統合失調症は世界的にも人口の1%程度が発症すると言われている精神障害であり、発症すると日常生活の多くに支障をきたす病気です。
若い時に発症することも多く、経済的に困っている方を支える制度として障害年金があります。
ここでは統合失調症で障害年金を受給するために何をしたらよいのかを、わかりやすくご説明させていただきます。
目次
統合失調症で障害年金を受給するためには「初診日」が重要
まず、統合失調症の症状が出てから最初に行った病院はどこだったか、その病院に初めて行った日はいつだったのかを突き止めることが重要です。
症状が出て初めて病院に行った日を障害年金では「初診日」と言います。
統合失調症の方は、統合失調症特有の症状の他に抑うつや不安の症状もある方が多く、最初の病院では統合失調症という診断はされずに「うつ病」や「不安神経症」という診断をされる場合がありますが、統合失調症と診断されていなくとも何かしらの精神症状で病院に行ったのであればそこが初診日となります。
社労士 石塚
初診日が確定できたら、①初診日の要件と②保険料納付要件を確認します。
統合失調症で障害年金を受給するためにはいくつかの条件があり、それを全て満たさなければなりません。
- 初診日の要件とは、統合失調症の初診日において国民年金か厚生年金の被保険者であること。
- 保険料納付要件とは、初診日の前日において年金保険料を一定期間以上納付していること。
具体的には、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間についての保険料納付済期間と免除期間を合算した期間が加入期間の3分の2以上納められていること。
または、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に滞納期間がないこと。
20歳前に初診日がある統合失調症の場合には、保険料納付要件は問われません。
①初診日の要件と②保険料納付要件の両方を満たした上で、統合失調症の障害状態が障害年金を受給できる程度かどうかを判断していきます。
ですので、どんなに統合失調症の症状が重く寝たきりの状態なったとしても、①初診日の要件と②保険料納付要件を満たさなければ、統合失調症で障害年金を受給することはできません。
また、初診日がいつで、どこの病院に行っていたかどうかは、「受診状況等証明書」という書類で証明しなければなりません。
統合失調症で障害年金がもらえる程度とは~「障害認定基準」
統合失調症がどの程度の症状であれば障害年金が受給できるかどうかを定めた基準があり、それを「障害認定基準」と言います。
統合失調症の認定基準は以下の通りです。
1級の認定基準
高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の援助が必要なもの
2級の認定基準
残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの
3級の認定基準
残遺状態又は病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの
1級から3級までありますが、初診日に国民年金に加入していた方は1級か2級で、3級はありません。
3級を受給できるのは、初診日に厚生年金に加入していた方が対象となります。
また、統合失調症で障害年金を受給できるかどうかは以下の点も考慮されます。
- 統合失調症は、予後不良の場合もあり、法令で定める障害の状態に該当すると認められるものも多い。しかし、罹病後数年ないし十数年の経過中に症状の好転を見る事もあり、また、その反面急激に憎悪し、その状態を持続することもある。したがって、統合失調症として認定を行うものに対しては、発病時からの療養及び症状の経過を十分考慮する。
- 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
統合失調症の診断書と日常生活能力について
統合失調症で障害年金の請求(申請)をする場合には、精神の障害用診断書(様式第120号の4)を使用します。
そして、統合失調症の症状がどの程度かどうかは日常生活能力によって審査され、等級が決められます。
その等級を公平に判定するために平成28年(2016年)9月より「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の運用が始まりました。
この「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には、うつ病の診断書に記載される「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」に応じた等級の目安が定められています。
日常生活は、食事や身辺の清潔保持など7つの場面として捉え、それがどの程度できるかを数値化し、障害年金の等級を公平に判断できるようになっているガイドラインです。
統合失調症の障害年金を受給する手続き(申請)方法について
統合失調症で障害年金を請求(申請)する場合の流れは、以下のとおりです。
障害年金を申請する際には、多くの書類を取得したり作成しなければなりません。
一つずつ確実に進めていけば障害年金を受給することができますが、申請準備に数か月かかることもあります。
統合失調症で障害年金受給は難しい?
統合失調症で障害年金の請求(申請)をする時に気を付ける点がいくつかあります。
統合失調症は、幻覚や幻聴等がある陽性症状と気分が沈みがちな陰性症状を繰り返す特徴があることから、障害年金を受給するためには気を付けなければならないコツがあるのです。
では、どんな部分が難しいと言われているのかをご説明していきます。
統合失調症を治療しながら働いている場合の障害年金
統合失調症の治療をしながら障害者雇用枠でフルタイム就労をしていたり、パートタイムで働いていたりする場合は障害年金を受給できないのでしょうか。
統合失調症の障害認定基準や等級判定ガイドラインには、就労していたら障害年金を受給することはできないという記載はありません。
しかし、診断書を見る限りは障害等級に該当しているにも関わらず、働けているという事実のみによって不支給(障害年金がもらえない)になったり、不利な等級で認定されたりすることはとても多いのが現状です。
「働くことができる」=「統合失調症の症状が軽い」と判断されるのです。
例えば、統合失調症の陽性症状である幻覚や幻聴が酷い中で仕事ができているということは、現実的に信じがたいです。
しかし、陽性症状がない安定した状態で配慮を受けながら仕事をするということはあり得ます。
統合失調症の方が働いている場合、例えば残業はしないという条件や他人とのコミュニケーションが極力少ない業務に従事するというように配慮を受けていることがありますので、職場での配慮や仕事上の支障があればそれを診断書や病歴・就労状況等申立書に反映させることが重要です。
社労士 石塚
診断書作成を断られた場合や実際の症状よりも軽く書かれた場合
統合失調症で障害年金を受給するために最も重要なのが、医師に診断書を作成していただくことです。
しかし、医師によっては「あなたの統合失調症は軽いので障害年金はもらえないから診断書を書かない」と診断書の作成を拒否されたり、出来上がった診断書は自分の症状よりもはるかに軽い症状の記載だったりすることがあります。
診断書の作成を医師に断られた場合は、考えられる理由として、その医師が障害年金制度や統合失調症の障害認定基準を理解されていないということが多いので、無理に診断書作成を依頼するのではなく、統合失調症で障害年金が受給できることをご説明し、ご理解いただけた上で初めて診断書作成を依頼するのがスムーズです。
あくまでも「障害年金の受給ありき」ではなく、自分の統合失調症の症状は障害年金の基準に該当している可能性があるからというスタンスだと主治医との関係を悪化させることはありません。
また、出来上がった診断書の内容が自分の症状よりもはるかに軽い症状だった場合には、日常生活能力についてしっかりと医師に伝えきれていないことが考えられますので、無理に診断書の修正を依頼するのではなく、日常生活はどのように送っているのか、どのようなことを誰に援助してもらっているのか、というようなことを具体的にお伝えするようにしましょう。
受給できるまでの審査期間
統合失調症で障害年金申請をする場合、書類を年金事務所や市区町村役場に提出します。
その後は日本年金機構で審査が行われ、その審査にかかる期間は平均で3か月半となっております。
しかし、困難な案件や申請が混みあっている場合には審査期間は長期間になります。
社労士 石塚
さいごに
統合失調症で障害年金を受給するためには、多くの書類を準備しなければならないため時間も労力もかかります。
しかし、障害年金で定める基準に該当していれば、障害年金を受給することができるのです。
統合失調症は完治するのが難しい病気と言われておりますので、障害年金を受給して収入源を確保することによって安心して療養することもできます。
申請手続きが難しいと感じられた場合には、社労士に手続きを依頼することも一つの案だと思います。