ADHDは、集中力の欠如や衝動性、多動性といった特徴を持つ発達障害の1つです。
具体的な症状や症状の程度には個人差がありますが、学業や仕事、人間関係に大きな支障をきたすことも珍しくありません。
特に仕事に影響が出てしまうと、経済的な打撃が大きくなり、生活が苦しくなってしまうこともあります。
そんなときに役立つのが、障害年金です。
今回は、ADHDで障害年金を受給できるのか、申請時のポイントはあるのかということについて、詳しく解説していきます。
目次
ADHD(注意欠陥多動性障害)と障害年金について
ADHDは、子どもだけでなく大人にも見られる発達障害の1つです。
社会生活や職場での適応が難しく、
・仕事が続かない
・人間関係がうまくいかない
など、生活のあらゆる面で困難を抱えるケースもあります。
こうした症状によって、日常生活や就労が制限される場合、障害年金の対象になる可能性が高いです。
ここでは、ADHDの特徴を整理したうえで、障害年金の仕組みについて詳しく解説していきます。
ADHD(注意欠陥多動性障害)とは?
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:注意欠陥多動性障害)は、主に「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特徴を持つ発達障害です。
・集中力が続かない
・ケアレスミスが多い
・思いつきで行動してしまう
といった傾向があり、学業や仕事、対人関係に影響を及ぼすケースもあります。
成人になっても症状が続く「成人期ADHD」と診断される方も多く、特に社会生活においては「段取りが苦手」「ミスが多い」「時間を守れない」といった課題から評価が下がり、退職や転職を繰り返す方も少なくありません。
ADHDは、単なる性格や努力不足ではなく、脳の機能的な特徴によるものであり、薬物療法やカウンセリング、環境調査といった治療が必要です。
障害年金とは?
障害年金とは、病気やケガ、または精神疾患などによって日常生活や就労が困難になった方に支給される公的年金制度です。
年金制度の一部として位置づけられていますが、現役世代でも条件を満たせば受給できます。
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。
初診日に自営業者や学生など、国民年金のみに加入している方は「障害基礎年金」、会社員や公務員など、厚生年金に加入している方は「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の対象となります。
ADHD(注意欠陥多動性障害)は障害年金の対象になる?
ADHDは、障害年金の対象です。
ただし、ADHDと診断された全ての方が受給できるわけではなく、症状の程度や生活への支障度によって認定の可否が判断されます。
【障害年金を受給できる可能性が高いケース】
・仕事の指示を理解できず、長く続かない
・金銭管理ができず、生活が破綻している
・人間関係のトラブルにより、社会的孤立がある
このようなケースでは、日常生活能力が著しく低下していると判断されやすいため、障害年金を受給できる可能性が高いです。
逆に、ADHDと診断されているものの、日常生活や仕事にほとんど影響がないと判断された場合は、不支給となることもあります。
障害年金を受給するための条件
ADHDで障害年金を受給するには、症状の程度だけでなく、制度上の3つの条件を満たしていることが前提となります。
その条件は、以下の通りです。
・初診日に被保険者であること
・保険料を納付していること
・障害認定日に一定以上の障害状態があること
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
初診日に被保険者であること
障害年金を受け取るためには「初診日に年金制度の被保険者であること」という条件を満たさなければなりません。
これは、ADHDに限らず、全ての障害年金に共通する条件です。
つまり、初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、国民年金または厚生年金の被保険者である必要があるということです。
そのうえで、初診日を証明しなければなりません。
ADHDを含む精神疾患の場合は、初診日が10年以上前になることも珍しくなく、カルテが残っていないなど証明が困難な場合もあります。
そのような場合は、他院への紹介状や母子手帳といった間接的な資料で補うことも検討してみましょう。
保険料を納付していること
障害年金は「社会保険制度」の一部であり、保険料を納付していることが受給の大前提条件となります。
一定の期間に保険料を納めていない場合、申請が却下されます。
具体的には「年金加入期間全体の3分の2以上を納付しているか免除されている」または「直近1年間に未納期間がない」のいずれかを満たしていなければなりません。
国民年金には「追納」という制度があり、あとから保険料を納めると老齢年金に反映されますが、障害年金の場合、初診日を過ぎてからの追納は「納付」と認められないため注意が必要です。
障害認定日に一定以上の障害状態があること
障害年金を受給する上では、障害認定日が重要になります。
これは、初診日から原則1年6か月経過した日のことです。
この障害認定日に一定の障害状態があると判断された場合は、翌日から支給が開始されます。(障害認定日請求)
万が一請求が遅れてしまった場合でも、最大5年間遡って請求できるため安心してください。
また、障害認定日には障害の状態が軽く障害年金がもらえない状態であっても、それ以降に障害年金がもらえる基準に達した場合にはその時から申請することも可能です。(事後重症請求)
障害年金の判定基準について
ADHDにおける障害年金の受給判定では、症状の重さや診断名だけでなく「障害年金の判定基準」に基づいた審査が行われます。
ADHDの場合は、厚生労働省が定める「等級判定ガイドライン」を基準として、日常生活や社会生活への支障度合いを総合的に判断します。
以下、障害認定基準や等級判定の考え方、日常生活能力の評価方法について詳しく見ていきましょう。
障害認定基準
ADHDは「精神の障害によるもの」として障害年金の対象に含まれます。
障害認定基準では、
・注意力の持続が難しい
・衝動的な行動で社会生活に支障をきたす
・他者との強調が困難
といった特性が、どの程度日常生活に影響しているのかを軸に判定が行われます。
単に「ADHDと診断されているか」ではなく、診断書に具体的な支障の内容が記載されているかどうかが審査のポイントです。
・職場での業務遂行が困難
・金銭管理ができず生活が不安定
・人間関係が長続きしない
といった具体的な支障がある場合、より高い等級に該当する可能性が高まります。
つまり、医師がどのように症状を評価し、それを診断書に反映しているかが重要になるということです。
等級判定ガイドライン
障害年金の等級は、症状や生活への影響度合いに応じて「1級」「2級」「3級」に分類されます。
【要件の概要】
1級:常に支援者の助けが必要で、ほとんど自立した生活ができない
2級:日常生活に著しい制限があり、就労が困難
3級:社会的な適応に一定の制限はあるが、ある程度の生活が可能
ただし、等級判定ガイドラインに記載されている概要はあくまでも目安であり、実際の等級判定は個別の事情によって異なるケースもあります。
日常生活能力の判定
ADHDの障害認定では、日常生活能力の判定がとても重要です。
これは、本人がどの程度自立して生活できているかを7つの観点から評価する仕組みです。
【日常生活能力の判定項目】
1:適切な食事
2:身辺の清潔保持
3:金銭管理
4:通院・服薬管理
5:対人関係
6:社会行動
7:社会性(手続きの対応可否など)
この判定は、医師が診断書に記載するため、実際の生活でどのような支援が必要か、どんな場面で困難があるかを主治医に具体的に伝えておかなければなりません。
日常生活能力の程度
日常生活の程度は、先ほどの7項目の評価をもとに、総合的に「どれくらいの支援が必要か」を示す指標です。
評価は1~5段階で行われ、1が「社会生活は問題なくできる」、5が「ほとんど自立できない」とされます。
この平均値や傾向をもとに、障害等級(1~3級)の目安が決定される仕組みです。
ただし、この評価は単なる数値だけでなく、生活の安定性や支援の必要性も含めて判断されます。
特にADHDでは、周囲の理解や環境調整によって生活のしやすさが大きく変わるため、実際に生じている支障を定量的・定性的に伝えることが大切です。
ADHD(注意欠陥多動性障害)で障害年金を受け取れないケース
ADHDは、一定の条件を満たせば障害年金の対象となりますが、不支給もしくは却下となってしまうケースも少なくありません。
ここでは、ADHDであるにもかかわらず、障害年金を受け取れないケースをいくつか紹介していきます。
受給要件を満たしていない
障害年金が却下や不支給となる原因は、障害年金の3つの要件を満たしていないケースです。
障害年金の基本要件は「初診日に被保険者であること」「保険料の納付要件を満たしていること」「障害認定日に一定の障害状態があること」の3つであり、これらを全て満たしていないと受給できません。
ADHDでは、特に初診日の特定および証明が課題になることが多いため、できるだけ早く準備に取り掛かることをおすすめします。
障害の程度や状況が医師に伝わっていない
ADHDによる障害年金の審査では、医師が作成する「診断書」の内容が重視されます。
しかし、本人が医師に日常生活の支障をうまく伝えられなかった場合、実際の症状よりも軽く評価されてしまうことがあるのです。
その結果、社会に適応できていると誤解され、却下される可能性が高まります。
このような事態を避けるためにも、日常生活においてどのような弊害があるのかをメモなどにまとめておき、具体的かつ丁寧に説明しましょう。
申立書の内容が不十分
障害年金の申請では「病歴・就労状況等申立書」の内容も重視されます。
この書類には、発症から現在までの経過、就労状況、生活上の支障などを自分の言葉で詳しく記入する必要があります。
しかし、ADHDの特性上、文章作成や情報整理が苦手な方も多く、記載内容が断片的だったり、抽象的だったりするケースも珍しくありません。
「集中できない」「忘れっぽい」というような簡単な内容で済ませてしまうと、生活への支障が伝わらず、却下になる可能性が高まります。
申立書は、障害年金申請において、唯一自分の言葉で状況を説明できる手段となりますので、時間をかけてじっくり作成しましょう。
ADHD(注意欠陥多動性障害)で障害年金を受け取るためのポイント
ADHDで障害年金を受け取るためのポイントは、以下の通りです。
・主治医とコミュニケーションを取る
・診断書の内容を確認する
・病歴・就労状況等申立書は分かりやすく書く
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
主治医とコミュニケーションを積極的に取る
障害年金の申請では、医師が作成した診断書の内容が審査の中心となります。
そのため、主治医に自分の症状や日常生活における支障を具体的に伝えることが大切です。
このときに、症状だけを伝えると誤解が生じやすくなるため、エピソードを踏まえて伝えるのがおすすめです。
そうすることで、医師が具体的な状況をイメージしやすくなるため、認識の相違や誤解を防ぎやすくなります。
診断書の内容を確認する
医師に診断書を作成してもらったら、まずは内容を確認しましょう。
特に「日常生活能力」や「労働能力」に関する項目が過小評価されていないかを重点的にチェックしてください。
診断書は一度提出すると、内容の訂正が難しくなるため、診断書の内容に不明点や誤記がある場合は、主治医に再度相談し、修正してもらうことをおすすめします。
病歴・就労状況等申立書は分かりやすく書く
病歴・就労状況等申立書は、日常生活の実態を伝えるための重要な書類です。
抽象的な表現ではなく、
「会議で集中力が続かず、話しの内容を把握できない」
など、具体的な状況を踏まえて記載するようにしましょう。
また、第三者(家族や同僚)から見た支援の必要性についても追記しておくと、より説得力が増しますので、ぜひ取り入れてみてください。
障害年金請求の流れ
ADHDで障害年金請求を行う流れは、以下の通りです。
【1:初診日確認】
まずは、いつ・どこ精神科や心療内科を初めて受診したのかを確認します。
ちなみに障害年金の初診日はADHDの診断を受けたかは関係がなく、あくまでも精神症状で初めて受診した日となります。
初診日は、障害年金の受給資格を判断する上で最も重要な要素の1つとなりますので、しっかりと確認しておきましょう。
【2:保険料納付状況の確認】
初診日の前日時点で、一定期間の年金保険料を納付していなければ、障害年金は受給できません。
【3:初診日証明・診断書依頼】
初診で訪れた医療機関に「受診状況等証明書」を発行してもらいます。
その後、現在の主治医に「障害年金用診断書」の作成を依頼しましょう。
【4:書類の準備・提出】
病歴・就労状況等申立書など、必要な書類を全て揃えて提出します。
このように、障害年金の申請にはさまざまな書類が必要であり、手続きもかなり複雑です。
自分で行うこともできますが、書類に不備があったり、記載漏れがあったりすると却下になったり、余計に時間がかかったりするため、不安な方は社会保険労務士への依頼を検討しましょう。
ADHD(注意欠陥多動性障害)の障害年金申請なら「ピオニー社会保険労務士」にお任せください!
ADHDの障害年金申請は、初診日の特定から診断書の内容確認、申立書の作成など、多くの専門知識が求められます。
手順を間違えたり、書類が不足していたりすると、不支給もしくは却下になってしまうこともあります。
特に、手続きを全て自分で行う場合、途中で躓く可能性が非常に高いです。
障害年金の申請をスムーズに行いたい方は、障害年金の専門社労士事務所「ピオニー」にご相談ください。
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他の社労士事務所で断られた難易度の高い案件も対応可能ですので、お困りの方はお気軽にお問い合わせください。
まとめ
ADHDは、障害年金の対象疾患ですが、初診日を証明する書類や診断書、申立書といったさまざまな準備が必要です。
自力での申請も可能ですが、手続きの煩雑さや書類不備リスクなどを考えると、専門家への依頼が最も確実な方法といえます。
ピオニー社会保険労務士事務所は、障害年金のプロフェッショナルであり、どのような案件にも柔軟に対応可能です。
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