障害年金を受給するためには、保険料を一定期間納付していることが求められます。
しかし、配偶者に扶養されている場合、被扶養者は直接的に保険料を支払っていないため、障害年金が受給できるのか不安になる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
結論から述べると、扶養家族であっても要件を満たせば障害年金を受給することが可能です。
ただし、扶養家族の中には障害年金を受給できないケースもあるため注意が必要です。
そこで今回は、扶養家族の場合の障害年金についてや、扶養家族から外れるケース、障害者控除などについて解説します。
目次
障害年金は扶養家族でも受給できる?
配偶者が会社員や公務員で厚生年金や共済年金に加入しており、その配偶者に扶養されている20歳以上60歳未満の人は「国民年金第3号被保険者」になります。
国民年金第3号被保険者である期間は、ご自身で保険料を納付する必要はなく、保険料納付済期間としてみなされます。
そのため、障害年金の申請者に国民年金第3号被保険者の期間(扶養期間)があっても、障害年金の「保険料納付要件」を確認する際は、保険料納付済期間としてみなされます。
つまり、保険料納付済要件を確認し、他の受給要件も満たしていれば、配偶者の扶養家族(=国民年金第3号被保険者)であっても、他の被保険者と同様に障害年金を受給することが可能です。
第3号被保険者に該当しないケース
注意点としては、一般的に専業主婦や専業主夫といわれる方でも、国民年金第3号被保険者の条件に該当しないケースがあることです。
第3号被保険者に該当しないケースは、次のとおりです。
- 配偶者が厚生年金、共済年金に加入していない
- 配偶者が65歳以上で厚生年金から抜けたが、自分は60歳未満
- 配偶者ではなく、親や子などに扶養されている
これらの場合は、専業主婦や専業主夫である本人が国民年金第1号被保険者となり、国民年金保険料を納付する必要があります。
障害年金を受給すると扶養家族から外れる?
基本的に社会保険の被保険者の要件は、「被保険者と同一世帯に属している場合は、年収が130万円未満であること」という定めがあります。
しかし、「60歳以上、または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合(1〜3級)」は、その額が180万円未満まで認められます。
つまり、障害年金と他の収入を合わせて、その合計額が180万円未満であれば「扶養家族」から外れることはありません。
このように、障害年金を受給している場合は、一般的な世帯よりも要件が緩和されています。
扶養家族から外れた場合
障害年金とその他の収入を合わせて、180万円以上の年間収入があった場合は扶養から外れるため、社会保険の切り替えが必要です。
社会保険の切り替えは、まず始めに保険証を扶養者から健康保険組合へ返却します。
次に、勤務先の社会保険に加入できるかを確認しましょう。
加入できる場合は、勤務先の社会保険に加入し、厚生年金保険料や健康保険料を給与から天引きしてもらう形で支払います。
一方、職場の社会保険に加入できない場合は、国民年金保険と国民年金に加入します。
この場合は、自分で健康保険料と年金保険料の支払いが必要です。
なお、社会保険の切り替えの手続きは、扶養から外れた日から必ず14日以内に市役所などで手続きを行いましょう。
法定免除を受けられる可能性も
前述したように、扶養から外れた場合、国民年金保険料の支払いが必要です。
しかし、障害等級1級または2級に該当する場合、国民年金保険料が全額免除されます。
これを「法定免除」といいます。
法定免除期間は保険料を半額支払ったことになりますが、その分、将来受け取る老齢基礎年金の金額も通常通り納付した場合に比べて減額されてしまいます。
そのため、減額されないようにするためには、免除を受けずに保険料を納付するか、もしくは、期間さかのぼって保険料を納める「追納」が可能です。
なお、法定免除は法律上当然受けられますが、「国民年金保険料免除理由該当届」を提出する必要があります。
ちなみに、3級の場合は法定免除の対象にはならないため、国民年金保険料の納付が必要です。
ただし、3級の方で経済的に保険料の納付が難しい場合は、国民年金保険料の「申請免除」を行えます。
法定免除や申請免除については以下の記事で詳しく解説しているので、ご参考ください。
障害年金を受給した場合に受けられる控除
障害年金の受給者や配偶者、扶養親族に障害がある場合「障害者控除」の対象となり、所得税が一定額控除されます。
ただし、障害者控除には、「障害者」「特別障害者」「同居特別障害者」の3つの区分があり、それぞれの控除額が異なります。
障害者区分 | 控除額 |
障害者 | 27万円 |
特別障害者 | 40万円 |
同居特別障害者 | 75万円 |
参照:国税庁障害者控除
区分によって控除額が異なり、障害者の中でも障害の度合いがより重い「特別障害者控除」は、控除額が多く設定されています。
また、生計を同じくしている配偶者や扶養親族と同居している特別障害者は「同居特別障害者」にあたりさらに控除額が高くなります。
障害者控除の対象者
障害者控除の対象者は「障害者」と、障害の度合いがより重度の「特別障害者」の2つの区分に分けられています。
- 精神上の障害により自ら有効な意思表示ができない方
- 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保険指定医の判定により、知的障害者と判定された方
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
- 身体障害者手帳に、身体上の障害がある人として記載されている方
- 65歳以上で、市町村長や福祉事務所長などに精神または身体に障害があると認定されている方
- 戦傷病者手帳の交付を受けている方
- 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定により厚生労働大臣の認定を受けている方
- その年12月31日時点で引き続き6ヶ月以上、身体障害により寝たきりの状態であり、複雑な介護を必要とする方
- 精神上の障害により自ら有効な意思表示ができないすべての方
- 重度の知的障害者と判定された方
- 精神障害者保健福祉手帳の等級が1級の方
- 身体障害者手帳1〜2級の交付を受けている方
- 市町村や福祉事務所長などに特別障害者に準ずるものとして認定を受けている方
- 障害の程度が恩給法に定める特別項症から第3項症までの方
- 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定により厚生労働大臣の認定を受けているすべての方
- その年12月31日時点で引き続き6ヶ月以上、身体障害により寝たきりの状態であり、複雑な介護を必要とするすべての方
参照:国税庁障害者控除
障害者控除以外にも受けられる特例
所得税の控除以外にも、障害者控除で受けられる特例はさまざまなものがあります。
最後に、障害者控除以外にも受けられる特例について解説します。
相続税の控除
相続税の障害者控除とは、相続人が85歳未満の障害者である場合、相続税の金額から一定額を減らせる制度です。
なお、相続財産を取得する障害者の方が「一般障害者」と「特別障害者」のどちらに当てはまるかで、控除額の計算が異なります。
具体的な計算式は、それぞれ次のとおりです。
上記の計算式で出た金額を相続税から控除して、納付額を算出します。
心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の非課税
障害のある方を扶養している保護者が毎月一定の掛金を納めることで、その保護者が亡くなったときや重度障害になったときに、扶養していた障害のある方に一定額の年金を一生涯支給する制度です。
この心身障害者扶養共済制度の掛け金は、全額所得控除となるため、年末調整や確定申告で控除を受けることが可能です。
さらに、相続や贈与によってこの給付金を受給する権利を得たときにも、相続税や贈与税の対象にはなりません。
少額貯蓄の利子の非課税
通称「マル優」と呼ばれる制度で、身体障害者手帳の交付を受けている方や遺族年金を受給されている方など、一定の条件を満たした方だけが利用できる制度です。
所定の手続きおよび届け出を行うことにより、預貯金の元本350万円までの利子が非課税となります。
さらに、一定の条件を満たしていれば「障害者等の少額公債の利子の非課税制度」も合わせて利用することが可能です。
これを通称「特別マル優」といいます。
特別マル優では、国債と地方債の元本350万円までの利子が非課税となります。
マル優および特別マル優の対象となる方は次のとおりです。
- 障害者手帳の交付を受けている人
- 障害者年金を受けている人
- 遺族基礎年金を受けている妻
- 寡婦年金を受けている人
- 母子年金を受けている人
なお、マル優と特別マル優は併用可能で、両制度を利用すれば最大700万円までの利息を非課税で受け取ることが可能です。
贈与税の控除
一定の信託契約に基づいて特定障害者への財産の信託があったとき、その受け取る財産のうち、一定額までは贈与税がかかりません。
ただし、障害の程度に応じて、非課税となる額が異なります。
主な障害の程度 | 非課税限度額 |
精神障害者2級〜3級 | 3,000万円 |
精神障害者1級 | 6,000万円 |
※身体障害者は対象外です。
さいごに
障害年金は扶養家族(国民年金第3号被保険者)であっても、要件を満たしていれば受給することが可能です。
また、障害年金を受給しても、年金と他の所得を合わせて年間収入が180万円以下であれば、扶養から外れることはありません。
障害年金を受給すれば、障害者控除をはじめさまざまな控除も受けられます。
扶養家族の方であっても障害年金を受給できる可能性があるため、申請を諦めずにまずはお近くの社労士に相談してみることをおすすめします。