社会保険労務士とはいったい、どんな仕事をしている人たちなのだろうか?具体的な業務内容は?扱う法律は?働き方は?
人気資格の社労士試験に挑戦しようと思っている方、または社労士に依頼することを考えている経営者の方、あるいは勤務先で社労士と接点のある会社員の方、障害年金の申請等で社労士への依頼を検討されている方……。
そうした方々のように、社労士の仕事内容について詳しく知りたいと思っている方は少なくないのではないでしょうか。
このコラムでは、社会保険労務士の仕事について、具体的に解説していこうと思います。
※このコラム全般については、全国社会保険労務士会連合会の公式サイトをご参照ください。
目次
社会保険労務士とは
社会保険労務士は文字通り、社会保険と労務問題の専門家で、社会保険労務士法(昭和43年6月制定)に基づいた国家資格者です。
労働および社会保険の諸法令に従い、事業の健全な発展と労働者等の福祉の向上を目的に業務を行います。
企業での採用から退職までの労働・社会保険に関する諸手続きをはじめ、就業規則・労使協定の作成、年金相談まで、幅広い業務を担う「企業の人事・労務に関する専門家」と言えます。
それでは社会保険労務士の具体的な仕事内容を見ていきましょう。
社会保険労務士の主な業務
企業において、従業員の病気やケガ、労災、退職、定年、年金などに関する各種手続きは、社会的責任やコンプライアンスの面からも不可欠です。
一方、上記手続きは法改正が少なくなく、制度も複雑化しているため、企業の担当者が迅速、的確に処理することは容易ではありません。
そこで、企業側の負担を軽減し、かつ正確に各種手続き等を遂行するために必要な専門家が、社会保険労務士と言えます。
それでは、社会保険労務士の主な業務内容を項目ごとに解説していきます。
労働・社会保険の申請・手続き
従業員の雇用保険、健康保険、厚生年金などの書類作成・申請に加え、各種給付金の事務手続き等、従業員が安心して働ける環境作りをサポートします。
具体的には、保険証の変更手続き、業務上でケガをした場合の労災の届け出、扶養家族に増減があった場合の手続き、出産一時金や傷病手当金の申請など、従業員と家族の生活にかかわる各種手続きを代行します。
また、就業規則や労使協定の作成・修正、労働者名簿や賃金台帳の管理なども社労士の重要な業務です。
労務管理の相談・指導
良好な労使関係の構築、維持を目的に、各種相談に乗り、的確なアドバイスを行います。
具体的には、職場のトラブルやコンプライアンス違反などを未然に防止するため、人事、賃金、労働時間に関して提案したり、就業規則のチェック、法定帳簿の鑑査等を行ったりします。
また人材の採用、育成などの適切なアドバイスや、退職金制度の導入なども社労士の業務の一つです。
年金相談
公的年金に関する唯一の国家資格者の立場から、頻繁に法改正が行われる年金(老齢年金、障害年金、遺族年金)について、加入期間、受給資格等の相談や申請手続きまで、幅広い業務を行います。
日本年金機構が全国社会保険労務士会連合会に委託する、街角の年金相談センターでの対面相談も、社会保険労務士の仕事です。
紛争解決手続き代理業務
社会保険労務士の中で、特定社会保険労務士(※)には、労働にかかわるトラブルが発生した際、時間や費用のかかる裁判ではなく、あっせんや調停、仲裁などの手続きでトラブル解決を図ることが認められています。
※特定社会保険労務士になるには、厚生労働省が定める研修を修了し、紛争解決手続代理業務試験に合格後、全国社会保険労務士会連合会の社労士名簿に付記することが必要です。
その他
労働・社会保険制度、または職場に関するトラブル等で、最終的に裁判に発展した場合、社会保険労務士は補佐人として弁護士とともに裁判に出廷し、意見陳述をすることができます。
依頼者は、仕事を依頼している社労士が一緒に出廷することで、安心して訴訟による解決を選択することが可能となるのです。
社会保険労務士が扱う法律
社会保険労務士が業務として取り扱う法律は50を超えます。
社会保険労務士は、社会保険労務士試験の試験科目でもある「労働基準法」「雇用保険法」「健康保険法」「厚生年金保険法」なども含め、労働法関連と社会保険法関連を中心に、幅広い法律を駆使して業務を行います。
※詳細は社会保険労務士法をご参照ください。
労働法関係
- 労働基準法
- 労働者災害補償保険法
- 職業安定法
- 雇用保険法
- 最低賃金法
- 障害者の雇用の促進等に関する法律
- 雇用対策法
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
- 労働安全衛生法
- 賃金の支払の確保等に関する法律
- 労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法
- 育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
- 生活困窮者自立支援法
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
社会保険法関係
- 健康保険法
- 厚生年金保険法
- 国民健康保険法
- 国民年金法
- 児童手当法
- 子ども手当の支給に関する法律
- 高齢者の医療の確保に関する法律
- 介護保険法
その他
- 行政不服審査法
社会保険労務士の働き方
社会保険労務士の働き方は、大きく分けると「勤務型」と「独立開業型」の2パターンがあります。
従業員としてキャリア構築と安定を求めたい方なら勤務型、自身の力で顧客を開拓していきたい方なら独立開業型が向いていると言えるでしょう。
企業に勤務する
企業に就職して、人事部や総務部で社労士としての専門性を生かす働き方です。
社員の労働・社会保険の手続きから、就業規則や労使協定の管理まで、専門的なスキルを発揮する場面は多く、会社から頼られる社員になる魅力を秘めています。
社会保険労務士事務所に勤務する
社会保険労務士事務所のスタッフとして働くことも選択肢の一つです。
クライアントの求めに応じ、様々な現場で社労士としてのスキルを磨くことができるため、将来独立を考えている方には打ってつけと言えるかもしれません。
独立開業する
やはり社労士の資格を取得したからには独立開業したい。
そう考えている方も少なくないのではないでしょうか。
自らクライアントを獲得していかなければならず、決して甘い道ではありませんが、努力次第で活躍の場を大きく広げることができるのが魅力で、高収入も見込めます。
社会保険労務士の義務とは
東京都社会保険労務士会では下記のように定義されています。
社会保険労務士は、倫理綱領で「品位を保持し、常に人格の陶冶にはげみ、旺盛なる責任感をもって誠実に職務を行い、もって名誉と信用の高揚につとめなければならない」とされています。
具体的には、以下の義務を守り、責任を持つことが求められます。
- 品位の保持…中立公正を貫き、良心をもって誠実に職務を行う
- 知識の涵養…常に専門知識を磨き、理論と実務に精通する
- 信頼の高揚…契約を誠実に履行し、依頼の信頼に応える
- 相互の信義…互いに立場を尊重し、信義にもとる行為は厳禁
- 守秘の義務…職務上、知りえた秘密は廃業後でも守り抜く
社会保険労務士の収入はどのくらいか
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、令和元年の社会保険労務士の平均年収は542万円(賞与110万円を含む)となっています。
平成30年は600万円、平成29年は525万円で、500~600万円前後で推移しています。
ただ、開業している社会保険労務士の中には、1000万円以上稼いでいる者も多く、中には数千万単位で稼ぐ社労士もいて、実際の平均年収はもう少し多いかもしれません。
参考までに、厚労省・国税庁が発表する職種別給与を参考にした平均年収.JPというサイトによれば、社会保険労務士の平均年収は、平成29年度の職業別ランキングで22位となっています。
ちなみに、かつては全国社会保険労務士会連合会が報酬基準を定めていましたが、規制緩和の一環で今は自由化されています。
とはいえ、現在もその報酬基準を参考にしている社会保険労務士事務所や社会保険労務士は少なくないようです。
一般的な報酬基準は、例えば顧問報酬は10人以下の企業で3万円程度、100人規模なら10万円以上、200人規模なら20万円以上が目安と言われています。
就業規則の作成は20万円程度が多いようです。
よくある質問
Q.社会保険労務士の資格を取れば、すぐに社労士として仕事ができますか?
A.社会保険労務士として仕事をするには、社労士の試験に合格後、2年以上の実務経験を積むか、または全国社会保険労務士会連合会が行う事務指定講習を修了してから、同連合会の名簿に登録することが必要となります。
Q.社会保険労務士にしかできない仕事はありますか?
A.社会保険労務士には「独占業務」というものがあります。例えば労働・社会保険の諸法令で定める書類の作成や手続きなどは、社労士以外の者が報酬を得て行うことはできません。
社労士の必要性、社会的意義は非常に高いと言っていいでしょう。
さいごに
日本社会に長く根付いてきた終身雇用制度に陰りが見え、働き方改革が叫ばれる中、個人の可能性を広げる資格の取得が、これまで以上に脚光を浴びるようになりました。
中でも社会保険労務士は、日常の生活と密接に関わりのある社会保険や労務問題などを扱うため、社労士に対する需要は高まるばかりです。
社会保険労務士は社会的意義が高く、依頼主からも感謝されることの多い、非常にやりがいのある仕事です。
このコラムを読んで、社会保険労務士の仕事をより身近に感じていただければ幸いです。