発達障害は、ご本人がつらい思いを抱えて病院に行ってもなかなか診断に結びつきにくい病気でした。
しかし社会人になり、職場に馴染めなかったり仕事が安定しなかったりし、病院に行って初めて発達障害と診断される方が増えております。
発達障害で日常生活や労働に支障がある方は障害年金を受給できる可能性があります。
また、障害者雇用枠で働きながら障害年金を受給している発達障害の方はとても多くいらっしゃいます。
目次
発達障害で障害年金を受給するためには「初診日」が重要
まず、発達障害の症状が出てから最初に行った病院はどこだったか、その病院に初めて行った日はいつだったのかを突き止めることが重要です。
症状が出て初めて病院に行った日を障害年金では「初診日」と言います。
発達障害の方は、発達障害特有の症状の他に抑うつや不安の症状もある方が多く、最初の病院では発達障害という診断はされずに「うつ病」や「不安神経症」という診断をされる場合がありますが、発達障害と診断されていなくとも何かしらの精神症状で病院に行ったのであればそこが初診日となります。
初診日が確定できたら、①初診日の要件と②保険料納付要件を確認します。
発達障害で障害年金を受給するためにはいくつかの条件があり、それを全て満たさなければなりません。
- 初診日の要件とは、発達障害の初診日において国民年金か厚生年金の被保険者であること。
- 保険料納付要件とは、初診日の前日において年金保険料を一定期間以上納付していること。
具体的には、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間についての保険料納付済期間と免除期間を合算した期間が加入期間の3分の2以上納められていること。
または、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に滞納期間がないこと。
※20歳前に初診日がある発達障害の場合には、保険料納付要件は問われません。
①初診日の要件と②保険料納付要件の両方を満たした上で、発達障害の障害状態が障害年金を受給できる程度かどうかを判断していきます。
ですので、どんなに発達障害の症状が重く寝たきりの状態なったとしても、①初診日の要件と②保険料納付要件を満たさなければ、発達障害で障害年金を受給することはできません。
また、初診日がいつで、どこの病院に行っていたかどうかは、「受診状況等証明書」という書類で証明しなければなりません。
発達障害で障害年金がもらえる程度とは~「障害認定基準」
発達障害がどの程度の症状であれば障害年金が受給できるかどうかを定めた基準があり、それを「障害認定基準」と言います。
【発達障害とは】…自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発症するもの。
発達障害の認定基準は以下の通りです。
1級の認定基準
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの
2級の認定基準
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの
3級の認定基準
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働に著しい制限を受けるもの
1級から3級までありますが、初診日に国民年金に加入していた方は1級か2級で、3級はありません。
3級を受給できるのは、初診日に厚生年金に加入していた方が対象となります。
また、発達障害で障害年金を受給できるかどうかは以下の点も考慮されます。
- 発達障害については、たとえ知能指数が高くても社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受けることに着目して認定を行う。
- 発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。
- 発達障害は、通常低年齢で発症する疾患であるが、知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が20歳以降であった場合は、当該受診日を初診日とする。
- 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。
- 就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事している。
したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
社労士 石塚
発達障害の診断書と日常生活能力について
発達障害で障害年金の請求(申請)をする場合には、精神の障害用診断書(様式第120号の4)を使用します。
そして、発達障害の症状がどの程度かどうかは日常生活能力によって審査され、等級が決められます。
その等級を公平に判定するために平成28年(2016年)9月より「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の運用が始まりました。
この「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には、発達障害の診断書に記載される「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」に応じた等級の目安が定められています。
発達障害の障害年金を受給する手続き方法について
発達障害で障害年金を請求(申請)する場合の流れは、以下のとおりです。
障害年金を申請する際には、多くの書類を取得したり作成しなければなりません。
一つずつ確実に進めていけば障害年金を受給することができますが、申請準備に数か月かかることもあります。
発達障害で障害年金の請求(申請)をする時に気を付けること
発達障害で障害年金の請求(申請)をする時に気を付ける点がいくつかあります。
発達障害の病歴・就労状況等申立書
発達障害で障害年金の請求(申請)をする場合の病歴・就労状況等申立書は、出生時から現在までを記載していきます。
【病歴・就労状況等申立書の書き方】
- 出生日から現在までを切れ目なく病歴・就労状況等申立書に書いていきます。
(発達障害独特の書き方です) - 医療機関を受診している期間は、医療機関ごとに枠を区切ります。
- 同一の医療機関を受診している期間または医療機関を受診していない期間が長期に渡る場合には、3~5年ごとに枠を区切ります。
- 幼稚園や学校で困ったことや先生に指摘されたこと等、エピソードがあれば記載すると望ましいです。
- 日常生活の支障や援助、労働の支障や配慮等も詳しく記載します。
- 医療機関を受診していない期間は、その理由等を記載します。
ポイント
- 障害認定基準に記載されている審査の対象となる事項に基づいて記載することが大切です。
- 経済的に困っていることや気持ち(感情:つらい、苦しい等)を記載しても審査の対象とはなりません。
- 診断書が出来上がったら診断書の内容と病歴・就労状況等申立書の内容に相違がないか確認し、整合性を取ることが大切です。
発達障害で働きながら障害年金を受給する場合
発達障害の治療を受けながら障害者雇用枠でフルタイム就労をしていたり、パートタイムで働いていたりする場合は障害年金を受給できないのか?というご質問はとても多いです。
発達障害の障害認定基準や等級判定ガイドラインには、就労していたら障害年金を受給することはできないという記載はありません。
しかし、診断書を見る限りは障害等級に該当しているにも関わらず、働けているという事実のみによって不支給(障害年金がもらえない)になったり、不利な等級で認定されたりすることはとても多いのが現状です。
「働くことができる」=「発達障害の症状が軽い」と判断されるのです。
発達障害の方が働いている場合、他人とのコミュニケーションが少ない単純作業に従事するというように配慮を受けていることがありますので、職場での配慮や仕事上の支障があればそれを診断書や病歴・就労状況等申立書に反映させることが重要です。
ちなみに発達障害の方が障害厚生年金3級を受給しながら働いていることは多いですし、障害年金をもらいながら無理のない就労を続けるということは望ましい姿です。
また、ここ最近では障害者雇用枠での就労でないと、発達障害の方が働きながら障害年金を受給することは難しくなっています。
発達障害の方が一人暮らしをしている場合
発達障害の方で一人暮らしをしている方も多いと思います。
障害年金の基準では、一人暮らしをしていると障害年金が受給できないとは書かれておりません。
しかし、「一人暮らしができている=発達障害の症状が軽い」と審査側に思われることもあります。
一人暮らしをしている場合には、特に日常生活における支障や困っていることをしっかりと病歴・就労状況等申立書や診断書に表し、家族や知人の手を借りている場合にはその援助の内容も書くようにするとよいでしょう。
診断書作成を断られた場合や実際の症状よりも軽く書かれた場合
発達障害で障害年金を受給するために最も重要なのが、医師に診断書を作成していただくことです。
しかし、医師によっては「あなたの発達障害の症状では障害年金はもらえないから診断書を書かない」と診断書の作成を拒否されたり、出来上がった診断書は自分の症状よりもはるかに軽い症状の記載だったりすることがあります。
診断書の作成を医師に断られた場合は、考えられる理由として、その医師が障害年金制度や発達障害の障害認定基準を理解されていないということが多いので、無理に診断書作成を依頼するのではなく、発達障害で障害年金が受給できることをご説明し、ご理解いただけた上で初めて診断書作成を依頼するのがスムーズです。
あくまでも「障害年金の受給ありき」ではなく、自分の発達障害の症状は障害年金の基準に該当している可能性があるからというスタンスだと主治医との関係を悪化させることはありません。
また、出来上がった診断書の内容が自分の症状よりもはるかに軽い症状だった場合には、日常生活能力についてしっかりと医師に伝えきれていないことが考えられますので、無理に診断書の修正を依頼するのではなく、日常生活はどのように送っているのか、どのようなことを誰に援助してもらっているのか、というようなことを具体的にお伝えするようにしましょう。
さいごに
発達障害で障害年金を受給するためには、他のうつ病などの精神障害とは違う対策やコツが必要です。
一生付き合っていく障害なので、障害年金を受給しながら無理なく生活ができるとよいですね。
社労士の中でも発達障害を得意としている人もいますので、ご自分で申請が難しいと思った場合には無料相談などをご利用ください。