障害年金と失業手当を同時に受けることはできるのかと疑問に思ったことはないですか?
障害年金の申請を考えている方の中には、病気やけがが原因で休職しその後退職するケースが多く見られます。
退職後に失業手当を受けられたら、経済的な不安を減らすことができますね。
しかし、障害年金と失業手当を同時にもらってもいいのかと心配になる方もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、障害年金と失業手当は同時にもらえるのか、障害年金と失業手当はどんな制度かも解説します。
障害年金と失業手当について知りたい方はぜひ参考にしてください。
目次
障害年金とは
まずは、障害年金について解説します。
障害年金は、病気やけがで生活や仕事などが制限されるようになった場合に支給される制度です。
障害年金では身体的な障害だけではなく、うつ病や発達障害を含む精神疾患・知的障害も対象です。
障害年金の認定において重要なのは、病名ではありません。日常生活や就労への制限の大きさを見て判断するため、同じ病名であっても等級が違ったり、障害年金に認定されないケースもあります。
障害年金には、下記の2種類があります。
- 障害基礎年金
- 障害厚生年金
障害基礎年金と障害厚生年金について表にまとめました。
初診日※(1)に加入していた年金 | 障害年金の種類 | 障害の等級など |
国民年金 | 障害基礎年金 | 1級、2級 |
厚生年金 | 障害厚生年金 | 1級、2級、3級
障害手当金※(2) |
※(1)初診日とは、障害の原因となった病気やけがで初めて医師の診療を受けた日のことです。
※(2)障害手当金とは、初診日から5年以内に病気やけがが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときに支給される一時金です。
なお、障害年金に新たに申請できるのは、原則として20歳以上65歳未満の方です。
障害年金の受給要件
障害年金の受給要件は、次の3つをすべて満たすことです。
- 初診日要件
・障害の原因となった病気やけがの初診日に国民年金か厚生年金に加入中である
・20歳前または日本に住んでいる60歳以上65歳未満の人で年金制度に加入していない - 障害状態要件
障害認定日に障害の状態が障害等級表に定める1級または2級に該当している
(障害厚生年金は1級から3級に該当すること※) - 保険料納付要件
年金の保険料を一定期間以上納付していること
(20歳前に初診日がある場合は、保険料納付要件は問われない)
※障害認定日に障害の状態が軽かったが、後で重くなった場合は障害厚生年金を受けられることがあります。
障害基礎年金の請求時期や年金額については、こちらをご覧ください。
参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)
障害厚生年金の請求時期や年金額については、こちらをご覧ください。
参考:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)
失業手当とは
続いて失業手当について解説します。
失業手当とは、正式名称を「基本手当」※といい、雇用保険の求職者給付のひとつです。
失業手当は、働いていたころの賃金の45~80%に相当する額を、失業している間の一定期間受給できます。
失業手当の給付日数は、雇用保険の加入期間や失業者の年齢、離職の理由などによって異なり、90日から360日です。
失業手当は、失業すれば誰でも給付を受けられるものではなく、下記の要件を満たすことが必要です。
- ハローワークに来所して求職の申し込みを行うこと
- 就職しようとする積極的な意思といつでも就職できる能力があること
- 本人の努力やハローワークの援助によっても職業に就くことができない「失業の状態」にあること
失業手当を受けられる人は、失業しているだけではなく、就職しようとする意思と能力があることが前提となります。
※この記事では、基本手当を「失業手当」と表記します。
参考:基本手当について(ハローワークインターネットサービス)
参考:基本手当の所定給付日数(ハローワークインターネットサービス)
障害年金と失業手当は同時にもらえる
結論として、障害年金と失業手当は同時に受けることが可能です。
60歳から64歳までに支給される老齢年金を受けている方の中には、失業手当の申請をして年金が止まったという経験をされた方が多いと思います。
これは老齢年金と失業手当の併給調整の規定があるためです。
併給調整規定により、老齢年金と失業手当の両方の要件を満たしていても、二つの制度から満額受け取ることができません。
そのため、失業手当の支給を受けている間は老齢年金が全額停止となります。
しかし、障害年金と失業手当には併給調整規定がないため、障害年金と失業手当は両方受け取ることが可能です。
失業手当も受け取って大丈夫?
前述した通り、失業手当と障害年金には併給調整がなく同時に受けることができます。
しかし、障害年金と失業手当を同時に受け取ることに違和感を持つ方は多くいらっしゃるでしょう。
そこで、障害年金と失業手当の支給要件を比較してみます。
【障害年金】
障害年金は、病気やけがで生活や就労に制限がある方が受け取れる年金です。
障害厚生年金3級の程度について、日本年金機構は次のように定義しています。
- 労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする状態
- 日常生活にはほとんど支障がないが、労働については制限がある
出典:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)
このことから障害年金を受ける方は、障害によって通常の労働ができない状態であると読み取れます。
【失業手当】
失業手当は働く意思と能力があり、本人やハローワークの努力にもかかわらず、職に就けない人が受けられるものです。
一見すると障害年金と失業手当は、就労について正反対の定義をしているように見えます。
しかし、それぞれの支給要件に該当しているならば障害年金と失業手当は両方受け取ることができます。
ここで重要となるのは、支給要件の一つである「労働能力の程度」です。
障害年金と失業手当 同時受給のポイント
障害年金と失業手当の同時受給で重要となる「労働能力の程度」について、障害年金と失業手当の観点から順番にご紹介します。
障害年金で見る労働能力
障害年金で見る労働能力とは、「全く働けない」という状態を指すものではありません。
障害年金の等級について、日本年金機構は下記のように定義づけています。
- 3級:「労働が制限を受ける場合」
- 2級:「労働によって収入を得ることができない」
ただし、収入があるから障害等級に該当しないことにはなりません。
例えば、就労に関して
- 週20時間の労働なら大丈夫
- 単純な作業ならできる
など、会社から一定の配慮があれば働ける状態も、障害年金においては「働けない」という状況に含みます。
したがって、自分の条件に合った職場を探すことは、失業手当の受給に必要な「就職しようとする意思と能力がある」という要件にマッチするため、失業手当の受給が可能です。
労働能力は「医師の診断書」で判断
障害年金では、医師の診断書で労働能力を判断しています。
障害年金の診断書は、障害の内容により所定の診断書があり、全部で8種類です。
引用元:診断書(聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用)
すべての診断書には、「現症時の日常生活活動能力及び労働能力」欄があり、主治医に生活能力や労働能力について記載してもらいます。
この診断書をもとに、日本年金機構は労働能力を判断します。
失業手当で見る労働能力
失業手当で見る労働能力は、フルタイム勤務だけを指すものではありません。
雇用保険の被保険者になる要件の一つに「週20時間以上の就労」があります。
このことから、週20時間以上の就労が可能であれば、雇用保険では就職できる能力があると見るものと考えられます。
労働能力は「就労可否証明書」で判断
就労可否証明書※とは、現在働くことができるかを医師が判断し、証明する書類です。
退職した際に会社からもらう離職票の離職理由が体調不良等だった場合、ハローワークで求職の申し込みをすると「就労可否証明書」の提出を求められます。
就労可否証明書を作成できるのは医師で、現時点での就労が可能かを判断し記載します。
就労可否証明書に「20時間以上の就労が可能」であると記載されると、就労できる能力があると証明され、失業手当を受給できる要件を満たすことが可能です。
※就労可否証明書は、ハローワークによって「就労可能証明書」、「病状証明書」などの名称となることがあります。
失業手当をもらうと障害等級はどうなるの?
障害年金を受ける方が失業手当を受給した場合、働ける能力があることとなります。
このため、失業手当を受けることで障害年金の審査や障害等級の判定に影響があるのではないかと、心配になる方もいらっしゃるかもしれません。
結論としては、失業手当を受けると障害年金の審査や障害等級の判定に影響が出るケースがあります。
精神疾患など客観的な数値で表せない障害に関しては、働ける状態であると就労や日常生活に支障が少ないと判断されやすい傾向です。
そのため、失業手当を受給していると「働けるくらい状態がいい」と判断され、障害年金の審査や障害等級の判定等に影響が出る可能性があります。
一方で障害の種類によっては、労働能力とは関係なく障害等級が判定されるものがあります。代表的な例として次のような障害があげられます。
- 視力障害、視野障害、聴力障害など客観的な数値で障害の程度が測れるもの
- 人工透析を受けている
- 人工弁を装着している
例えば、心臓に人工弁を入れた場合、障害等級は障害厚生年金3級です。
この方が失業状態にあり、「体に負担の少ない環境の職場であれば、週に20時間以上働ける」のであれば、ハローワークで求職の申し込みをして失業手当を受けられます。
また就職後、正社員と同じように働いたとしても、労働能力を理由として障害年金の審査に影響が出ることはありません。
まとめ
障害年金は、病気やけがで生活や仕事などが制限されるようになった場合に支給される制度で、身体的な障害だけではなく、精神疾患や知的障害も対象となります。
障害により通常の労働ができなくても、職場や家族の援助等を受け、自分にマッチする条件の仕事ができるのであれば、労働する能力があると言えます。
一方で、失業手当は働いていたころの賃金の45~80%に相当する額を、失業している間の一定期間受給できる制度です。
失業手当を受けるには、就職したいという積極的な意思と就職できる能力があることが大前提で、本人やハローワークが努力しても就職できない状態であることが受給の条件です。
障害年金と失業手当は併給調整の規定がないため、それぞれの支給要件を満たすことができれば、同時に支給を受けることができます。
ただし、客観的な数値で症状の程度がわからない障害については、失業手当を受給すると障害年金や障害等級の審査に影響する可能性があります。
障害年金を受けている方や申請を考えている方は、障害の内容や程度と照らし合わせて失業手当を申請するかを判断することが大切です。