脳梗塞は、脳出血、くも膜下出血と並ぶ脳卒中のひとつです。
厚生労働省の統計によると、2022年には「がん」「心疾患」「老衰」に次いで多くの方が脳卒中で亡くなっています。
多くの人の命を脅かす脳梗塞は、一度発症すると再発しやすいと言われており、何度も再発を繰り返す人もいます。
しかし、脳梗塞は生活習慣を改善することで予防ができる病気です。
この記事では、脳梗塞の再発についてわかりやすく解説します。
脳梗塞の再発率や再発の前兆も紹介するので、脳梗塞を知りたい人は参考にしてください。
参考:令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況(12ページ)|厚生労働省
目次
脳梗塞とは
脳梗塞とは、脳の血管が血栓※によって詰まったり、血管が細くなったりして脳に酸素や栄養分が行き届かなくなり、脳細胞が死んでしまう病気です。
※血栓とは、血の塊(かたまり)こと
死んだ脳細胞が再生することはなく、死んでしまった脳細胞が司どる機能が失われて、麻痺や運動障害などの後遺症が残ることが多くあります。
厚生労働省によると、脳卒中のうち、76.1%が脳梗塞で、次いで脳出血が19.5%、くも膜下出血は、4.5%です。
脳の血管によるトラブルで、脳細胞がダメージを受ける病気の大多数は「脳梗塞」であるといえるでしょう。
脳梗塞は詰まった血管の場所や太さによって、大きく3つに分類されます。
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順番にみていきましょう。
ラクナ梗塞
ラクナ梗塞は、脳内の細い血管が詰まって起こる脳梗塞です。
細い血管が詰まることから、脳に影響の出る範囲が狭いため、激しい頭痛などの大きな症状が出ないこともあります。
そのため、ラクナ梗塞が起こっても気づかずに生活する人も少なくありません。
アテローム血栓性脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞は、脳の太い血管が詰まって起こる脳梗塞です。
脳内の太い血管が詰まるため、脳の大きな範囲で影響が出やすく、目の前が真っ暗になったり、しびれが出るなどの症状が表れます。
アテローム血栓性脳梗塞は、就寝中などの安静時にも発症することがあります。
心原性脳塞栓症
心原性脳塞栓症は、心臓でできた血栓が脳内の太い血管に詰まることで発症し、急な頭痛やめまいなどの症状が起こる脳梗塞です。
心房細動から不整脈を起こし、心臓内に血栓ができやすくなります。
特に、心房細動のある人は脳梗塞になる確率が、2〜7倍高くなります。
心原性脳塞栓症は重症化しやすいため、心房細動を健診等で指摘された人は、治療しましょう。
脳梗塞の患者数と死亡数は?
政府の統計によると、脳梗塞を含む脳血管疾患の患者数は、2017年には111.5万人でした。
年齢が高くなるほど脳血管疾患を発症する人数は増えていき、女性よりも男性の患者数が多い傾向があります。
【脳血管疾患患者数の状況】
続いて、脳梗塞での死亡者数と死亡率を表にまとめました。※2019年の数値
死亡数(人) | 死亡率(人口10万対) | |
---|---|---|
男性 | 28,172 | 46.8 |
女性 | 31,095 | 49.0 |
総数 | 59,267 | 47.9 |
脳梗塞で約6万人の方が命を落としていることがわかります。
脳梗塞の再発率はどのくらい?
アメリカ国立衛生研究所によると、脳卒中の再発率は、発症後1年で12.8%、 5 年で35.3%、10年で 51.3%と公表されています。
脳梗塞を経験した人の約半数は、10年以内に再発しているのです。
血管が詰まる病気として知られる心筋梗塞※の場合、1年以内の再発率が2~3%であることと比較すると、脳梗塞の再発率は非常に高いといえるでしょう。
※心筋梗塞とは、心臓の筋肉に血液を送る血管が詰まって血液が流れなくなり、心筋細胞が死んでしまう病気
また、脳梗塞は、種類によって再発率に差があることがわかっています。
【脳梗塞の種類別1年以内の再発率】
脳梗塞の種類 | 再発率 |
---|---|
ラクナ梗塞 | 7.2% |
アテローム血栓性梗塞 | 14.8% |
心原性脳塞栓症 | 19.6% |
脳梗塞が再発すると重症化しやすく、初回に比べて後遺症が重くなるケースが多いです。
また、脳卒中を発症した人のうち、2〜4割にあたる人が認知症を発症します。
高齢者の健康寿命を延ばし、生活の質を保つうえで、脳梗塞の再発を減らすことはとても重要であるといえるでしょう。
参考:日本人コミュニティ初の脳卒中再発から10年:久山研究|アメリカ国立衛生研究所
脳梗塞の再発の前兆はある?
脳梗塞の再発の前兆は、以下のようなものがあります。
- 頭痛やめまい
- 体がしびれる
- 視力の低下
- 今までにないほどの強い頭痛
- 言葉が急に出なくなる など
上記のようなさまざまな症状が、「急に」「突然」表れます。
脳梗塞の前兆をもっと詳しく知りたい人は、下記の関連記事をご覧ください。
脳梗塞の前兆は?頭痛やめまいが出る?予防法もご紹介!ACT FASTで脳梗塞を簡易チェック!
アメリカの脳卒中協会が作成した「ACT FAST」という脳梗塞の簡易チェックをご紹介します。
下記のような症状が見られたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
試すこと | 脳卒中の可能性があるときに出る主な症状 | |
---|---|---|
Face(顔) | 口を横にひいて笑う | ・口を横にひくと、口がゆがむ ・顔が片側だけ下がる ・口角が下がる |
Arm(腕) | 手のひらを上にして、両手を前に上げる | ・片方の手が下がる |
Speech(言葉) | 簡単な文章を言う | ・言葉が出てこない ・呂律が回らない ・言葉が理解できない |
Time(時間) 発生時刻を確認して
Act (行動) すぐに救急車を呼ぶか医療機関を受診しよう
脳梗塞を発症して、4.5時間以内に血栓を溶かす治療を開始できれば、後遺症を減らせる可能性が高まります。
参考:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
脳梗塞の再発予防
脳梗塞は命にかかわる病気で、再発率も高いですが、生活を改善すれば予防できます。
そこで、脳梗塞の再発予防法を3つ、ご紹介します。
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それぞれ順番にみていきましょう。
生活習慣病を予防しよう
脳梗塞を発症した人の多くは、下記のような生活習慣病を患っています。
病名 | 概要 |
---|---|
高血圧 | ・血管に長期間にわたり高い圧力がかかり硬くなる ・その結果、動脈硬化を引き起こし、脳梗塞の危険を高める |
糖尿病 | ・血中のブドウ糖濃度が高くなり、血管を傷めて動脈硬化になる |
脂質異常症 | ・悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪が多すぎる、または善玉コレステロール(HDL)が少ない状態 ・放置すると動脈硬化につながる |
メタボリックシンドローム | ・内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり、心臓病や脳卒中などになりやすい ・動脈硬化が進展しやすいので、適切な体重管理や生活改善が求められる |
生活習慣病の予防ができれば、動脈硬化の進行を遅らせ、脳梗塞の発症を未然に防げる可能性が高まります。
参考:メタボリックシンドローム(メタボ)とは?|e-ヘルスネット(厚生労働省)
薬はきちんと飲もう
生活習慣病の治療に、定期的な服薬は欠かせません。
よく処方される薬としては、抗血小板薬や抗凝固薬があります。
これは、血管の詰まりの原因となる血栓を防ぐための薬で、高血圧や糖尿病、脂質異常症の治療薬と併用することも多く見られます。
医師から処方された薬は、用法と用量を守って飲みましょう。
症状がないからといって、自分の判断で薬を減らしたり、断薬せずに、まず医師に相談してください。
また、一時的に市販薬を使いたいときは、主治医や薬剤師に相談してから使用することをおすすめします。
ふだんの生活を改善しよう
生活習慣病の治療を開始し、薬を定期的に飲んでいても、これまでの生活習慣を改めなければ脳梗塞発症のリスクを下げることは難しいです。
これから改善したい生活習慣をみていきます。
減塩で血圧を適正に保つ
高血圧は、動脈硬化の原因となり、脳梗塞発症のリスクを上げます。
減塩をすることで高血圧を予防・改善しましょう。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人1人1日当たり男性7.5g未満、女性では6.5g未満と設定しています。
また、高血圧や慢性腎臓病の重症化を防ぐには、男女共に6.0g/日未満が目標として掲げています。
- 鰹節や昆布などのだしを料理に使う
- わさびやからしなどの香辛料で味に変化をつける
- ねぎやしょうが、大葉など香味野菜を取り入れる
塩を減らしても、満足できる食事がとれるように自分なりに工夫をしましょう。
食事はバランスよく食べる
バランスの良い食生活は、健康への近道です。
食事は、肉類や魚、大豆製品、乳製品、卵などをバランスよくとりましょう。
厚生労働省の「健康日本21(第二次)」では、「野菜類を1日350g以上食べましょう」と推奨しています。
1回の食事の量が少なくて栄養が十分にとれない場合は、間食やおやつに果物や野菜などをとることもおすすめです。
今日から食事を改善して、健康な体づくりを目指しましょう。
参考:野菜、食べていますか?|e-ヘルスネット(厚生労働省)
適度な運動を習慣にする
適度な運動は、全身の血流を促進して、生活習慣病の改善に役立ちます。
ウォーキングや散歩程度の軽い運動を、毎日続けましょう。
天気の悪い日や運動する時間が取れない日は、室内でストレッチやヨガ、ラジオ体操などをするのもおすすめです。
運動習慣は、適正な体重管理とストレス解消の効果も期待できます。
質の良い睡眠を確保する
慢性的な睡眠不足は、生活習慣病のリスクを高めて、脳梗塞の発症につながります。
質の良い睡眠を得るためには、毎日同じ時間に起きて朝日を浴びることが効果的です。
規則正しい生活をすることで体内時計が整い、自律神経の乱れが改善する効果も期待できます。
また、昼間は外出したり、仕事をするなど、活動的に過ごしましょう。
喫煙や過度な飲酒を避ける
喫煙は、血圧の上昇を招き、血流も悪化させるので、禁煙することをおすすめします。
禁煙は自分ひとりでは難しいので、禁煙外来を受診してはいかがでしょうか。
禁煙外来では、禁煙を補助するための薬が処方されます。ニコチン依存が軽くなり、禁煙が成功しやすくなるでしょう。
また、過度な飲酒も、血圧を上昇させて、脳梗塞発症の原因となることがあります。
厚生労働省では、肝臓に問題がなければ、1日のアルコール摂取を20gを目安として掲げています。
お酒の飲みすぎには注意しましょう。
参考:アルコールによる健康障害|e-ヘルスネット(厚生労働省)
転ばないように環境を整える
脳梗塞の後遺症で、以前よりも歩きづらかったり、見えづらくなったりすることがあります。
住み慣れた家でも転倒の危険があるので、移動がしやすくなるように環境を整備しましょう。
- カーペットは固定する
- 床に荷物等は置かない
- トイレや浴室に手すりをつける
- スリッパは履かない など
介護保険を利用して、自宅を改修できるケースがあります。
お住まいの市区町村役所に問い合わせをしましょう。
まとめ
脳梗塞は、脳血管が詰まることで脳細胞が損傷を受け、頭痛やしびれ、運動機能障害などを起こし、後遺症が残ることもある病気です。
脳梗塞の再発率は高く、10年で約半数の人が再発しています。
厚生労働省の統計によると、日本では年間約6万人が脳梗塞で命を落としていることがわかっています。
脳梗塞は、生活習慣病を予防し治療することで、再発のリスクを減らせます。
食生活や運動などの生活習慣を改めて、脳梗塞の再発を予防しましょう。