「発達障害では、障害年金はもらえないだろうな」
「働いていたら、障害年金なんてもらえるわけがない」
障害年金について、こんな誤解をしている人は少なくありません。
しかし、発達障害がある人がその特性からくる困りごとで仕事や生活に支障がある場合は、障害年金を受け取れる可能性があります。
この記事では、発達障害のある人が障害年金を受け取るためのポイントと障害認定基準について、わかりやすく解説します。
発達障害のある人が働きながらでも受給できた事例もご紹介するので、ぜひ最後まで読んで障害年金の申請の参考にしてください。
目次
障害年金とは?
まず、障害年金の概要をご紹介します。
障害年金は、現役世代の人が病気やけがで障害を負い、仕事や生活に支障がある場合に請求できる年金保険で、国が運営しています。
身体障害のみをカバーしていると誤解されがちですが、障害年金はうつ病や双極性障害などの精神疾患、発達障害や知的障害も支給対象です。
また、初診日※に加入していた年金制度により、請求できる年金の制度が変わることも障害年金の大きな特徴です。
※ 初診日とは、障害の原因となった傷病で初めて医療機関で診療を受けた日
初診日と障害年金の種類の関係を表にまとめました。
初診日に加入していた年金 | 障害年金の種類 | 障害の等級など |
---|---|---|
国民年金 | 障害基礎年金 | 1級、2級 |
厚生年金 | 障害厚生年金 | 1級、2級、3級 障害手当金 |
障害年金は、以下の3つの要件を満たすと請求できます。
- 初診日に年金制度に加入していること(初診日要件)
- 保険料を一定期間納付していること(保険料納付要件)
- 一定の障害状態にあること(障害状態該当要件)
障害年金の制度や受給要件をもっと詳しく知りたい人は、以下の関連記事をご覧ください。
障害年金とは【専門家がわかりやすく解説します】 障害年金の受給条件とは?申請に必要な3つの条件と対象者 【令和6年度版】障害年金でもらえる金額について発達障害で障害年金を受給するのは難しい?
発達障害で障害年金を受給するのは、簡単なことではありません。
前述したとおり、障害年金は傷病により障害があることで、生活や仕事に支障がある場合に受給できます。
発達障害で障害年金を受けるには、日常生活等での支障の程度を年金を審査する人に的確に伝えることが必要です。
自分の生活の様子やサポート内容、生活するうえでの不都合などを審査する人にうまく伝えることができずに、障害年金がもらえなかったり、低い障害等級で認定されたりするケースも多くみられます。
年金の審査をする人に向けて、ふだんの生活での困りごとを具体的に示し、仕事や生活への支障の程度が客観的にわかるように伝えることができれば、障害年金を受給できる可能性が高まるといえます。
発達障害で障害年金がもらえる程度とは|障害認定基準
発達障害がどの程度の症状であれば障害年金が受給できるかを定めた基準を「障害認定基準」といいます。
発達障害の認定基準は以下のとおりです。
引用:国民年金・厚生年金保険 障害認定基準|日本年金機構
障害の程度 障害の状態 1級 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの 2級 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの 3級 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働に著しい制限を受けるもの
また、発達障害で障害年金が受給できるかは、以下の点も含めて審査されます。
- たとえ知能指数が高くても、コミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行えず、日常生活に著しい制限を受けることに着目して認定する
- 日常生活能力等の判定の際は、身体的機能や精神的機能を考慮のうえ、社会にどの程度適応できるかによって判断するよう努める
- 「働いている」からといって、日常生活能力が向上したものと捉えず、療養状況を考慮し、仕事の種類や内容、就労状況、職場で受けているサポート内容や、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断する
発達障害での障害年金の審査では、上記の点を踏まえて発達障害の症状がどの程度かを判断し、障害等級が決定されます。
しかし、発達障害は視力や聴力などと違い、検査等の数値で障害の程度を客観的に測ることができません。
そこで、日本年金機構では「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」を用いて、障害等級を公平に判定しています。
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の詳細が知りたい人は、関連記事をご覧ください。
5分でわかる!精神の障害にかかる等級判定ガイドライン参考:国民年金・厚生年金保険 障害認定基準(61ページ)|日本年金機構
発達障害で障害年金を受給するための3つのポイント
発達障害で障害年金を受給するためにおさえておきたいポイントは、次の3つです。
順番に見ていきましょう。
初診日を証明する
発達障害で障害年金を受給するには、初診日を証明することが必要不可欠です。
発達障害のある人で、知的障害を伴うケースや、精神疾患での通院歴がある人の場合には初診日がいつなのかと迷うことが多いので、特に注意しましょう。
症状や経緯による初診日の違いを下表に示します。
発達障害の症状など | 初診日 |
---|---|
先天性の知的障害(精神遅滞)を伴う発達障害 | 出生日 |
知的障害を伴わない発達障害 | 自覚症状があって初めて診療を受けた日 |
精神疾患で受診後、発達障害の診断を受けた | 精神疾患で初めて診療を受けた日 |
発達障害のある人は、発達障害特有の症状の他に抑うつや不安の症状もあることが多くみられます。
この場合、最初に受診した病院では、発達障害と診断されずに「うつ病」や「不安神経症」という診断をされる場合があるのです。
最初の病院で発達障害と診断されていなくとも、何かしらの精神症状で病院に行ったのであれば、最初の病院で診療を受けた日が初診日です。
初診日の考え方は、関連記事でさらに詳しく解説しています。
障害年金における「初診日」とは?初診日の重要性や証明方法も併せて解説診断書に自分の状態を正しく反映してもらう
「診断書」は医学的な視点から障害の状態や治療、日常生活の能力について記載するものです。
発達障害での障害年金の審査において、診断書に書かれた日常生活の能力は重要視されています。
障害年金の審査は書類審査のみで、面談や聞き取り調査等はありません。
そのため、診断書に日常生活での困りごとや周囲の配慮などを正しく反映してもらい、日常生活の能力や自分の状態が審査する人に伝わる診断書を作成してもらうことが大切です。
主治医は、病状や診察室での様子についてはわかりますが、自宅や職場での様子はわかりません。
主治医とは、ふだんの診察でも積極的にコミュニケーションをとり、日常生活について理解してもらうことで、診断書へ正しく反映してもらえる可能性が高まるでしょう。
診断書の日常生活能力の判定の詳細は、関連記事でわかりやすくご紹介しています。
障害年金の診断書の重要事項!日常生活能力の判定とは?医師への効果的な伝え方もご紹介病歴・就労状況等申立書はポイントを押さえて記載する
病歴・就労状況等申立書を記載する際には、要点を押さえた不備のない書類に仕上げることが重要です。
病歴・就労状況等申立書は、障害年金を請求する人が作成する書類で、これまでの通院歴や生活の状況を記載します。
病歴・就労状況等申立書の作成の際は、次の3つを意識すると書きやすくなります。
- 障害認定基準に記載されている審査の対象となる事項に基づいて記載することが大切です。
- 経済的に困っていることや気持ち(感情:つらい、苦しい等)を記載しても審査の対象とはなりません。
- 診断書が出来上がったら診断書の内容と病歴・就労状況等申立書の内容に相違がないか確認し、整合性を取ることが大切です。
病歴・就労状況等申立書には、診断書には診断書ではわからない部分を補い、年金の審査をする人にわかりやすく伝える役割があります。
病歴・就労状況等申立書は、次のような点を踏まえて作成しましょう。
- 出生日から現在までを切れ目なく病歴・就労状況等申立書に書いていきます。(発達障害独特の書き方です)
- 医療機関を受診している期間は、医療機関ごとに枠を区切ります。
- 通院期間、受診回数、入院期間、治療経過、医師から指示された事項、転医・受診中止の理由、日常生活状況、就労状況などを記載します。
- 同一の医療機関を受診している期間または医療機関を受診していない期間が長期に渡る場合には、3~5年ごとに枠を区切ります。
- 幼稚園や学校で困ったことや先生に指摘されたこと等、エピソードがあれば記載すると望ましいです。
- 日常生活の支障や援助、労働の支障や配慮等も詳しく記載します。
- 医療機関を受診していない期間は、その理由、自覚症状の程度、日常生活状況、就労状況などについて具体的に記載します。
病歴・就労状況等申立書の書き方や注意点は、関連記事でさらに詳しく紹介しています。興味のある方はぜひご覧ください。
病歴・就労状況等申立書の書き方は?基本の記入例から注意するべきポイントまで解説障害年金の申請方法
発達障害で障害年金を申請する場合の流れは、以下のとおりです。
障害年金の申請には、多くの書類を取得したり作成したりしなければならず、申請準備に数か月から1年以上かかることもあります。
障害年金の申請方法の詳細は、下記の関連記事をご覧ください。
障害年金申請の流れとは?7つのステップで徹底解説発達障害での障害年金受給|よくある質問
発達障害での障害年金受給の際に寄せられる質問について回答していきます。
発達障害で働きながら障害年金を受給できますか?
発達障害のある人が働いていても、仕事や生活に支障があれば障害年金を受給できる可能性があります。
しかし、診断書を見る限りは障害等級に該当しているにも関わらず、働けているという事実のみによって障害年金が不支給になったり、不利な等級で認定されたりすることは少なくありません。
年金の審査の際に「働くことができる」=「発達障害の症状が軽い」と判断される傾向があるのです。
発達障害のある人が働いている場合、他人とのコミュニケーションが少ない業務や単純作業に従事するというように会社から配慮を受けていることが多いです。
障害者雇用枠で就労していたり、職場で特別に受けている配慮や仕事上の支障があれば、それを診断書や病歴・就労状況等申立書に反映させましょう。
発達障害で一人暮らしをしている場合、障害年金をもらえるのでしょうか?
発達障害のある人が一人暮らしをしている場合、年金の審査をする人からは発達障害の症状が軽いと判断されやすい傾向があります。
一人暮らしの人は、日常生活における支障や困っていることをしっかりと病歴・就労状況等申立書に記載し、家族や知人の手を借りている場合にはサポート内容も具体的に書きましょう。
診断書でも日常生活の困りごとや仕事で支障があることを正しく反映してもらえるように、主治医と情報共有することをおすすめします。
診断書作成を断られたり、実際の症状よりも軽く書かれたらと不安です…
診断書の作成を医師に断られた場合、考えられる理由としては医師が障害年金制度や発達障害の障害認定基準を理解していないということが多いです。
そんなときは無理に診断書作成を依頼するのではなく、発達障害で障害年金が受給できることを医師に説明し、理解いただけた上で初めて診断書作成を依頼するのがスムーズです。
「障害年金の受給ありき」ではなく、自分の発達障害の症状は障害年金の基準に該当する可能性があるからというスタンスだと主治医との関係を悪化させることはありません。
また、出来上がった診断書の内容が自分の症状よりもはるかに軽い症状だった場合には、日常生活能力についてしっかりと医師に伝えきれていないことが考えられます。
この場合も、無理に診断書の修正を依頼するのではなく、「日常生活はどのように送っているのか」「どのようなことを誰に援助してもらっているのか」というようなことを医師に具体的に伝え、理解していただいてから修正を依頼してみましょう。
ピオニー社会保険労務士事務所での受給事例
弊所での発達障害での受給事例を紹介します。
発達障害で障害厚生年金2級を遡及して受給できた事例
- ご相談者 30代 男性
- 認定結果 障害厚生年金 2級
- 受給額 年間約140万円 遡及分として約700万円
【ご相談者さまの状況】
幼少期から人とコミュニケーションを取るのが苦手で、学生時代は孤立することも多く、社会人になってからも、人間関係がうまく築けずに仕事が長続きしませんでした。
医師のすすめで障害者手帳を取得後、障害者雇用枠で勤務し何年か継続して働いているときに弊所にご相談をいただきました。
【ご相談から障害年金受給までのサポート】
弊所にご相談いただく前にほかの社労士事務所にも問い合わせをしたところ、「フルタイムで働いているから障害年金は受給できない」と、断られていたとのことです。
弊所の社労士が、これまでの生活の状況や困りごとなどを丁寧にヒアリングし、わかったことは次のようなことです。
- 職場では自分のペースでできる仕事を担当するように、会社から配慮を受けている
- 上司や同僚とは、必要なときだけコミュニケーションを取る
- 部屋の片付けや整理整頓が苦手で、周囲の人のサポートを受けている
- 食事の好みに偏りがある
上記のように、日常生活や仕事でも大きな支障があることがわかり、主治医にこの現状が詳しく反映された診断書を書いてもらえるようにサポートしました。
【審査の結果】
障害厚生年金 2級 約140万円+遡及分約700万円が受給できました。
ピオニー社会保険労務士事務所では、発達障害やうつ病、双極性障害で働いている方が障害年金を受給できるケースはとても多いです。
「今は働いているから…」と諦めずに、ぜひご相談ください。
まとめ
発達障害で仕事や生活に支障がある場合、障害年金を受け取れる可能性があります。
障害年金はすべて書類で審査されますが、発達障害での申請の場合は特に書類の作成が難しかったり、書類の準備が大変だと感じる人は少なくありません。
そんなとき、社労士は障害年金の書類の作成や申請代行をお力添えできます。
発達障害での障害年金の請求に不安があるときは、障害年金専門の社労士にお気軽にご相談ください。