老齢基礎年金は65歳からの支給開始ですが、希望すれば本来の受給開始年齢よりも早く年金を受け取ることも可能です。これを「繰上げ受給」と言います。
しかし、繰上げ受給で年金を早く受け取れるメリットがある一方、年金額が減額されたり、障害年金を受け取れなくなったりするなど、多くのデメリットもあります。
そこで今回は、老齢基礎年金の繰上げ受給のデメリットや、繰上げ受給後でも障害年金を受け取れるケース、受け取れないケースなどについて解説します。
老齢基礎年金の繰上げ受給を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
老齢基礎年金の繰上げ受給について
老後の生活を支える老齢基礎年金は原則、65歳以上から支給が開始されますが、本人が希望すれば65歳前から年金を受け取ることができます。
年金の繰上げ請求をすると、最大60歳まで繰上げ受給することが可能です。
しかし、老齢年金の繰上げ受給は年金が早く受け取れる分デメリットもあります。
ここでは、老齢年金を繰上げ受給をする主なデメリットについて解説します。
年金額が減額され、後で変更できない
老齢基礎年金の繰上げ受給した場合の1番のデメリットは、支給される年金額が減額されてしまうことです。
繰上げ受給では、1ヶ月繰り上げるごとに65歳に受給できる年金額から0.5%減額されます。
つまり、繰上げ受給が利用できる下限の60歳まで繰り上げると最大で30%減額され、その後一生減額された金額を受給することになります。(※)
(※)2022年4月以降は、1ヶ月あたりの減額率が0.4%に下がります。
障害年金の受給ができない可能性がある
老齢基礎年金を繰上げ受給した場合、特別なケースを除いて障害基礎年金を受け取れない可能性があります。
基本的に障害基礎年金は、老齢基礎年金の支給開始前に病気やケガなどで所得が得られなくなった場合を想定した制度です。
そのため、原則、障害基礎年金の請求できる年齢は65歳までとなっています。
しかし、繰上げ受給を行った場合、65歳未満であっても、繰上げ受給をした時期から65歳としてみなされてしまうため、障害基礎年金の請求ができなくなってしまうのです。
遺族年金と老齢基礎年金の併給ができない
遺族年金とは、国民年金または厚生年金の被保険者の方、もしくは被保険者であった方が亡くなった時に、遺族が受け取れる年金です。
遺族年金の受給権が発生したときに65歳以上であれば、遺族年金と老齢年金の両方を受給することが可能です。
しかし、65歳未満で老齢年金の繰上げ受給をしていた場合、65歳になるまでは遺族年金もしくは、老齢年金のどちらかしか受け取れません。
また、65歳以上になって老齢年金が受け取れるようになっても、支給額は繰上げによって減額されたままの年金額が支給されます。
寡婦年金の権利がなくなる
寡婦年金とは、国民年金第一号被保険者として10年以上加入していた夫が亡くなった場合に、一定の条件を満たせばその妻に支給される年金です。
原則として、60歳〜65歳になるまで支給されますが、繰上げ受給をした場合、寡婦年金を受け取る権利がなくなってしまいます。
国民年金の任意加入ができなくなる
60歳以降になると、国民年金への加入義務はなくなり65歳まで任意加入となります。
もし、加入義務期間中である、20歳から60歳までの間に未納期間や免除期間がある場合、この任意加入期間中に保険料を納付すれば、受給できる年金額を満額に近づけることが可能です。
しかし、繰上げ請求後は、国民年金の任意加入ができなくなってしまうため、加入義務期間に未納、免除期間がある場合は、満額受け取ることができなくなってしまいます。
繰上げ受給後に障害年金が受け取れるケースと受け取れないケース
原則、老齢基礎年金を繰上げ受給すると、障害年金は受け取ることができません。
しかし、繰上げ受給後でも、障害年金が受け取れうケースもあります。
ここからは、老齢年金の繰上げ受給後に障害年金が受け取れる4つのケースと受け取れない3つのケースについて解説します。
繰上げ後に障害年金が受け取れる4つのケース
- 初診日が60歳前の国民年金もしくは厚生年金の被保険者で、老齢年金の繰上げ後に障害認定日がある場合
- 初診日が60歳以上65歳未満の任意加入被保険者期間中にあり、老齢年金の繰上げ請求後に障害認定日がある場合
- 初診日が60歳以降の被保険者でない期間にあり、障害認定日が老齢年金の繰上げ請求前にある場合
- 老齢年金の繰上げ後に厚生年金被保険者となってから初診日がある場合
障害年金は、「初診日要件」「障害認定日要件」「障害状態該当要件」の3つの要件があり、中でも老齢年金の繰り上げをする際は、初診日要件が重要になります。
老齢年金の繰上げ請求後に障害年金を請求する場合は、次のいずれかの間に初診日がある必要があります。
・被保険者であること
・被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であること
上記のいずれかの要件に該当して、障害認定日において、政令で定める障害等級に該当する程度の障害状態にあった場合に、障害年金が支給されます。
なおここでいう、被保険者とは、20歳から60歳未満の日本国内に居住する者、任意加入被保険者、厚生年金の被保険者が該当します。
そのため、60歳前に初診日がないケースである2、3、4のケースでも、被保険者として要件を満たすため、繰上げ請求後でも障害基礎年金を請求することが可能です。
繰上げ後に障害年金が受給できない3つのケース
老齢年金の繰上げ受給後に障害基礎年金が請求できないケースは以下の通りです。
- 初診日が60歳以上65歳未満の被保険者ではない期間中にあり、老齢年金の繰上請求後に障害認定日がある場合
- 60歳以降に老齢年金の繰上げ請求後に、初診日と障害認定日がある場合
- 老齢年金の繰上げ請求後に、事後重症で障害等級に該当した場合
1のケースの場合、初診日が被保険者期間中にないため、初診日が繰り上げ請求前であっても、障害基礎年金の請求ができません。
また、繰上げ請求をすると、65歳未満でも65歳としてみなされるため、2のケースの場合も障害基礎年金が請求できなくなります。
加えて、「事後重症請求」も繰上げ請求後はできなくなります。
事後重症請求とは、障害認定日には障害等級に該当しなかった者が、その後65歳に達する前日までの間に障害等級に該当した場合に、その日までに障害年金の請求ができる請求方法です。
しかし、上述したように、老齢年金の繰上げ受給をすることで、その時点で65歳に達したとしてみなされるため、繰上げ受給後は事後重症請求ができなくなってしまいます。
このように、老齢年金の繰上げ受給後は、原則として障害基礎年金が受給できませんが、受け取れるケースもあります。
そのため、「繰上げ請求後は障害年金は受け取れないから…」と障害年金の請求を諦めてしまう前に、まずは一度社労士やお近くの年金事務所に相談してみることをおすすめします。
さいごに
老齢年金の繰上げ受給は、65歳前であっても年金が受け取れることが大きなメリットです。
しかし、繰上げ受給後は、年金額が減額されたり、障害年金が受け取れなかったりとデメリットも多いため、繰上げ受給にあたっては慎重に検討した方がいいでしょう。
もし、繰上げ受給について、心配事や疑問がある場合は、お近くの年金事務所の窓口や、社労士などの専門家に相談してみましょう。