障害者手帳とは、障害を持つ方が福祉の支援サービスを受けやすくするために交付される手帳で、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3つを総称しています。
それぞれの手帳は制度や法律が異なるため、申請方法等が複雑だと思われがちです。
しかし申請方法や概要をしっかりと理解していれば、申請はそこまで難しくはありません。
そこで今回は、3つの障害者手帳の概要や申請方法、そして手帳を持つ方のための障害者雇用についてわかりやすく解説していきます。
目次
障害者手帳とは
冒頭でもお伝えしたとおり、障害者手帳とは、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3つの手帳を総称した一般的な呼び方です。
それぞれ制度は異なりますが、どの手帳を持っていても障害者総合支援法の対象となり、さまざまな支援やサービスを受けることができます。
障害者手帳のうち、最初に手帳の制度が誕生したのは身体障害者手帳になります。
昭和21年に日本国憲法が公布され、社会権および生存権の保障とする基本的人権の考え方が明確になり、障害者に対する福祉施策は国による公的な責任のよってなされるという原則が示されました。
その流れで障害者福祉に関する法律の必要性が高まり、昭和24年に身体障害者福祉法が制定され、翌25年4月に施行されました。
これが障害者福祉の法律で初めてのものです。
その後、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の制度ができることとなります。
現在では3つの手帳を合わせて約725万人(平成30年度)もの方が障害者手帳を持っています。
障害者手帳の種類
障害者手帳は、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3つの手帳があり、それぞれの制度や法律が異なるため申請方法も異なります。
身体障害者手帳 | 療育手帳 | 精神障害者保健福祉手帳 | |
根拠 | 身体障害者福祉法
(昭和24年法律第283号) |
療育手帳制度について
(昭和48年厚生事務次官通知) |
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
(昭和25年法律第123号) |
根拠 | 身体障害者福祉法 | 療育手帳制度について(通知) | 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 |
交付主体 | ・都道府県知事
・指定都市の市長 ・中核市の市長 |
・都道府県知事
・指定都市の市長 |
・都道府県知事
・指定都市の市長 |
障害分類 | ・視覚障害
・聴覚・平衡機能障害 ・音声・言語・そしゃく障害 ・肢体不自由 ・心臓機能障害 ・じん臓機能障害 ・呼吸機能障害 ・ぼうこう・直腸機能障害 ・小腸機能障害 ・HIV免疫機能障害 ・肝臓機能障害 |
知的障害 | ・統合失調症
・気分(感情)障害 ・非定型精神病 ・てんかん ・中毒精神病 ・器質性精神障害(高次脳機能障害を含む) ・発達障害 ・その他の精神疾患 |
所持者数 | 5,087,275人
(平成30年度福祉行政報告書) |
1,115,962人
(平成30年度福祉行政報告例) |
1,062,700人
(平成30年度衛生行政報告例) |
参照:障害者手帳
ちなみに身体障害と精神障害を両方持つような場合には、同時に2つの手帳を取得することができます。
次に、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3つそれぞれについて順に説明したいと思います。
身体障害者手帳
身体障害者手帳とは、身体の機能に一定以上の障害がある方に交付される手帳です。
一度取得すれば更新をすることなく所持することができますが、障害の程度が変わることが予想される場合には交付された後に再認定をする場合があります。
等級は重い方から1級から7級まであり、1級から6級までの方に手帳が交付され、7級単独だと手帳は交付されません。
療育手帳(知的障害者用)
療育手帳は知的障害がある方に交付される手帳です。
児童相談所または知的障害者更生相談所において知的障害と判定された場合に手帳が交付されます。
療育手帳を持っていると、就労の支援や福祉サービスなどを受けることができます。
他の2つの障害者手帳とは違い国の法律で定められておらず、自治体によって運用している制度ですので、手帳の名称や等級など自治体によって異なります。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、精神の障害が一定程度ある方に交付される手帳です。
等級は重い方から1級から3級まであり、精神疾患の状態と日常生活能力の両方から総合的に判断され等級が認定されます。
精神疾患の初診日(初めて病院に行った日)から6か月経過後に申請することができ、交付された後は2年毎に更新があります。
障害者手帳とは?4つのメリットを解説
ここでは、障害者手帳の基本として4つのメリットを解説していきます。
- 障害者雇用枠での就労
- 就労支援サービスが使える
- 税金が控除される
- 公営住宅に優先的に入居できる
障害者手帳の保有に抵抗のある方は多いですが、手帳を持つことで得られるメリットはたくさんあります。
特に税金の免除等を活用すれば、家計の節約に繋がるのでとてもお得です。
1つずつ解説していくので、障害者手帳の申請を検討中の方はぜひ参考にしてみてください。
障害者雇用枠での就労
障害者雇用枠とは、障害を持つ方のために存在する特別な雇用制度です。
企業側は一般の採用基準とは異なり、障害を持つ方に配慮した採用基準を設けた上で、採用フローを行っていきます。
そのため、一般的な雇用条件とは異なるため入社のハードルが低く、入社後も障害に配慮した働き方を用意してくれるため、安心して働くことが可能です。
さらに障害者雇用枠の求人があるエージェントを利用すれば、普通では入れない大手企業や優良企業に入社できる確率がグッと上がります。
障害者雇用枠での採用はメリット尽くしなので、障害を理由に転職を躊躇している方はぜひ参考にしてみてください。
就労支援サービスが使える
障害者手帳を持てば就職や転職、就労の手厚いサポートが受けられる就労支援サービスを活用できます。
具体的には以下のような、就労支援サービスが用意されています。
- ハローワーク(障害者専門窓口もあり)
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ・就ぽつ)
- 就労移行支援
- 就労継続支援 A型/B型
障害を抱えながら、就職活動をしたり働き続けたりするのはとても大変なことで、時には第三者のサポートが必要になる場合も少なくありません。
そのため、仕事探しや離職はもちろん、現在の就職先に不安や悩みがある場合は、上記のサービスを活用してみましょう。
税金が控除される
障害者手帳を保有すれば、以下のように所得税と住民税が控除されます。
- 障害者控除:所得税27万円、住民税26万円
- 特別障害者控除:所得税40万円、住民税30万円
上記のように税金が控除されれば、家計の金銭的負担を減らせます。
さらに、自動車を持っている方は、自動車税が減免されるケースもあります。
自治体や等級によって金額は異なりますが、一般的な自動車であれば約45,000円ほど減免される場合もあるので、普段から車を運転する方は参考にしてみてください。
公営住宅に優先的に入居できる
障害者の最後のメリットは、公営住宅へ優先的に入居できる権利です。
公営住宅は国の補助金を受けて自治体が運営している住宅のことで、マンションや団地などの集合住宅が一般的です。
公営住宅の主な入居条件は次のとおりです。
- 同居する親族がいること
- 入居者の合計収入額が基準額以下であること
- 住宅に困っていること
上記の条件を満たした上で、障害者の優先入居を希望する場合に障害に関する条件(手帳の等級、年金の証書の有無など)に該当しているかの確認が必要です。
なお、「同居する親族がいること」はあくまで原則であり、高齢者や生活保護受給者、障害者などは単身でも入居可能なケースもあります。
公営住宅は地域の相場よりも家賃が安く、内装も整っているため人気が高いですが、障害者手帳を取得しており条件に該当すれば優先的に入居することが可能です。
障害者手帳の保有が知られることはない
障害者手帳の保有は自分から申告しなければ、絶対に他人に知られることはありません。
なぜなら一般生活はもちろん、会社でも障害者手帳を提示する場面はありませんし、提示の義務もないからです。
しかし1つ注意点があり、先ほど紹介した障害者控除を受ける際は、年末調整の際に税金の控除を記載しなくてはいけません。
そのため、障害者手帳の保有を知られたくない場合は障害者控除を諦めるしかありません。
ちなみに、障害者控除は義務ではなく自己申告制なので、障害者手帳を持っている=控除しなくてはいけないという訳ではないので、安心してください。
控除を受けるかプライバシーを守るかは、各々の選択になるので、よく考えて検討しましょう。
障害者手帳の申請方法
申請方法は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳それぞれ異なります。
おおまかな申請の流れとしては、身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳の場合には、市区町村の担当窓口で診断書等の用紙を受取り、診断書を作成できる指定医等に診断書を書いてもらい、申請用紙や顔写真とともに市区町村の窓口に提出します。
療育手帳の申請方法は自治体によって異なりますが、東京都の場合は児童相談所または心身障害者福祉センターで知的障害の判定を受け、顔写真等を提出します。
詳しい申請方法につきましては、以下の記事をご覧ください。
障害者雇用について
先述したとおり障害者雇用とは、民間企業や地方自治体などが一定の枠を設けて、障害を持つ方を雇用することです。
一定の枠というのは「法定雇用率」といい、民間企業や地方自治体などに従業員の一定割合以上の障害者を雇用しなければならない法律があるのです。
これを「障害者雇用率制度」といい、障害者雇用促進法に定められております。
事業主区分 | 法定雇用率 |
民間企業 | 2.2% |
国、地方公共団体など | 2.5% |
都道府県などの教育委員会 | 2.4% |
障害者雇用の対象となる方は、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳などの障害者手帳を持っている方になります。
障害者雇用で働くメリットとしては、その方の障害の特性を雇用主に理解してもらい、きめ細やかな配慮を受けて、無理なく障害を持つ方が働くことができるということがあります。
参照:障害者雇用のご案内
参照:障害者雇用促進法の概要
さいごに
障害者手帳には、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類があります。
これらの手帳を持つことによって、障害者雇用枠で配慮を受けながら働くことができたり、支援サービスを受けることができ、申請するメリットは大きいです。
しかし、それぞれの制度が異なりますので申請方法等も異なり、少しわかりにくいと感じられる方もいらっしゃるでしょう。
もし障害者手帳の取得をされる場合には、まずは市区町村の担当窓口でご相談してみてください。