「障害年金は一発勝負なのでしょうか?」
障害年金の請求を考えている方の中には、「一度不支給になったら、もう二度と受給できないのではないか」「最初の申請で失敗したら終わりなのではないか」と不安に感じている方もいらっしゃいます。
結論からいうと、障害年金は法律上の意味で完全な「一発勝負」ではありません。不支給や却下という結果になった場合でも、その決定に不服があれば審査請求などの手続きがあります。また、障害認定日には障害等級に該当しなかった方が、その後に症状が悪化して事後重症請求を行うこともあります。
しかし、だからといって「最初はとりあえず自分で出してみて、ダメだったらやり直せばよい」と考えるのはおすすめできません。
障害年金は、初診日、保険料納付要件、障害認定日、診断書、病歴・就労状況等申立書など、複数の要素を確認しながら請求を組み立てる制度です。特に障害認定日請求では、過去の一定時点の障害状態を当時の医療記録などによって証明しなければならないことがあります。時間が経過するほど、必要な証明が難しくなるケースもあります。
この記事では、障害年金専門の社会保険労務士が、「障害年金は一発勝負」といわれる理由、不支給になった場合にできること、再請求や審査請求を考える際の注意点、そして最初の請求を丁寧に準備することがなぜ重要なのかを詳しく解説します。
目次
「障害年金は一発勝負」といわれるのはなぜ?
本当に一度しか請求できない制度ではない
障害年金についてインターネットで調べていると、「障害年金は一発勝負」という表現を目にすることがあります。しかし、これは制度上「請求できるのは生涯に一度だけ」という意味ではありません。
年金の決定に不服がある場合には、所定の期間内に審査請求を行う制度があります。また、障害認定日時点では障害等級に該当しなかったものの、その後に障害状態が重くなった場合には、事後重症による請求が認められる可能性があります。
したがって、「一度不支給になった=障害年金を受給できる可能性が永久になくなった」という理解は正しくありません。
それでも最初の請求が非常に重要な理由
では、なぜ「一発勝負」とまでいわれるのでしょうか。大きな理由は、障害年金では請求した時点で都合よく過去を書き換えることができないからです。
初診日は、原則として障害の原因となった傷病について初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。障害認定日は原則として初診日から1年6か月を経過した日です。これらは、請求者が受給しやすい日を自由に選べるものではありません。
さらに、診断書には医師が把握している診療内容や障害状態が記載されます。提出後に「もっと重く書けばよかった」「この事実も入れておけばよかった」と思っても、事実と異なる内容に変更することはできません。
つまり、障害年金は一度しか請求できない制度ではないものの、最初の請求で何を確認し、どの時点について、どの資料をそろえて提出するかがその後にも大きく影響する制度なのです。
「まず出してみる」が危険なケースもある
障害年金の請求は、書類をそろえて提出すればよいだけの手続きに見えるかもしれません。しかし、初診日が複雑なケース、転院が多いケース、過去に長期間受診していない時期があるケース、傷病名が途中で変わっているケースなどでは、提出前の整理が特に重要です。
十分に確認しないまま請求すると、後になって初診日の説明と医療機関の記録が食い違ったり、障害認定日時点の状態を証明する資料が不足したりすることがあります。
もちろん、すべての方が社会保険労務士に依頼しなければならないわけではありません。ご自身で請求して受給につながる方も大勢います。ただし、「不支給ならそのとき考えればよい」という前提ではなく、最初から必要な要件と資料を確認したうえで進めることが大切です。
障害年金の請求で最初に確認したい3つの要件
初診日を確認する
障害年金では、まず初診日の確認が重要です。初診日によって、障害基礎年金になるのか障害厚生年金になるのか、保険料納付要件をどの時点で確認するのか、障害認定日がいつになるのかなどが変わります。
「現在の病院に初めて行った日」が必ず初診日になるわけではありません。同じ傷病について以前に別の医療機関を受診していた場合には、さらに前の受診日が初診日となる可能性があります。
精神疾患のように、当初は不眠、頭痛、動悸など別の症状を訴えて受診し、その後に精神科や心療内科へつながったケースでは、初診日の検討に注意が必要なことがあります。診断名だけを見て機械的に決めるのではなく、傷病の経過を確認します。
保険料納付要件を確認する
障害年金には、原則として保険料納付要件があります。障害状態が重くても、初診日の前日において必要な納付要件を満たしていなければ、障害年金を受給できない場合があります。
ここで大切なのは、請求直前に未納分を納めれば必ず解決するというものではない点です。保険料納付要件は初診日の前日を基準として確認されるため、初診日の特定と年金記録の確認は早い段階で行う必要があります。
20歳前に初診日がある傷病など、通常の保険料納付要件とは扱いが異なるケースもあります。
障害の程度を確認する
初診日と保険料納付要件を満たしていても、それだけで障害年金が支給されるわけではありません。障害認定基準に照らして、障害の程度が所定の等級に該当する必要があります。
障害基礎年金は1級・2級、障害厚生年金は1級・2級・3級が基本です。傷病によって評価の方法は異なり、精神の障害、肢体の障害、眼の障害、心疾患、腎疾患、悪性新生物など、それぞれの認定基準に沿って審査されます。
「病名が重いから受給できる」「働いているから絶対に受給できない」といった単純な判断ではありません。診断書に記載された医学的所見、日常生活状況、就労状況などを含めて判断されます。
障害年金で不支給・却下になる主な理由
障害の程度が等級に該当しない
不支給となる理由としてまず考えられるのが、審査の結果、障害の程度が障害年金の等級に該当しないと判断された場合です。
本人にとって症状がつらいことと、障害認定基準上の等級に該当することは必ずしも同じではありません。障害年金では、それぞれの傷病について定められた基準に照らして判断されます。
この場合、不支給通知を受け取ったからといって、すぐに「診断書の書き方が悪かった」と決めつけるべきではありません。まず、どのような理由で等級非該当と判断されたのかを整理する必要があります。
初診日を確認できない
障害年金では初診日が重要であり、必要な場合には医療機関の証明などによって初診日を確認します。しかし、初診から長い年月が経過していると、医療機関が廃院していたり、カルテがすでに保存されていなかったりすることがあります。
初診日の証明が難しいケースには一定の取扱いがありますが、単に「昔のことなので覚えていません」で済むとは限りません。受診歴を時系列に整理し、残っている資料を確認することが重要です。
このため、初診日の証明に不安がある方ほど、請求直前ではなく早めに資料収集を始める必要があります。
保険料納付要件を満たしていない
保険料納付要件を満たしていない場合には、障害の程度がどれほど重くても、原則として障害年金を受給できません。
初診日を誤って認識していると、保険料納付要件の確認結果まで変わる可能性があります。そのため、初診日と納付記録は別々の問題ではなく、関連づけて確認することが必要です。
必要な時点の障害状態を証明できない
障害認定日請求では、障害認定日時点の障害状態が等級に該当していたことを証明する必要があります。請求が何年も後になった場合、当時の診断書を作成してもらうための診療録が残っているかどうかが問題になることがあります。
現在の症状が重いからといって、それだけで何年も前の障害認定日時点まで重かったことになるわけではありません。過去の状態と現在の状態は分けて考える必要があります。
不支給になったら本当に終わり?
不支給決定に不服がある場合は審査請求がある
年金の決定に不服がある場合には、社会保険審査官に対する審査請求という制度があります。日本年金機構の案内では、決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行うこととされています。
さらに審査請求の決定に不服がある場合には、社会保険審査会への再審査請求という手続きがあります。こちらも期限がありますので、不支給通知を受け取った場合には放置せず、早めに内容を確認することが大切です。
審査請求は「もう一度同じ申請をする」手続きではない
審査請求を、最初からまったく新しく審査してもらう再申請のように考えるのは適切ではありません。問題となる決定について、どこに事実認定や判断上の問題があると考えるのかを整理して主張する手続きです。
したがって、「不支給だったので、とにかく審査請求をすれば何とかなる」というものではありません。不支給理由を把握し、当初の資料、認定基準、診療経過などを検討して、争うべき点があるのかを見極める必要があります。
不服申立てと新たな請求は目的が違う
審査請求は、すでに行われた決定について争う手続きです。一方、症状がその後悪化したため現在の状態で障害年金を請求したいという場合には、事後重症請求など別の検討が必要になることがあります。
「以前の決定が間違っていたと考えるのか」「以前は等級に該当しなかったが、その後悪化したのか」によって取るべき方向が異なります。この区別をせずに進めると、何を証明したいのかが曖昧になってしまいます。
再請求すれば受給できる?
同じ状態・同じ資料で出し直せば結果が変わるとは限らない
不支給になった後、「もう一度出せば今度は通るのでは」と考える方もいます。しかし、障害状態も資料もほとんど変わっていなければ、単に提出し直しただけで結果が変わるとは限りません。
大切なのは、前回なぜ認められなかったのか、現在は何が変わっているのか、新たな請求でどの時点の障害状態を証明するのかを整理することです。
その後に症状が悪化した場合
障害認定日時点では等級に該当しなかった方でも、その後に症状が悪化し、請求時点で障害等級に該当する状態となった場合には、事後重症請求を検討できます。
事後重症請求で受給権が認められた場合、原則として請求日の属する月の翌月分から支給されます。つまり、現在すでに障害状態が重くなっているのに請求を先延ばしにすると、その分だけ受給開始が遅れる可能性があります。
なお、事後重症請求には年齢に関する期限があります。対象となる可能性がある場合には、早めに確認することが重要です。
前回請求と今回請求の違いを整理する
再度の請求を検討するときは、「前回と何が違うのか」を具体的に整理します。症状の悪化、入退院、治療内容の変更、就労継続が困難になったこと、日常生活上の援助が増えたことなど、障害状態の変化があるかを確認します。
ただし、受給するために状態を大げさに表現することはできません。あくまで実際の状態を、医療記録や生活状況と矛盾しない形で正確に伝えることが基本です。
障害認定日請求は特に「最初の準備」が重要
障害認定日の状態は後から作れない
障害認定日請求では、原則として初診日から1年6か月を経過した障害認定日時点の状態が審査対象になります。
何年も経ってから請求する場合でも、現在の重い状態だけを示せば過去にさかのぼって認定されるわけではありません。当時の障害状態を示す診断書などが必要になります。
過去の診療録に記載されていない事実を、請求のために後から作ることはできません。この意味でも、障害認定日請求は特に資料の確認が重要です。
遡及請求は「希望すれば遡れる」ものではない
「5年分さかのぼって障害年金をもらいたい」という相談がありますが、希望するだけで遡及できる制度ではありません。
障害認定日時点ですでに障害等級に該当していたことが認められ、必要な要件を満たした場合に、障害認定日の翌月分から受給権が発生します。ただし、実際に支払われる過去分には時効があり、原則として5年分が限度です。
現在の障害状態が重いことと、障害認定日時点でも同じ程度だったことは別問題です。ここを混同しないことが重要です。
当時のカルテが残っているとは限らない
初診日や障害認定日から非常に長い期間が経過している場合、当時の医療記録が残っていないことがあります。廃院や医療機関の統合などによって証明が難しくなることもあります。
「いつか請求しよう」と長期間放置するほど、過去の証明が難しくなる可能性があることは知っておいたほうがよいでしょう。
診断書は障害年金請求の重要な資料
診断名だけでは決まらない
障害年金の審査では診断書が重要な資料となりますが、単に診断名が記載されていればよいわけではありません。傷病ごとに診断書の様式があり、症状、検査所見、治療経過、日常生活能力、就労状況などが記載されます。
同じ病名でも障害の程度は人によって異なります。そのため、「この病名なら2級」「この病名だから3級」というように病名だけで等級を決めることはできません。
医師に事実を正確に伝えることが大切
診断書は医師が作成するものです。請求者や社会保険労務士が、受給に有利になるよう診断書の内容を決めるものではありません。
一方で、診察時間が限られているため、日常生活上の困難が医師に十分伝わっていないことはあります。普段どのような場面で援助が必要なのか、仕事ではどのような配慮を受けているのかなど、実際の状況を日頃から主治医に伝えておくことは大切です。
重要なのは「重く書いてもらう」ことではなく、「実際の状態が正確に反映される」ことです。
完成した診断書は提出前に確認する
診断書を受け取ったら、氏名や生年月日、診断名、初診年月日、現症日などの基本事項に明らかな誤りがないかを確認します。
また、本人が把握している治療歴と大きく異なる記載がある場合には、その理由を確認したほうがよいこともあります。ただし、自分の希望する等級に合わせて医師に内容の変更を求めるという意味ではありません。
病歴・就労状況等申立書を軽く考えない
診断書を補足するための重要な書類
病歴・就労状況等申立書は、発病から現在までの受診経過や、日常生活・就労の状況などを本人側から説明する書類です。
診断書と異なる事実を書いてはいけませんが、診断書だけでは分かりにくい生活上の経過や受診の流れを整理する役割があります。
特に転院が多いケースでは、どの時期にどの医療機関を受診し、どのような治療を受けていたのかを時系列で整理することが重要です。
長く書けば有利になるわけではない
つらかった経験をすべて書けば審査に有利になるとは限りません。障害年金の審査で確認される事項と関係の薄い内容を大量に記載すると、かえって重要な事実が埋もれてしまうことがあります。
申立書では、受診経過、症状の変化、治療、生活上の制限、就労への影響など、障害年金の判断に関係する事実を分かりやすく整理することが大切です。
診断書との矛盾に注意する
診断書では「就労している」と記載されているのに、申立書では「まったく働けない」と書くなど、資料間に明らかな矛盾があると、事実関係の確認が必要になります。
実際には、在籍していても休職中である、短時間勤務である、周囲から大きな配慮を受けているなど、単純に「働いている・働いていない」では表せないケースがあります。その場合は実態を具体的に整理します。
働いていると障害年金は不支給になる?
就労しているだけで一律に不支給になるわけではない
障害年金について「働いたらもらえない」と思っている方もいますが、就労していることだけを理由として一律に不支給になる制度ではありません。
ただし、傷病や等級によっては労働能力や就労状況が重要な判断材料となります。特に精神の障害などでは、仕事内容、勤務時間、職場で受けている援助や配慮、欠勤・遅刻・早退の状況、安定して勤務を継続できているかなど、実際の就労状況が重要です。
勤務先の配慮がある場合は実態を整理する
同じ週5日勤務でも、一般の従業員と同じ条件で安定して働いている場合と、業務を大幅に限定され、周囲の援助を受けながら勤務している場合とでは実態が異なります。
障害者雇用、短時間勤務、単純作業への変更、頻繁な休憩、在宅勤務、家族による送迎などがある場合には、その配慮がなければ勤務を継続できるのかという視点も含め、事実を具体的に整理することが大切です。
「働いている事実」を隠してはいけない
障害年金を受給したいからといって、就労している事実を隠したり、実際より勤務時間を短く説明したりしてはいけません。
障害年金の請求で大切なのは、受給に都合のよいストーリーを作ることではなく、実際の障害状態を正確に示すことです。
「障害年金は一発勝負」と考えすぎて請求できなくなる必要もない
完璧な書類を求めすぎない
ここまで読むと、「一つでも間違えたら大変だ」と不安になる方もいるかもしれません。しかし、障害年金の請求に必要なのは、文章を完璧に美しく仕上げることではありません。
必要な要件を確認し、事実に基づいて必要な資料をそろえ、現在または障害認定日時点の障害状態を適切に示すことが基本です。
誤字が一つあったから不支給になる、文章力が高くなければ受給できない、といった制度ではありません。
大切なのは「取り返しがつかない」と恐れることではなく準備すること
「一発勝負」という言葉だけが独り歩きすると、かえって請求そのものが怖くなってしまいます。
必要なのは、過度に恐れることではありません。初診日はどこか、納付要件はどうか、どの請求方法が考えられるか、診断書の現症日は適切か、過去の資料は残っているか、といった事項を一つずつ確認することです。
確認すべきポイントが整理できれば、障害年金請求は「運任せの一発勝負」ではなく、制度に沿って準備を進める手続きになります。
障害年金を自分で請求するときのチェックポイント
受診歴を時系列で書き出す
まず、最初に症状が出た時期から現在までの受診歴を書き出してみましょう。医療機関名、診療科、受診期間、転院理由、治療内容などを整理します。
記憶だけで曖昧な場合には、お薬手帳、診察券、紹介状など、手元に残っている資料も確認します。最初から申立書の文章を作ろうとするより、まず事実関係を時系列に並べるほうが整理しやすくなります。
年金記録を確認する
初診日がある程度分かったら、その時点の年金加入状況や保険料納付状況を確認します。障害基礎年金と障害厚生年金では等級の範囲などが異なるため、初診日にどの制度へ加入していたかは重要です。
「会社員だった時期があるから障害厚生年金だろう」と現在の働き方だけで判断することはできません。確認するのは現在ではなく、原則として初診日の加入制度です。
どの請求方法になるのかを確認する
障害認定日時点ですでに障害等級に該当していたと考えられるのか、それともその後に悪化したのかによって、障害認定日請求と事後重症請求のどちらを検討するかが変わります。
障害認定日から長期間経過している場合には、当時の診療録が残っているか、必要な時期の診断書を作成してもらえるかも確認します。
提出前に書類全体の整合性を見る
最後に、請求書、診断書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書などの間で、受診歴や日付、就労状況に不自然な食い違いがないか確認します。
書類ごとに別々に作成して終わりではなく、一つの請求として全体を確認することが大切です。
障害年金を請求する前に避けたい5つの思い込み
「病名が重ければ必ず受給できる」という思い込み
障害年金は病名そのものに対して支給されるものではありません。同じ病名でも、症状、検査所見、治療内容、日常生活への影響、就労状況などは人によって異なります。重要なのは、対象となる時点で障害認定基準に定める程度の障害状態にあるかどうかです。
病名や手術歴だけを見て受給できると決めつけてしまうと、実際の審査で必要となる障害状態の確認がおろそかになることがあります。反対に、病名だけを見て「自分は対象外だろう」と諦める必要もありません。
「診断書さえあれば大丈夫」という思い込み
診断書は非常に重要ですが、障害年金の請求は診断書一枚だけで完結するとは限りません。初診日の確認、保険料納付要件、請求方法、病歴・就労状況等申立書など、ほかの要素も確認されます。
診断書の内容がよくても初診日を確認できなければ問題となることがありますし、障害認定日請求を希望するのであれば、その時点の障害状態を示す資料が必要です。請求全体を一つの手続きとして見ることが大切です。
「不支給なら診断書を書き直せばよい」という思い込み
診断書は医師が医学的判断に基づいて作成する書類です。不支給だったからという理由だけで、同じ時点の同じ状態を受給しやすい内容に書き換えるものではありません。
記載上の明らかな誤りがある場合には確認が必要ですが、希望する等級に合わせて内容を変更してもらうという考え方は適切ではありません。
「ネットの受給事例と同じなら自分も通る」という思い込み
インターネットには多くの受給事例がありますが、障害年金は個別の事情によって結果が変わります。病名や年齢が同じでも、初診日の加入制度、障害状態、治療経過、生活状況、就労状況などが同じとは限りません。
他人の事例は制度を理解する参考にはなりますが、自分のケースの結論をそのまま導く材料にはできません。
「一発勝負だから、とにかく重く見せるべき」という思い込み
障害年金の請求で最も避けるべきなのは、受給のために事実を誇張することです。生活上できていることを「できない」としたり、実際には働いているのに就労していないように説明したりすることは適切ではありません。
必要なのは、障害によって実際にどのような制限があるのかを具体的かつ正確に示すことです。「一発勝負」という言葉に焦るあまり、請求の基本である事実に基づく説明を見失わないようにしましょう。
社会保険労務士に相談したほうがよいケース
初診日が複雑・古い
初診日から長期間経過している、最初の医療機関が廃院している、複数の傷病が関係している、診断名が途中で変わっているなど、初診日の判断や証明が複雑なケースでは、専門家への相談を検討してもよいでしょう。
初診日の判断を誤ると、加入制度、納付要件、障害認定日など、その後の請求全体に影響する可能性があります。
障害認定日までさかのぼって請求したい
遡及請求を希望する場合には、現在の診断書だけでなく、障害認定日時点の状態を証明できるかが重要です。過去の診療録の有無や診断書作成の可否など、早めの確認が必要です。
「遡及したい」という希望から逆算して事実を組み立てるのではなく、当時の資料を確認した結果として遡及請求が可能かどうかを判断します。
すでに不支給・却下になっている
すでに結果が出ている場合には、最初から新しい請求を作るのではなく、まず前回の請求内容と決定理由を確認する必要があります。
審査請求には期限がありますので、不支給通知を受け取ってから相談する場合は、通知書を保管したうえで早めに相談することをおすすめします。
自分のケースで何が問題なのか分からない
障害年金は、傷病名だけで受給可能性を判断できないケースが多くあります。「自分は対象なのか」「初診日はどこなのか」「認定日請求が可能なのか」が整理できない場合には、請求前に相談することで確認すべき事項が明確になることがあります。
「一発勝負だから社労士に頼めば必ず通る」わけではない
社会保険労務士でも受給を保証することはできない
障害年金を専門に扱う社会保険労務士であっても、「依頼すれば必ず受給できる」と保証することはできません。最終的な認定を行うのは審査機関であり、社会保険労務士が等級を決めるわけではないからです。
また、障害状態が認定基準に該当しない場合や、保険料納付要件を満たさない場合など、書類の工夫で解決できない問題もあります。
専門家の役割は事実を有利に作り変えることではない
社会保険労務士の役割は、受給のために事実を誇張したり、医師に特定の等級になるよう診断書を書かせたりすることではありません。
受診歴や年金記録を整理し、請求方法を検討し、必要な資料を確認し、本人の実際の生活状況や就労状況が書類上でも分かるように請求手続きを支援することが基本です。
障害年金では、制度を正しく理解したうえで、事実に沿った請求を行うことが何より大切です。
障害年金「一発勝負」に関するよくある質問
Q.一度不支給になったら二度と障害年金を受給できませんか?
いいえ。一度不支給になったことだけを理由に、将来にわたって請求できなくなるわけではありません。
不支給決定に不服がある場合には審査請求を検討できるほか、その後に障害状態が悪化した場合には事後重症請求が可能となるケースがあります。ただし、前回と同じ状態で単純に出し直せば受給できるという意味ではありません。
Q.不支給になったらすぐ再申請したほうがよいですか?
まず不支給となった理由を確認することが先です。障害の程度が非該当だったのか、初診日の問題なのか、別の要件なのかによって対応が異なります。
審査請求を検討すべきケースと、症状の変化を踏まえて新たな請求を検討するケースは同じではありません。
Q.審査請求をすれば最初から審査をやり直してもらえますか?
審査請求は、単純に新しい診断書を提出して最初から審査をやり直すだけの制度ではありません。当初の決定のどこに問題があると考えるのかを整理する必要があります。
追加資料が有効かどうかも事案によって異なります。不支給になったという結果だけではなく、その理由と当初の請求資料を確認することが重要です。
Q.障害認定日の診断書が取れなければ遡及請求は絶対に無理ですか?
必要な時点の障害状態をどのように証明できるかは個別に確認する必要があります。通常の診断書を取得できない事情がある場合でも、ケースによって検討すべき取扱いがあります。
ただし、現在の診断書だけで当然に何年も前まで遡れるわけではありません。過去の証明が難しい場合は、早めに年金事務所や専門家へ相談することをおすすめします。
Q.自分で請求すると不利になりますか?
自分で請求したこと自体を理由に不利になるわけではありません。制度を確認し、必要な書類を適切にそろえることができれば、ご自身で請求することも可能です。
ただし、初診日や遡及請求が複雑なケース、すでに不支給になっているケースなどでは、専門家に相談することで論点を整理しやすくなることがあります。
Q.社労士に依頼すれば診断書を有利にしてもらえますか?
診断書を作成するのは医師です。社会保険労務士が診断書の医学的内容を決めることはできません。
社会保険労務士は、請求に必要な制度上の事項を整理し、本人の実際の状況が書類作成の過程で適切に伝わるよう支援します。事実と異なる内容を作ることはできません。
障害年金は「一発勝負」ではなく「最初の請求を大切にする制度」と考える
不支給後の手段があることと、最初の請求を雑にしてよいことは別
障害年金には、不服申立てや事後重症請求など、その後に検討できる制度があります。その意味では、文字どおりの一発勝負ではありません。
しかし、最初の請求で確認できたはずの初診日や受診歴を曖昧なままにしたり、必要な過去資料を確認しないまま時間を経過させたりすると、後から対応することが難しくなる場合があります。
「やり直せる可能性がある」ことと、「何度でも同じ条件で簡単にやり直せる」ことは違います。
受給のためではなく正しい請求のために準備する
障害年金請求で目指すべきなのは、何としても受給できる書類を作ることではありません。制度上の要件を確認し、本人の実際の障害状態を正確に示し、適切な請求を行うことです。
その結果として障害等級に該当すれば受給につながり、該当しなければ不支給となります。社会保障制度である以上、この基本を外すことはできません。
だからこそ、障害年金を「運に任せた一発勝負」にせず、提出前の確認と準備を丁寧に行うことが重要なのです。
さいごに
「障害年金は一発勝負」と聞くと、一度失敗したらすべて終わりのように感じるかもしれません。しかし、障害年金は一度しか請求できない制度ではありません。
不支給決定に不服がある場合には審査請求という手続きがあり、その後の症状悪化によって事後重症請求を検討できる場合もあります。
一方で、初診日や障害認定日は後から自由に選び直せるものではなく、過去の医療記録も永遠に残るとは限りません。特に障害認定日までさかのぼる請求では、当時の状態を証明できるかどうかが大きなポイントになります。
そのため、「まずは適当に出してみて、不支給ならまた考えよう」という進め方はおすすめできません。
初診日を確認する。年金記録を確認する。どの請求方法になるのかを確認する。診断書と申立書の内容を事実に沿って整理する。そして、必要な資料がそろっているかを提出前に確認する。
この一つひとつの積み重ねが、障害年金請求では大切です。
ご自身のケースでは初診日がどこになるのか分からない、障害認定日請求ができるのか判断できない、過去に不支給となっていて今後どうすればよいか分からない、といった場合には、障害年金を専門に扱う社会保険労務士へ早めに相談することも一つの方法です。
障害年金は、必要以上に恐れるべき「一発勝負」ではありません。しかし、最初の請求を丁寧に行う価値が非常に大きい制度です。正しい情報を確認し、ご自身の状況に合った方法で請求を進めていきましょう。
