生年金の加入期間や給与の平均額により変わる「報酬比例の年金額」で、人によって年金額が違います。

わかりやすくいうと、会社員や公務員として長く勤め、給与が高い人ほど年金額が多くなる計算方式で年金額が決まります。

【障害厚生年金1級・2級】
障害厚生年金の1級・2級の人に配偶者※がいる場合、「配偶者加給年金額」が加算されます。
※配偶者とは、障害厚生年金1級・2級の人に生計を維持されている65歳未満の人

配偶者加給年金額234,800円(令和6年度の年金額)

さらに、障害厚生年金の1級・2級の人は障害基礎年金も受け取れるため、障害基礎年金のみを受ける人よりも受け取れる年金額が高額となります。

【障害厚生年金3級】
障害厚生年金3級では、年金額に最低保証額が設定されています。
令和6年度の最低保証額は、612,000円です。

【障害手当金】
障害厚生年金1〜3級よりも軽い障害が残ったときは、「障害手当金」として一時金が支給されます。

障害年金の年金額については、下記の関連記事でさらに詳しく説明しています。

年金手帳とお金 【令和6年度版】障害年金でもらえる金額について

参考:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構

事後重症請求のポイント


事後重症請求をするときに注意することは、次の2つが挙げられます。

青字をクリックするとページがジャンプします。

順番に詳しくご説明していきます。

事後重症請求はスピーディーに請求する

これまでご説明したとおり、事後重症請求は請求をした月に受給権が発生し、年金は請求の翌月から始まります。
事後重症請求が1か月遅れると、1か月分の年金をもらい損ねるので、少しでも早く請求をすることをおすすめします。

また、後重症請求ができるのは、65歳の誕生日の2日前までです。
診断書などの書類の準備に手間取って、うっかり65歳の誕生日を迎えることのないように、早めに書類の準備を始めることが大切です。

老齢年金の繰り上げをしている人は事後重症請求できない

65歳を迎える前であっても、老齢年金を繰り上げて受け取っている人は、障害年金の事後重症請求はできません。

老齢年金は、原則65歳から受け取る年金ですが、受け取る時期を早めて60~64歳の間に受け取ることができます。

65歳を待たずに早く老齢年金を受け取ることを、「繰上げ受給」と呼びます。

老齢年金を繰り上げて受けると、下記のようなデメリットがあります。

  • 老齢年金を繰上げする期間に応じて年金額が減額される
  • 生涯にわたり減額された老齢年金を受け取る
  • 老齢年金の繰り上げ請求をしたら、取り消せない
  • 老齢年金の繰り上げ請求をした日から、障害年金の事後重症請求はできない

持病がある人は、65歳になる前に障害年金を請求することも視野に入れて、老齢年金の繰上げ請求を慎重に判断することをおすすめします。

老齢基礎年金の繰り上げをもっと詳しく知りたい方は、関連記事をご覧ください。

老齢基礎年金の繰り上げ後でも障害基礎年金は受給できる?受給できるケースとできないケースについて

参考:年金の繰上げ受給|日本年金機構

事後重症請求でよくある誤解

事後重症請求では、どの時点から年金が支給されるのかを誤解する人が少なくありません。
そこで、人工透析を例にして解説します。

医療機関を受診して、慢性腎不全と診断を受ける
初診日から1年6か月経過し、障害認定日を迎える
障害認定日には、障害等級に該当しない程度の障害の状態
その後、徐々に腎機能が低下し、人工透析を受け始める
人工透析開始から数年後、障害年金を知り請求を検討する

上記の場合、人工透析を開始した時点に遡って障害年金を受け取れると思う人が多いのですが、実は「障害認定日請求」か、「事後重症請求」の二択となります。

障害認定日の時点ではまだ障害の状態が軽いため、障害認定日請求ができず、事後重症請求で障害年金を請求します。

事後重症請求では、請求の翌月から障害年金が支給されるので、1か月でも早く請求をしましょう。

まとめ

障害年金の事後重症請求とは、障害認定日以降に障害が重くなったときに請求する方法です。

しかし、障害認定日に重い障害であっても、診断書が取れない場合に事後重症請求を選択することがあります。

障害年金を事後重症請求し認定されると、請求の翌月から年金が支給されます。

事後重症請求では、遡っての年金支給はなく、請求が遅れると遅れた期間分の年金がもらえなくなります。

事後重症請求で障害年金を請求する方は、早めに書類の準備を始めましょう。

事後重症請求に限らず、年金の請求では提出書類に不備や不足があると、書類が返戻されて年金の審査に入ることができません。

年金事務所等への提出書類の準備が大変だったり、自分で障害年金を請求するのが難しいと感じるときは、障害年金専門の社会保険労務士に相談できます。

スピーディーに障害年金の請求をしたい方は、障害年金専門のピオニー社会保険労務士事務所におまかせください。