障害年金に時効があることをご存じですか。
障害年金の時効というと、「5年で消滅する」と耳にすることが多いです。
また障害年金の時効については、こんな声も聞かれます。
「障害年金は5年過ぎたら、もう請求できないのかな」
「5年の時効が来ると、障害年金はどうなるの?」
そこで本記事では、障害年金の2つの時効や時効がなくなる認定基準についてわかりやすく解説します。
障害年金の遡及請求や年金時効特例法についてもご紹介しますので、最後まで読んで参考にしてください。
- 障害年金の時効
- 障害年金の遡及請求で遡って年金が支給される期間
- 時効がなくなる年金時効特例法
目次
年金の時効とは
ひとくちに「年金の時効」と言いますが、実は年金の時効には「基本権の時効」と「支分権の時効」の2つの種類があります。
2つの時効について、それぞれ順番にご紹介します。
基本権とは年金を受ける権利
「基本権」とは、年金を受ける権利のことです。
基本権の時効は、国民年金法と厚生年金保険法で下記のように定められています。
年金給付を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から五年を経過したとき、(略)時効によって、消滅する。
国民年金法第102条第1項
保険給付を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から五年を経過したとき、(略)時効によって、消滅する。
厚生年金保険法第92条第1項
基本権(年金を受ける権利)は、年金を受ける権利が生じてから5年が経つと時効により消滅します。
参考:年金の時効(日本年金機構)
参考:国民年金法(e-Gov法令検索)
参考:厚生年金保険法(e-Gov法令検索)
支分権とは年金の支給を受ける権利
「支分権」とは、受給権※が生じた年金の支給を受ける権利のことです。
※「受給権」とは、一定の要件を満たして年金を受ける権利
支分権は、受給権の発生時期により時効の取り扱いが違います。
下記の表は、受給権の発生時期による時効の取り扱いをまとめたものです。
受給権の生じた時期 | 時効の取り扱い |
---|---|
平成19年7月6日以前 | ・5年を経過したときは消滅 ※年金時効特例法による例外あり |
平成19年7月7日以降 | ・5年を経ても自動的に消滅しない ・国が個別に時効を援用する※ことによって、時効が完成し権利が消滅する (年金記録の訂正や事務処理誤りの場合を除く) |
※「時効を援用する」とは、時効が完成すると利益を受ける者が、権利を持つ者に「時効が成立したので権利が消滅した」と主張すること
年金時効特例法により、平成19年7月6日以前に受給権が生じた年金の時効は年金記録の訂正があった場合、時効がなくなり、年金は全額支給されます。
年金時効特例法については、後ほどご紹介します。
障害年金の時効とは
年金の時効に2つの種類があることがわかりました。
障害年金にも、同様に「基本権の時効」と「支分権の時効」があります。
次章でそれぞれをわかりやすく解説します。
障害年金を受ける権利(基本権)の時効
基本権(年金を受ける権利)は、障害年金においても権利が生じてから5年が経つと時効で消滅します。
しかし、多くの方が障害年金が請求できることを知らなかったり、年金の制度がよくわからず障害年金を請求できなかったというのが現状です。
そこで、上記のようなやむを得ない事情が合った場合は、障害年金の請求ができなかった理由を申立書に記載し、年金事務所に提出する取り扱いをしています。
この申し立てをすることにより時効がなくなり、年金を請求できる日から大幅に遅れても年金の請求ができます。
そのため、基本権が時効の問題になることはありません。
参考:年金裁定請求の遅延に関する申立書(日本年金機構)
参考:年金の時効(日本年金機構)
障害年金の支給を受ける権利(支分権)の時効
障害年金の支給を受ける権利(支分権)とは、障害年金の受給権を得て初めて発生する権利です。
障害年金の請求をして保険者(国や共済組合)から障害年金の決定をもらうことで、障害年金の支給を受ける権利が発生します。
つまり、障害年金の支給日に年金を受ける権利が「支分権」です。
障害年金の支給を受ける権利(支分権)は、5年の時効を迎えると消滅します。
ここまでご説明してきた障害年金の時効をまとめると、次のようになります。
- 障害年金は、長い間請求していなくても申し立てをすれば請求できる
- 過去に遡って受け取る障害年金は、時効により最大で5年分のみが支給となる
障害年金の時効で問題となるのは、障害年金の遡及請求(そきゅうせいきゅう)をしたケースです。
次章で遡及請求についてご説明します。
障害年金の遡及請求とは
「遡及請求」とは、障害年金の請求方法の一つです。
遡及請求では、障害認定日に障害等級に該当していたけれど、長期間に渡り障害年金の請求をしていない人が、障害認定日の時点に遡って障害年金の請求ができます。
遡及請求で障害認定日を10年遡ったとしても、10年分全部の年金がもらえるわけではありません。
障害年金を受ける権利(支分権)は5年で時効となるので、直近の5年分の年金のみが支給されます。
障害年金の遡及請求をくわしく知りたい方は、下記の関連記事でわかりやすく解説していますのでぜひご覧ください。
障害年金で数百万円がもらえる遡及請求とは?年金の支給を受ける権利の時効の算定方法は?
年金の支給を受ける権利(支分権)の時効は、どのように算定するのかをみていきましょう。
支分権の消滅時効の起算日は「支払期月の翌月の初日」と、国民年金法と厚生年金保険法で定められています。
(略)権利に基づき支払期月ごとに支払うものとされる年金給付の支給を受ける権利は、(略)支払期月の翌月の初日から五年を経過したときは、時効によって、消滅する。
国民年金法第102条第1項
(略)権利に基づき支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利は、(略)支払期月の翌月の初日から五年を経過したとき、時効によって、消滅する。
厚生年金保険法第92条第1項
「支払期月の翌月の初日」とはいつのことを指すのかは、障害年金の支給の流れを見ると理解できます。
次章で障害年金の支給の流れを見ていきましょう。
参考:国民年金法(e-Gov法令検索)
参考:厚生年金保険法(e-Gov法令検索)
障害年金の支給の流れ
障害年金の支給は下記のようなフローとなります。
障害年金の支給月と支払期月をまとめました。
支給される月 | 支給日※(支払期月) | 支払期月の翌月の初日 (支分権の消滅時効の起算日) |
---|---|---|
前年の12月と1月 | 2月15日 | 3月1日 |
2月と3月 | 4月15日 | 5月1日 |
4月と5月 | 6月15日 | 7月1日 |
6月と7月 | 8月15日 | 9月1日 |
8月と9月 | 10月15日 | 11月1日 |
10月と11月 | 12月15日 | 翌年の1月1日 |
上記の表の通り、「支分権の時効の起算日」は年金の支給があった月の翌月1日です。
支分権の時効の起算日(支払期月の翌月の初日)から5年を経過すると、時効により年金を受ける権利(支分権)は消滅します。
なお、支分権の時効については老齢年金、遺族年金も同様に5年です。
障害年金の支給日について、もっとくわしく知りたい方は下記の関連記事をご覧ください。
障害年金の支給日について徹底解説【初回支給日・時間】時効がなくなる年金時効特例法とは
ここまで障害年金の支分権の時効は5年とご説明してきました。
しかし、年金時効特例法により時効が完成せずに年金が全額支給されるケースがあります。
下図は、年金時効特例法により全期間遡って支払いができる例です。
年金時効特例法は、年金記録の訂正による年金の増額分を時効により消滅した分を含めて、本人やご遺族の方へ全額支給するため、平成19年7月から施行されています。
年金記録が新たに見つかったり、年金記録の訂正があった場合、5年の時効は適用されず全期間遡って年金が支給されます。
時効が援用されない8つの認定基準
年金記録の訂正のほかにも時効が援用されずに、年金が全額支給となるケースが8つあります。
8つの年金の時効消滅が援用される認定基準については、厚生労働省から日本年金機構に通知が出されており、下記のようになります。
項目 | 認定基準 |
---|---|
受付時の書類管理誤り | 日本年金機構が保有している請求書等について下記の事実が確認できる場合 ・担当部署への回付漏れ ・請求書等へ押印された受付印の年月日の誤り ・押印漏れ |
確認または決定誤り | 下記の事実が確認できる場合で、事実の発生について受給権者に責任がない場合 ・日本年金機構での請求書等の内容の確認誤り ・受給要件に係る事実関係の誤認 ・法令等の適用誤りによる誤った行政処分が行われた等 |
未処理または処理の遅延 | ・請求書等の未処理 ・処理の遅延 |
入力誤り | 適正に審査された請求書等とは違う内容が、システムに登録されている ことが確認できる場合 |
通知書の作成誤り | ・通知書※の様式誤り ※年金証書、裁定通知書または支給額変更通知書等の処分通知書に限る ・処分の名宛人の記載誤り |
誤送付または誤送信 | システムまたは請求書等に記載された住所地もしくは処分の名宛人以外への通知書について下記の事実が確認できる場合 ・誤送付 ・誤送信 ・誤交付 |
説明誤り | 日本年金機構、市区町村の窓口、電話等で下記の事実があったと確認でき、事実の発生に受給権者の責任がない場合 ・制度の説明誤り ・説明漏れ ・請求書等の作成や添付の指示誤り ※市区町村が行った説明は、国民年金の法定受託事務を行ったものに限る |
受理後の書類管理誤り | 受付した請求書等を紛失した事実が確認できる場合 |
参考:厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付を受ける権利に係る消滅時効の援用の取扱いについて(厚生労働省大臣官房年金管理審議官)
年金記録の訂正のほか、上記の8つに当てはまると時効は完成せず年金が全額支給となります。
まとめ
障害年金の時効は、障害年金を受ける権利(基本権)と障害年金の支給を受ける権利(支分権)の2つがあります。
障害年金は書面で申し立てをすることにより、長期に渡って請求していない場合でも時効が消滅し、年金の請求ができます。
しかし、障害年金を遡って受け取る場合は、たとえ障害認定日を10年遡ったとしても、年金支給を受けられるのは直近の5年分のみです。
時効により、5年以前の年金は受け取ることができません。
年金記録の訂正や日本年金機構での事務処理誤りなどで、時効が完成せず年金が全額支給になることがありますが、あまりない稀なケースです。
時効で障害年金が受け取れなくなるのが心配だという方は、早めに障害年金の請求手続きをしましょう。
障害年金の請求が難しくて大変なときには、ピオニー社会保険労務士事務所にご相談ください。