障害年金とがん|がんでも障害年金は受給できる?認定基準・初診日・抗がん剤治療中の申請ポイントを社労士が解説

「がんになったら障害年金を受給できますか?」
「抗がん剤治療を続けながら仕事を休んでいますが、障害年金の対象になりますか?」
「ステージ4で転移もあります。障害年金を申請したほうがよいでしょうか?」

がんの治療を受けている方からは、このようなご相談が少なくありません。

障害年金という名称から、手足の障害や精神疾患など、いわゆる「障害」が残った場合だけが対象になる制度だと思われがちです。しかし、がん(悪性新生物)も障害年金の対象となる傷病です。

ただし、「がんと診断された」「ステージが進んでいる」「抗がん剤を受けている」という事実だけで、障害年金の受給が決まるわけではありません。

がんによる障害年金では、がんそのものによる局所の障害、全身の衰弱や機能障害、手術・抗がん剤・放射線治療などの治療によって生じた障害を含め、検査結果、転移の有無、治療経過、治療効果、そして実際の日常生活や仕事への支障を総合的にみて判断されます。

そのため、同じ病名、同じステージであっても、受給できる方と受給できない方がいます。

また、がんでは「いつが初診日になるのか」「障害認定日はいつか」「働いていたら受給できないのか」「抗がん剤の副作用をどこまで評価してもらえるのか」といった、がん特有の難しさもあります。

当事務所のホームページでは、障害年金の基本的な受給要件、等級、働きながら受給する場合などについて別の記事でも解説しています。本記事ではそれらと内容が重複しすぎないよう、特に「がんで障害年金を請求する場合」に重要になるポイントを中心に、障害年金専門の社会保険労務士が詳しく解説します。

目次

がん(悪性新生物)も障害年金の対象になる

がんは、障害年金の障害認定基準では「悪性新生物による障害」として認定基準が定められています。

肺がん、乳がん、大腸がん、胃がん、食道がん、膵臓がん、肝臓がん、胆道がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなど、発生した臓器によって病名は異なりますが、「この種類のがんなら対象、この種類なら対象外」という仕組みではありません。

障害年金で重要なのは病名そのものではなく、その病気や治療によって、どの程度の障害が生じているかという点です。

がんと診断されたことだけでは障害年金は決まらない

障害年金は、病気にかかったことに対して支給される給付ではありません。

がんと診断されても、手術によって病変を切除し、その後の生活や仕事にほとんど支障がない方もいます。一方で、原発巣がそれほど大きくなくても、手術によって臓器の機能を失ったり、抗がん剤の副作用が強く日常生活が著しく制限されたりする方もいます。

このため、障害年金の審査では「がんであるか」だけではなく、がんによって生じている具体的な障害状態を確認します。

がんになったから自動的に障害年金が受給できるわけではありませんが、「がんなので障害年金は無理」と最初から諦める必要もありません。

ステージだけで障害年金の等級は決まらない

がんについて調べるとき、多くの方が最初に気にするのが「ステージ」です。

もちろん、ステージ、転移の有無、病状の進行などは重要な医学的情報です。しかし、障害年金には「ステージ4なら2級」「ステージ3なら3級」といった基準はありません。

例えば、進行がんであっても治療がよく効き、日常生活や就労への制限が比較的少ない場合があります。反対に、ステージだけを見ると比較的早期でも、治療の結果として大きな機能障害が残る場合があります。

したがって、「ステージが低いから申請できない」「ステージ4だから必ず受給できる」と考えるのはいずれも適切ではありません。

余命宣告の有無も受給要件ではない

「余命宣告を受けていないと障害年金は受給できないのでしょうか」という質問もあります。

余命宣告は障害年金の受給要件ではありません。

障害年金では、将来どのくらい生きられるかという一点で判断するのではなく、認定時点での障害状態や日常生活状況、治療経過などを総合的に判断します。

末期がんや緩和ケアに移行した方が障害年金の対象となることはありますが、それは「余命宣告を受けたから」ではなく、がんによる衰弱や機能障害によって、障害年金の等級に相当する状態になっているためです。

がんによる障害は3つの側面から考える

がんの障害年金を考えるときには、「がんそのもの」だけを見るのでは不十分です。

障害認定基準では、悪性新生物による障害を大きく3つの側面に分けて考えています。

がんそのものによって生じる局所の障害

1つ目は、原発巣や転移巣によって生じる局所の障害です。

例えば、肺がんによって呼吸機能が著しく低下している場合、骨転移によって歩行が困難になっている場合、脳転移によって神経症状が生じている場合などです。

また、がんの部位や治療内容によっては、そしゃく・嚥下、音声、肢体、呼吸器など、別の障害認定基準に沿って評価されることもあります。

つまり「がん」という一つの枠だけで審査されるのではなく、実際に生じている機能障害の内容が重要になります。

がんによる全身の衰弱・機能障害

2つ目は、がんそのものによる全身衰弱や機能障害です。

進行がんでは、強い倦怠感、食欲低下、体重減少、貧血、息切れ、疼痛などによって、日常生活そのものが難しくなることがあります。

「身の回りのことは何とかできるが、日中の多くを横になって過ごしている」
「一人で外出することが難しい」
「家事を続けて行うことができない」
「短時間起きているだけでも疲れてしまう」
「入浴や着替えにも休憩や援助が必要になった」

このような状態は、がんの障害年金では非常に重要な情報です。

治療によって生じる全身衰弱・機能障害

3つ目は、がんに対する治療によって生じた障害です。

がんの障害年金では、手術後の障害だけでなく、抗がん剤、放射線治療、その他の治療によって生じた全身衰弱や機能障害も認定の対象となります。

これは、がんそのものの大きさや転移だけを見て「まだ重くない」と判断できない理由の一つです。

治療が継続している方では、治療を受けるために頻繁な通院や入院が必要となるだけでなく、治療後の数日間ほとんど動けない、副作用が次の治療まで続く、治療を繰り返すごとに体力が低下している、といったこともあります。

こうした実際の生活状況を、診断書や病歴・就労状況等申立書の中で適切に伝えることが重要です。

がんの障害年金における1級・2級・3級の考え方

悪性新生物による障害については、日本年金機構の障害認定基準に1級・2級・3級の考え方が示されています。

ただし、障害基礎年金には1級と2級しかなく、3級は障害厚生年金にのみ設けられています。そのため、初診日に加入していた年金制度によって、同程度の障害状態でも受給できるかどうかが異なる場合があります。

障害年金1級

1級は、著しい衰弱や障害によって、日常生活を自力で行うことが極めて困難な状態が基本となります。

悪性新生物の一般状態区分表では、身の回りのこともできず常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動範囲がおおむねベッド周辺に限られる状態が一つの目安として示されています。

がんで1級に該当するケースは、病状がかなり重く、食事、排泄、着替えなど日常生活の多くで援助が必要になっていることが少なくありません。

障害年金2級

2級は、日常生活が著しい制限を受けている状態です。

一般状態区分表では、歩行や身の回りのことはできるものの軽労働はできず、日中の50%以上は起居している状態や、身の回りのある程度のことはできても、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床し、自力での屋外への外出がほぼ不可能となった状態などが目安として示されています。

ここで注意したいのは、「寝たきりでなければ2級にならない」という意味ではないことです。

自分で食事やトイレに行くことができても、1日の大半を休んで過ごし、外出や家事が大きく制限され、継続的な仕事ができないような状態であれば、2級に該当する可能性があります。

障害厚生年金3級

3級は、労働が制限を受ける、または労働に制限を加えることが必要な程度の障害です。

悪性新生物では、著しい全身倦怠などにより、軽度の症状はあって歩行や軽作業・座業はできるものの肉体労働が制限される状態や、軽労働ができない程度の状態が一つの目安になります。

3級は障害厚生年金にのみ存在します。そのため、会社員など厚生年金加入中に初診日がある方では、2級ほど日常生活が制限されていなくても、仕事への制限が大きければ3級が認められる可能性があります。

一方、初診日が国民年金加入中で障害基礎年金を請求する場合には、3級という制度がありません。障害状態が2級以上に該当しなければ障害基礎年金は支給されません。

一般状態区分表は、がんの障害年金で重要なポイント

がんの障害年金では「一般状態区分表」が重要な判断材料となります。

これは、日常生活の活動性を「ア」から「オ」までの5段階で示したものです。

「ア」から「オ」までの意味

「ア」は、無症状で社会活動ができ、発病前と同じ程度に生活できる状態です。

「イ」は、軽度の症状があり肉体労働は制限されるものの、歩行、軽労働、座業などができる状態です。

「ウ」は、歩行や身の回りのことはできるものの、時に少し介助が必要となることがあり、軽労働はできず、日中の50%以上は起きて生活している状態です。

「エ」は、身の回りのことはある程度できても、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は横になっており、自力で屋外へ出ることがほぼできない状態です。

「オ」は、身の回りのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床し、活動範囲がおおむねベッド周辺に限られている状態です。

悪性新生物の認定例では、1級は「オ」、2級は「エ」または「ウ」、3級は「ウ」または「イ」が一つの目安として示されています。

ただし、この区分だけで機械的に等級が決まるわけではありません。検査所見、転移、治療経過、治療効果、具体的な生活状況などを含めた総合判断です。

「家の中では動ける」だけで軽いとは限らない

がんで療養している方の中には、「トイレには自分で行けるから障害年金は無理だと思う」「入院していないので対象外だと思う」と考える方がいます。

しかし、障害年金では、単に一つの動作ができるかどうかだけを見るわけではありません。

例えば、食事は自分で取れても調理はできない、入浴できても入浴後は長時間横になる必要がある、近所の病院へは家族の送迎が必要、買い物には一人で行けないという場合があります。

「何とかできている」ことと、「健康な人と同じように継続してできる」ことは同じではありません。

がんの障害年金では、こうした実際の生活上の制限を丁寧に確認することが大切です。

抗がん剤治療中でも障害年金を受給できる可能性がある

抗がん剤治療中の方から、「治療中だからまだ障害が固定しておらず、障害年金は申請できないのでは」と質問されることがあります。

しかし、がんでは治療中であっても、一定の要件を満たせば障害年金を請求できる可能性があります。

抗がん剤の副作用も審査の対象となる

抗がん剤治療では、倦怠感、吐き気、食欲不振、貧血、末梢神経障害、手足のしびれ、感染症への抵抗力低下、下痢、味覚障害など、さまざまな副作用が生じることがあります。

副作用の種類や程度には個人差があります。

大切なのは「抗がん剤を使用している」という治療名だけではなく、その治療によって日常生活や仕事がどれほど制限されているかです。

例えば、3週間に1回の抗がん剤治療を受けているとしても、治療翌日だけ少し休めば通常生活に戻れる方と、治療後1週間以上ほぼ寝込んでしまい、回復した頃に次の治療が来る方では、生活への影響は大きく異なります。

副作用は診察室だけでは伝わりにくいことがある

がんの診療では、医師は腫瘍の大きさ、画像所見、腫瘍マーカー、血液検査、治療効果など多くの医学情報を確認します。

一方で、患者さんが自宅で何時間横になっているか、家事がどこまでできないか、仕事から帰った後に何もできない状態なのかといった生活状況は、診察時間の中では十分に共有されていないことがあります。

障害年金を請求するときには、主治医が把握している医学的所見と、実際の日常生活状況が大きく食い違わないようにすることが重要です。

抗がん剤を使っているだけで受給できるわけではない

反対に、「抗がん剤を使っている=障害年金」というわけでもありません。

治療を受けながらフルタイムで通常どおり働き、日常生活にも大きな制限がない場合には、がんの障害年金としては等級に該当しないことがあります。

障害年金は治療費を補助する制度ではなく、病気や治療によって生じている障害状態を補償する制度だからです。

手術後の後遺症で障害年金の対象になることもある

がんでは、腫瘍を取り除くための手術によって、新たな機能障害が生じることがあります。

この場合、がんそのものの活動性が低くなっていても、手術後の障害によって障害年金に該当する可能性があります。

人工肛門(ストーマ)を造設した場合

大腸がんや直腸がんなどで人工肛門を造設することがあります。

人工肛門については、障害認定日にも特例があります。初診日から1年6か月以内に人工肛門を造設した場合、原則として造設日から6か月を経過した日が障害認定日となります。

また、障害厚生年金では、人工肛門の状態が3級に該当する場合があります。人工膀胱や尿路変更、排尿機能障害などを併せ持つ場合には、状態によってさらに上位等級が検討されることもあります。

ただし、初診日が国民年金加入中の場合は障害基礎年金となり、3級はありません。そのため「人工肛門だから必ず障害年金がもらえる」と一律に考えることはできません。

尿路変更術・新膀胱造設を受けた場合

膀胱がんなどでは、尿路変更術や新膀胱造設が行われることがあります。

尿路変更術を行った場合には、初診日から1年6か月以内であれば、手術日から6か月を経過した日が障害認定日となります。新膀胱を造設した場合は、造設日が障害認定日となる取扱いがあります。

このようなケースは通常の「初診日から1年6か月」という原則と異なるため、請求時期を誤らないことが大切です。

喉頭全摘出をした場合

喉頭がんなどで喉頭を全摘出し、音声機能を失った場合にも障害年金の対象となります。

喉頭全摘出については、全摘出した日が障害認定日となります。

この場合も、単に「がんによる全身状態」だけで考えるのではなく、音声・言語機能の障害として認定基準を確認する必要があります。

がんの障害年金では、このように原疾患の悪性新生物の基準だけでなく、手術によって生じた具体的な機能障害の基準まで確認することが重要です。

転移・再発したがんと障害年金

一度治療が終わった後に、数年経ってから再発や転移が見つかることがあります。

再発・転移のケースでは、初診日の考え方を誤ると、加入していた年金制度や保険料納付要件まで変わってしまう可能性があるため注意が必要です。

転移が見つかった日が新しい初診日になるとは限らない

障害認定基準では、転移性悪性新生物について、原発とされるがんと組織上一致するなど転移であることが確認できたものは、相当因果関係があるものと認められます。

したがって、例えば過去の乳がんが骨や肺へ転移した場合、原則として「骨転移を初めて診てもらった日」「肺転移を初めて診てもらった日」を新たな初診日として考えるのではなく、元の乳がんとの関係を確認していくことになります。

初診日は障害年金の種類や納付要件を左右する非常に重要な日です。

再発・転移まで長い期間が空いている場合でも、自己判断で新しい病気として扱わず、原発がんとの医学的な関係を確認する必要があります。

再発時に症状が急激に重くなることもある

初回治療後は通常生活に戻れていても、再発や遠隔転移によって短期間に状態が悪化することがあります。

骨転移による強い痛み、肺転移による呼吸苦、肝転移による全身倦怠や食欲低下、脳転移による神経症状など、転移部位によって現れる症状はさまざまです。

このような場合には、現在の症状だけでなく、いつ再発し、どのように治療が変わり、生活能力や仕事がどの時点から低下していったのかを時系列で整理することが重要です。

がんの障害年金で「初診日」はどこになる?

障害年金では初診日が非常に重要です。

初診日とは、障害の原因となった病気やけがについて初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。同じ病気で転院を繰り返していても、原則として一番最初に診療を受けた日が初診日になります。

がんと確定診断された日とは限らない

がんでは、最初の受診日にがんと診断されるとは限りません。

例えば、「咳が長く続く」「血便が出た」「しこりを感じた」「腹痛が続く」などの症状で医療機関を受診し、検査を重ねた後にがんと確定診断されることがあります。

このような場合、初診日はがんの告知を受けた日ではなく、そのがんにつながる症状で最初に医療機関を受診した日となる可能性があります。

「がんと診断された病院だけ」を見て初診日を判断すると、誤ることがあります。

健康診断で異常を指摘された場合

健康診断や人間ドックで異常を指摘され、その後の精密検査でがんが判明するケースもあります。

健康診断を受けた日は原則として障害年金上の初診日にはなりませんが、一定の条件を満たす場合に健康診断日が初診日として認められることがあります。

この点は個別事情によって判断が必要です。

健康診断後に受診した医療機関が閉院している、カルテが破棄されているなど初診日の証明が難しい場合には、早い段階で資料を整理したほうがよいでしょう。

初診日の証明が難しい場合もある

がんは、最初の治療から再発・転移まで長期間が空くことがあります。

そのため、障害年金を考え始めた頃には、初診の医療機関にカルテが残っていないこともあります。

初診時の医療機関と現在の医療機関が異なる場合、通常は受診状況等証明書によって初診日を確認します。しかし、それが取得できない場合でも、直ちに請求できないと決まるわけではありません。

紹介状、診療情報提供書、健康診断結果、お薬手帳、診察券、医療機関の領収書、生命保険の資料など、初診日を確認できる他の資料がないかを検討します。

初診日の証明は後になればなるほど難しくなることがありますので、がんの治療歴が長い方は特に注意が必要です。

がんの障害認定日は原則として初診日から1年6か月

障害年金には「障害認定日」があります。

原則として、初診日から1年6か月を経過した日が障害認定日です。障害認定日に一定の障害状態に該当していれば、障害認定日による請求を検討できます。

治療中でも1年6か月を迎えれば請求を検討できる

がんでは、1年6か月経過時点でも抗がん剤治療や放射線治療が続いていることがあります。

「治療が終わるまで障害年金を申請できない」と思われることがありますが、必ずしもそうではありません。

障害認定日時点で治療中であっても、その時点の障害状態が認定基準に該当していれば請求を検討できます。

むしろ治療が長期化している方ほど、「治療終了を待つ」のではなく、障害認定日を確認しておくことが大切です。

障害認定日の特例に該当する手術もある

前述したとおり、人工肛門、尿路変更術、新膀胱、喉頭全摘出などには、初診日から1年6か月より前に障害認定日が到来する場合があります。

がん治療では手術内容によってこの特例に該当することがあるため、「がんはすべて1年6か月待たなければならない」と考えないようにしましょう。

障害認定日には軽かったが、その後悪化した場合

がんでは、障害認定日には比較的状態が良かったものの、その後に再発や転移で悪化するケースがあります。

この場合には、「障害認定日に該当しなかったからもう請求できない」と考える必要はありません。

事後重症による請求

障害認定日には障害等級に該当しなかったものの、その後状態が悪化して等級に該当するようになった場合には、事後重症による請求を検討できます。

事後重症による請求では、原則として請求した日の翌月分から障害年金が支給されます。

そのため、すでに日常生活や仕事に大きな支障が生じているのに「もう少し様子を見よう」と何か月も先延ばしすると、その分だけ受給開始が遅れる可能性があります。

がんは病状が短期間に変化することもあるため、請求時期の判断は特に重要です。

過去の障害認定日時点も確認する

現在の状態で事後重症請求を考えている場合でも、過去の障害認定日時点の状態を確認する価値があります。

障害認定日時点ですでに強い副作用があった、長期入院をしていた、仕事を休職していた、日常生活に大きな制限があったという場合には、障害認定日請求ができる可能性があります。

ただし、過去に遡って請求する場合は、当時の診断書を作成できるかどうか、カルテが残っているかどうかなど、現在請求とは異なる問題があります。

がんで働いていても障害年金を受給できる?

「会社に在籍しているから障害年金は無理」「少しでも働いていたら申請できない」と思われている方もいます。

しかし、働いていることだけを理由に、直ちに障害年金の対象外になるわけではありません。

一方で、がんの障害年金では日常生活状況や労働制限も審査されるため、就労状況がまったく関係ないともいえません。

在籍していることと通常勤務できていることは違う

がん治療中でも会社に籍を置いている方は多くいます。

しかし実際には、休職中、長期欠勤中、短時間勤務、在宅勤務、配置転換、業務量の軽減、頻繁な通院のための休暇取得など、さまざまな配慮を受けている場合があります。

障害年金の請求では、「会社員である」という一言で終わらせず、実際にどの程度働けているのかを具体的に確認する必要があります。

無理をして働いている場合もある

経済的な事情から、体調が悪くても仕事を続けざるを得ない方もいます。

出勤していることだけを見ると元気に見えても、帰宅すると横になったまま何もできない、休日は回復のため一日中寝ている、有給休暇を使い切るほど欠勤しているというケースがあります。

このような場合には、就労の事実だけでなく、その勤務を維持するためにどのような犠牲や配慮が必要になっているのかを整理します。

ただし、通常の勤務を安定して継続し、日常生活上も大きな制限がない場合には、認定が難しくなることがあります。

がんの診断書で確認したいポイント

障害年金の審査では診断書が非常に重要です。

がんの場合は、一般的な身体障害のように一つの検査数値だけで等級が決まるわけではないため、診断書に記載される情報の幅が広くなります。

原発巣・転移・再発の状況

原発部位、病理組織、転移の有無、再発の経過などは、病状を判断するための基本情報です。

特に再発・転移がある場合には、どの臓器に転移しているのか、それによってどのような症状や機能障害が生じているのかが重要です。

「転移あり」とだけ記載されていても、その転移が現在の生活にどのような影響を及ぼしているのかまで分からないことがあります。

治療内容と治療効果

手術、抗がん剤、放射線治療、ホルモン療法、免疫療法など、どのような治療を受けてきたのか、現在も治療が継続しているのかを確認します。

また、治療によって腫瘍が縮小しているのか、進行しているのか、効果が乏しく治療変更を繰り返しているのかといった経過も重要です。

治療の名称だけではなく、「治療しているが病状が進んでいる」「一定の効果はあるものの副作用が強い」といった状況まで把握する必要があります。

自覚症状と全身状態

倦怠感、疼痛、息切れ、食欲低下、体重減少、吐き気、しびれなど、実際にどのような症状があるかを確認します。

特にがんでは、画像検査や血液検査だけでは日常生活のつらさを十分に表せないことがあります。

障害年金では認定時点の具体的な日常生活状況も審査対象となるため、自覚症状と生活への影響が適切に反映されていることが大切です。

一般状態区分表

前述した「ア~オ」の一般状態区分表も重要です。

例えば実際には日中の半分以上横になって過ごしているのに、診断書では「軽い家事や事務ができる」程度の区分になっている場合、実態と診断書に大きなずれが生じます。

もちろん、患者側の希望に合わせて区分を書いてもらうものではありません。

大切なのは、医師に普段の生活状況が正しく伝わっていることです。

病歴・就労状況等申立書では何を書くべきか

がんの障害年金では、診断書だけでなく病歴・就労状況等申立書も重要です。

診断書には医学的情報が中心に記載されますが、病歴・就労状況等申立書では、発症から現在までの経過や、生活・仕事の実際を補うことができます。

治療歴を並べるだけにしない

「○年○月に手術」「○年○月から抗がん剤」と治療歴だけを並べても、障害年金で知りたい生活上の支障は十分に伝わりません。

治療によってどう体調が変化したのか、仕事を続けられなくなったのはいつか、家事や外出にどのような支障が出たのかなど、医学的経過と生活上の変化をつなげて記載することが大切です。

一日の過ごし方を具体的にする

「倦怠感が強い」という表現だけでは、人によって受け取り方が異なります。

「午前中に洗濯をすると午後は横になって休む必要がある」
「治療後5日ほどは食事とトイレ以外はほぼ寝ている」
「入浴は毎日できず、体調の良い日に行う」
「一人で買い物へ行くことが難しく家族に頼んでいる」

このように書くことで、症状が実生活にどう影響しているのかが分かりやすくなります。

仕事への影響も具体的にする

仕事をしている方は、勤務時間だけではなく、休職、欠勤、遅刻・早退、業務内容の変更、在宅勤務、周囲からの援助なども整理します。

「働けている」か「働けていない」かの二択ではなく、現在の就労がどのような条件の上で成り立っているのかを伝えることが重要です。

がんの障害年金でよくある誤解

がんについては、障害年金制度への誤解から、本来請求を検討できる方が諦めてしまうことがあります。

「末期がんでなければ受給できない」

末期がんだけが対象ではありません。

手術による機能障害、抗がん剤などの治療による強い副作用、局所症状による障害などでも、認定基準に該当すれば受給できる可能性があります。

「抗がん剤が終わってからでないと申請できない」

治療終了は必須条件ではありません。

障害認定日が到来し、治療中の障害状態が基準に該当していれば、抗がん剤治療中でも請求を検討できます。

「障害者手帳がないと申請できない」

障害者手帳と障害年金は別の制度です。

障害者手帳を持っていなくても障害年金を請求できます。また、手帳の等級と障害年金の等級は連動していません。

「仕事を辞めてからでないと申請できない」

退職も受給要件ではありません。

就労していても、障害状態や就労上の制限によっては受給できる可能性があります。逆に、無職であるというだけで障害年金が認定されるわけでもありません。

「主治医が障害年金は無理と言ったら請求できない」

主治医の意見は重要ですが、障害年金の最終的な認定を行うのは医療機関ではありません。

医師が障害年金制度の細かな認定基準まで把握しているとは限りません。

ただし、障害年金のために事実と異なる診断書を書いてもらうことは当然できません。現在の病状や生活状況を正確に伝え、その内容に基づいて診断書を作成してもらうことが基本です。

がんの障害年金は早めの準備が重要

がんの障害年金では、体調が悪化してから急いで準備を始めるより、請求の可能性がある段階で早めに情報を整理しておくことをおすすめします。

体調が急激に変化することがある

がんは治療経過によって状態が大きく変わることがあります。

数か月前までは仕事をしていた方が、再発や転移によって急激に体力を失うこともあります。

状態が悪化してから初診日の証明や過去の治療歴を調べることは、本人にとって大きな負担です。

本人が動けるうちに必要な情報を確認しておくことには大きな意味があります。

初診から長期間経過している場合は特に注意

がんの再発では、最初の治療から10年以上経過しているケースもあります。

古い医療機関ではカルテがすでに廃棄されている可能性があります。

初診日を証明できないと障害年金の請求そのものが難しくなることがあるため、古い治療歴がある方は、どの医療機関をいつ受診したのかを早めに整理しておきましょう。

本人が手続きを進められなくなる場合もある

障害年金は、年金請求書、診断書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書など複数の書類を準備します。

病状が重い方にとって、医療機関とのやり取りや過去の受診歴の確認、書類作成はかなりの負担になります。

「まだ自分で動けるから大丈夫」と思っていても、治療の変更や病状悪化で手続きが急に難しくなることがあります。

がんで障害年金を請求するときに特に注意したいこと

ここまでの内容を踏まえ、がんの障害年金で特に重要なポイントを整理します。

病名やステージだけで判断しない

障害年金では、がんの種類やステージだけで結論は出ません。

原発巣・転移巣による障害、全身衰弱、治療による障害、日常生活、就労状況などを総合的に確認します。

同じステージ4でも障害状態は人によって全く異なりますし、ステージが低くても手術後に明確な機能障害が残ることがあります。

現在の状態だけでなく初診日まで遡って確認する

現在どれだけ重い状態であっても、障害年金では初診日が確認できなければ手続きを進めにくくなります。

特に再発・転移の方では、現在の病院だけでなく、最初のがん治療まで遡って確認する必要があります。

初診日当時に加入していた年金制度によって、障害基礎年金か障害厚生年金かが決まり、受けられる等級の範囲も変わります。

診断書と実際の生活状況のずれをなくす

がんの診断書では、医学的な治療状況が詳しく書かれていても、生活上の支障が十分に反映されていないことがあります。

障害年金は「病気の重さ」だけでなく「障害の程度」を審査する制度です。

日常生活の実態が医師に伝わっていない場合には、診断書の内容と本人の実際の状態が大きくずれることがあります。

病歴・就労状況等申立書で診断書を補う

病歴・就労状況等申立書は、単なる治療歴の一覧ではありません。

診断書に書ききれない生活上の支障や、治療のたびにどのような状態になるのか、仕事をどの程度制限されているのかを伝えるための重要な書類です。

診断書と申立書は別々に考えるのではなく、一つの請求書類として整合性を持たせる必要があります。

がんの障害年金に関するよくある質問

Q.ステージ4なら障害年金2級を受給できますか?

ステージ4という理由だけで2級になるわけではありません。

転移の有無や病状は重要な判断材料ですが、具体的な日常生活状況、全身状態、治療経過などを総合的に審査します。

ステージ4でも日常生活への制限が少なければ2級に該当しない場合があります。一方で、転移による疼痛や強い倦怠感などによって日常生活が著しく制限されていれば、2級以上に該当する可能性があります。

Q.抗がん剤治療中で休職しています。障害年金は申請できますか?

障害認定日が到来しており、障害状態が認定基準に該当する場合には申請を検討できます。

休職している事実だけではなく、なぜ休職が必要なのか、治療の副作用や全身状態によってどの程度生活が制限されているのかを確認します。

Q.がんは治っていると言われましたが、後遺症が残っています。

がんそのものが寛解していても、手術や治療によって機能障害が残っている場合には、その後遺症について障害年金の対象となる可能性があります。

例えば、喉頭全摘出後の音声機能障害など、別の障害認定基準によって評価されるケースもあります。

Q.人工肛門になりました。障害年金は受給できますか?

人工肛門は障害年金の対象となる状態の一つです。

ただし、初診日に加入していた年金制度によって受給できる障害年金が異なります。障害厚生年金には3級がありますが、障害基礎年金には3級がありません。

人工膀胱、尿路変更、排尿機能障害など他の障害がある場合には、状態に応じた認定を検討します。

Q.乳がんが数年後に骨転移しました。初診日は骨転移が見つかった日ですか?

元の乳がんからの転移であることが確認される場合には、原発がんと相当因果関係があるものとして考えるのが基本です。

そのため、骨転移を初めて診断された日を新たな初診日とするのではなく、元の乳がんについて最初に医療機関を受診した日まで遡って確認する必要があります。

Q.働きながら抗がん剤治療をしています。申請しても無理でしょうか?

働いていることだけで対象外にはなりません。

勤務時間、欠勤、休職歴、業務上の配慮、治療後の体調、帰宅後や休日の過ごし方などを含めて判断します。

ただし、通常勤務を問題なく継続でき、日常生活にも大きな支障がない場合には、障害等級に該当しない可能性があります。

Q.障害年金を受給したら、ずっと受給できますか?

障害年金には、一定期間ごとに障害状態を確認する有期認定となるケースがあります。

がんの場合も、治療効果によって状態が改善する可能性があるため、有期認定となることがあります。

更新時には、その時点の病状、治療状況、日常生活状況などによって引き続き等級に該当するかが審査されます。

がんの障害年金を社労士に相談するメリット

がんの障害年金は、単純に「がんの診断書を出せばよい」という手続きではありません。

特に、治療歴が長い方、再発・転移がある方、複数の病院を受診している方、働きながら治療している方では、確認すべき点が多くなります。

どの障害として請求するかを整理できる

がんでは、悪性新生物そのものの認定基準だけでなく、手術や転移によって生じた機能障害が別の認定基準に該当することがあります。

人工肛門、音声機能障害、呼吸機能障害、肢体の障害など、どの認定基準を確認すべきかによって請求の組み立て方も変わります。

初診日・障害認定日を正確に整理できる

再発や転移がある方では、現在の病院を初診だと思っていたものの、実際には何年も前の原発がんの受診日まで遡る必要があることがあります。

また、人工肛門や喉頭全摘出など障害認定日の特例が関係する場合もあります。

初診日と障害認定日は、障害年金請求の土台となる重要な部分です。

生活状況を障害年金の審査に沿って整理できる

ご本人にとっては「当たり前」になっている生活上の制限でも、障害年金の審査では重要な情報になることがあります。

長く療養していると、「一日中横になるのが普通」「家族に買い物をしてもらうのが普通」となり、自分では支障として認識しにくくなることがあります。

障害年金の認定基準に沿って一つずつ確認することで、現在の障害状態をより正確に整理できます。

体調が悪い中での書類作成の負担を減らせる

がん治療中の方にとって、障害年金の複雑な手続きは大きな負担です。

体調が安定しない中で、過去の病院へ連絡し、年金記録を確認し、診断書を依頼し、申立書を作成することは簡単ではありません。

社労士に依頼する一番大きな意味は、単に書類を書くことではなく、必要な確認事項を整理し、本人ができるだけ治療や生活に集中できるように手続きを進めることにあります。

がんで障害年金を考えている方へ

がんの障害年金は、「がんだから受給できる」「このステージだから何級」と単純に判断できるものではありません。

一方で、がんそのものによる症状だけでなく、転移、全身衰弱、抗がん剤などの治療による副作用、手術によって生じた機能障害まで認定の対象となり得ます。

そのため、ご本人が「これは治療の副作用だから障害とは違う」「まだ自分で歩けるから障害年金は無理」と思っていても、実際には請求を検討できることがあります。

反対に、病名やステージだけを見て「必ず受給できる」と考えることもできません。

障害年金では、現在の生活を具体的に見ていくことが何より重要です。

朝起きてから夜寝るまで、どのくらいの時間起きていられるのか。食事、入浴、買い物、通院は一人でできるのか。抗がん剤後は何日くらい横になっているのか。仕事をしているなら、どのような配慮を受けているのか。

こうした一つ一つの事実が、障害状態を判断する材料になります。

さいごに

がんは、診断を受けたその日から、治療、仕事、生活、家族、将来のことまで、多くのことを同時に考えなければならない病気です。

その中で障害年金のことまで調べ、複雑な制度を理解して手続きを進めることは、決して簡単なことではありません。

しかし、障害年金は、病気によって生活や仕事が制限されている現役世代の方も利用できる公的年金制度です。がんも、その対象となる病気の一つです。

「がんだから対象になる」のでも、「がんだから対象にならない」のでもありません。

原発巣や転移による症状、全身の衰弱、手術後の機能障害、抗がん剤などの治療による副作用、日常生活の制限、仕事への影響を総合的に確認したうえで判断する必要があります。

特に、再発や転移がある方、抗がん剤治療を長く続けている方、人工肛門・尿路変更・喉頭全摘出などの手術を受けた方、体調悪化によって休職や退職を余儀なくされた方は、一度障害年金の対象になる可能性を確認してみることをおすすめします。

また、がんでは病状が変化しやすく、体調が悪化してからでは初診日の確認や書類収集そのものが負担になることがあります。

「障害年金を申請するかまだ決めていない」という段階でも、初診日や障害認定日だけは早めに確認しておくと安心です。

障害年金は、一人ひとりの病状や治療歴、生活状況によって請求方法が異なります。

ご自身のケースが障害年金の対象になるのか、どの時点で請求を検討すべきなのか分からない場合には、障害年金を専門とする社会保険労務士にご相談ください。