障害年金で数百万円がもらえる遡及請求とは?

ポイント

障害年金のことを調べていると、人によっては一時金で数百万円から1千万円以上を受給できるということを目にすることがあるかもしれません。
しかし、残念ながら受給できない方もいます。

実際に「障害年金の遡及請求」ができると「数百万円から1千万円以上の一時金」が最初に支給され、その後通常の障害年金が2ヶ月に1度支給されるようになります。

どんな人が遡及請求できるのか、どうやって遡及請求をしていくのか、遡及請求が困難なケースなどについて詳しくご説明いたします。

障害年金の遡及請求(そきゅうせいきゅう)とは

障害年金は、例えばうつ病の症状が出て初めて病院に行った日(=初診日といいます)から1年6か月経った時に、障害年金で定められている等級に該当する状態であればその時に請求をします。
これが一番スタンダードな障害年金の請求方法です。

障害年金の請求方法について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

年金手帳と電卓障害年金とは【専門家がわかりやすく解説します】

障害年金で大事な用語なので覚えましょう

障害の原因となる症状で初めて病院に行った日=初診日

初診日から1年6か月経過した日=障害認定日

もともと障害年金という制度を知っていて、病気やケガをした時に「初診日から1年6か月経ったら障害年金を請求しよう!」と思っている方であれば、初診日から1年6か月経過した時(=障害認定日)に着々と準備を進められると思います。

しかし、もともと障害年金の制度があることや、様々な病気やケガで障害年金をもらえるということを知らない人のほうが多いのではないでしょうか?

そうすると、本当は障害認定日には障害年金がもらえる状態であったにも関わらず、何年も障害年金の請求をせずに過ごしてきて、あるきっかけで障害年金の制度を知り障害年金の請求をする、ということはよくあることなのです。

その場合、障害認定日には障害年金の等級に該当する症状があったと診断書で証明ができれば、その時点に遡って障害年金をもらうことができます。
これを、「障害年金の遡及請求(そきゅうせいきゅう)」や「障害年金の遡り」といいます。

具体的には、障害認定日から1年以上経った後にするのが遡及請求です。

「遡及請求」という言葉は法律用語ではなく、一般的にわかりやすいのでこのように呼ばれるようになりました。

社労士 石塚

障害年金の制度を知らなかった方でも、損をしないように遡って障害年金を支給してくれるというわけです。

遡及請求できる期間

障害年金の金額がどのように決まるのかについては、こちらをご覧ください。→「障害年金とは」

遡及請求できるかできないかどうやって判断するの?

長年、病気やケガで障害を抱えていらっしゃる方は、自分もできれば障害年金の遡及請求をしたいと思うはずです。

遡及請求ができるかどうかは、いくつかの条件が整わないとできません。
その条件についてご説明していきます。

障害認定日に障害の状態であること

初診日から1年6か月経過した日である障害認定日に、障害年金で定められている等級に該当する程度の障害状態でなければ、障害認定日に遡って遡及請求をすることはできません。

障害認定日が何年も前にあって、その時の症状や障害の状態を具体的に思い出せない方もいらっしゃるかもしれませんが、まずはじっくりと障害状態の変化を振り返りながら思い出してみましょう。

おおまかに障害年金の等級の目安を示しますので、参考にしてみてください。

1級
日常生活は他人の介助を受けなければほとんどできない程度

身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできない
病院内の生活…活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの
家庭内の生活…活動の範囲がおおむね就床室内に限られるもの

2級
日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度

家庭内の極めて温和な活動(朝食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできない
病院内の生活…活動の範囲がおおむね病棟内に限られるもの
家庭内の生活…活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの

3級
労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度

(さらに障害の種類ごとに詳しい等級の基準があります。)
国民年金・厚生年金保険 障害認定基準

障害認定日から3か月以内の日付の診断書を用意できること

遡及請求するには、障害認定日の診断書を提出しなければなりません。
障害認定日ちょうどに診察を受けていることは現実的に少ないので、障害認定日から3か月以内のどこかで診察を受けていたのであれば、その診察日と同じ日付で診断書を書いてもらう必要があります。

そのために重要なこと。
それは、「障害認定日から3か月以内に診察を受けた病院にカルテが残っていること」です。

障害年金の診断書は、カルテに基づいて書かれるものですので、そのおおもととなるカルテがなければ医師は診断書を書くことができません。

障害認定日頃の症状を思い出して、障害年金の等級に該当していることは確実であったとしても、カルテが残っていないために遡及請求を断念しなければならないケースがあります。

例えば、以下のような場合です。

  • 病院に問い合わせたらカルテが破棄されていた(カルテの保存期間は法律で5年間と決まっています)
  • 既に病院がなくなっていた
  • 障害認定日頃に通院していた病院をどうしても思い出せない

 

また、障害認定日から3か月以内に通院していた病院にはカルテがあっても、遡及請求できないケースもあります。

社労士 石塚

障害年金の診断書には、障害ごとに審査の対象となる検査数値や計測値、日常生活にどの程度支障があるかどうかということを記載しなければなりませんが、カルテにそのような情報が載っていない場合には診断書を作成することができません。

仮に診断書を書いてもらったとしても、肝心な部分が抜けていて、障害の状態を判断できない診断書となってしまうのです。

だからこそ、障害年金は1日でも早く請求準備をすることが大切なのです。

現在(請求日)も障害の状態であること

障害認定日頃はひどいうつ病で、仕事にも行けず、日常生活もきちんと送れていなかったので障害年金の等級に該当していた方が、治療を続けた結果現在はうつ病の状態もすっかり良くなり、通院もしていないというケースです。

この場合には、遡及請求は現実的ではありません。

法律上は、障害認定日に障害の状態に該当していれば障害年金の請求をすることはできますが、実務においては上記のケースでは認定されたのを見たことがありません。

遡及請求判定フローチャート

下の図は遡及請求ができるかどうかを判定するためのフローチャートになります。
簡易的ではありますが、おおよその目安になりますのでご参考になさってください。

遡及請求のフローチャート

遡及請求に関するよくある誤解について

インターネット上では、「障害年金は遡及請求すると数百万円がもらえる」とか「遡及請求すると5年分の年金がもらえる」という内容ばかりが独り歩きしているせいか、障害年金の遡及請求については大きな誤解をされている方がたまにいらっしゃいます。

遡れるのは、あくまでも障害認定日です

【例】

STEP.1
初診日
うつ病の不安症状や抑うつ状態で初めて病院に行ったのが10年前(=初診日)
STEP.2
障害認定日
障害認定日には、服薬して治療を受けながらもなんとか仕事ができていて、症状はあまり重くなかった(=障害の状態ではなかった)
STEP.3
2年後
この頃から症状が悪化し、仕事も全くできなくなった
STEP.4
現在
症状は変わらず、障害年金の請求を考えている

上記の場合、遡及請求はできるでしょうか?
答えは、NOです。

STEP3の症状が悪化して仕事ができなくなった時に遡って5年分の一時金を受け取ることができると誤解されることがありますが、STEP2の障害認定日に障害の状態でない限りは遡及請求することはできないのです。

障害年金で重要なこと
請求できるポイントは、「障害認定日」か「今」かの二択です。

既に障害年金を受給中でも、遡及請求したら5年分の一時金がもらえる?

これは当事務所でもたまにいただくご質問です。
「障害認定日で遡及請求ができることを知らなかった」とか、「自分では遡及請求をするのが難しいので諦めた」という理由で事後重症請求をし、既に障害年金を受給している方が、やはり障害認定日から遡及請求をしたいと言われることがあります。

その場合、仮に遡及請求が認められたとしても、まるまるそっくり5年分の一時金が支給されるわけではありません。

あくまでも遡ることができるのが5年間ですので、事後重症請求をして障害年金をもらい始めて3年経っているような場合には遡れるのは約2年分程度です。
障害年金をもらい始めて5年以上経っている場合には、遡及請求の意味はありません。

遡及請求で準備するものや気を付けること

では、障害年金の遡及請求を実際にするには何をしたら良いのか、その他気を付けるポイントを見ていきましょう。

診断書は2枚必要です

障害認定日での遡及請求の場合には、「障害認定日から3か月以内の日付の診断書」と「現在(請求日)の診断書」の計2枚を提出します。

障害認定日に通院していた病院と現在通院している病院とが同じであれば、2枚を同時に主治医に依頼するのがよいでしょう。

病院が異なる場合には、まずは障害認定日に通院していた病院で診断書の作成を依頼し、その後に現在通院している病院で作成依頼をすることをおすすめします。

理由としては、障害認定日の診断書には有効期限がありませんが、現在(請求日)の診断書は作成日から3か月以内に提出をしなければならない有効期限があるためです。

病歴・就労状況等申立書の内容に気を付けましょう

障害年金が受給できるかどうかは、診断書の現症日のみの障害の程度だけで判断されるのではなく、病気の発症から現在まで、障害の程度や治療内容の変化、仕事ができていた時期があるかどうか等の大きな流れも見られています。

特に遡及請求する場合には、障害認定日から現在までの障害状態や日常生活、就労状況については断片的に書くのではなく、ある程度の流れがわかるように書いていくことをおすすめします。

例えばてんかんで障害年金の遡及請求をする場合は、障害認定日頃と現在のてんかん発作の種類や回数を記載するのではなく、障害認定日から現在までできる限り、わかる範囲でてんかん発作の種類・回数・状況を書いていくと効果的です。

遡及請求にこだわり過ぎず、割り切ることも大切です

長い間、病気やケガで障害を抱えてきた方にとっては、経済的な負担も大きかったと思いますし、できる限り遡及請求をしたいと思うのは当然の気持ちだと思います。
障害認定日まで遡って遡及請求が認められれば、数百万円から1千万円以上もの一時金が支給されますし、経済的な安心感は計り知れません。

当事務所で依頼を受ける場合にも、まずは遡及請求ができるかどうかを検討し、1%でも可能性があるのであれば諦めずに遡及請求に挑みます

ただ、カルテが残っていない、カルテはあるけれども内容が不十分だというような場合、どう頑張っても遡及請求は無理ということはあります。
人によっては、何年も何年も遡及請求にこだわり続け、障害年金の受給ができていない方もいらっしゃいます。

上記の「遡及請求判定フローチャート」を使い遡及請求ができそうかどうか判断し、努力ではどうにもならないと見極めた場合には、頭を切り替えて潔く事後重症請求を進めていくことが最善だと思います。

ご自分ではこの見極めができない場合には、遡及請求できる可能性があるかどうかの判断は社労士ができますので、無料相談などで判断を仰ぐことをおすすめします。

障害認定日の障害状態と現在の障害状態に差がある場合

障害認定日の遡及請求をする場合、審査の流れとしては、障害認定日に障害年金の等級に該当するかどうかで判断し、該当する場合には障害認定日の等級が決定され、受給権が発生します。

障害認定日には障害の等級に該当しないけれども、現在(請求日)には障害の等級に該当すると判断された場合には、現在(請求日)の等級が決定され、事後重症での受給権が発生します。

わかりにくいと思いますので、具体的に例をあげてみます。

  1. 障害認定日も現在(請求日)も2級程度の診断書を提出した場合
    → 障害認定日に遡って2級に認定(当然に現在も2級
  2. 障害認定日は3級程度で、現在(請求日)は2級程度の診断書を提出した場合
    → 障害認定日に遡って3級に認定され、現在も3級に認定

ここで、「あれ?」と疑問を持つ方はいらっしゃいませんか?

①のケースも②のケースも、遡及請求が無事に認定されたことには変わりありません。
しかし、②のケースでは現在は2級に認定されるのがベストですが、3級で認定されているとちょっともったいないと感じます。

②の場合には、「現在のところからは2級にしてほしい」と不服申立てをしようにも認められないことがほとんどです。

理由は、障害認定日時点で決定(=処分といいます)を出しているので、そもそも現在時点では何の処分もされていないからです。
(実際には不服申立てが認められた裁決例はありますが、限りなく少ないです。)

そこで、②のように障害認定日よりも現在のほうが診断書で見ると明らかに障害の状態が重い場合には、「障害給付額改定請求書」を一緒に提出します。

診断書

②のケースだと、障害給付額改定請求書を提出することによって、障害認定日に遡って3級に認定され、現在は2級に認定という決定をしてもらいやすくなります。

仮に現在が3級に認定された場合には、それに対して正々堂々と不服申立てをすることができるようになります。

遡及請求が簡単にできるケースとは

障害年金での遡及請求は、イメージから「難しい」「なかなか認められない」と思われがちですが、条件さえ整えば比較的簡単に請求することができます

自分で障害年金の遡及請求をするか、社労士に代行を依頼するかを検討する目安になるかもしれません。

障害認定日頃から現在まで、同じ病院かつ同じ主治医である

障害の種類によって一概にはいえませんが、障害認定日頃も現在も同じ主治医に診察してもらっている場合には、治療期間も長く、症状や障害状態について深く主治医が理解してくださっている場合が多いです。
また、主治医との信頼関係があることは診断書の作成に大いに影響が出てきます。

何よりも、現在の診断書作成を依頼する際に、同時に障害認定日頃の診断書も依頼できますのでスムーズです。
仮にカルテに障害認定日から3か月以内の障害状態が詳細に記録されていなかったとしても、主治医の記憶を頼りにできる限り充実した診断書を作成してもらえることも多いです。

障害認定日頃に通院していた病院の主治医が、障害年金に協力的である

遡及請求する場合の診断書は、既に何年も前の障害状態を書いていただくことになりますので、ただでさえ障害年金に非協力的な医師であれば、より一層協力してもらえないことになります。
その点、もともと障害年金の制度に理解を示してくださり、障害年金を受給するために協力的な主治医であれば、診断書作成を依頼する際にも真摯な対応をしてくださいます。

それだけ、遡及請求には医師の理解と協力が不可欠なのです。

障害状態に変化がなく、検査数値や見た目で障害状態が明らかな場合

うつ病や内部疾患のような症状に波がある障害ではなく、手足の切断や視野の障害のように状態がほぼ変わらない、もしくは悪化することはあっても良くなることは通常あり得ない障害については遡及請求がしやすいです。

このような障害に限っては、障害認定日から3か月以内の診断書が取得できなくても遡及請求が認められたという非常にレアケースを、当事務所でも何件か扱った実績があります。

遡及請求が認められた困難事例について

障害認定日での遡及請求は無理なのではないかと当事務所に相談をいただき、無事に遡及請求が認められたとても難しい事例をご紹介します。
少しの可能性でも諦めないという一心で勝ち取った遡及です。

障害認定日は不安神経症、現在(請求日)は診断名がないという事例
30代男性  初診日:厚生年金  遡及できた金額:約750万円

初診日は請求日から約7年前で、転勤が多かったため短期間で何度も病院を転院していました。
その都度病名は変わり、その病名は全てが神経症でした。
ちなみに、神経症は障害年金の認定対象外の病名です。

障害認定日から3か月以内に通院していた病院で診断書作成を依頼したところ、「不安神経症は障害年金がもらえない病気なので、診断書を書いても無駄になるので書きません」と断られました。
しかし、ダメ元でなんとか診断書を作成していただけるようにお願いし、「不安神経症」の病名で書いていただきました。
その診断書を見る限り、到底障害年金が受給できるような内容ではありませんでした。

請求日に通院していた病院では、本人が主治医に自分の病名を何度聞いても「わからない」と言われていました。
そこで社労士が主治医に会い、病名を聞いたところ、「単純型統合失調症」と診断されました。
主治医に、「不安神経症」と「単純型統合失調症」との関連性を意見書としてまとめていただき、無事に遡及請求が認められました。

注意

病院で「あなたは障害年金がもらえません」と言われても、信じる必要はありません。

網膜色素変性症で障害認定日の診断書が提出できなかった事例
30代男性  初診日:厚生年金  遡及できた金額:約800万円

暗いところで物を見ることができないことに気付き、病院に行ったところ網膜色素変性症と診断されました。
初診日から数か月は良くなる見込みを期待して、きちんと定期的に通院をしていましたが、病気の特性を知るにつれて絶望的な気持ちになり、ある時からぱったりと病院に行かなくなってしまいました。
それがちょうど障害認定日頃のことです。
その後しばらくして気持ちを立て直し、通院を再開しましたが、障害認定日を挟んで10か月程度は一切どこの病院も受診していませんでした。

初診日から8年程経って障害年金のことを知り、自分で障害年金の請求をして、万が一遡及請求が認められなかった場合には当事務所で不服申立てをお願いしたいという内容のご相談をいただきました。

しかし、私は「最初の障害年金請求でできる限りの努力をしたいので、最初の障害年金請求であれば依頼を受けますが、不服申立てからであれば依頼は受けません」とお伝えしました。
それは、直観ではありましたが、この案件に関しては1%も遡及請求の見込みはないけれど、認められる気がしたからです。

障害認定日から約8か月前の診断書を取得し、同時に主治医から症状の変化について意見書を書いていただきました。
年金事務所でも、障害認定日から3か月以内ではない日付の診断書は受け付けてもらえませんでしたが、なんとか審査に回してもらい、無事に遡及が認められました。

注意

直観を信じる。遡及請求は「チャレンジ精神」「ポジティブ精神」が受給の秘訣。

まとめ

障害年金の遡及請求は、「なんだか難しそう」と思われがちですが、遡及請求ができる条件に当てはまっていれば、決して難しいものではありません。

まずは、条件を満たしているかどうかを順序立てて判断し、どうしても条件を満たせない場合には頭を切り替えて、事後重症請求をしようと割り切ることが大切だと思います。
そして事後重症請求の場合には、請求が1ヶ月遅れればその分もらうべき年金をもらい損ねてしまいますので、スピーディーかつ手堅く準備をしてください。

そして、障害認定日での遡及請求は原則として1回のみですから、後悔のないようしっかりと準備していきましょう。

障害年金の遡及請求ができるかどうかの相談も無料で受け付けております。