公的年金制度には、病気やケガなどが原因で障害の状態になったときに年金が受け取れる「障害年金制度」があります。
しかし、制度自体が知られていないことも多く、手続きが複雑なため申請をためらっている方も少なくありません。
そこで今回は、障害年金制度の種類や対象者、受給条件、受給金額から申請方法まで障害年金制度をわかりやすく解説します。
障害年金の申請を検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
障害年金制度とは?
障害年金制度とは、病気やケガが原因で障害の状態になったときに、一定の要件を満たすことで年金が受け取れる制度です。
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。
どちらの障害年金を受け取れるかは、初診日(障害の原因となった病気やケガで初めて病院を受診した日)に加入していた年金制度によって決まります。
ここでは、それぞれの障害年金の概要について解説します。
障害基礎年金
障害基礎年金とは、初診日において国民年金に加入していた場合に受け取れる障害年金です。
また、20歳未満または被保険者であった者で60歳以上65歳未満で、国民年金に加入していない期間中に障害が生じてその状態が続いている方も支給対象となります。
障害基礎年金は、障害認定日(初診日から1年6ヶ月経過したとき)において、障害等級表の1級もしくは2級の障害状態に該当すれば受給することが可能です。
ただし、この障害等級は障害者手帳の等級とは異なるため注意しましょう。
障害者手帳の等級については、以下の記事で詳しく解説しています。
障害厚生年金
障害厚生年金とは、初診日において厚生年金に加入していた場合に受け取れる障害年金です。
障害厚生年金は、障害等級の1級〜3級まで支給対象です。
なお、障害認定日において障害等級の1級または2級に該当する場合、障害基礎年金に上乗せして支給されます。
障害手当金
障害手当金とは、初診日において厚生年金に加入していた方で、障害等級の1級〜3級にも該当しない程度の軽い症状が残った場合に一時金として受け取れるものです。
障害手当金の支給要件としては、初診日から5年以内に病気やケガが治っていて、障害の程度が一定の障害の状態に該当する場合に支給されます。
なお、ここで言う治っているという状態は、症状が固定していて、治療の効果が期待できない状態のことを言います。
障害年金の対象者は?
障害年金の対象者は病気やケガなどにより障害が残り、日常生活や仕事に支障があるかどうかで判断されます。
障害年金の対象となるのは、手足の障害などの外部障害のほか、精神障害やがん、糖尿病などの内部障害など多岐に渡ります。
以下に、障害年金の対象となる障害や病気の一例をまとめました。
- 外部(身体)障害:眼、聴覚、肢体(手足など)の障害など
- 精神障害:統合失調症、うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など
- 内部障害:呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液、造血器疾患、糖尿病、がんなど
障害年金の認定基準については、こちらで詳しく解説しています。
障害年金の申請要件は?
障害年金を受給するためには、3つの申請要件を満たす必要があります。
そこでここからは、障害年金の要件について詳しく解説します。
初診日が特定できること
障害年金の申請には、国民年金または厚生年金の加入期間に「初診日」があることを示すことが必要です。
初診日は基本的にカルテで証明することになります。
しかし、カルテの保存期間が過ぎていたり、病院が廃院していたりした際は、障害者手帳や医師の診断書、お薬手帳、診療報酬請求明細書などの別の書類で証明します。
また、誤診を受けた日が初診日とみなされることもあるので注意が必要です。
初診日については、以下の記事で詳しく解説しています。
保険料が一定期間納付されていること
初診日が特定できたら、次に保険料が一定期間納付されているかを確認しましょう。
具体的には、以下のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- 初診日の前日において、初診日の月の前々月までの被保険者期間のうち、3分の2以上の保険料が納付または免除されていること
- 初診日の時点で65歳未満であり、初診日の前日において、初診日の月の前々月前までの直近1年間に保険料の未納がないこと。
ただし、20歳未満の方で年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、保険料の納付要件は求められません。
一定の障害状態であること
障害年金を受給できるかどうかは「障害認定日」において、一定の障害状態があることも要件の1つです。
障害認定日とは、初診日から1年6ヶ月経過した日、または1年6ヶ月が経過する前に症状が固定し、それ以上治療の効果が期待できない状態となった日のことです。
この障害認定日以降に、国民年金または厚生年金の障害認定基準の等級に該当する必要があります。
以下に、1級から3級までの認定基準を簡単にまとめましたので、ご参考ください。
障害等級 | 認定基準 |
1級 | 身体の障害または病状により、他人の介助を受けなければ日常生活を送れない状態 |
2級 | 他人の介助が必ずしも必要ではないが、体の障害または病状により労働的ない状態 |
3級 | 傷病が治らず、労働に著しい制限を受ける状態 |
障害等級の認定基準は、日常生活を送る上で他人の介助が必要かどうかを重視しています。
したがって、病名にかかわらず、他人の介助がなければ生活できない人は1級に認定されます。
一方、障害があっても他人の介助なしで働ける人の障害等級は3級になる場合がほとんどです。
また、障害厚生年金に該当する障害状態(障害厚生年金3級)よりも、軽い障害が残った場合は「障害手当金」を一時金として受け取れます。
障害年金の支給額はいくら?
支給される障害年金額は、加入していた年金や障害の程度、または配偶者の有無、子どもの数によって変わります。
ここからは、障害基礎年金と障害厚生年金の支給額について解説します。
障害基礎年金の支給額
障害基礎年金は定額で、障害等級に応じて支給される年金額が異なります。
障害等級 | 年金額 |
1級 | 1,020,000円 |
2級 | 816,000円 |
さらに、18歳に達する年度末(3月31日)を経過していない子どもがいる場合は、子の加算が付きます。
また、子どもが障害等級2級以上であれば、子どもの加算は18歳に達する年度末から20歳未満まで延長して支給されます。
子どもの数 | 支給額 |
1人〜2人目 | 1人につき234,800円 |
3人目以降 | 1人につき78,300円 |
障害厚生年金の支給額
障害厚生年金は障害基礎年金のように定額ではなく、受給者の収入(標準報酬月額)や厚生年金に加入していた期間などによって年金額が異なります。
また、障害等級が1〜2級の方で65歳以下の配偶者がいる場合、配偶者加給年金も加算されます。
障害厚生年金で受け取れる年金額は、以下の通りです。
障害等級 | 年金額 |
1級 | 報酬比例の年金額×1.25+障害基礎年金+配偶者加給年金(234,800円) |
2級 | 報酬比例の年金額+障害基礎年金+配偶者加給年金(234,800円) |
3級 | 報酬比例の年金額
※最低保証額は612,000円 |
障害手当金 | 報酬比例額の年金額×2
※最低保証額は1,224,000円 |
※障害等級3級は、障害基礎年金が受け取れないため最低保証額が定められています。
報酬比例の年金額は、少し複雑で下記の計算式で算出します。
報酬比例の年金額=A+B
A:【平均標準報酬月額(※1)×7.125/1000×平成15年3月までの加入月数】
B:【平均標準報酬額(※2)×5.481/1000×平成15年4月以降の加入月数】
(※1)平均標準報酬月額・・・平成15年3月以前の、厚生年金加入期間中の標準報酬月額を平均したもの
(※2)平均標準報酬額・・・平成15年4月以降の、厚生年金加入期間中の標準報酬月額と標準賞与額を月単位で平均したもの
なお、加入期間の月数が25年より少ない場合は、25年加入したものとして計算されます。
障害年金の申請方法について
最後に、障害年金の申請方法について解説します。
申請先はどこ?
障害年金の申請先は、障害年金の種類によって異なります。
障害基礎年金 | 障害厚生年金 |
・年金事務所
・お住まいの市区町村窓口 |
年金事務所 |
障害などによって本人が申請に行くことができない場合は、家族を含む代理人に委託することも可能です。
請求方法は?
障害年金の請求方法は、主に「障害認定日請求」と「事後重症請求」の2種類があります。
障害認定日請求
初診日から1年6か月経過後に請求する方法です。
障害認定日請求をすると、障害認定日の翌月から障害年金が支給されます。
障害認定日請求を行う場合、障害認定日から3ヶ月以内の状態について記載された診断書が必要になります。
1年を経過した後でも請求できますが、時効があるため、さかのぼって請求できるのは5年分までです。
ただし、1年を経過した後に請求する場合、障害認定日から3か月以内の診断書と、請求日以前3ヶ月以内の診断書の2枚が必要です。
また、初診日が20歳より前で、国民年金・厚生年金のいずれも加入していない場合は、20歳に達した日の前後3ヶ月以内の診断書が必要になります。(初診日から1年6か月を経過していない場合は除く)
事後重症請求
障害認定日に障害等級の該当しなかったとしても、その後症状が悪化して障害等級に該当する状態になった場合に請求する方法です。
障害年金の支給が決定すれば、請求月の翌月から障害年金を受け取ることが可能です。
ただし、事後重症請求は、請求したときに初めて受給権が発生するため、過去分の年金は受け取れません。
また、請求日において65歳の誕生日の前々日が過ぎている場合や、老齢基礎年金の繰り上げ後だった場合、この制度による請求ができないため注意しましょう。
さいごに
今回は障害年金制度と障害年金の種類、障害年金の年金額、申請方法などについて解説しました。
障害年金制度は、病気やケガなどによって障害が生じて万が一働けなくなった場合、生活を支えてくれる重要な制度です。
しかし、障害年金の手続きには、初診日の確認、保険料の納付要件の確認など煩雑になることが多いです。
手続きが難しく申請をためらってしまう際は、お近くの年金事務所または社労士などの専門家に相談することをおすすめします。