知的障害は、おおむね18歳までに知的機能に障害が表れ、日常生活に支障をきたすことから継続的な支援が必要となる障害です。
知的障害でも障害年金を申請することができますが、年金制度は複雑なので「うちの子は障害年金がもらえるのかよくわからない」といった不安を抱えるご両親も多いでしょう。
この記事では、知的障害での障害年金申請を考えている人やそのご両親に向けて、申請できる条件や年金額を中心に解説していきます。
最後まで読んで、知的障害での障害年金申請にお役立てください。
目次
知的障害での障害年金受給は難しい?
知的障害で障害年金を受給する場合、障害等級2級までしか認められないので認定のハードルが高いといえるでしょう。
障害年金は初診日に加入していた年金制度により申請できる障害年金の種類が変わり、国民年金に加入していた人は障害基礎年金、厚生年金に加入していた人は障害厚生年金を申請します。
知的障害は、生まれつきの障害なので「初診日は出生日」とされています。
知的障害のように年金の加入義務のない20歳前に初診日のある傷病については、障害基礎年金の支給対象です。
障害基礎年金の障害等級は1~2級までなので、該当しない場合は知的障害があっても障害年金は受け取れません。
障害年金は「請求する」ものですが、一般的に浸透している表現を採用し「申請する」と表記します
障害年金制度の詳細は、下記に関連記事で詳しくご紹介していますのでご一読ください。
障害年金制度とは?いくらもらえる?種類や金額などを解説 障害年金とは【専門家がわかりやすく解説します】知的障害でもらえる障害年金の金額
障害年金は障害により生活や仕事にどのくらい制限があるのかで年金額が決まる制度なので、「知的障害だから」という理由で年金額が増減することはありません。
知的障害の場合は障害基礎年金を受給することになり、令和6年度の年金額は以下のとおりです。
障害等級 | 年金額 |
---|---|
1級 | 1,020,000円+子の加算額 |
2級 | 816,000円 +子の加算額 |
3級 | なし |
子の加算額とは、家族手当のようなもので高校生までの子や障害のある子を扶養している場合に期間限定で加算されます。
障害年金の年金額の詳細は、下記の関連記事をご覧ください。
【令和6年度版】障害年金でもらえる金額について知的障害で障害年金を申請できる条件とは?
知的障害で障害年金を申請するときには、次の2つの条件をすべて満たすことが必要です。
知的障害での申請条件(1)20歳を迎えていること
知的障害で障害年金を申請できるのは20歳を迎えてからとなり、幼少期に療育手帳の交付を受けていたとしても、20歳になるまで申請できません。
具体的にいうと、20歳の誕生日の前日が障害認定日※となり、障害年金の申請ができるようになります。
※障害認定日とは、障害の状態を認定する日
例えば、令和6年11月11日に20歳になる人は、令和6年11月10日が障害認定日となり、その日から障害年金が申請できます。
20歳時点で申請するときには「障害認定日(20歳の誕生日の前日)前後3か月以内の診断書」が必要です。
知的障害での申請条件(2)障害等級1~2級にあてはまること
知的障害で障害年金を受けられる人は、障害等級1~2級に該当する人です。
日本年金機構が公開している障害認定基準では、知的障害での障害等級1~2級の障害の状態を、以下のように例示しています。
障害の等級 | 障害の状態 |
---|---|
1級 | 知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの |
2級 | 知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの |
3級 障害基礎年金は支給されない | 知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの |
知的障害のある人ならば誰でも障害年金を受け取れるわけではなく、受給できるのは1級、2級に該当する人に限られ、3級にあてはまる人には年金の支給はありません。
知的障害での障害等級はどうやって決まるの?
知的障害での障害等級の審査では、生活や就労の実態も考慮されたうえで総合的に等級が判断されます。
知的障害を含む精神疾患の障害等級の判定は、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン(以下:ガイドライン)」を用いており、等級判定の不公平をなくすために2016年から運用されています。
ガイドラインでは「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」が考慮され、障害等級の目安が大まかに決まります。
日本年金機構はガイドラインのなかで「総合評価の際に考慮すべき要素の例」として以下のようなことを挙げています。
- 知能指数だけではなく、日常生活での援助はどのくらい必要か
- 著しい不適応行動があるか
- 在宅で家族や訪問介護から常時援助を受けているか
- 施設に入所しているか、入所の場合は常時援助を受けているか
- 仕事の内容が単純・反復的で周囲のサポートを受ける環境にあるか
- 職場で同僚や上司とコミュニケーションが取れるか
- 発育・養育歴、教育歴(特別支援学校など)を考慮する
- 療育手帳の有無や判定区分を考慮する
ガイドラインについては下記の関連記事で詳しくご説明していますので、ぜひご覧ください。
5分でわかる!精神の障害にかかる等級判定ガイドライン知的障害で障害年金を申請するときに注意すること
知的障害で年金を申請するときに注意しておきたいポイントを4つご紹介します。
順番にみていきましょう。
知的障害での通院がないときは事前に何度か通院する
知的障害で医療機関に通院していない場合は、診断書を依頼する前に何度か通院しましょう。
知的障害では服薬することがないため、精神科や小児科へ受診していないことが多いです。
障害年金申請のために20歳になって初めて受診する場合、医師が障害の状態を把握することが難しく、診断書を作成してもらえないことが考えられます。
発達検査や知能検査を受ける必要があることを踏まえると、1回の受診で診断書をお願いするのは難しいでしょう。
日常生活での困りごとや周囲のサポート内容などを医師にしっかりお伝えし、診断書に反映していただくためには、20歳になる前に何度か診察を受けることが必要です。
主治医と日常生活の状況や周囲のサポート等の情報を共有する
医師が作成する診断書は障害年金審査の重要書類の一つで、日常生活の困りごとや周囲のサポートなどを正確に記載していただくことが重要です。
知的障害のある人は、自分の生活状況や周囲のサポートなどを自分で医師に伝えることが難しいことが多いので、ご両親などのご家族が診察に付き添い、ふだんの生活の様子や周囲のサポート内容を医師にお伝えしましょう。
福祉サービスを受けているときはその内容や頻度などの情報を医師と共有し、診断書に反映してもらうことが大切です。
短い診察時間に伝えることが難しいと感じる人は、事前に書面にまとめておいて診察時に医師に渡す方法をおすすめします。
診断書が正しく記載されているか確認する
医師から診断書を受け取ったら、必ず記載内容を確認しましょう。
知的障害の診断書は「精神の障害用(様式第120の4)」といい、A3の大きな診断書の両面を医師に記入していただきます。
医師は忙しいなかで診断書を書くので、必要なところを全部書くことが難しいことがあります。
そのため、未記入のところに追記していただいたり、日付を訂正していただくなど再度お願いすることがあります。
スムーズな年金審査には正確に記載された診断書が必要なので、診断書を受け取ったら記載内容を確認しましょう。
受診状況等証明書は必要ない
知的障害は先天的なものなので、初めて知的障害で医療機関を受診した日がいつであるかに関係なく「出生日が初診日」となります。
そのため、知的障害では初診日の証明のために添付する「受診状況等証明書」は必要ありません。
知的障害と障害年金|よくある質問
知的障害での障害年金申請に関連して寄せられる質問に回答していきます。
息子は23歳で知的障害ですが、障害年金の申請をしていません。障害年金を遡ってもらえますか?
結論からお伝えすると、知的障害で障害年金を遡って申請することはできます。
障害年金の時効は5年なので「障害認定日前後3か月以内の診断書」があり、障害等級に該当していても5年より前の年金は失効しもらえません。
20歳の誕生日前日を障害認定日として申請するには「障害認定日(20歳の誕生日の前日)前後3か月以内の診断書」が必要です。
なお、20歳になった当時に医療機関を受診していない場合は、申請をする日から3か月以内の診断書を添付し申請します。
この申請方法を「事後重症請求」といい、認定されると申請をした翌月から年金が支給されます。
事後重症請求や遡及請求など、障害年金の申請方法については関連記事で詳しくご紹介しています。
障害年金で数百万円がもらえる遡及請求とは? 事後重症請求とは【請求時の注意点までを解説します】 障害認定日請求とは|2通りの請求方法とできない場合の対処法知的障害で障害年金を申請するときに、診断書の代わりに療育手帳で代用できますか?
知的障害での障害年金申請には、診断書が必要で療育手帳で代用することはできません。
知的障害で医療機関に通院していないときは、診断書を依頼する前に何度か通院することをおすすめします。
「知的障害で障害年金を申請するときに注意すること」で、診断書について説明しているのでご覧ください。
知的障害と障害年金|ピオニー社会保険労務士事務所での受給事例
知的障害でピオニー社会保険労務士事務所にご依頼いただいた事例をご紹介します。
知的障害で障害基礎年金2級を受給
- ご相談者 20代 男性
- 認定結果 障害基礎年金2級(障害認定日)
- 支給額 約78万円
【ご相談時の状況】
今までに2回お母様が障害年金の請求をし、不支給になり弊所へご相談をいただきました。
現在は働いていませんが、少し前までは障害者雇用枠で何年もしっかりと仕事ができており、小学校から高校まで特別学級ではなく、普通学級に通っていました。
【相談から申請までのサポート】
最初にご面談をしたときには、障害年金を受給するにはかなり困難で可能性も少ないという印象でしたが、ご本人と数時間過ごすことにより、日常生活や就労には相当に困るだろうということははっきりわかりました。
「これは自分で問題なくできる」「これは母親の援助が欠かせない」ということを細かく把握し、主治医にお伝えし理解を得るようサポートしました。
【審査の結果】
障害基礎年金2級(約78万円)が認められました。
このほかの受給事例は、知的障害での受給事例でご覧いただけます。
まとめ
知的障害は、おおむね18歳までに知的機能に障害が表れ、日常生活に支障をきたすことから継続的な支援が必要となる障害です。
知的障害で、日常生活に支障があるときは障害年金を申請することができますが、幼少期に知的障害が判明した場合でも、申請できるのは20歳を迎えてからです。
知的障害での申請では、医師と日常生活での困りごとや周囲のサポートなどをお伝えし、診断書に正しく反映していただくことが大切です。
医師とのコミュニケーションに不安があるときや申請するための書類作りに悩むときは、ピオニー社会保険労務士事務所がお力添えできますのでお気軽にお問い合わせください。