脳梗塞は、脳の血管がつまって、頭痛やめまいなどが突然起こる病気です。
治療後も後遺症が残る可能性が高いことで知られる脳梗塞ですが、発症後すぐに医療機関を受診すれば回復できるケースもあります。
そこで、本記事では脳梗塞の前兆症状をわかりやすくご紹介します。
最後まで読むと、脳梗塞になりやすい人や予防法もわかるので、脳梗塞を防ぎたいと考える人はぜひ参考にしてください。
目次
脳梗塞とは
脳梗塞は、脳卒中のひとつで脳の血管に血栓ができて詰まったり、血管が細くなっていて詰まることで起こります。
厚生労働省の統計によると、脳卒中は2022年の日本人の死亡原因の第4位で、「がん」「心疾患」「老衰」に次いで多くの方が脳卒中で命を落としています。
脳卒中には下図のように「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3種類があります。
出典:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
「脳出血」と「くも膜下出血」は、脳の血管が破れて出血することで起こります。
一方、脳梗塞は脳の血管が詰まる病気です。脳に血液が送られず脳細胞が死んでしまい、生き返ることはありません。
死んだ脳細胞が担当していた機能や感覚が失われ、脳梗塞の治療後も麻痺やしびれなどが後遺症として残ることも多くあります。
参考:令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況(12ページ)|厚生労働省
脳梗塞の種類
脳梗塞は、詰まった血管の太さや場所などにより、3つの種類に分けられます。
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ラクナ梗塞
出典:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
ラクナ梗塞は、脳の奥の細い血管で起こる脳梗塞で、高齢者や男性に多く発症する傾向があります。
脳がダメージを受ける部分が小さいため、大きな症状が出ないことがあり、ラクナ梗塞が起こっても気づかずふだん通りに日常生活を送っている人も多く見られます。
しかし、ラクナ梗塞が脳内で多発して脳の血管が詰まると、脳の神経細胞に必要な酸素と栄養が届かなくなります。
その結果、認知機能に障害が起こって「血管性認知症」を発症したり、脳出血を起こすケースもあります。
症状がないからといって、ラクナ梗塞を放置することは危険といえるでしょう。
アテローム血栓性脳梗塞
出典:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
アテローム血栓性脳梗塞は、脳内の大きな血管や頸動脈が動脈硬化で狭くなったところへ、血栓※ができて血管を詰まらせたり、血栓がはがれて脳血管を詰まらせたりして起こる脳梗塞です。
※血栓とは、血管の中に血の塊ができること
アテローム血栓性脳梗塞では、脳の大きな血管で起こるため、脳の広い範囲に影響を与えて、手足のしびれや脱力、目の前が真っ暗になるなどの症状が出ることが特徴です。
また、就寝中などの安静時にも症状が出ることが知られています。
心原性脳塞栓症
出典:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
心原性脳塞栓症は、心臓でできた血栓が血流によって脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせる脳梗塞です。
これまで問題のなかった脳血管が突然詰まるので、頭痛やめまい、視覚の異常などが急に起こります。
心原性脳塞栓症は重症化することが多く、早急な治療が必要です。
特に、心房細動のある人は脳梗塞になる確率が2〜7倍ほど高くなります。
心房細動は高齢者によく見られる病気で、不整脈を引き起こします。健康診断で不整脈や心房細動があると指摘されたら、医療機関を受診しましょう。
脳梗塞の前兆とは
脳梗塞の前兆としては主に次の5つが挙げられます。
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ひとつずつ見ていきましょう。
片側の手足の麻痺や感覚障害
- 顔や手足が痺れる
- 手足が動かない
- 脱力感がある
- 持ったものを落とす
- 感覚がなくなる
食事中に箸を落としたり、お茶碗をうまく持てないなどの症状が見られます。
顔や手足などが引きつったり、感覚がなくなるなど、「片側だけ」に症状が現れるのが特徴です。
言語障害
- 相手の言うことがわからなくなる
- 言葉が出なくなり、言いたいことが言えない
- 呂律が回らない
いつもはすっと出てくる言葉が、急にわからなくなったり、はっきりと発音できなくなります。
運動失調・平衡感覚
- めまいがして立っていられない
- 力はあるが立てない
- 動きがぎこちない
歩いてみると片方の足を引きずってしまうなど、スムーズな動きができなくなります。
ふらついたり、足元がおぼつかないケースもみられます。
視力・視覚障害
- 片方の目が見えない
- 視野が欠ける
- 物が二重に見える
- 目が見えにくい
片方の視力が急に悪くなったり、物が見えづらいなど、視力全般に影響が及びます。
頭痛
- 急に今までにないほどの激しい頭痛に襲われる
これまで経験したことがないぐらいの痛みがある頭痛は、脳梗塞の前兆である可能性が高いといえます。
脳梗塞の前兆の症状は「突然」「急に」起こります。
上記のような前兆があったら、様子見せずにすぐに医療機関を受診しましょう。
参考:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
脳梗塞を簡易チェック!ACT FAST
アメリカの脳卒中協会では、「ACT FAST」という脳卒中の簡易チェックを推奨しています。
試すこと | 脳卒中の可能性があるとき | |
---|---|---|
Face(顔) | 口を横にひいて笑う | ・口を横にひくと、口がゆがむ ・顔が片側だけ下がる ・口角が下がる |
Arm(腕) | 手のひらを上にして、両手を前に上げる | ・片方の手が下がる |
Speech(言葉) | 簡単な文章を言う 例)今日はいい天気です | ・呂律が回らない ・言葉が理解できない ・文章を正しく繰り返せない |
Time(時間):上記の症状がひとつでもあったら、すぐに救急車を呼ぶ
脳梗塞を含む脳卒中は、発症してから4時間半以内に血栓を溶かす治療薬(rt-PA)治療を開始すれば、後遺症を最小限にとどめる可能性が高まります。
3つのチェックのうち、ひとつでもあてはまれば脳梗塞を含む脳卒中の可能性が高いので、早急に医療機関へ行きましょう。
参考:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
一過性脳虚血発作
脳梗塞では、一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる前触れの発作が起こることがあります。
一過性脳虚血発作とは、先ほどご説明した脳梗塞の前兆の症状が出たあと、数分から1時間程度で症状が改善する発作です。
一過性脳虚血発作では、脳梗塞と同じように血栓などが血管に詰まって、めまいや麻痺など脳梗塞の前兆の症状が出ます。血栓が小さいなど血管の詰まりが弱く、時間の経過で血栓が溶けて血流が再開し症状がなくなります。
そのため「体調が悪かったせいかな」と様子見をしがちですが、一過性脳虚血発作が起こったあと、数日から3か月以内に本格的な脳梗塞を起こす可能性があります。
特に糖尿病、高血圧の人は危険性が高く、アテローム血栓性脳梗塞では一過性脳虚血発作が出る人が多い特徴があります。
脳梗塞の前兆症状がすぐに治まっても安心せずに、医療機関を受診しましょう。
参考:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
脳梗塞はどこで診てもらえる?
脳梗塞が心配で病院に行きたいとき、どこで診てもらえるのかと疑問を持つ方も多いと思います。そこで、脳梗塞を診る科を3つご紹介します。
【神経内科】
神経内科では、脳梗塞を含む脳卒中の初期診断と薬物治療を行います。
現在は脳梗塞の症状がなくても、高血圧などの脳卒中を起こすリスクのある病気の診断や治療などが受けられます。
健康診断などで高血圧があると言われたり、脳梗塞が心配なときは神経内科を受診しましょう。
【脳神経外科】
脳神経外科では、脳外科手術や脳血管内治療などを担当します。
地域や医療機関によっては、「脳梗塞は神経内科」「脳出血やくも膜下出血は脳神経外科」と役割分担していることもあります。
一方で、大規模な医療機関では「脳卒中センター」や「脳卒中科」など、脳卒中を専門に診察するケースもあるので、自分が受診予定の医療機関では脳梗塞を診察してもらえるかを事前に確認することをおすすめします。
【リハビリテーション科】
リハビリテーション科では、脳梗塞を含む脳卒中で失われた機能を改善する目的で、リハビリテーションを行います。
寝返りをうったり、自力で立つ、座る、歩くなどの運動機能の改善のほかにも、発声や口、のどの筋肉を動かすなどの言語機能の回復を目指します。
脳梗塞の予防方法
脳梗塞の症状は突然起こりますが、生活習慣や食生活を整え、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を管理できれば予防できます。
脳梗塞を予防する方法を3つご紹介します。
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順番にみていきましょう。
高血圧や糖尿病の治療を受ける
すでに高血圧や糖尿病の人は、定期的に通院し治療を続けましょう。
高血圧、糖尿病、脂質異常症などは動脈硬化を悪化させ、脳梗塞の要因となります。
たとえば、高血圧の場合、血管に長い期間にわたり高い圧力がかかってきたため、全身の血管が次第に硬くなり、動脈硬化を引き起こします。
糖尿病も同様に、長期間にわたり血管が高血糖状態にさらされることによって血管を傷め、動脈硬化になってしまうのです。
動脈硬化は全身の血管で起こり、脳梗塞だけではなく、大動脈瘤、心筋梗塞、眼底出血などの原因にもなります。
自覚症状はなくても、きちんと治療して血圧や血糖値等を管理することが大切です。
参考:11月 知ろう!「血管病」としての糖尿病|全国健康保険協会
生活習慣を見直す
生活習慣を見直すことが、脳梗塞の予防につながります。
【煙草やお酒の飲みすぎ】
煙草やお酒の飲みすぎは、全身に悪影響を及ぼすことが知られています。
特に煙草は、脳梗塞だけではなく、心臓病やがん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクを高めます。この機会に禁煙にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
【メタボリックシンドローム】
メタボリックシンドローム(肥満)も脳梗塞のリスクを高めます。適正体重を維持するために、生活サイクルの中に軽い運動を取り入れましょう。
お部屋の中で体操をしたり、ストレッチをしたりするなど、できることから少しづつ始めます。運動の習慣が身についたら、ウォーキングや水泳などの有酸素運動や筋力トレーニングを始めるのもおすすめです。
【気分転換】
せっかく始めた生活改善も、楽しくなければ長く続けるのは難しくなります。「今日はやる気が出ないな」と思う日もあるでしょう。
そんなときは、生活の中に気分転換を取り入れてみてはいかがでしょうか。
たとえば、たまには運動をお休みして好きな映画を見に行ったり、仲のいい友達と食事に出かけたりするとリフレッシュできて、また明日から頑張る元気が湧いてくるでしょう。
ストレスの多い時代なので、毎日を楽しく生活することも大切です。
規則正しい生活を送り、十分な休養をとることで翌日に疲れが残らない毎日を目指しましょう。
食生活を見直す
食生活を改善することで、健康状態が良くなり、脳梗塞の予防につながります。
日本人の食生活は塩分の多いメニューが多くありますが、減塩することで高血圧を予防する効果が期待できます。
また、肉類やファストフードを食べる機会が多い人は、魚や果物、野菜を取り入れてバランスの取れた食事を心がけましょう。
水分補給も脳梗塞の予防には重要です。
体内で水分が不足すると、血管内で血栓ができやすくなることが知られています。
汗をかく夏場だけではなく、年間を通してこまめに水分を取って、血栓ができるのを防ぎましょう。
まとめ
脳梗塞は、脳の血管が詰まって脳の細胞が死んでしまい、言語障害や麻痺が起こる病気です。
死んでしまった脳細胞が再生することはなく、後遺症が残るケースが多く見られます。
脳梗塞を発症しても、すぐに医療機関にかかれば、後遺症が残らず回復することもあります。
急な激しい頭痛や感覚麻痺などの前兆があったら、すぐに救急車を呼んで医療機関を受診しましょう。
脳梗塞は突然発症しますが、生活習慣や食生活を見直し、高血圧や糖尿病の治療を続けることで予防ができます。
今からできることを始めて、脳梗塞を予防しましょう。