働きながら障害年金をもらうことはできるのか? もらえるならその金額は? 申請方法は? 何らかの障害で日常生活や仕事に支障をきたしている方、そのご家族の方の中には、そうした切実な疑問をお持ちの方も少なくないと思います。
ずばり、働いているからと言って障害年金がもらえない、ということはありません。平成26年の統計では、障害年金受給者の約28%が就労者でした。
つまり、障害の種類や程度、状況によっては障害年金を受給することができるのです。ここでは、働きながらでも障害年金がもらえる傷病例、その受給額、申請方法、実際の受給例などを分かりやすく解説していきます。
目次
働きながらでも障害年金は受給できるのか
障害年金において、就労=不支給とは限りません。働きながらでも障害年金を受給できるケースは決して少なくないのです。
「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」では、障害ごとに各等級の認定基準を定め、等級認定審査の際は、就労の有無も判断材料の一つとされます。しかし、障害の中には就労の有無が審査に影響しないものもあるので注意が必要です。
ここでは、その具体例を見ていきましょう。
就労の有無が影響しない病状
そもそも、〇〇=〇級と明記されている障害は、就労の有無は問われません。
例えば、人工透析は原則2級と定められています。これは定期的に透析する手間と時間が不可欠で、その結果、日常生活や仕事が大きく制約されることが明らかだからです。
また人工関節は原則3級です。人工関節を挿入することで、可動域の制限や摩耗、骨折のリスクなど、生活や就労の質が低下し、制限を受けることが明確だからです。
他にも、心臓移植、人工心臓を移植または装着した場合は1級、人工弁や心臓ペースメーカー、人工肛門などは原則3級とされています。
心臓移植や人工心臓等の術後は1級に認定されますが、1~2年程度経過観察した上で症状が安定しているときは、再認定で等級が変わることがあります。
一方で、眼や耳、手足の障害など、検査・計測の数値で障害の程度が客観的に判断できるものも、一定の基準を満たしていれば、就労が審査に影響を及ぼすことはありません。
例えば、眼の障害は矯正視力の測定で両目の視力がそれぞれ0.04以下なら1級、耳の障害なら両耳の聴力レベルが100デシベル以上で1級、下肢の障害の場合、両下肢の機能に著しい障害を有するもの=両下肢の3大関節中、それぞれ2関節以上の関節が全く用を廃したものなら1級と明記されており、これらも就労の有無は影響しません。
うつ病・ガンは申請が難しい?
それでは、障害認定基準に〇級との明記がなく、数値でも障害の程度が分からない場合は、働いていたら障害年金がもらえないのでしょうか。
確かに、うつ病、てんかんのような精神障害や、ガンなどの内部障害は、人工透析のように明確な傷病名で〇級と定めることができず、目や耳の障害のように数値で障害の程度を判断することもできないため、各障害の具体的な状況、状態を吟味しなければなりません。
障害年金の等級認定審査に際して、就労の事実を重要な判断基準とするケースも少なくありません。働けているのだから重度の症状ではない、と判断されてしまうのです。
ただ、一律に就労=不支給としているわけではなく、深刻な病状や状況、周囲の援助や会社の配慮で何とか勤務を続けることができている、という客観的かつ具体的な事実を詳細に説明できれば、受給の可能性が広がるのも事実です。
そのためにも、医師の診断書や病歴・就労状況等申立書に現況を詳細かつ的確に書き込むことが、働きながら障害年金を受給するうえで、何より重要と言えるのです。
うつ病やガンなど就労の有無が審査に影響する障害をお持ちの方でも、働きながら障害年金を受給できる可能性は十分あるのです。
障害年金はいくらもらえるの?
働きながら障害年金の申請を検討している方の中には、そもそも障害年金とは? いくらもらえるのか? という疑問をお持ちの方もいると思います。
まず障害年金は、初診日(障害の原因となった病気やケガで、初めて医師や歯科医師の診療を受けた日)に加入していた年金により、障害基礎年金と障害厚生年金の2つに分かれます。
障害基礎年金
障害基礎年金は、初診日に「国民年金」に加入していた方、または20歳未満の方、あるいは年金制度に加入していない60歳以上65歳未満(国内居住時に初診日を迎えることが条件)で、一定の条件を満たした方に支給される年金です。
障害厚生年金
一方、障害厚生年金は、初診日に「厚生年金」に加入していた被用者年金被保険者(会社員や公務員)で、一定の条件を満たした方に支給される年金です。
この各障害年金を受給するには、「初診日要件」「保険料納付要件」「障害程度要件」という3つの要件をすべて満たさなければなりません。
障害年金を受給するための3要件
初診日要件…初診日に国民年金か厚生年金の被保険者であること(障害基礎年金は一部年金未加入者にも適用)
保険料納付要件…初診日の前日において、下記のいずれかを満たしていれば受給ができます。なお、20歳前に初診日がある方は納付要件が問われません。
- 初診日のある月の前々月までの公的年金加入期間において、2/3以上の期間の保険料を納付している、または免除されていること。
- 初診日が65歳未満で、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと。
障害程度要件…障害認定日(または請求時)に障害年金で定める障害の状態にあること。障害認定日とは、初診日から1年6カ月を経過した日、またはその期間内に病気やケガが治癒した日(症状固定日を含む)のことです。
また、障害認定日にはまだ障害年金で定める障害の状態ではなかったが、その後症状が悪化して障害の状態になった場合、現在から請求することになります。
等級は障害基礎年金が1、2級、障害厚生年金が1~3級及び障害手当金に分類されています。等級の概要は以下の通りです。
また障害年金の受給額は等級により異なり、障害基礎年金は定額、障害厚生年金は報酬比例の年金額となります。
報酬比例の年金額は給与額や厚生年金の加入期間で算出し、人によって違います。
障害年金も老齢年金同様、2階建ての年金制度ですから、障害厚生年金の受給者(2級以上)は障害基礎年金が上乗せしてもらえます。
詳細は下記のリンク記事を参考にしていただき、以下では各等級の障害年金額を明記しておきます。
障害基礎年金…1,020,000円(816,000円×1.25)+子の加算
障害厚生年金…報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額
障害基礎年金…816,000円+子の加算
障害厚生年金…報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額
障害厚生年金…報酬比例の年金額のみ ※最低保証額は612,000円
※子の加算は第1子・第2子はそれぞれ234,800円、第3子以降は78,300円
※配偶者の加給年金額は234,800円
※障害手当金は報酬比例の年金額×2 ※最低保証額は1,224,000円
障害年金の申請方法
障害年金の申請の流れを具体的に説明すると下記の通りです。
- 初診日の確定
- 保険料納付条件の確認
- 受診状況等証明書の取得 ※診断書を取得する医療機関と同じ場合は不要
- 診断書の取得
- 病歴・就労状況等申立書の作成
- 各種提出書類の収集および請求書等の作成
- 年金事務所または市区町村役場へ提出
- 受給 ※審査結果次第で不支給になるケースも
この申請作業の中には複雑なものも少なくなく、特に障害認定審査の重要な判断材料となる医師の診断書の依頼や病歴・就労状況等申立書の記載は、経験のない個人が的確に行うのは容易ではありません。
まして就労の事実がある状況での障害年金の申請は、通常の障害年金の申請にも増して難しく、なかなか個人の手におえるものではないことも事実です。
場合によっては、プロである社会保険労務士に相談する必要があるかもしれません。
下記の記事で障害年金の申請方法を詳しくご説明しております。合わせてお読みください。
働きながら障害年金を受給できた事例
実際に当事務所で働きながら障害年金を受給できた方の事例をご紹介いたします。
網膜色素変性症で障害厚生年金2級を取得し、次回更新まで約1,200万円を受給されたケース
相談者
東京都墨田区の30代男性
相談者様の状況
大学院卒業後に就職し、2年後に夜盲(暗いところで目が見えにくい)の症状が出始め、眼科を受診したところ網膜色素変性症と診断された方です。
網膜色素変性症は治療法が確立されておらず、ビタミン剤や目薬を処方されるだけだったため、しばらく病院を受診していない期間があり、障害認定日での遡及がとても難しい状況でした。
サポート内容
障害認定日から3か月以内にどこの病院も受診していなかったため、障害認定日の診断書を提出することができませんでした。
しかし、症状が悪くなることはあっても良くなることはないという不可逆性の病気であること、そして進行性の病気であることを根拠に、なんとか障害認定日で遡及ができるよう社労士が書類を作成しました。
ちなみに、視野が狭まっていても視力は落ちていなかったので、職場では配置転換等の配慮を受け、正社員のフルタイム勤務を続けていらっしゃいました。
発達障害で障害厚生年金2級を取得し、次回更新まで約940万円を受給されたケース
相談者
東京都板橋区の40代男性
相談者様の状況
大学卒業後、就職するも仕事が思うようにできず、常に人間関係でトラブルを起こしていらしゃった方です。
40代になり発達障害専門医を受診して検査を受け、広汎性発達障害と診断されました。
障害者雇用枠で就職して5年目の時に障害年金受給を考えて、当事務所にサポートをご依頼くださいました。
サポート内容
障害者雇用枠ではありますが、給与は月に25万円以上、就労を5年以上継続できている、一人暮らしということで、障害年金を受給するには難易度が非常に高い案件です。
働けているので、障害厚生年金3級がなんとか受給できるようにと慎重に進めていきました。
仕事での支障はもちろんですが、この方は日常生活における支障がとても多く、友人等のサポートがなければ日常生活を送ることができないため、それを書面で表していきました。
その甲斐あって結果は障害厚生年金2級、次回の更新年月は3年後という決定内容でした。
障害年金はケースバイケースです。
社労士 石塚
さいごに
これまで障害年金は、傷病名によっては就労の有無に関係なく受給できること、また傷病の情況次第では受給が可能なこともあることを解説してきました。
もしかしたら、働きながら障害年金を受給することに、後ろめたさを感じる方もいるかもしれません。しかし、障害があることで日常生活や仕事での支障、不便があるのは確かです。
障害による精神的負担、経済的損失を考慮し、障害年金を申請、受給することは我々に認められた権利です。
働いている方で、障害年金の受給要件に該当する可能性のある方は、ぜひ前向きに申請を検討してみて下さい。
社会保険労務士事務所ピオニーでは、働きながら障害年金を検討されている方の受任を受け、多くの案件で障害年金を受給決定してきました。働きながら障害年金を受給したいと考えている方は、ぜひ当事務所に相談してください。