傷病手当金は、病気やけがで仕事ができないときに給与の支払いがない場合に健康保険から支給される制度です。
健康保険の被保険者が請求できますが、なじみが薄く傷病手当金の制度自体を知らない人も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、傷病手当金の支給条件や手続きを解説します。
最後まで読むと、退職後の傷病手当金や出産手当金などとの調整についてもわかるので、ぜひ参考にしてください。
目次
傷病手当金とは
「傷病手当金」は、健康保険に加入している被保険者が業務外の病気やけがで療養のため休んでいる期間に、会社から給与が支払われない場合に健康保険から支給されます。
傷病手当金を受け取るには、大前提として健康保険に加入している被保険者であることが必要です。
つまり、被保険者の扶養家族が療養のため休業しても、傷病手当金の支給はありません。
健康保険の種類と傷病手当金の有無を下表にまとめました。
健康保険の種類 | 傷病手当金があるか | 加入できる人 |
---|---|---|
健康保険組合 | あり | 大企業に勤務する人 |
協会けんぽ | あり | 中小企業などに勤務する人 |
共済組合 | あり | 公務員 |
国民健康保険 | なし コロナでの休業のみ支給あり | 自営業やフリーランスの人 |
ハローワークで求職の申し込みをしたことのある方は、「傷病手当」という名称を聞いたことがあるかもしれません。
傷病手当金とよく似た名称である「傷病手当」は、雇用保険から支給される制度です。
失業保険※を受ける人が、病気やけがで15日以上仕事に就くことができないときに受け取れます。
※ここでいう失業保険とは、正確には「基本手当」のことを指す
傷病手当金の概要をまとめると下表のようになります。
支給を受けられる人 | 健康保険の被保険者 |
支給の条件 | ・業務外の事由による病気やけがで療養していること ・仕事に就くことができない状態であること ・連続する3日間を含み4日以上仕事を休んでいること ・病気やけがで休んでいる間に給与の支払いがないこと |
支給額 | 支給開始日※以前の継続した12か月の平均給与÷30日×2/3 ※被保険者期間が12か月に満たないときは別の計算方法で算定 |
支給が受けられる期間 | 支給開始日から通算して1年6か月 |
手続き | 申請書と証明書を保険者※に提出 ※保険者とは、健康保険を運営している機関のこと(協会けんぽや健康保険組合) |
申請先 | 協会けんぽまたは健康保険組合 |
次章でそれぞれ詳しく解説していきます。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|協会けんぽ
参考:新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給|中央区
傷病手当金の支給条件
傷病手当金の支給条件は以下の4つの条件を満たすと支給されます。
業務外の事由による病気やけがで療養していること
傷病手当金は、業務上の病気やけが以外で療養し、休んでいるときに支給されるものです。
健康保険を利用して医療機関を受診したほかに、以下の場合でも支給の対象になります。
- 自費で医療機関での診察を受けた
- 自宅で療養している
傷病手当金の対象にならないものは、以下のようなものが挙げられます。
通勤途上や仕事が原因で起きたけがや病気 | 労働災害保険での支給対象なので、傷病手当金は支給されない |
美容整形など | 業務上起きたものではないが、病気とみなされないので、傷病手当金は支給されない |
通勤途上や仕事中のけがや病気は労災で補償されるので、被災した場合は速やかに会社へ相談しましょう。
仕事に就くことができない状態であること
仕事に就くことができない状態とは、病気やけがの療養のため今までやってきた仕事ができない状態のことを指します。
仕事に就けないかどうかは、保険者が医師などの意見をもとに本人の仕事内容を考慮しながら総合的に判断します。
連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること
傷病手当金は、業務外の病気やケガの療養のために、3日間以上連続して仕事を休んだときに4日目から支給されます。
仕事を休んだ日から連続した3日間を「待機期間」といい、待機期間が完成しなければ傷病手当金を受け取ることができません。
なお、待機期間の3日間には、土日祝日などの公休日や有給休暇もカウントされます。
病気やけがで休んでいる間に給与の支払いがないこと
傷病手当金は、業務外のけがや病気の療養のために働けない期間中の生活保障を行う制度です。
そのため、仕事を休んでいる期間中に、給与の支払いが行われている場合は、傷病手当金は支給されません。
傷病手当金の支給期間
傷病手当金は、支給開始日から通算して1年6か月の間受け取れます。
つまり、支給を受け始めたあとに出勤した期間は不支給ですが、再び療養のため休んだ場合は、欠勤した期間を合わせて1年6か月まで支給されるということです。
下図は、傷病手当金の支給状況の例示したものです。
傷病手当金の支給期間を通算する取扱いは、令和4年から適用されました。
これまでは、支給開始から1年6か月が支給期間と定められていました。
出勤した期間の傷病手当金は受け取れないにもかかわらず、支給期間にカウントされていたのです。
支給期間を通算される取扱いに改正されたことにより、うつ病やがんなど再発するケースが多い傷病でも、傷病手当金を利用しやすくなったといえるでしょう。
ただし、支給を開始した日が令和2年7月1日以前の場合には、これまでどおり支給を開始した日から最長1年6ヵ月が支給期間となります。
傷病手当金の支給額の計算方法
傷病手当金の支給金額は、支給開始前の健康保険の加入期間が12ヶ月以上と、12ヶ月未満で計算が変わります。
順番に見ていきましょう。
支給開始日前に健康保険の加入期間が12ヶ月以上ある場合
支給開始日前※に健康保険の加入期間が12ヶ月以上ある場合の計算方法は次のとおりです。
※支給開始日とは、一番最初に支給が開始される日のこと
直近12ヶ月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3
=傷病手当金の1日あたりの支給金額
例えば、直近12ヶ月の標準報酬月額が平均30万円の場合、計算式は以下のようになります。
30万円÷30日×2/3=6,666円
このケースの場合、1日あたりの傷病手当金は6,666円です。
30万円÷30日×2/3=6,666円
このケースの場合、1日あたりの傷病手当金は6,666円です。
支給開始日前に健康保険の加入期間が12ヶ月未満の場合
次の2つの金額のうち、少ない方の金額を用いて傷病手当金の支給額を計算します。
①支給開始日に属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均
②標準報酬月額の平均額
30万円※(支給開始日が平成31年4月1日以降の方)
※当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額
具体的な計算式は、次のとおりです。
(①、②の低い額)÷30日×2/3
=傷病手当金の1日あたりの支給金額
例えば、①が20万円、②が30万円の場合、①の20万円をもとに傷病手当金の1日あたりの金額が計算されます。
20万円÷30日×2/3=4,444円
このケースの場合、1日あたりの傷病手当金は、4,444円です。
傷病手当金の手続き
傷病手当金の申請や書類についてみていきましょう。
傷病手当金の申請の流れ
傷病手当金の申請手順は次のとおりです。
傷病手当金の申請書は、会社の担当者を通じて提出するのが一般的です。
申請者が直接、会社が加入している健康保険組合に郵送することもできます。
申請書類を提出後、健康保険組合で審査が行われ支給が決定されたら「支給決定通知書」が送られてきます。
傷病手当金の申請期限に注意しよう
傷病手当金の申請には以下のように期限があります。
療養のために仕事に就けなかった日ごとに、その翌日から起算して2年まで
つまり、傷病手当金は2年前のものまでさかのぼって申請できるということです。
1日でも過ぎてしまうと支給されないため、早めに申請手続きをしましょう。
傷病手当金の申請に必要な書類
傷病手当金の支給を受けるためには、「傷病手当金支給申請書」を作成することが必要です。
傷病手当金支給申請書は、会社の健康保険担当部署でもらったり、郵送で受け取るほか、協会けんぽや健康保険組合のホームページでダウンロードできます。
傷病手当金支給申請書は、以下のように3つのパートに分かれています。
- 被保険者記入用
- 事業主記入用
- 療育担当者記入用
障害年金を受給している人や、外傷の場合などは、添付書類が必要となります。
協会けんぽ加入の方は、傷病手当金支給申請書|協会けんぽで添付書類を確認してください。
健康保険組合に加入の人は、ご自身が加入している健康保険組合に問い合わせましょう。
例として、協会けんぽの申請書を提示します。
【被保険者が記入するページ】
【事業主が記入するページ】
【療養担当者が記入するページ】
健康保険組内に加入の方は、それぞれ所定の書式があります。
ご自身が加入している健康保険組合のホームページ等をご確認ください。
傷病手当金|よくある質問
傷病手当金について寄せられる質問に回答していきます。
傷病手当金はいつごろ受け取れる?
傷病手当金を申請してから実際に支給されるまでの期間は、協会けんぽの場合、申請書を受け付けてから2週間程度です。
加入している健康保険組合によっては、2〜3ヶ月かかる場合もあります。
特に、初回の申請には書類の審査のために時間がかかるため、早くても1ヶ月、遅いと2ヶ月かかるケースもあります。
2回目以降は審査がないため、支給されるまでの時間が短縮されることが多いです。
振込予定を事前に把握したい人は、申請先の健康保険に確認しましょう。
退職後も傷病手当金を受け続けることはできる?
退職後も傷病手当金を受けるには、以下の3つをすべて満たすことが求められます。
- 退職日までに被保険者期間※が継続して1年以上あること
- 退職の前日までに連続して3日以上出勤せず、退職日も出勤しないこと
- 退職日に傷病手当金を受給していた傷病で引き続き労務不能であること
※被保険者期間については、任意継続や国民健康保険の加入期間は含まない
上記の3つの条件を1つでも満たせない場合は、傷病手当金を受け取ることはできません。
参考:退職後も傷病手当金を受けるためには条件があります|協会けんぽ
傷病手当金がもらえなかったり、減額になったりすることはある?
傷病手当金は、ほかの制度から支給が受けられる場合、支給が停止したり、減額になったりすることがあります。
傷病手当金が調整されるケースを下表にまとめました。
状況など | 傷病手当金の取扱い | 支給がある場合 |
---|---|---|
給与の支払いがある | 傷病手当金は支給対象外 | 支給される給与の日額が、傷病手当金の日額よりも少ない場合は、その差額分のみ支給 |
障害厚生年金または障害手当金を受けている | 傷病手当金は支給対象外 | 障害年金よりも傷病手当金の方が金額が多い場合は、差額相当額を支給 |
老齢年金を受給している | 傷病手当金は支給対象外 | 老齢年金の日額と比較して、傷病手当金の日額の方が金額が多い場合は、差額を受け取る |
出産手当金を受けている | 出産手当金と傷病手当金を同時に受給することはできない | 傷病手当金の金額が出産手当金の金額を上回っている場合は、その差額分を支給 |
労災保険から休業補償給付を受給している | 傷病手当金は支給対象外 | 休業補償給付の日額が傷病手当金の日額を下回っている場合は、その差額分を支給 |
傷病手当金と障害年金の支給についての詳細は、下記の記事をご覧ください。
傷病手当金と障害年金は両方もらえる?併給調整の注意点なども解説会社を療養のため長期で休む場合、傷病手当金の申請はどうしたらいい?
会社を長期休業して療養が必要な場合は、1か月単位で申請するのが一般的です。
申請に必須となる医師の証明と事業主の証明は、申請期間の経過後でなければできないため、傷病手当金は事後申請が基本となります。
しかし、療養期間を終えてからまとめて申請すると、実際に支給されるのが遅くなってしまいます。
そこで、給与の締め日など1か月単位で申請すれば、家賃や公共料金の支払いなど、毎月決まって出ていく支払いに困ることもないので、安心して治療に専念できます。
そのため、療養期間終了を待たずに、1か月単位で申請することをおすすめします。
まとめ
傷病手当金は業務外の病気やけがの療養で会社を休み、十分な給与を受け取れない期間の生活を保障するための公的な制度のひとつです。
支給開始日から通算して1年6か月受け取れるため、療養期間の経済的不安を軽くできます。
しかし、初回の振込までに期間がかかってしまうこともあるので、申請の手続きは早めにするといいでしょう。