発達障害で障害年金を申請するときの診断書|審査で重要なポイントを社労士が解説

発達障害で障害年金を申請しようと考えたとき、

「診断書には何を書いてもらえばいいの?」
「発達障害の診断を受けていれば障害年金はもらえる?」
「働いていると診断書を書いてもらっても受給できない?」
「一人暮らしだと障害年金は難しい?」

このような疑問を持つ方は少なくありません。

発達障害で障害年金を申請する際、審査において非常に重要な書類となるのが「診断書」です。

ただし、発達障害という診断名が記載されていれば障害年金を受給できるわけではありません。

障害年金では、発達障害の特性によって日常生活や仕事にどの程度の支障が生じているのか、そのためにどのような援助や配慮が必要なのかなどを含めて、障害の状態が総合的に審査されます。

そのため、実際には多くの困りごとがあるにもかかわらず、それが診断書に十分に反映されていなければ、本来の障害状態より軽く評価されてしまう可能性があります。

この記事では、発達障害で障害年金を申請するときに使用する診断書について、障害年金専門の社会保険労務士が詳しく解説します。

目次

発達障害で障害年金を申請するときに使用する診断書

発達障害で障害年金を申請する場合には、原則として「精神の障害用」の診断書を使用します。

障害年金の診断書には、肢体の障害用、眼の障害用、聴覚・鼻腔機能・平衡機能・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用など複数の種類があります。

発達障害は精神の障害として認定されるため、「精神の障害用」の診断書によって障害状態を確認します。

この診断書には、傷病名や症状だけではなく、日常生活能力、就労状況、周囲から受けている援助などについて記載する欄があります。

発達障害による障害年金の審査では、このような内容が重要になります。

発達障害の診断名だけで障害年金が決まるわけではない

「自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されたので2級になりますか?」
「ADHDなら障害年金をもらえますか?」

というご相談をいただくことがあります。

しかし、診断名だけで障害年金の支給・不支給や等級が決まることはありません。

同じ発達障害でも、その特性や程度、日常生活への影響は人によって大きく異なるからです。

たとえば同じASDの診断を受けている方でも、仕事や一人暮らしをほとんど援助なく行える方もいれば、家族から日常的な援助を受けなければ生活を維持できない方もいます。

障害年金では、「発達障害という病名があるか」だけではなく、その障害によって実際の生活や就労がどの程度制限されているのかが重要です。

発達障害の障害年金における認定基準

発達障害には、障害年金の障害認定基準が定められています。

発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害など、通常は低年齢において症状が現れるものとされています。

障害年金では、社会性やコミュニケーション能力、社会行動などの状態によって障害の程度が判断されます。

発達障害の1級・2級・3級の目安

発達障害の障害認定基準では、おおむね次のような状態が各等級に該当するとされています。

1級

発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で、常時援助を必要とする状態。

2級

発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要な状態。

3級

発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受ける状態。

なお、障害基礎年金には1級と2級しかありません。

3級があるのは障害厚生年金です。

そのため、発達障害の初診日に国民年金に加入していた方や、20歳前に初診日がある方の場合、障害状態が少なくとも2級以上に該当しなければ障害年金は支給されません。

発達障害の診断書で特に重要な「日常生活能力」

発達障害で障害年金を申請するとき、診断書の中でも特に重要なのが「日常生活能力」に関する項目です。

精神の障害用診断書には、

「日常生活能力の判定」
「日常生活能力の程度」

という項目があります。

精神障害等の障害年金では、これらの評価を組み合わせた「等級の目安」が設けられており、実際の等級判定に用いられています。

ただし、この目安だけで機械的に障害等級が決定されるわけではなく、診断書に記載されたその他の内容も含めて総合的に判断されます。

「日常生活能力の判定」とは

「日常生活能力の判定」では、次の7項目について評価されます。

・適切な食事
・身辺の清潔保持
・金銭管理と買い物
・通院と服薬
・他人との意思伝達及び対人関係
・身辺の安全保持及び危機対応
・社会性

それぞれについて、単に「できる・できない」ではなく、どの程度の助言や援助が必要なのかを踏まえて評価します。

発達障害の場合、特に注意したいのは「実際に一人で行っていること」と「適切に行う能力があること」は必ずしも同じではないということです。

たとえば、一人で買い物へ行くことができても、必要なものを計画的に購入できず衝動買いを繰り返してしまうのであれば、金銭管理や買い物に問題がないとはいえません。

入浴自体は一人でできても、声をかけられなければ何日も入浴しない場合もあるでしょう。

発達障害の診断書では、このような「どのような援助があればできるのか」という視点が大切になります。

「一人暮らしをしている=日常生活に問題がない」ではない

発達障害の方からよくいただくのが、

「一人暮らしなので障害年金は無理でしょうか?」

というご相談です。

一人暮らしをしているという事実だけで、障害年金を受給できないわけではありません。

重要なのは、その一人暮らしが実際にはどのような状態で成り立っているのかです。

たとえば、

・離れて暮らす家族が定期的に訪問している
・家族から頻繁に電話やLINEで指示を受けている
・金銭管理を家族に任せている
・食事の準備ができず、ほとんど同じものしか食べていない
・掃除や片付けができず、生活環境が悪化している
・行政や福祉サービスの支援を受けている
・公共料金や各種手続きを一人で管理できない

など、一人暮らしであっても実際には多くの援助を受けていたり、生活上の問題を抱えていたりする場合があります。

「一人で住んでいる」という形式だけではなく、実際の生活状況を診断書に反映してもらうことが重要です。

発達障害の診断書を医師に依頼するときのポイント

障害年金の診断書は医師が作成します。

そのため、

「先生に全部お任せすれば大丈夫」

と思われる方もいらっしゃいます。

しかし、医師が診察室で把握できる情報には限界があります。

特に発達障害の場合、短時間の診察だけでは、家庭でどのような問題が起きているのか、職場でどのような配慮を受けているのかなどが十分に伝わっていないことがあります。

普段の診察から困っていることを伝えておく

診断書を依頼するときだけ突然、

「実は日常生活でこんなに困っています」

と伝えるよりも、普段の診察から生活上の困りごとを医師に伝えておくことが大切です。

たとえば、

「片付けができず部屋が散らかっている」
「金銭管理ができず家族に管理してもらっている」
「職場で指示の意味を理解できず何度も注意される」
「予定が変わるとパニックになってしまう」
「対人関係のトラブルを繰り返して仕事が長続きしない」

など、具体的な出来事を伝えておくと、医師も日常生活や就労上の問題を把握しやすくなります。

「できないこと」だけではなく「援助があればできること」も伝える

発達障害の方の場合、

「できていますか?」

と聞かれると、

「はい、できます」

と答えてしまうことがあります。

しかし、障害年金の診断書では、「最終的にできているか」だけではなく、そこにどの程度の援助が必要なのかが重要です。

たとえば、

「通院できます」

という場合でも、

家族に受診日を管理してもらい、前日に連絡をもらい、当日も起こしてもらって初めて通院できているのであれば、完全に自立して通院できている状態とは異なります。

「料理できます」

という場合でも、毎日決まったものしか作れない、栄養バランスを考えられない、家族から声をかけられなければ食事そのものを忘れてしまうなどの事情があれば、その状況まで伝える必要があります。

発達障害で働いている場合の診断書

「仕事をしていたら障害年金はもらえませんか?」

という質問も非常に多くあります。

発達障害の方が働いているという理由だけで、障害年金の対象外になるわけではありません。

ただし、就労状況は障害状態を判断するうえで重要な要素となります。

仕事の「有無」だけでなく働き方が重要

同じ「会社員」として働いていても、働き方は人によって大きく異なります。

たとえば、

・障害者雇用で働いている
・勤務時間を短縮してもらっている
・単純な業務だけを担当している
・業務内容を固定してもらっている
・上司や同僚から頻繁に指示や確認を受けている
・対人業務を免除されている
・体調や特性に合わせて休憩を認めてもらっている
・仕事上のミスを周囲がフォローしている

などの配慮を受けることで就労が成り立っているケースがあります。

一方で、一般雇用で特別な配慮を受けず、安定してフルタイム勤務を継続できている場合には、障害状態が軽いと判断される可能性があります。

大切なのは、「働いている・働いていない」という二択ではなく、どのような援助や配慮によってその仕事が成り立っているのかという点です。

診断書の就労状況が実態と合っているか確認する

精神の障害用診断書には、勤務先、雇用体系、仕事の内容、仕事場での援助の状況などを記載する欄があります。

発達障害で働きながら障害年金を申請する場合には、ここも重要なポイントです。

たとえば、実際には障害者雇用でさまざまな配慮を受けているのに、診断書には単に「会社員・週5日勤務」としか記載されていなければ、実際の就労状況が十分に伝わらない可能性があります。

職場から受けている援助や配慮がある場合には、その内容を医師にきちんと伝えておきましょう。

発達障害の診断書で確認しておきたい項目

完成した診断書を受け取ったら、提出する前に内容を確認することをおすすめします。

もちろん、医学的な判断をするのは医師ですので、申請者が希望する内容に書き換えてもらうという意味ではありません。

しかし、事実関係に間違いがないか、医師に伝えた生活状況や就労状況が正しく記載されているかを確認することは大切です。

傷病名

発達障害には、

・自閉症スペクトラム障害(ASD)
・注意欠如・多動症(ADHD)
・限局性学習症(学習障害)

などがあります。

さらに、発達障害に加えて、うつ病や適応障害など別の精神疾患を併発している方も少なくありません。

現在治療を受けている傷病が診断書に適切に記載されているか確認しましょう。

日常生活能力

前述した「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」は、特に重要な項目です。

実際には家族から毎日のように援助を受けているにもかかわらず、ほぼすべて「できる」と評価されているなど、本人の認識と大きく異なる場合には、その理由を確認してみてもよいでしょう。

ただし、診断書の評価はあくまでも医師が医学的な見地から判断するものです。

「障害年金を受給したいから重く書いてもらう」ということではなく、実際の生活状況を正確に伝えたうえで評価してもらうことが大切です。

就労状況

働いている方は、実際の勤務状況と診断書の内容が一致しているか確認しましょう。

特に、

・一般雇用か障害者雇用か
・週何日、何時間働いているか
・どのような仕事内容か
・職場でどのような援助や配慮を受けているか
・欠勤、遅刻、早退などがあるか
・周囲とのコミュニケーションに問題があるか

などは重要です。

診断書だけでは伝わらない部分は「病歴・就労状況等申立書」で補う

発達障害の障害年金申請では、診断書とともに「病歴・就労状況等申立書」を提出します。

診断書は医師が作成しますが、病歴・就労状況等申立書は原則として本人や家族などが作成する書類です。

この2つの書類は、それぞれ役割が異なります。

診断書だけでは伝えきれない生活上の問題や、これまでの経過について、病歴・就労状況等申立書で具体的に説明することができます。

発達障害では生育歴も重要になる

発達障害は、通常は低年齢からその特性が現れる障害です。

そのため、大人になってから初めて発達障害と診断された場合でも、子どもの頃からどのような特徴や困りごとがあったのかを整理することが大切です。

たとえば、

・集団行動が苦手だった
・友人関係を築くことができなかった
・強いこだわりがあった
・忘れ物や紛失が極端に多かった
・授業中にじっとしていられなかった
・学校に適応できず不登校になった
・就職後に人間関係のトラブルを繰り返した
・仕事が長続きせず転職を繰り返した

など、現在の障害状態につながる経過を整理していきます。

診断書と病歴・就労状況等申立書の内容に大きな食い違いが生じないようにすることも重要です。

発達障害の診断書に関するよくある質問

ここでは、発達障害で障害年金を申請する方からよくいただく質問をご紹介します。

大人になってから発達障害と診断されても障害年金を申請できますか?

申請できます。

発達障害そのものは先天的なものですが、子どもの頃に医療機関を受診しておらず、就職してから仕事がうまくいかなくなったことなどをきっかけに、大人になって初めて発達障害と診断される方もいます。

障害年金における「初診日」は、単純に発達障害の特性が初めて現れた日という意味ではありません。

初診日は受給できる障害年金の種類や保険料納付要件などにも関係する重要な日ですので、過去に精神科や心療内科などの受診歴がある場合には慎重な確認が必要です。

発達障害と診断されていれば診断書を書いてもらえますか?

障害年金の診断書を作成するかどうかは医師の判断になります。

また、診断書を書いてもらえることと、障害年金を受給できることは別の問題です。

発達障害の診断があっても、障害状態が障害年金の等級に該当しなければ支給されません。

特に障害基礎年金の場合には3級がないため、2級以上に該当する障害状態であることが必要です。

診断書が実際の状態より軽く書かれていたらどうすればいいですか?

まず確認したいのは、医師が普段の生活状況をどの程度把握しているかです。

診察では症状について話していても、

「母親が毎日食事を届けている」
「お金はすべて父親が管理している」
「職場では上司が毎回作業内容を確認している」

といった具体的な援助状況までは伝えていないことがあります。

そのような場合には、まず実際の生活状況を具体的に医師へ説明することが大切です。

ただし、説明したからといって、希望する評価に変更してもらえるわけではありません。最終的な診断書の内容は医師が判断します。

家族と同居していると障害年金は受給しやすいですか?

家族と同居しているだけで受給しやすくなるわけではありません。

重要なのは、家族から実際にどのような援助を受けているのかです。

食事、掃除、洗濯、金銭管理、服薬、通院、各種手続きなどを家族が代わりに行っているのであれば、その援助内容を具体的に伝える必要があります。

反対に、家族と同居していても身の回りのことをすべて自分で行い、社会生活にもほとんど支障がないのであれば、「家族と同居している」という事実だけで障害状態が重く評価されることはありません。

発達障害で障害年金を申請する前に診断書の重要性を理解しておきましょう

発達障害による障害年金では、目に見える身体的な障害とは異なり、困りごとが第三者からわかりにくいことがあります。

さらに、本人自身が長年その状態で生活しているため、

「これくらいは普通だと思っていた」
「家族にやってもらうのが当たり前になっていた」
「自分がどのくらい援助を受けているのかわからない」

ということも珍しくありません。

その結果、本当は多くの援助を受けて生活しているにもかかわらず、診察では「特に変わりありません」「大丈夫です」と答えてしまい、医師に生活上の困難が十分に伝わっていないケースがあります。

障害年金の申請を考えたら、まず自分の日常生活を振り返ってみましょう。

何ができないのかだけではなく、

「誰に何をしてもらっているのか」
「援助がなければどうなってしまうのか」
「仕事を続けるためにどのような配慮を受けているのか」

まで整理することが大切です。

さいごに

発達障害で障害年金を申請するとき、診断書は審査結果に大きく関わる重要な書類です。

ただし、「重い診断書を書いてもらえば障害年金を受給できる」ということではありません。

大切なのは、発達障害によって生じている日常生活や就労上の支障、そして家族や職場などから受けている援助や配慮を、実態どおりに診断書へ反映してもらうことです。

特に発達障害では、自分では「できている」と思っていても、実際には周囲から多くの援助を受けることで生活が成り立っているケースがあります。

障害年金の申請を検討するときには、診断書を依頼する前に、自分の日常生活や仕事の状況を一度整理してみることをおすすめします。

また、発達障害の障害年金では、診断書だけでなく、初診日の確認や病歴・就労状況等申立書の作成も重要です。

「自分の状態で障害年金を受給できる可能性があるのかわからない」
「医師にどのように診断書をお願いしたらよいかわからない」
「働いているので障害年金を申請できるのか不安」

という方は、障害年金を専門とする社会保険労務士へ相談することも一つの方法です。