「覚せい剤による後遺症で、日常生活や仕事に支障があります。障害年金はもらえないのでしょうか」
「過去に覚せい剤の使用歴がありますが、現在の病気で障害年金を請求することはできますか」
障害年金について調べる中で、このような疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
病気や障害のために働くことが難しくなったり、ご家族の援助が必要になったりすると、これからの生活をどう支えていけばよいのか、不安になることもあるでしょう。
障害年金は、一定の障害状態にある方の生活を支える制度ですが、受給の判断には障害の程度のほかにも、法律で定められた要件を確認する必要があります。
覚せい剤の違法使用によって生じた障害については、国民年金法や厚生年金保険法に定められた「給付制限」が問題となります。厚生労働省の通知では、違法薬剤の使用と障害との医学的な関係などを確認したうえで、給付を制限する取扱いが示されています。
そのため、生活への支障が大きい場合であっても、障害の程度だけで受給できるとはいえません。また、アルコール依存症と覚せい剤の違法使用による障害では、法律上の前提が異なります。
ただし、過去に使用歴があるというだけで、現在抱えているすべての病気や障害について、一律に障害年金を受給できなくなるわけではありません。使用と障害との関係を確認することが大切です。
この記事では、覚せい剤による障害と障害年金の関係について、給付制限の根拠となる法律や通知、アルコール依存症との違い、使用歴があっても区別して考える必要がある場合などを、分かりやすく解説します。
目次
覚せい剤による障害では障害年金をもらえない?まず知っておきたい結論
生活が大変でも「障害が重い」だけでは決まらない理由
症状が続き、以前のように生活や仕事ができなくなると、「障害年金を受けられないと生活が成り立たない」と不安になることもあると思います。
そのような生活上の困難は大切な事情ですが、障害年金の判断では、制度上の要件を1つずつ確認する必要があります。
障害年金を考える際、まず現在の症状や、仕事・日常生活にどのような支障があるかに目が向くと思います。
長期間働けない、家族の援助が欠かせない、入院を繰り返しているなど、困難が大きければ受給できると考えるかもしれません。
しかし、障害年金は生活上の困難だけを条件に支給する制度ではありません。
障害年金では、受給に必要な要件や障害の程度を確認するとともに、「給付制限」に該当するかどうかも問題になります。
覚せい剤の違法使用が原因で生じた障害については、この給付制限を切り離して考えることができません。
診断書に重い症状が記載されていても、その原因についての確認が不要になるわけではありません。
「この症状なら何級になるのか」と気になる方もいらっしゃると思います。
しかし、覚せい剤の違法使用が関わる場合には、等級だけで結論を出すことができません。
障害の程度の評価と、その障害を支給事由として年金を支給できるかは、別に検討する事項です。
等級に相当する程度の状態であることが、そのまま給付制限を受けないことの証明にはなりません。
「給付制限」とは?覚せい剤による障害の取扱い
覚せい剤と障害年金の関係を、「違法だから対象外」とだけ説明している情報も見かけるかもしれません。
しかし、この一言だけでは、過去の使用と現在の障害がどのように関係しているかを見落としてしまいます。
根拠となるのは、年金法の給付制限の規定と、その適用について整理した厚生労働省の通知です。
法律上の理由と、具体的な障害との関係を確認する必要があります。
2021年3月4日付の「国民年金法第70条、厚生年金保険法第73条の2等の規定に基づく違法薬剤の使用に係る給付制限の取扱いについて」は、診断書や検査結果等を基に判断する取扱いを示しています。
対象となる障害等が違法薬剤の使用によって生じたかを、医学的に確認する内容です。
したがって、「病名に薬物という言葉があるから」「過去に使用したと言ったから」といった断片的な情報だけで、すべての結論を出すことはできません。
一方、医学的に違法使用による障害と判断される場合に、症状の重さだけを根拠として通常の請求と同じように受給を期待することも適切ではありません。
参考リンク:厚生労働省「違法薬剤の使用に係る給付制限の取扱いについて」2021年3月4日通知
具体的にはどう違う?障害年金の給付制限を考える2つの例
例1|覚せい剤の違法使用によって障害が生じた場合
例えば、覚せい剤を違法に使用した後に症状が現れ、請求する障害がその使用によって生じたことが医学的に認められる場合です。
この場合は、障害の程度が重くても、故意の犯罪行為などに関する給付制限が問題になります。初診日の加入制度や保険料の要件だけを満たしていれば受給できる、という仕組みではありません。
厚生労働省の通知では、このような医学的な関係が認められた場合に、不支給や支給停止などを決定する取扱いが示されています。実際には、ご本人の行為に関する事情や、対象となる障害についての確認が必要です。
例2|過去に使用歴があるが、関係のない障害がある場合
一方、過去に使用歴があっても、請求しようとする障害と使用との間に医学的な直接の起因性が認められない場合は、その使用歴だけで当該給付制限の対象になるわけではありません。
例えば、別の病気について以前から治療を続けている場合、その病気と使用との関係がどのように医学的に評価されるかを確認します。ただし、別の病名があるだけで原因を区別できるとは限らず、年金の受給要件も別途必要です。
この2つは説明のための例です。実際の判断は、診断書や治療の経過などを踏まえて行われますので、ご自身の状況をどちらかに決めつけず、経過を整理することが大切です。
覚せい剤の使用歴があると、どんな障害年金も一生もらえない?
使用歴だけで判断されるわけではない|医学的な関係が重要
通知は、過去に違法薬剤の使用歴があっても、対象となる障害やその原因となった事故と使用との間に、直接の起因性が医学的に認められない場合などは、当該条文による給付制限の対象にならないとしています。
使用した経験と、使用によって障害が生じたことは同じではありません。
例えば、以前に使用歴があるという情報と、現在の障害は違法薬剤によって生じたという医学的な判断は区別します。
ただし、ご本人が「今の病気とは関係ないと思う」と感じていても、その説明だけで医学的な関係が否定されたことにはなりません。
診療の経過や医師の評価等が必要です。
この区別は、給付制限を回避するために説明を工夫するという話ではありません。
使用と障害との関係について、実際に何が確認できるかという問題です。
給付制限は、使用歴があることだけを問題にするのではなく、請求する障害について法律の適用を確認するものです。
使用と無関係な病気や障害がある場合は?
これまでに複数の病気を経験していると、「今の症状は何が原因なのか」「以前からあった病気はどう扱われるのか」と迷うこともあるでしょう。
通知では、医学的に区別できる場合の取扱いが示されています。
違法薬剤による障害と、使用とは無関係に生じた障害が併存する場合もあります。
通知は、そのような事情が医学的に把握できる場合、使用と無関係に生じた障害について、その程度を審査する取扱いを示しています。
すべての障害をまとめて薬物によるものと決めつける内容ではありません。
また、もともと使用と無関係に生じた障害があり、その程度が違法薬剤の使用によって増進した場合も、原因を区別することが重要です。
もとの障害が存在することと、薬物による増悪を含めた現在の状態のすべてについて給付を受けられることは同じではありません。
ただし、「別の病名もあるので受給できる」と短絡的に考えることはできません。
複数の病名があるというだけでは、それぞれの原因や障害の程度を区別できないためです。
給付制限を受けない部分が検討できるとしても、通常の受給要件を満たすかは、別に確認する必要があります。
故意の犯罪行為などによる障害ではない場合
通知では、故意の犯罪行為または重大な過失による障害ではないと確認された場合にも、この規定に基づく給付制限の対象にならないことが示されています。
障害に至るまでの経緯は、おひとりおひとり異なります。薬物が関係するという情報だけで、どのような行為があったのか、障害との間にどのような関係があるのかまで決めつけることはできません。
一方で、医学的な関係や法律上の取扱いは、検索結果や病名だけで判断できるものでもありません。診療経過や、そのときの事情について確認できる資料を踏まえ、年金の審査で判断されることになります。
ご自身の状況がどのように扱われるのか分からない場合には、「使用歴があるからすべて対象外」と思い込むことなく、現在の障害とその経過を整理することが大切です。
アルコール依存症では障害年金をもらえるのに、なぜ覚せい剤は違う?
飲酒と覚せい剤の違法使用では法律上の前提が違う
「アルコール依存症も飲酒によって起こるのだから、覚せい剤による障害と同じではないの?」
このように疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、飲酒そのものと、覚せい剤の違法使用は、法律上の位置づけが異なります。
同じ依存という言葉だけで、給付制限の適用まで同じと考えることはできません。
成人による通常の飲酒は、それ自体を覚せい剤の違法使用と同じ犯罪行為として扱うものではありません。
アルコールによる障害の認定可能性を説明した情報があっても、それを根拠に、違法薬剤による障害についても同じように支給されると考えるのは誤りです。
もっとも、「アルコールが関わる場合には、どのような事情があっても給付制限はない」という意味でもありません。
故意の犯罪行為等によって障害が生じた場合には、その事実に応じた検討が必要です。
ここで区別しているのは、通常の飲酒と、覚せい剤の違法使用という行為の違いです。
アルコール依存症なら必ず受給できるわけではない
まず、アルコール依存症について確認してみましょう。
障害認定基準の「精神の障害」には、アルコールや薬物などの精神作用物質の使用によって生じる精神障害に関する記載があります。
ただし、アルコール依存症と診断されれば、それだけで年金が支給されるという内容ではありません。
基準に照らして、対象となる障害状態を確認する必要があります。
基準は、精神病性障害を示さない急性中毒や、明らかな身体依存の見られないものを認定対象としない旨を示しています。
また、その原因に留意し、発病時からの療養と症状の経過を十分に考慮するとしています。
単に飲酒をやめられないという説明だけで、障害等級が決まるわけではありません。
この認定基準と、違法薬剤に関する給付制限は、確認する内容が異なります。
アルコール依存症についても認定の条件があり、覚せい剤の違法使用による障害については、さらに給付制限の問題を無視できません。
両者を「依存症で困っている人」という括りだけで判断しないことが重要です。
参考リンク:日本年金機構「障害認定基準 第8節 精神の障害」
障害認定基準に「薬物」の記載があるのはなぜ?
認定基準にアルコールと薬物が併せて記載されているため、「薬物による精神障害も載っているのだから受給できるはず」と受け取られることがあります。
しかし、認定基準に障害状態の評価が示されていることと、給付制限を受けないことは別です。
認定基準は、どのような障害状態をどの程度として評価するかを考えるための基準です。
一方、法律の給付制限は、その障害を支給事由として給付を行えるかに関わります。
認定基準の該当箇所だけを読むと、この違いが抜け落ちてしまいます。
また、薬物という言葉を、すべて違法薬物の意味で捉えることも適切ではありません。
適法な医療で用いられる薬剤等と、覚せい剤の違法使用による障害を混同しないようにしましょう。
どの物質を、どのような経緯で使用し、障害とどう関係するかを確認する必要があります。
覚せい剤による障害年金の給付制限|国民年金法第70条とは
「故意の犯罪行為」による障害と年金法の関係
国民年金法第70条は、故意の犯罪行為や重大な過失等によって、障害やその原因となった事故を生じさせた場合、または障害の程度を増進させた場合について、その障害を支給事由とする給付の全部または一部を行わないことができると定めています。
条文には、正当な理由なく療養に関する指示に従わない場合も規定されています。
今回の覚せい剤の問題で重要なのは、このうち故意の犯罪行為に関わる部分です。
違法使用によって生じた障害について、生活に支障があるかどうかだけでなく、どのような行為がその障害を生じさせたのかが問題になります。
給付制限は、障害認定基準の等級を軽くするだけの話ではありません。
例えば、「障害基礎年金の2級に相当するほど困っているのだから、原因は関係ないのでは」と思うかもしれません。
しかし、法律の給付制限があるため、障害の程度だけで結論を出すことはできません。
必要なのは、障害状態の確認と併せて、その障害について給付制限の規定が適用されるかを確認することです。
第69条と第70条の違いを混同しないために
年金法の条文は、数字も表現も似ているため、どの規定が問題になるのか分かりにくいかもしれません。
ここでは、覚せい剤に関する説明で混同しやすい2つの条文を整理します。
国民年金法には、第69条にも給付制限の規定があります。
こちらは、故意に障害またはその直接の原因となった事故を生じさせた場合、その障害を支給事由とする障害基礎年金を支給しないとする規定です。
第70条の故意の犯罪行為等に関する規定とは、条文を分けて理解する必要があります。
「自分から覚せい剤を使ったのだから第69条」とだけ説明すると、障害を生じさせることについての故意と、犯罪行為に関わる問題が混ざってしまいます。
違法薬剤の使用に関する2021年通知が根拠として明示しているのは、国民年金法第70条、厚生年金保険法第73条の2等です。
どちらも給付の制限に関する条文ですが、似た言葉だけで置き換えることはできません。
覚せい剤による障害の説明では、通知に示された条文を押さえ、違法使用と対象となる障害との関係を確認することが大切です。
参考リンク:厚生労働省法令等データベース「国民年金法」第69条・第70条
厚生年金に入っていたら、覚せい剤による障害でももらえる?
障害厚生年金にも給付制限の規定があります
厚生年金保険法第73条の2も、自己の故意の犯罪行為や重大な過失等により、障害やその原因となった事故を生じさせた場合などについて、保険給付の全部または一部を行わないことができると定めています。
障害の程度を増進させた場合や、回復を妨げた場合も規定されています。
そのため、「国民年金だと難しくても、厚生年金なら受給できる」という問題ではありません。
初診日に加入していた制度を確認することは必要ですが、厚生年金に加入していたという事実だけで、違法薬剤に関する給付制限がなくなるわけではありません。
また、保険料を納めていたことと、どのような原因の障害にも必ず給付が行われることは同じではありません。
納付要件を満たしているとしても、法律上の給付制限が問題となる障害については、その適用を別に確認する必要があります。
「全部または一部を行わないことができる」の意味
国民年金法第70条と厚生年金保険法第73条の2の条文は、全部または一部の給付を行わないことができるという構造です。
これを、「条文そのものが覚せい剤という病名を列挙し、使用歴のある人を例外なく排除している」と説明するのは正確ではありません。
一方、条文に「できる」とあるからといって、請求者が支給を選べたり、反省を示せば必ず制限を免れたりするという意味でもありません。
違法薬剤によって生じた障害については、2021年通知に具体的な取扱いが示されています。
条文の一般的な規定と、通知に示された判断の枠組みの両方を確認することが大切です。
「全面的な禁止ではないなら受給できるはず」と結論を急ぐことも、「給付制限という言葉があるから全員永久に対象外」と広げることも適切ではありません。
判断対象は、ご本人について請求している障害と、その発生・増悪に関わる事実です。
参考リンク:厚生労働省法令等データベース「厚生年金保険法」第73条・第73条の2
「障害になるつもりはなかった」「今はやめている」場合は?
障害になる意思がなくても、違法使用との関係が問題に
覚せい剤取締法は、法定の例外を除き、覚せい剤の使用を禁止しています。
本記事で扱っているのは、このような違法な使用によって生じた障害についての年金給付です。
医師から適法に処方された薬を指示どおり使用した場合などを、違法使用と一括りにしているわけではありません。
「薬を使ったのは自分の意思だったけれど、病気や障害になるつもりはなかった」
そう考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、故意に障害を生じさせることを扱う規定と、故意の犯罪行為等によって生じた障害を扱う規定は区別されます。
障害になることを望んでいなかったという説明だけで、後者の問題はなくなりません。
また、逮捕されたか、刑事手続きがどうなったかという情報だけに話を限定することも適切ではありません。
年金の給付制限では、診断書等を通じた医学的な確認や、故意の犯罪行為等による障害に当たるかという確認が必要です。
犯罪に関する言葉だけで、障害との関係を省略できるわけではありません。
断薬して治療を続けている場合の考え方
現在は覚せい剤の使用をやめ、治療を続けながら、生活を立て直そうとしている方もいらっしゃると思います。
そのような現在の状況は、とても大切な情報です。
しかし、そのことだけで、すでに生じた障害の原因が変わるわけではありません。
過去の違法使用によって生じた障害かという問題は残ります。
使用をやめてからの期間や、現在の診断書の記載だけで、自動的に給付制限がなくなるものではありません。
確認するのは、今使っているかだけではなく、請求する障害がどのように生じ、その後どのような経過をたどったのかです。
反省しているかどうかや、現在の生活態度だけで、給付制限の判断が決まるわけではありません。
回復に向けた努力を否定する話ではなく、法律上の給付を判断する際には、現在の努力とは別に、障害の原因を確認する必要があるという意味です。
診断書が別の病名なら障害年金を請求できる?
病名だけでなく、発症からの経過も確認されます
幻覚や妄想、認知機能や行動面の問題など、症状の言葉だけを見ると、異なる傷病で似た記載が用いられることがあります。
しかし、症状が似ているからといって、その発生原因まで同じとは限りません。
年金の審査では、現在の症状に加え、発症からの経過を確認する必要があります。
「薬物による障害という病名では難しいなら、別の病名で請求できないだろうか」
そう考える方もいるかもしれません。
しかし、給付制限を避けることを目的に、病名だけを変えることはできません。
医学的な評価に基づく診断の変更と、給付制限を避けるための名目上の変更は別です。
診断名の文字だけで、過去の使用と障害との関係が消えるわけではありません。
主治医に使用歴や症状の経過をお伝えすることが、適切な医学的評価につながります。
ご本人が考える年金上の有利不利に合わせて、事実を省いた診断書を求めるべきではありません。
ご本人にお願いしたいのは、実際の病状と経過を伝え、医師が適切に評価できるようにすることです。
審査では主治医に照会されることもあります
ご本人やご家族が、症状と過去の使用との関係を判断するのは簡単ではありません。
診断書に書かれた情報だけでは、原因を判断できない場合もあります。
2021年通知は、診断書等から違法薬剤の影響がうかがわれても、それだけで判断が難しい場合には、日本年金機構が診断書作成医に直接の起因性を照会するなどして、必要な情報を集める取扱いを示しています。
提出された書類の表面的な病名だけで終わるとは限りません。
例えば、ご本人は関係がないと考えていても、診療経過に関する情報を確認する必要があるかもしれません。
反対に、使用歴の記載があっても、対象となる障害との医学的な関係が否定される場合は、その内容を踏まえる必要があります。
照会は、関係を正しく把握するための確認です。
ただし、通知には、給付制限について判断が難しくても、障害の程度が基準に該当しないこと等が確認された場合は、上記の情報収集を行わず不支給等を決定して差し支えない旨も示されています。
因果関係の確認だけを終えれば、必ず受給できるという仕組みではありません。
すでに障害年金を受給中なら?更新・額改定でも確認が必要
受給中に違法薬剤の使用が関わった場合
違法薬剤に関する通知が対象としているのは、初めて障害年金を請求する場面だけではありません。
再認定や額改定請求、支給停止事由消滅の届出についても、取扱いが示されています。
すでに受給している場合でも、違法薬剤と障害との関係は無関係になるわけではありません。
そのため、以前に支給が決まっていても、その後の障害の状態や経過について確認が必要になる場合があります。
現在の障害状態について確認する中で、給付制限の規定が関わる場合があります。
過去の支給決定だけから、その後の判断を予測することはできません。
一方、使用歴が分かれば既存の年金がどのような場合も全面的に停止される、と断定することもできません。
もとの障害の原因、違法使用による影響、使用と無関係な障害の程度等を区別して検討する必要があります。
新規請求と同じく、事実に沿った確認が重要です。
使用によって障害が重くなった場合、年金額は増える?
すでに障害年金を受給している方の障害が重くなった場合、一般には額改定という問題が生じます。
しかし、対象となる障害の増進が違法薬剤の使用によるものと医学的に認められる場合、通知は額改定請求非改定等の取扱いを示しています。
つまり、「以前より生活が大変になった」
そうした場合でも、重くなった状態のすべてが、そのまま年金額の増額につながるわけではありません。
何が原因で障害の程度が変わったのかを確認する必要があります。
もとの障害と、違法使用によって増進した部分の区別が問題になります。
なお、増悪と使用との間に医学的な直接の起因性が認められない場合等については、通知の別の取扱いを踏まえる必要があります。
既存の受給権、現在の状態、増悪の原因を確認せず、「必ず増額される」「すべて失う」といった結論を出さないようにしてください。
覚せい剤の使用歴がある方が、障害年金を相談する前に
いつから症状があった?使用歴と受診の経過を整理
過去の使用歴について、医師や相談先に話すことにためらいを感じる方もいらっしゃると思います。どのように説明すればよいのか分からず、相談そのものに不安を感じることもあるかもしれません。
ただ、障害年金の見通しを考えるためには、現在の症状だけでなく、その症状がいつ頃から現れたのか、どのような経過で治療を受けてきたのかを確認することが大切です。使用歴と障害との関係も、医師の医学的な判断を含めて確認する必要があります。
すべての日付や病名を正確に覚えていなくても構いません。分かる範囲で、使用した時期、受診の経過、使用前からあった病気や症状を整理し、不明な部分は不明とお伝えいただくことが、適切な判断につながります。
例えば、過去の使用歴とは別に、以前から治療を受けていた病気がある場合、その病気の症状や受診時期が大切な情報になることもあります。何が年金の判断に関わるのか、ご本人だけで見極めるのは簡単ではありません。
請求のために病名や経過を変えるのではなく、実際の状況を基に、対象となる障害について制度上どのような判断が必要かを確認していきます。
年金が難しい場合も、治療や生活の相談先があります
給付制限の説明を読み、「支援を受けることはできないのだろうか」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
障害年金の判断と、治療や生活を支える相談先の利用は、それぞれ別に考えることが大切です。
ここまで給付制限について説明してきましたが、依存症や後遺症について、治療や回復のための支援が必要であることに変わりはありません。
障害年金を受給できるかどうかと、治療や回復に向けた支援を利用することは、分けて考える必要があります。
年金が難しいという情報だけで、治療まで諦めるべきではありません。
厚生労働省は、依存症に関する情報や相談先を案内しています。
本人だけで対応が難しい場合や、家族が困っている場合も、医療機関や地域の相談支援につながることを考えてください。
利用できる支援の内容は、状況や地域によって確認が必要です。
また、年金以外の生活上の支援についても、すべて利用できないと決めつけることは適切ではありません。
それぞれの制度には別の要件があります。
年金法上の給付制限と、医療や福祉制度の利用は、それぞれの制度に沿って確認していくことが大切です。
覚せい剤と障害年金|よくある質問
覚せい剤を使ったことがあれば一生どの障害年金も受給できませんか
いいえ、使用歴だけで一律に判断することはできません。
問題になるのは、請求する障害等が違法薬剤の使用によって生じたか、故意の犯罪行為等による障害かという点です。
使用と無関係な障害等については、通知に沿った区別が必要です。
ただし、使用と無関係な障害があるからといって、直ちに受給できるわけではありません。
対象となる障害の程度や、初診日、保険料納付要件等を満たすかは別に確認します。
使用歴だけで不支給とも、別の病名があれば支給とも決められません。
覚せい剤をやめて治療を続ければ障害年金を受給できますか
断薬や治療の継続は重要ですが、それだけで過去の障害の原因が変わるわけではありません。
違法使用によって生じた障害についての給付制限を、反省の有無だけで解除するという説明はできません。
現在の状態と治療経過を踏まえつつ、どの障害を支給事由として、どの規定に基づき判断するかを確認します。
一定期間やめていれば必ず支給される、という一律の取扱いではありません。
アルコール依存症の受給事例を参考にしてよいですか
アルコール依存症等の事例から、覚せい剤の違法使用による障害の支給を推測することはできません。
飲酒そのものと違法使用では法的な前提が異なり、障害の原因や併存する傷病、給付制限の適用も個別に確認する必要があるからです。
当事務所のサイトにある、アルコール依存症での受診歴が関わる発達障害の受給事例も、覚せい剤による障害が同様に支給されることを示すものではありません。
事例は、請求した傷病と初診日の検討を含む個別の経過としてお読みください。
関連リンク:当事務所「注意欠陥多動性障害で障害厚生年金3級(遡及)を受給した事例」
さいごに
覚せい剤の違法使用によって生じた障害については、国民年金法第70条や厚生年金保険法第73条の2などの給付制限が問題になります。障害が重く、日常生活に大きな支障がある場合でも、障害の程度だけで受給できるとは限りません。
また、アルコール依存症と覚せい剤の違法使用による障害では、行為の法律上の位置づけが異なります。アルコール依存症についての受給事例を、そのまま覚せい剤による障害に当てはめることはできません。
一方で、過去に覚せい剤の使用歴があるというだけで、その方が抱えるすべての障害が一律に給付制限の対象となるわけではありません。厚生労働省の通知でも、請求する障害と使用との医学的な関係などを確認することが示されています。
ご自身の病気がどのように扱われるのか、インターネットの情報だけで判断するのは難しいと思います。過去の使用歴とは別の病気や障害について請求を考えている場合には、受診の経過や現在の生活状況を整理したうえで、受給の可能性を確認することが大切です。
当事務所への依頼をご希望の方で、ご自身の状況が障害年金の対象になるか分からない場合には、無料受給判定・相談をご利用いただければと思います。お伺いした内容をもとに、当事務所での対応が可能かを含めて確認いたします。
障害年金の可否と、治療や回復に向けた支援は別に考える必要があります。生活や治療について不安があるときは、主治医や地域の相談先にもお気持ちをお話ししていただければと思います。

