トゥレット症候群で障害年金はもらえる?チック・汚言による生活の困難と請求のポイント

「突然声が出てしまい、電車に乗るのも怖い」「自分の意思とは関係なく体が動き、仕事を続けることが難しい」。トゥレット症候群のある方の中には、症状そのものに加えて、周囲に理解してもらえないつらさを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

外見からは体調の悪さが伝わりにくく、短い会話なら普段どおりにできることもあるため、「少し我慢すれば働けるのでは」と思われてしまうかもしれません。しかし、ご本人にとっては、買い物や通院、食事など、ごく身近な行動にも大きな負担が伴う場合があります。

トゥレット症候群による障害についても、障害年金を検討できる場合があります。ただし、病名がついたことや、チック・汚言があることだけで受給が決まる制度ではありません。初診日や保険料の要件に加え、どのような症状によって生活や仕事が制限され、どのような援助を必要としているのかを確認する必要があります。

この記事では、トゥレット症候群の症状と誤解されやすい点を整理したうえで、障害年金の受給を考えるときに押さえておきたい事項を解説します。「自分の困りごとは年金の相談をしてよいほどなのだろうか」と迷っている方にも、現在の状況を整理する手がかりにしていただければと思います。

目次

トゥレット症候群とは?意思に反して動きや声が出てしまう病気

運動チックと音声チックが続くことが特徴

トゥレット症候群は、チックと呼ばれる動きや発声を主な特徴とする神経発達症です。トゥレット症、トゥレット障害と表記されることもあります。チックには、体の動きとして現れる「運動チック」と、声や音として現れる「音声チック」があり、ご本人がそうしようと望んでいないのに繰り返してしまいます。

診断には、運動チックと音声チックの経過、症状が続いている期間、発症した年齢などが関係します。診断基準による表現の違いはありますが、小児期から始まり、両方のチックが1年以上にわたってみられる病態として説明されています。両方の症状がいつも同時に出ているとは限らず、時期によって目立つ症状が変わることもあります。

一時的なまばたきや咳払いがあれば、すべてトゥレット症候群というわけではありません。他の病気や薬の影響などとの区別も含め、診断は医師が行います。インターネットの症状一覧に当てはまるかどうかだけで、ご自身やご家族の病名を決めないことが大切です。

親の育て方や本人の心がけが原因ではありません

チックは、しつけが足りないことや、ご本人の気持ちが弱いことによって生じるものではありません。「人の前では静かにしなさい」「その動きをやめなさい」と繰り返し注意されても、それだけで症状をなくせるわけではなく、かえって人前に出る負担が増してしまうことも考えられます。

症状には増えたり減ったりする特徴があり、緊張や疲労などの影響を受ける場合もあります。そのため、ある場面で症状が少なかったことを理由に、別の場面のつらさまで否定することはできません。ご家族や勤務先の方にも、意図的な言動とは異なるという理解があることが、生活を支えるうえで重要になります。

大人になっても症状と向き合う方がいます

子どものころに症状が始まり、成長とともに軽くなる方がいる一方で、成人後も生活への支障が続く方がいます。「大人になれば治るはず」と言われてきたために、今も症状があることを相談しにくく感じる方もいらっしゃるかもしれません。

障害年金で確認するのは、将来こうなるはずだという期待ではなく、評価の対象となる時点の障害状態と、それまでの治療・生活の経過です。幼少期からの病歴が長い場合にも、昔の印象と現在の困難を分けて整理することが、請求の準備につながります。

参考:国立精神・神経医療研究センター「発達障害(神経発達症)」

参考:日本トゥレット協会「トゥレット症とは」

まばたきだけではないチックの症状――暮らしの中で何が起きる?

首を振る、体を動かす――運動チックによる負担

運動チックには、まばたき、顔をしかめる、首を振る、肩をすくめるなどの動きがあります。さらに、複数の動きが組み合わさったり、体をねじったり、自分の体をたたいたりするなど、複雑な症状が現れる場合もあります。動きの種類や強さは人によって異なります。

障害年金の相談では、症状の名前に加えて、その結果どのような支障があるのかを確認します。たとえば、首の動きのために文字を読み続けられない、手の動きで食器を安全に持てない、作業を何度も中断しなければならないといった事情です。これらは説明のための例であり、該当する症状が1つあれば認定されるという意味ではありません。

痛みやけがを伴う場合には、いつ、どのような症状によって生じたのか、その治療を受けているかも大切な情報になります。見た目の動きの大きさだけでは、日々の疲労や作業への影響まではわかりにくいためです。

咳払い、大きな声、言葉の繰り返し――音声チックのつらさ

音声チックは、咳払いや鼻を鳴らす音、うなり声、突然の発声など、必ずしも言葉にならない形でも現れます。単語や決まった言葉を繰り返すこともあり、会話や電話、静かな場所での滞在が難しくなる場合があります。

症状を知らない方からは、ふざけている、わざと音を立てていると誤解されることもあるでしょう。ご本人は声を出したくないのに出てしまい、謝ったり説明したりすることが続けば、外出する前から疲れてしまうかもしれません。

年金の書類では、単に「声が出る」と記載するより、会話が途切れて要件を伝えられないのか、公共交通機関の利用に付き添いが必要なのかなど、実際の行動との関係を整理するほうが、生活の状況を理解してもらいやすくなります。

少し抑えられることと、負担なく生活できることは別の話

チックの前に、むずむずする感じや、動き・声を出さずにはいられないような感覚を覚える方がいます。このような感覚は前駆衝動と呼ばれます。また、短時間であれば症状を抑えられる方もいますが、そのことをもって意図的な言動だと考えるのは適切ではありません。

診察中や面接中に症状が少なかったとしても、日常生活の全体像がその場の様子と同じとは限りません。普段はどのような場面で症状が出るのか、抑えようとするとどのような負担があるのか、終了後はどのように過ごしているのかも、主治医に知っていただきたい内容です。

症状を見せるために無理に誘発する必要はありません。受診時に十分伝えられないときは、落ち着いて書ける時間に短いメモを用意する方法もあります。

汚言や破壊行動は本人の本心?誤解してほしくない症状のこと

汚言は相手を傷つけたい気持ちを表しているとは限りません

汚言は、社会的に不適切とされる言葉や卑わいな言葉などが、意思に反して口から出てしまう音声チックの1つです。相手を侮辱したいわけではないのに、そのように受け取られる言葉が出てしまうことは、ご本人にとっても非常につらい体験になり得ます。

ただし、トゥレット症候群のある方すべてに汚言があるわけではありません。動画などで印象に残りやすい症状だけを見て、「この病気の人はみんな暴言を吐く」と理解してしまうと、別の形のチックで困っている方の姿が見えなくなります。

汚言がある場合の年金の準備でも、強い言葉をそのまま大量に並べることが目的ではありません。発生する場面や頻度、それによって難しくなる活動、周囲の人がどのような対応をしているかを、必要な範囲で説明することになります。

物を投げる、壊してしまう行動も、背景を分けて考えます

意思に反して物を投げてしまうなど、結果として物が壊れる行動が問題になる方もいます。チックと強迫症状の境界にあるような症状が関係する場合や、併存する怒り発作などを検討する場合もあり、「破壊行動」という言葉だけで医学的な背景を決めることはできません。

また、こうした行動はトゥレット症候群の診断に必須の症状でも、すべての方にみられる特徴でもありません。病名と危険な行動を安易に結びつけることなく、ご本人の体験と医師の評価を確認することが大切です。

書類にも、「性格が乱暴」「すぐにキレる」といった評価だけを書くと、症状の実態が伝わりにくくなります。何をしているときにどのような動作が起こったのか、本人はどう感じていたか、けがや破損があったか、再発を防ぐための援助が必要かを分けて整理すると、診療でも相談しやすくなります。

自分の体を傷つける症状があるときは、安全の確保も大切

強い運動チックとして自分の体をたたくなどの症状が現れる場合には、けがを防ぐための対応が必要になることがあります。本人が望んでいない動きによる負傷と、他の背景による行為は区別して診てもらう必要があるため、困っている行動を遠慮せず医療機関に伝えることが大切です。

障害年金の手続きのために危険な場面を再現したり、撮影のために対応を遅らせたりする必要はありません。安全を優先して診療につなげ、そのうえで実際に必要となった見守りや介助の内容を記録しておくとよいでしょう。

参考:福岡大学医学部脳神経外科「不随意運動症」

トゥレット症候群で障害年金はもらえる?病名より先に確認したいこと

受給の可能性はありますが、診断だけで決まるものではありません

トゥレット症候群だから一律に障害年金を受給できないと決めつける必要はありません。一方、「神経発達症だから必ず対象になる」「汚言があれば2級になる」という理解も正しくありません。障害年金では、制度上の受給要件と、障害認定基準に照らした状態の確認が必要になります。

日本年金機構の障害認定基準に、トゥレット症候群について「チックが何回なら何級」という専用の回数表は示されていません。実際の病態や併存症、生活機能への影響を確認し、どの基準・診断書で評価を受けるのが適切なのかを、主治医や年金事務所などと確認する必要があります。

医学上の病気の分類と、年金の認定に用いる区分は、名前だけで機械的に対応するものではありません。「精神科に通っているからこの様式」「体が動く症状だから必ず身体の等級」と自己判断して準備を進めないほうが安心です。

症状の目立ち方と、障害年金の等級は同じではありません

障害年金の等級は、ご本人が希望する等級や、周囲の驚きの大きさで決まるものではありません。人前で目立つ症状があっても、日常生活や就労の制限が認定基準の程度に達しているかを確認する必要があります。

反対に、大きな声が出ない方でも、運動チックや併存症のために食事、入浴、外出などで継続的な援助が必要な場合があります。目立つ場面だけを切り取るのではなく、治療を受けながら生活全体をどのように維持しているかが重要です。

精神の障害として評価する場合には、病状の経過や日常生活の具体的な制限、仕事の内容と援助の状況などが判断材料になります。トゥレット症候群に合わせて既存の項目を無理に当てはめるのではなく、医学的な所見と実態を丁寧に結びつけることが必要になります。

無職ならもらえる、家事ができればもらえない、とはいえません

働いていない事情には、病状のほかにもさまざまな背景があります。無職という事実だけで障害状態を証明できるわけではなく、なぜ働くことが難しいのか、生活面でどのような支障が続いているのかが問われます。

また、家族が食事を準備し、受診にも付き添ってくれているために、表面上は生活が落ち着いて見える場合もあります。自分でできることと、援助があってできていることを分けると、ご本人が抱えている困難が見えやすくなります。

「できる」「できない」の2択で答えにくいときは、時間がかかる、中断が必要、安全のために見守りがあるなど、その間にある実情を説明していくことが大切です。

参考:日本年金機構「障害認定基準」精神の障害・神経系統の障害

初診日はいつ?子どものころのチックが請求の出発点になることも

診断がついた日と初診日は一致するとは限りません

初診日は、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。専門病院でトゥレット症候群と診断された日よりも前に、関連する症状で小児科などを受診していた場合は、その受診歴を確認する必要があります。

たとえば、子どものころに首の動きや発声について相談し、成人後に病名が確定したケースでは、成人後の診断日を当然の初診日とすることはできません。一方で、昔に似た症状があったという記憶だけで、医療機関を受診していない日が初診日になるわけでもありません。

受診の目的や症状のつながりには医学的な判断も関係します。「この日なら厚生年金に入っていたから」という理由で日付を選ぶことはできないため、年金の加入状況を見る前に、事実に沿って病歴をたどることが大切です。

発症が子どものころでも、自動的に20歳前の初診日になるわけではありません

トゥレット症候群は小児期に始まる病気ですが、症状が始まった時期と初めて診療を受けた時期は別です。幼少期からチックがあっても、関連する症状で初めて受診したのが成人後なら、その経緯をもとに初診日を検討します。

学校の先生や家族に相談していたこと、カウンセリングを受けていたことも、当時の状態を知る資料にはなり得ます。ただし、それだけで医師の診療を受けた日と同じ扱いになるわけではありません。誰に、何を相談し、医療機関ではどのような診療があったかを区別しておく必要があります。

初診日の証明に用いる受診状況等証明書を取得する際も、現在の主治医に昔の通院を伝えていなかったということがないよう、わかる範囲で過去の受診先を整理しておくとよいでしょう。

古いカルテがなくても、まずは確認できる資料を探します

子どものころの受診から長い年月がたつと、カルテが残っていない、病院が閉院しているということもあります。その場合に直ちに請求を諦めるのではなく、ほかに確認できる医療記録や資料がないかを検討することになります。

以前の病院からの紹介状、後の医療機関の記録、お薬手帳などが残っていれば、病歴をたどる手がかりになる場合があります。ただし、どの資料が初診日の証明に使えるかは、内容や他の証拠との関係によって異なります。

昔の記憶を無理に正確な日付として記載するより、確実にわかること、年月までわかること、記憶が曖昧なことを分けておくほうが、適切な確認につながります。資料が足りない段階こそ、年金事務所や障害年金を扱う社労士に確認する意味があります。

参考:日本年金機構「障害認定基準」一般的事項

障害基礎年金と障害厚生年金――今の働き方だけでは決まりません

初診日の加入制度で、対象となる年金が変わります

原則として、初診日に国民年金に加入していた場合などは障害基礎年金、厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金の検討になります。障害基礎年金には1級・2級があり、障害厚生年金には1級・2級に加えて3級があります。

現在は会社員でも、年金制度に加入していない20歳前に初診日がある場合には、原則として20歳前傷病による障害基礎年金の問題になります。今の加入制度に合わせて自由に障害厚生年金へ切り替えられるわけではありません。

そのため、「働くことが難しいので3級を請求したい」と考えていても、そもそも3級のある制度に該当するのかを先に確認する必要があります。希望する年金額から請求を組み立てるのではなく、初診日と加入記録を起点に考えることになります。

20歳前傷病と、成人後の初診日では確認事項が異なります

年金制度に加入していない20歳前に初診日がある障害基礎年金では、保険料納付要件は問われません。ただし、20歳前に病気があったことだけで支給されるわけではなく、初診日と障害状態の確認が必要です。また、この年金には本人の所得による支給制限があります。

成人後などに初診日がある場合は、保険料納付要件の確認も重要です。原則の納付要件のほか、初診日が2036年3月31日までで初診日に65歳未満である場合の特例などがあるため、自己判断せず記録を確認するとよいでしょう。

現在から保険料を納めれば、過去の初診日に関する要件を自由に満たせるという仕組みではありません。病気の程度について相談するときも、初診日当時の年金記録を併せて確認しておくことが大切です。

参考:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」

参考:日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」

診察室では落ち着いていても――生活の困難を伝える4つの視点

食事や身支度は、安全に続けられていますか

食事では、箸やコップを持つときに動きが出る、食事が何度も中断する、周囲の見守りがあるといった事情がないかを振り返ります。着替えや洗面、入浴でも、自分だけで行えるのか、時間を選ぶ必要があるのか、危険を避けるために援助があるのかで状況は異なります。

家族が自然に手伝っていると、ご本人も「食事も入浴もできている」と答えてしまうかもしれません。年金の相談では、実際に行っていることだけでなく、そのために誰が何を支えているかも確認したいところです。

すべての家事が苦手である必要はありません。問題なくできる部分はそのままに、症状により支障がある動作と、そのときの対処を具体的にしていきます。

買い物や通院のための外出は、どのようにしていますか

自宅では自分のペースで過ごせても、公共交通機関や店内では音声チックなどの影響が大きくなる方もいるでしょう。外出の回数だけでなく、家族の送迎があるのか、空いている時間帯に限っているのか、途中で帰宅することがあるのかも説明の手がかりになります。

たとえば「買い物には行ける」という場合でも、必要な品を購入して帰れるのか、家族が会計や店員への説明を代わっているのかでは、実情が異なります。できた行動の裏側にある援助を省かずに伝えることが大切です。

反対に、ご本人が1人で安定して行えている活動まで、できないことに変える必要はありません。外出先や目的による違いを説明するほうが、生活の姿が自然に伝わります。

会話の内容は理解できても、やり取りが難しいことがあります

トゥレット症候群のある方のコミュニケーションの困難は、必ずしも言葉の意味を理解できないことから生じるものではありません。発声や動きの症状が会話を妨げたり、誤解を受ける不安から必要な連絡を避けてしまったりする場合もあります。

行政の手続き、病院の受付、電話による予約など、生活に必要なやり取りがどの程度できているかを振り返ってみると、支障を説明しやすくなります。連絡を家族が代行しているなら、どの手続きで、どのような理由から代行が必要なのかも確認します。

「知的な理解には問題がないから障害年金は無関係」と考える必要はありませんが、理解力が保たれていることだけを理由に、別の診断の認定基準をそのまま適用できるわけでもありません。困っている機能を正確に示すことが出発点になります。

症状が軽い日も重い日も含めて、普段の状態を見ます

症状に波がある場合、いちばん悪い日だけで書くと普段の状態との隔たりが生じ、軽い日だけで説明すると必要な援助が伝わらなくなります。どちらか一方を選ぶのではなく、一定の期間を振り返って経過を整理することが大切です。

記録には、症状が起きた場面、困った活動、休憩や援助の内容などを短く残しておく方法があります。正確に数えること自体が負担になるなら、すべてのチックを数え続ける必要はありません。ご自身に無理のない範囲で、診療や相談に役立つ情報を残すことが目的です。

働いていたら障害年金は難しい?職場の配慮まで確認したい理由

在籍していることと、安定して仕事ができることは違います

トゥレット症候群のある方の働き方はさまざまです。一般の職場で働いている方も、障害者雇用や就労支援を利用している方もいらっしゃいます。働いているという事実は重要な判断材料ですが、それだけを見て受給の可否を一律に決めることはできません。

精神の障害の認定基準では、就労している場合にも仕事内容や就労状況、職場の援助などを確認する考え方が示されています。トゥレット症候群についても、どの認定上の評価が適切かを確認したうえで、働き方の実情がわかる資料を整えることが必要になります。

給与が出ているかどうかに加え、出勤を維持できているのか、任された業務をどのように遂行しているのか、症状のために何が難しいのかを整理すると、単なる在籍情報よりも具体的な相談ができます。

別室勤務や頻繁な休憩も、説明したい大切な事情

音声チックのために電話や接客を外してもらっている、動きが強いときは別室で休む、勤務時間を短くしているなど、症状に応じた配慮がある場合には、その内容を確認します。ご本人の頑張りだけでなく、周囲の協力によって続けられている部分がないかを見るためです。

「会社に配慮してもらっている」とだけ書くより、対象となる業務、配慮が必要な理由、利用する頻度、配慮があっても残る支障を説明したほうが、働き方が伝わります。欠勤や早退があるなら、記録で確認できる範囲を整理するとよいでしょう。

勤務先の資料を用意する場合には、個人情報の取り扱いや会社への説明も関わります。年金のために必ず特定の書類を会社から取らなければならないと決めつけず、必要性を確認しながら進めることが大切です。

退職や休職をすれば受給しやすくなるとは限りません

年金を受けるために退職すればよい、休職すれば等級に該当する、という制度ではありません。退職しても初診日や障害状態の要件がなくなるわけではなく、収入を失ったことだけで受給が決まるものでもありません。

働き方の変更は、治療や生活の維持を踏まえて考えるべき事柄です。申請に合わせて仕事の実態を変えようとするのではなく、今ある症状と支援の状況を正しく伝えられるかを確認することが、無理のない準備につながります。

参考:日本年金機構「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」

診断書には何を伝える?チックの名前だけでは届かない生活の実情

主治医には、頻度・影響・援助を組み合わせて伝えます

障害年金の診断書は、医師が医学的な判断に基づいて作成する重要な資料です。患者側が等級に合わせて記載を指定するものではありませんが、主治医に知られていない生活上の事実をお伝えすることには意味があります。

たとえば「チックがひどい」という説明に、食事の途中でどのような動きが起こり、何が危険で、家族が何をしているかを加えると、症状と生活の関係がわかりやすくなります。頻度を正確に覚えていない場合には、推測の数字を確定した事実のように書かず、おおよその傾向として伝えるほうが適切です。

受診時には、医師が診断や治療のうえで必要と考える情報も確認していくことになります。持参するメモは診断書の完成形ではなく、医師に普段の生活を知っていただくための補足と考えるとよいでしょう。

治療の効果と、治療を続けても残る支障を整理します

薬物療法や行動療法、生活環境の調整など、トゥレット症候群への対応は症状や状況によって異なります。障害年金の相談でも、どの治療を受け、何が改善し、何が残っているかを確認する必要があります。

薬を服用している場合は、名前や量の多さだけで重症度が決まるわけではありません。症状への効果に加え、眠気など日常生活への影響があれば、主治医に相談して記録に残してもらうことが大切です。眠気がすべて薬の副作用とは限らないため、原因は医師と確認していきます。

年金の審査で症状を強く見せようとして服薬を中断することは、治療上の危険につながります。治療を続けている実際の状態を伝え、変更が必要かどうかは主治医と相談することになります。

ADHDや強迫症など、併存する症状も見落とさないように

トゥレット症候群では、ADHDや強迫症などが併存する場合があります。チックに注目するあまり、日々の生活を難しくしている別の症状が説明から抜けてしまうことがないよう、診断されている病気と困りごとを整理しておきたいところです。

ただし、病名が増えれば等級が上がるという考え方ではありません。精神の障害では、対象となる精神疾患が併存しているときに、病名ごとの等級を単純に足し算せず、諸症状を総合的に判断する取り扱いが示されています。強迫症についても、診断だけで当然に障害年金の認定対象となるわけではなく、病態に即した検討が必要です。

併存症とトゥレット症候群の関係、初診日をどのように扱うかにも確認が必要になります。「あとから別の病名がついたから初診日も新しくなる」と自己判断せず、診療の経過に沿って相談するとよいでしょう。

参考:日本年金機構「障害認定基準」精神の障害

病歴・就労状況等申立書は、長い病歴を伝わる形にするために

幼少期から現在までを、受診と生活の両面でたどります

病歴・就労状況等申立書は、発症から現在までの経過や生活、仕事の状況などを記載する資料です。幼少期から症状がある場合には、受診した医療機関だけでなく、学校生活や家庭で困っていたこと、その後の就労への影響も時系列で整理します。

小学校では周囲の理解があって過ごせていても、進学後や就職後に環境が変わり、困難が大きくなったという経過があるかもしれません。その場合には、症状そのものの変化と、環境・援助の変化を分けて説明すると、生活が難しくなった背景がわかりやすくなります。

すべての出来事を同じ分量で書く必要はありません。障害状態や治療の経過を理解するうえで重要な変化を選び、医療記録で確認できる内容と、ご本人・ご家族の記憶に基づく内容を区別することが大切です。

恥ずかしくて話せなかったことも、必要な範囲で整理します

汚言や物を壊してしまう行動などは、他人に話しにくい内容かもしれません。「自分が悪く思われるのでは」と感じることもあるでしょう。しかし、生活への影響を判断するために必要な事実であれば、症状の背景も含めて説明することが重要になります。

一方で、つらい体験をすべて詳細に書き尽くさなければ認められないという意味ではありません。いつ、何が起こり、生活にどのような制限が生じたかを中心に、診療や審査に必要な範囲でまとめていきます。

ご家族の説明を加える場合にも、ご本人の気持ちや意思を置き去りにしないようにしたいところです。本人が感じている前駆衝動や、周囲からは見えない負担は、家族の観察とは別の情報として大切にする必要があります。

診断書との違いは、事情を確認してから整えます

申立書と診断書に違いがあるときは、すぐにどちらかを都合よく書き換えるのではなく、評価している時点や場面が同じかを確認します。病院では症状が少なく自宅では強い、以前は就労できたがその後に悪化したなど、背景がわかれば説明できる違いもあります。

転院後の医師が古い生活状況を把握していない場合もあるため、必要な情報を追加して医学的な確認を受けることが大切です。ご本人の困難を正確に伝えることと、受給のために状態を重く見せることは区別しなければなりません。

いつから請求できる?20歳の前後と、過去にさかのぼる場合の注意点

障害認定日は原則として初診日から1年6か月後

障害年金には、障害の程度を判断する基準となる障害認定日があります。原則は初診日から1年6か月を経過した日で、それより前に症状が固定した場合などの扱いもあります。長く続く病気だからといって、ご本人が任意に認定日を決めることはできません。

年金制度に加入していない20歳前に初診日があり、障害認定日も20歳前である場合は、20歳に達した時点の障害状態などを確認します。初診日が20歳に近い場合には、20歳になった時点で必ず認定日を迎えているとは限らないため、日付の確認が必要です。

「1年以上チックがある」という医学上の診断に関する期間と、障害年金の認定日に関する期間は別のものです。診断がついてから何年たったかだけで、請求の時期を判断しないようにしましょう。

今つらいことだけでは、過去の受給まで決まりません

障害認定日などの過去の時点で要件を満たしていた場合には、その時点からの請求を検討します。ただし、現在の症状が重いことだけで、過去も同じ障害状態だったことにはなりません。当時の診療記録や診断書などを通じた確認が必要になります。

子どものころから病気が続いていても、20歳当時は症状が比較的安定していた、援助の内容が現在と違っていたということもあります。診断名が同じかどうかに加え、請求する時点ごとの状態を確認することが大切です。

過去にさかのぼって受け取れる年金には時効の問題があり、原則として5年分が限度です。「長い病歴があるので必ず5年分もらえる」という意味ではなく、認定される時期と支払いの範囲は分けて考える必要があります。

認定日の後に悪化した場合は、事後重症請求を検討します

障害認定日には基準に達していなくても、その後に状態が悪化し、要件を満たした場合には事後重症による請求を検討します。この請求は、原則として請求日の翌月分から支給されるため、過去に症状が悪化した日まで当然にさかのぼるものではありません。

また、原則として65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。過去の請求を検討することに時間をかける間に、現在の請求の準備が止まってしまうこともあるため、どの手続きが必要かを整理しながら進めることが大切です。

参考:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」

よくある疑問――手帳・動画・不支給が気になる方へ

障害者手帳がなくても相談できますか

障害者手帳と障害年金は別の制度です。手帳を持っていないことだけで年金の相談ができなくなるわけではなく、反対に手帳があれば同じ等級の年金を受け取れるわけでもありません。

既に手帳がある場合は、その種類や等級、申請時期が状況を知る資料になります。ただし、年金の請求では、あらためて初診日や障害状態などを確認します。手帳の申請と年金の請求を同じ手続きだと思わず、それぞれの目的と必要書類を確認するとよいでしょう。

症状の動画があれば、年金が認められますか

動画は、診察時には出にくい症状について、主治医に相談する手がかりになる場合があります。ただし、動画を用意すれば年金が認められるという仕組みではなく、診断書など所定の資料に代わるものでもありません。

撮影や共有に負担がある場合や、周囲の方が映り込む場合もあります。まずは主治医が診療上の参考として必要とするかを確認し、年金の提出資料に使うかどうかは、年金事務所などへの確認を踏まえて考えることになります。人に見せるために症状を強めたり、日常生活を危険にさらしたりする必要はありません。

不支給になったら、もう相談しても意味がありませんか

不支給などの決定を受けても、理由に応じて不服申立てや新たな請求を検討できる場合があります。ただし、同じ内容を出し直せば認められるとは限らず、何が判断の理由だったのかを確認することが先になります。

以前の診断書や申立書、決定通知書などがあれば、その内容を見ながら、状態の評価に関する問題なのか、初診日や保険料などの要件に関する問題なのかを整理します。不服申立てには期限があるため、迷っている場合も通知書を手元に置いて早めに手続きを確認することが大切です。

相談の前に準備したいこと――うまく話せなくても、整理は始められます

最初から完璧な病歴を用意しなくても大丈夫

長い病歴を文章にまとめるのは簡単ではなく、症状によっては集中して書くこと自体が難しいかもしれません。まずは、最初に受診した病院、だいたいの時期、現在の通院先、仕事と生活で困っていることを、わかる範囲で整理するところから始めるとよいでしょう。

不明なことは不明なまま伝えていただいて構いません。資料で確認できることと、記憶だけでは判断できないことを区別するほうが、その後に何を調べるべきかが明確になります。

病名と「もらえますか」という情報だけでは、専門家も受給の可能性を十分に判断できません。外出には付き添いがある、職場で業務を変更してもらっているなど、ご本人の生活が伝わる情報を加えることで、より具体的な確認につながります。

社労士に依頼するか迷うときは、確認が必要な点を見てみましょう

初診日が古い、複数の医療機関を受診している、チックと併存症の影響が重なっている場合などは、何をどの順序で確認するかが難しくなります。必要な資料を集める前に、病歴と年金記録、請求する時点を整理することには意味があります。

社労士は診断を行ったり、希望する等級を約束したりする立場ではありません。医師の判断を尊重しながら、受給要件を確認し、実際の病状と生活を手続きの中で適切に伝えられるよう支援する役割を担います。

当事務所へのご依頼を希望し、ご自身の状況で障害年金を検討できるか知りたい方は、ホームページのお問い合わせフォームからご相談いただければと思います。症状や生活の状況を確認したうえで、受給の可能性やご依頼をお受けできるかを個別に検討します。

参考:当事務所のお問い合わせフォーム

さいごに

トゥレット症候群のつらさは、体が動く、声が出るという目に見える症状だけではありません。自分の意思に反する言動を誤解されたり、症状を抑えようとしながら毎日を過ごしたりする負担もあります。汚言や物を壊してしまう行動がある場合も、本人の気持ちを決めつけず、医学的な背景と生活への影響を確認することが大切です。

障害年金については、トゥレット症候群という病名だけで受給できるとも、できないともいえません。初診日、年金加入記録、評価する時点の病状、治療の経過、日常生活や仕事で必要な援助を確認して初めて、具体的な検討ができます。

短い診察では話しきれなかったことや、「家族が手伝ってくれるから」と説明から省いてきたことがあれば、少しずつ整理してみてはいかがでしょうか。ご本人が普段の生活をどのように維持しているかを丁寧に伝えることが、障害年金を考えるうえでの大切な出発点になります。