障害年金の不服申立て(審査請求)について徹底解説

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障害年金は障害のある人を経済的に支える制度ですが、請求したとしても必ず受給できるものではありません。

初診日が認められず却下となったり、障害等級に該当せずに不支給となってしまうケース、受給できたとしても予想よりも低い等級で判定されてしまうケースもあります。

今回は、障害年金の認定に納得できない場合に行う「不服申立て」について解説していきます。

手続きの流れを一つひとつ説明していきますので「障害年金が認定されなかったら、そのあとはどうしたらいいの…」「自分で審査請求ができるのかな」といった不安のある人は、ぜひ最後までご覧ください。

障害年金の不服申立てとは

「不服申立て」とは、障害年金の請求を行った際に結果が不支給であったり、認定等級が自分の認識より低いと感じたりするなど、不服があるときに行う手続きのことです。

不服申立てには「審査請求」「再審査請求」の2段階があります。

下図は、不服申立てのおおまかな流れを示したものです。

障害年金の不服申立ての流れ

厚生労働省の発表によると、審査請求と再審査請求の受付・採決件数は次のとおりです。

【受付状況】単位:件

年度前年度繰越し受付
令和3年度1,1451,1672,312
令和4年度8458061,651
参考:社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移|厚生労働省

【処理状況】単位:件

年度取下げ(注1)容認棄却却下繰越し
令和3年度168
(146)
931,15551845
令和4年度94
(79)
7385387544
参考:社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移|厚生労働省

(注1) 取下げ件数の( )内は、社会保険審査会の審査に当たって保険者が再検討を行った結果、原処分の変更が行われ、(再)審査請求が取り下げられた件数(取下げ件数の内数)

令和3年度、令和4年度ともに受付件数に対して「容認」の結果が出た割合は4%ほどです。上記は、障害年金の審査請求や再審査請求のみの件数ではありませんが、審査請求が認められることは難しいといえるでしょう。

「容認」とは、審査の結果、不服申立てが認められること

次章では「審査請求」と「再審査請求」についてみていきます。

障害年金の審査請求

審査請求は1回目の不服申立て手続で、裁判でいう「一審」にあたります。審査請求の概要は下表のとおりです。

審査請求を行う相手所在地を管轄する地方厚生局の社会保険審査官(1名)
審査請求できる期限処分があったことを知った日の翌日から3か月以内

なお、審査請求は「口頭または文書で請求できる」とされていますが、通常は文書(審査請求書)で行われます。

全国の地方厚生局は、下表のとおりです。

【全国の地方厚生局】

厚生(支)局名管轄区域
北海道厚生局北海道
東北厚生局青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
関東信越厚生局茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県
東海北陸厚生局富山県、石川県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
近畿厚生局福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
中国四国厚生局鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
四国厚生支局徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州厚生局福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県
参考:社会保険審査会における社会保険審査制度の概要|厚生労働省

障害年金の審査請求の必要書類

審査請求を行うには「審査請求書」が必要です。

審査請求書は、住所地を管轄する地方厚生局の社会保険審査官宛に電話をして取り寄せるほか、地方厚生局のホームページからダウンロードできます。

なお、地方厚生局に電話をする際には、不服のある内容について詳しく言う必要はありません。

審査請求書
出典:審査請求書(1ページ)|関東信越厚生局ホームページ

障害年金の審査請求の流れ

障害年金の処分が決定されてから審査請求を行うまでの流れを確認していきましょう。

順番にご紹介します。

ステップ1:障害年金の処分が決定する

障害年金の処分が決定するのは、申請からおおむね3か月前後です。

障害年金が認定されれば「年金証書」と「年金決定通知書」が届きますが、認定されなかった場合は「不支給決定通知書」が届きます。

ステップ2:決定に不服がある場合は審査請求をする

「初診日が認めてもらえず却下となった」「決定した障害等級よりも実際はもっと重い等級だと思う」など処分決定に不服がある場合は、審査請求書を提出して審査請求を行います。

すでにご説明のとおり、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に請求しましょう。

ステップ3:社会保険審査官から保険者へ通知される

社会保険審査官は審査請求を受理すると、原処分をした保険者(厚生労働省年金局)にその旨の通知をします。

保険者はそれを受けて、原処分のもとになった書類と審査請求で提出された資料を検討し、意見書を作成して社会保険審査官に通知します。

この段階で保険者自らが最初の決定を変更するケースがあり(原処分変更)、審査請求人の主張がすべて認められた場合は審査請求を取り下げます。

ステップ4:口頭意見陳述が開催される

審査請求後、社会保険審査官に対して「口頭意見陳述」の開催を求めることができます。

口頭意見陳述には社会保険審査官のほか、保険者代理人(厚生労働省の事務官)が出席し、その場で直接意見を述べることや質問などが可能です。

保険者から得られる回答によって新たな対策が立てられるなどのメリットもありますが、口頭意見陳述の開催はあくまで任意であるため、開催を求めないこともできます。

ステップ5:管轄の社会保険審査官が最終決定する

ここまでの流れを踏まえ、その地域を管轄する社会保険審査官(1名)が審査を行い最終決定を下します。最終決定の内容は以下のいずれかです。

  • 容認…申請者の不服を認める
  • 棄却…申請者の不服を認めない
  • 却下…審査請求が適法ではないと判断された

審査請求をしてから決定までにかかる期間は、口頭意見陳述を行うかどうかによっても変わりますが、おおよそ4か月〜半年ほどかかると考えておきましょう。

障害年金の審査請求のポイント

審査請求を行う際には「原処分のどこが不当なのか」「その根拠は何か」をはっきりさせておくことが大事です。審査請求書に「体調が悪くて辛いから認めてほしい」「経済的に苦しいから年金がほしい」などの心情を記載しても審査には影響がありません。

障害認定基準と年金請求書等の提出書類を踏まえて「どこが不当なのか」を根拠を示して理論的に請求書を作成しましょう。

障害年金の再審査請求

審査請求の結果に納得できない場合は、二審にあたる「再審査請求」ができます。

再審査請求の概要は以下のとおりです。

再審査請求の担当厚生労働省に設置された社会保険審議会
(審査委員長や複数の委員によって構成される)
再審査ができる期限決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内

審査請求は担当の社会保険審査官による独任制での審査ですが、再審査請求は合議制となる点が大きな違いといえます。

障害年金の再審査請求の必要書類

審査請求が棄却されたのち、再審査請求を行う場合は「再審査請求書」が必要です。

再審査請求書は、厚生労働省の社会保険審査会に電話をして取り寄せるか、厚生労働省で公開している(再)審査請求書等の様式から印刷できます。

再審査請求書
出典:再審査請求書(1ページ)|厚生労働省

参考:社会保険審査会・所在案内|厚生労働省

障害年金の再審査請求の流れ

それでは、審査請求が棄却された後に再審査請求を行うときの流れを確認していきましょう。

  1. 社会保険審査官の裁決に不服がある場合は再審査請求をする
  2. 社会保険審査会から保険者へ通知する
  3. 公開審理が開催される
  4. 社会保険審査会が裁決する

順番にみていきます。

ステップ1:社会保険審査官の裁決に不服がある場合は再審査請求をする

審査請求時の裁決に不服がある場合、社会保険審査会に対して再審査請求を行います。
請求できる期限は、前述のとおり決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内です。

ステップ2:社会保険審査会から保険者へ通知する

この部分は、審査請求を行った時の流れと同様です。

審査請求を受理した社会保険審査会から原処分をした保険者に通知がいき、保険者は提出された資料を検討し意見書を作成します。

再審査請求の場合も、この段階で保険者自らが決定を変更する「原処分変更」の可能性があります。

原処分変更によって請求人の主張がすべて認められれば、通常は請求を取り下げることになり、この時点で再審査請求は終了となります。

ステップ3:公開審理が開催される

再審査請求では、審査請求と異なり「公開審理」が開催されます。公開審理には以下の立場の方々が出席し、質疑応答などが行われます。

  • 再審査請求人や代理人
  • 社会保険審査会委員(審査長1名、審査員2名)
  • 保険者の代理人(事務官、医師)
  • 社会保険審査会参与複数名

なお、再審査請求をした本人や代理人の出席は任意です。出席したほうが直接意見を述べられるなどのメリットはありますが、公開審理を欠席したことで不利になることはありません。体調の問題などで難しければ、無理して出席する必要はありませんのでご安心ください。

ステップ4:社会保険審査会が裁決する

公開審理が終わったのち、社会保険審査会より「裁決書」が届きます。裁決の内容は審査請求時と同様、「容認」「棄却」「却下」のいずれかです。

裁決書が届くまでの期間はケースバイケースであり、長いときには公開審理後4〜5か月ほどかかる場合もあります。

障害年金の再審査請求のポイント

再審査請求をする際には、審査請求の決定書の謄本の内容をよく確認しましょう。

決定書の記載内容から社会保険審査官の判断を読み取り、争点を明確にして理論的に申立てをすることが重要です。

審査請求と同様に「辛い」「悲しい」といった心情を訴えても審査には響かないので注意しましょう。

不服申立て以外の方法とは?

再審査請求でも「棄却」となってしまった場合はどうすればよいのでしょうか。

ここでは、不服申し立て以外の方法についてご紹介します。

行政訴訟

再審査請求でも棄却となってしまった場合、行政訴訟という手段もあります。

従来は再審査請求まで行わなければ訴訟に持ち込むことはできませんでしたが、行政不服審査法の改正により、一審の審査請求の決定後であれば訴訟を提起することが可能となりました。

とはいえ、費用や労力などの面から訴訟を提起するハードルは高く、基本的には「審査請求→再審査請求」といった流れが通常となるでしょう。

再請求・額改定請求・支給停止事由消滅届

そのほか、「再請求」「額改定請求」「支給停止事由消滅届」などの手段も覚えておくとよいでしょう。
それぞれの概要を下表にまとめました。

請求方法や届出など内 容
事後重症請求障害認定日時点では障害等級に該当しなかったが、その後症状が悪化して障害年金を請求する場合の手続き
額改定請求障害の状態が悪化した場合に、上位等級への変更を求める手続き
支給停止事由消滅届障害の状態が悪化した場合に、障害年金の支給再開を申請するもの

再審査請求で棄却された場合であっても、症状が悪化した際には障害年金の再請求ができます。

まとめ

障害年金の審査の結果、不支給になったり、自分の障害等級よりも軽い等級で認定されたりするなど納得できないときは、審査請求をすることができます。

審査請求は簡単な手続きではなく、理論的な視点で申立てを行うことが必要です。

難しい手続きとなるので、専門の社労士にご相談することをおすすめします。