「以前から重いうつ病を患っている」
「ここ数年でうつ病の症状が悪化してきた」
「別の傷病と思っていたが、最近うつ病と診断された……。」
こうした方々が、うつ病で障害年金が受給できることを耳にして、障害年金に関心を寄せるケースも少なくないのではないでしょうか。
自分もうつ病で障害年金がもらえるのではないか? もらえるとしたら金額はいくらなのか? 受給額は請求方法によって違ってくるのか?
ここでは、うつ病と障害年金について知りたい方のために、障害年金の金額、認定基準、請求方法、受給例など解説していきたいと思います。
目次
うつ病で障害年金はいくらもらえる?
基本的に障害年金は、初診日(病気やケガで初めて医師の診療を受けた日)に加入していた年金によって、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」に分かれます。
そして各障害年金の受給額は、法令により定められた障害認定基準に該当する等級によって異なります。
うつ病や統合失調症などの精神障害でも、視聴覚や手足の障害などの外部障害でも、呼吸器疾患や糖尿病などの内部障害でも、年金額を決めるのは、傷病名ではなく、等級です。
つまり、「うつ病だからいくらもらえる」ではなく、「うつ病で(障害〇〇年金の)〇級だからいくらもらえる」なのです。
この等級ですが、障害基礎年金は1、2級、障害厚生年金は1~3級および障害手当金(一時金)に分類されています。
年金額は、障害基礎年金が「定額」、障害厚生年金は「報酬比例の年金額」で算出し、どちらも1級は2級の1.25倍です。
障害認定日がある月までに支払った厚生年金保険料の額と支払った月によって算出します。
そのため、報酬比例の年金額は人それぞれ異なります。
障害基礎年金と障害厚生年金のそれぞれ支給額を以下にまとめました。
障害基礎年金
障害基礎年金の支給額は「定額」で等級ごとに金額が異なります。
等級 | 支給額 |
1級 | 1,020,000円+(子の加算額) |
2級 | 816,000円+(子の加算額) |
子の加算額
障害基礎年金の受給者によって生計を維持されている子がいる場合は、人数に応じて「子の加算」が支給されます。
人数 | 加算金額 |
1人目・2人目の子 | (1人につき)234,800円 |
3人目以降の子 | (1人につき)78,300円 |
なお、加算の対象となる子は以下のいずれかに該当する子に限ります。
- 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
- 20歳未満で障害等級1級または2級の障害状態にある子
障害厚生年金
障害厚生年金の支給額は、報酬比例の年金額で以下のように算出されます。
等級 | 支給額 | |
障害厚生年金 | 障害基礎年金 | |
1級 | 報酬比例の年金額×1.25
+ (配偶者の加給年金) | 障害基礎年金1級
1,020,000円 |
2級 | 報酬比例の年金額
+ (配偶者の加給年金) | 障害基礎年金2級
816,000円 |
3級 | 報酬比例の年金額のみ
(最低保障額612,000円) | なし |
障害手当金(一時金) | 報酬比例年金額×2
(最低保障額1,224,000円) | なし |
障害年金も老齢年金と同様、2階建ての年金制度ですので、障害厚生年金の受給者(2級以上)には障害基礎年金が上乗せされて支給されます。
また、傷病が治った場合において、障害等級3級よりも軽度の一定の障害が残ったときは、一時金として「障害手当金」が支給されます。
配偶者加給年金
障害厚生年金1級または2級の受給権者によって生計を維持されている配偶者の方がいる場合、「配偶者加給年金」が加算されます。
配偶者加給年金額は以下のとおりです。
配偶者の加給年金額:年額234,800円
ただし、配偶者加給年金には以下の要件を満たす必要があります。
- 配偶者が退職共済年金や障害年金を受け取っていない
- 配偶者が65歳未満であること
- 障害年金加入者と同一の世帯で生計を共にしており、配偶者の年収が850万円未満であること
障害年金額については以下の記事でも詳しく解説しています。
障害等級の認定基準
うつ病をはじめ、障害年金は認定される障害等級によって受給額が異なり、重度であるほど支給額も多くなります。
どの障害等級に該当するかは、法律によって以下のように規定されています。
障害等級 | おおよその障害の程度 |
1級 | 他人の介助を受けなければ、日常生活のほとんどができない状態 |
2級 | 他人の介助が必ずしも必要ではないが、日常生活は極めて困難で身体の障害または病状により働いて収入を得ることができない状態 |
3級 | 働く上で著しい制限を受けるか、もしくは制限を加えることを必要とする状態 |
障害手当金 (一時金) |
傷病が治り、働く上で著しい制限を受けるか、もしくは制限を加えることを必要とする状態 |
また、うつ病の認定基準については以下の記事で詳しく解説しているので、ご参考ください。
受給金額は請求方法でも左右される?
いざ、うつ病で障害年金を請求することになっても、その請求方法によっては将来的に受け取る「年金総額」が大きく変わるため注意が必要です。
障害年金の請求方法は、障害年金を請求できる時期によって、障害認定日請求(本来請求)、(遡及請求)と事後重症請求の3つに分かれます。
内容は次のとおりです。
障害認定日請求(本来請求)
障害認定日に法令の定める各等級の障害の状態にあるときに、障害認定日から1年以内に請求するものです。障害認定日の翌月分から各障害年金を受給することができます。
遡及請求(障害認定日から1年以上経過した時の障害認定日請求)
障害認定日に障害等級に該当しているが、障害年金についての知識不足等の事情により障害認定日から1年以上経過して請求するものです。
遡及できるのは請求日から5年分になりますので、5年以上遡及した場合には時効により消滅してしまいます。
事後重症請求
障害認定日には法令の定める各等級の障害の状態にはなかったが、その後に病状が悪化し、65歳の誕生日の前々日までに各等級の障害の状態に該当した場合は、その期限内に請求するものです。
事後重症請求と遡及請求でもらえる金額の比較について
では、請求方法でもらえる金額がどれだけ変わるのか、具体的な例をあげて説明いたします。
ここでは、「事後重症請求」と「遡及請求」を比べてみましょう。
うつ病 40代男性(家族は妻、子供8歳と6歳)
初診日:平成20年X月X日(厚生年金加入期間)
会社の人間関係からうつ病を発症し、精神科を受診したが現在に至るまで症状が良くならず、自分ではどんどん悪化しているように感じる。
初診日から1年半の時期は会社に行くことができなくなり、休職。
休職期間はほとんど外出できず、入浴は1週間か10日に1度程度。
昼夜パジャマで過ごし、食事の準備や掃除等は妻にしてもらっていた。
人と会うことに恐怖を感じ、家族以外とはほとんど話すことができなかった。
休職を何度か繰り返し、3年前に退職。
(※障害厚生年金額は120万円と仮定します。)
社労士 石塚
事後重症請求2級
請求した月から受給権が発生し、年金額は妻と子供の加算を含めて
120万円+81万6,000円+23万4,800円+23万4,800円+23万4,800円=272万400円
障害認定日(遡及)2級
障害認定日から受給権が発生し、年金額は妻と子供の加算を含めて
120万円+81万6,000円+23万4,800円+23万4,800円+23万4,800円=272万400円
遡及できる5年間分の一時金は1,360万2,000円
このように、同じ障害厚生年金の2級であっても、事後重症請求と遡及請求ではもらえる総額が全く異なります。
うつ病の場合は、初診日や障害認定日の認定に加え、等級の判定も難しいため、請求方法に迷う方も少なくありません。
障害年金は請求方法によって受給総額に大きな差が出てくるため、請求方法の正確な知識を身に着けることも重要です。
うつ病での障害年金申請のポイントをまとめた記事がございますので、ぜひご覧いただけると幸いです。
うつ病での障害年金は難しい?受給するためのポイントと障害認定基準
うつ病の障害年金受給事例
うつ病で障害厚生年金3級を取得し、次回更新まで約450万円を受給されたケース
相談者
東京都中央区の40代女性
相談者様の状況
初診日から1年6か月の障害認定日頃から現在までは、いくつかの職場を転々としながら働いていた方です。
障害年金申請時にはかなり症状が悪化して、希死念慮・抑うつ・不安感が酷く、面談の際にも泣きながら話す状態でした。
サポート内容
まず初診日の証明をするために受診状況等証明書を取得したところ、ご本人も記憶にない前医のことが記載されており驚きました。
すぐに前医である病院を突き止め、何とか受診状況等証明書を取得することはできました。
障害認定日当時に通院している病院に診断書作成を依頼したところ、「あなたのうつ病の症状は軽いので障害年金はもらえないから診断書を書かない」と当時の主治医から拒否されました。
ご本人はその時点で障害認定日での遡及は諦めると落胆されましたが、社労士は諦めることなく何度も主治医に診断書作成を依頼し、最終的には障害年金が受給できる内容の診断書を書いていただくことができました。
うつ病で障害厚生年金2級を取得し、次回更新まで約650万円を受給されたケース
相談者
東京都世田谷区の30代女性
相談者様の状況
もともとは快活で明るい性格の方で、生命保険の営業職としてバリバリ働いていらっしゃいました。
仕事のストレスや母親からの精神的虐待からうつ病を発症し、現在は家から一歩も出られずに毎日自宅に引きこもるほど症状が悪化していました。
社労士との面談もできない状態で、夫が社労士と面談し、障害年金申請準備を進めることになりました。
サポート内容
うつ病を発症してから、病院は約10か所転院し、初診日に通院していた病院も障害認定日当時に通院していた病院も遠方にありました。
そのため、病院とのやり取りはほとんど郵送で行いました。
遡及請求のため障害認定日当時に通院していた病院に診断書作成を依頼すると、当時も全く働けず自宅で療養していたにも関わらず3級程度の内容になっておりました。
この方は障害基礎年金の請求なので、3級程度だと障害基礎年金が受給できません。
病院は飛行機で行かなければならない場所で直接お会いすることができないため、ご本人から障害認定日当時の主治医あてに手紙を書いてもらい、社労士からも書面を送付し、時間はかかりましたが2級相当の診断書を書いていただくことができました。
さいごに
今回のコラムでは、うつ病で障害年金の受給を考えている方に、障害年金の年金額や請求方法による受給額の違い、受給例などについて解説してきました。
障害年金額はうつ病という傷病名ではなく、障害の等級で決まることは説明したとおりです。
一方で、うつ病は複雑で、障害年金の受給にたどり着くのも容易ではありません。
うつ病で障害年金を申請するなら、障害年金を専門に扱っている社会保険労務士、中でも、うつ病案件に多くの実績のある社労士に相談することが、成功の秘訣と言えるかもしれません。
依頼する社労士によって、受給の有無、等級、請求方法、受給金額まで、結果は大きく違ってきます。ぜひ信頼できる社労士に相談してみてください。