老齢年金の繰上げは危険なのか 障害年金を受けられなくなるリスクと請求前の注意点

「老齢年金は早くもらったほうが得」「65歳まで待つより、60歳から受け取って使いたい」。YouTubeなどで、このような説明を見て繰上げ受給を考えている方もいらっしゃるでしょう。しかし、受給総額の比較だけで決めることには危険があります。老齢年金を繰上げ請求すると、その後の障害年金の請求が制限されるためです。

例えば、退職して厚生年金に加入していない方が老齢年金を繰上げ、その後にうつ病やがんで受診したり、脳梗塞を起こしたりすると、繰上げをしていなければ検討できた障害年金を受けられないことがあります。また、以前からの持病が後になって悪化しても、事後重症による障害年金の請求はできなくなります。

当事務所にも、実際に繰上げ後に障害年金を受給できず、後悔されている方からご相談があります。請求前に知っていれば判断が違っていたかもしれない情報でも、手続き後に繰上げを取り消して元に戻すことは原則としてできません。

ただし、「繰上げをしたら、どのような障害年金も絶対に受けられない」という意味ではありません。初診日、加入していた年金制度、障害認定日、その時点の障害状態、請求方法によって取扱いが異なります。この記事では、老齢年金の繰上げが危険といわれる理由を、障害年金の保障を失うリスクを中心に説明します。

目次

老齢年金の繰上げで失うのは年金額だけではありません

早く受け取るメリットと取り戻せないデメリットがあります

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取る年金です。一定の条件のもとで、60歳から65歳になる前までに受給開始を早める制度が繰上げ受給です。早く収入を確保できることは、生活費に困っている方などにとって大きな意味があります。

しかし、繰上げには、生涯続く減額と、ほかの年金や給付に及ぼす影響があります。特に見落としてはいけないのが、将来、病気やけがで生活や仕事が難しくなったときの障害年金です。毎月の受給額が少し減るという問題だけではありません。

障害年金を請求できる選択肢が狭くなると、健康状態が変わり、支出が増え、働けなくなった場面で影響が表れます。元気な時点の家計だけを見ていると、この不利益を実感しにくいことに注意が必要です。

日本年金機構も事後重症による請求ができないと注意しています

日本年金機構の繰上げ受給の案内や確認書には、繰上げ請求をした日以後は、事後重症などによる障害基礎年金・障害厚生年金を請求できない旨が示されています。持病がある方や治療中の方に向けた注意も記載されています。

これは、障害年金を申請するときに少し不利になる、という程度の話ではありません。事後重症請求という方法そのものが利用できなくなるという制限です。診断書に重い状態が記載されても、制度上の請求要件を満たさない問題は別に残ります。

受給額を試算してもらうときは、この注意点も一緒に確認してください。減額率の説明を理解したことと、障害年金への影響まで理解したことは同じではありません。

将来の病気は繰上げを決めた時点では予測できません

現在持病がなくても、60代前半に新たな病気が見つかる可能性はあります。退職後の環境変化の中で心身の状態が変わることも、突然の病気で治療や介助が必要になることも考えられます。請求時に元気だからといって、その後の保障を考えなくてよいわけではありません。

もちろん、将来必ず病気になると決めつける必要はありません。ただし、いつまで元気で働けるか分からないからこそ、公的年金には老齢だけでなく障害に関する給付があります。繰上げを考える際は、その保障を利用する条件も確認する必要があります。

「今、もらえるお金」と「状態が変わったときに利用できる制度」を、同じ生活設計の中で検討することが大切です。

繰上げ後に障害年金を請求できなくなる主なケース

60歳以上65歳未満の未加入期間の初診日には注意が必要です

障害基礎年金は、国民年金の加入期間中に初診日がある場合のほか、日本国内に住む60歳以上65歳未満の方で、年金制度に加入していない期間に初診日がある場合にも、ほかの要件を満たせば対象となる仕組みがあります。

しかし、老齢年金を繰上げた場合は、この60歳以上65歳未満の未加入期間に関する取扱いが制限されます。例えば、厚生年金に加入せず、国民年金の任意加入もしていない方が、繰上げ後に新たな傷病で初めて受診した場合です。

このとき、障害状態だけを見れば年金の等級に相当する程度でも、障害基礎年金を請求できないことがあります。現実の年齢がまだ62歳や63歳でも、「65歳前だから大丈夫」とは判断できません。

持病が悪化した後の事後重症請求もできなくなります

事後重症請求とは、障害認定日に支給対象となる程度に達していなかった方が、その後に悪化して対象の等級に該当した場合に検討する請求方法です。原則として65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。

老齢年金を繰上げ請求すると、その日以後は事後重症による請求ができません。初診日が60歳より前にあっても同じです。病院に通い始めたのが若い頃で、保険料も納めているから安心、ということにはなりません。

例えば、認定日当時は症状が軽く、繰上げ後の63歳で重くなった場合、まだ65歳前でも事後重症請求は利用できません。過去に初診日があることだけでは、将来悪化したときの請求方法まで守られないのです。

初診日が繰上げ前にあれば必ず大丈夫というわけでもありません

繰上げ前から受診していても、初診日がどの制度の加入期間にあるか、認定日がいつかで取扱いが変わります。特に、60歳以降の年金制度に加入していない期間に初診日があり、認定日前に繰上げをする場合は慎重な確認が必要です。

「病院へ行ったのは繰上げ前だから影響はないはず」という自己判断では足りません。初診日時点の要件に加え、認定日の受給権が成立するかまで、順に検討する必要があります。

繰上げ前に病気が見つかっている方ほど、老齢年金の手続きだけを先に進めず、今後考えられる障害年金の請求方法を確認してください。

うつ病やがんや脳梗塞でも受けられないことがあります

うつ病で生活や仕事に大きな制限が生じた場合

うつ病は障害年金の認定対象となる病気の1つです。ただし、診断名だけで支給が決まるわけではなく、症状や経過、日常生活への影響などから判断されます。仕事を辞めたという事実だけで受給できる制度でもありません。

ここでは、繰上げ後に新たな病気が生じた場合の制度上の違いを、説明のための仮定として考えます。日本国内で生活し、厚生年金にも国民年金の任意加入にも入っていない方が、60歳で老齢年金を繰上げ、62歳でうつ病のため初めて受診したとします。

その後、家族の援助がなければ生活を保つことが難しい状態になっても、繰上げに伴う初診日の要件の問題が生じます。繰上げをしていなければ障害基礎年金を検討できた可能性があるのに、請求できないという違いです。もちろん、繰上げがなければ必ず受給できると保証されるわけではありません。

がんや治療の影響で日常生活が難しくなった場合

がんも障害年金の対象になり得ます。がんそのものによる機能障害や全身の衰弱、治療に伴う障害などを踏まえて評価します。ステージや病名だけで決まらず、具体的な生活の制限や医学的な所見などが重要です。

前項と同じように、年金制度に加入していない方が繰上げ後にがんで初診を受けた場合、後から重い障害状態になっても、障害基礎年金の要件を満たせないことがあります。治療費だけでなく、収入が減ったときの生活費にも影響する問題です。

また、繰上げ前からがんで通院していても、認定日には該当せず、その後の進行や再発などにより事後重症請求を検討する状態になることがあります。繰上げをしていると、この請求ができません。治療が続いている方は、目先の受給額だけで判断しないことが必要です。

脳梗塞で身体や認知機能の障害が残った場合

脳梗塞では、手足の麻痺、言語の障害、高次脳機能障害などが残り、生活や就労に大きな支障が生じることがあります。障害年金では、それぞれの障害の内容や程度に応じて認定基準に照らして検討します。

退職後、年金制度に加入していない方が繰上げをし、その後に脳梗塞で初めて診療を受けた場合も、前述の初診日に関する制限が問題になります。突然介助が必要になっても、障害の重さだけで制度上の要件を乗り越えることはできません。

これらの例に共通するのは、病気が障害年金の対象であることと、ご本人が請求の要件を満たすことは別だという点です。繰上げを考える方は、「この病気なら障害年金がある」と安心する前に、ご自身の年金の状態を確認する必要があります。

繰上げ後でも障害年金を検討できるケースはあります

過去の障害認定日に受給要件を満たしていた場合

繰上げ前の障害認定日にすでに支給対象の等級に該当し、初診日や納付などの要件も満たしていた場合は、認定日による請求を検討できることがあります。過去の時点で成立していた受給権を確認する問題と、繰上げ後の事後重症請求とは分けて考えます。

この場合でも、当時の障害状態を医学的資料で示せるか、必要な時期の診断書を作成できるかなどを確認しなければなりません。現在の状態が重いから、過去も同じ程度だったとして認定日請求に変えられるわけではありません。

遡って受け取る年金には、原則として5年の時効による制限もあります。昔から病気があったという説明だけで判断せず、対象となる日と証明できる内容を整理します。

初診日が被保険者期間中なら認定日請求の検討が必要です

初診日が60歳前の国民年金の加入期間や、適切な被保険者期間にある場合、認定日が繰上げ後に来るという事情だけで、すべて請求できなくなるとは限りません。例えば、繰上げ前の任意加入期間中の初診日が問題となることもあります。

また、繰上げ後も厚生年金に加入して働いており、その加入期間中に初診日がある傷病については、障害認定日による障害厚生年金の請求を検討できる場合があります。対象となる年金の種類や併給の取扱いは、それぞれ確認が必要です。

ただし、厚生年金に入っていればどの請求方法でも利用できる、という意味ではありません。認定日に該当せず、後から悪化したときの事後重症請求ができないという制限は残ります。

例外があることを理由に繰上げを急ぐべきではありません

繰上げ後も請求できる場合があるという説明は、すでに手続きをした方の権利を見落とさないために重要です。しかし、これから繰上げをする方が「後で何とかなる」と考える根拠にはできません。

将来の病気について、初診日に厚生年金に加入しているか、認定日に対象等級に達するかを、今から確定することはできません。退職や勤務条件の変更によって、年金加入の状況も変わり得ます。

自分が例外に当てはまるだろうと期待するよりも、繰上げによって失う請求の選択肢を先に把握してください。すでに繰上げをした方は、逆に「全部無理」と決めつけず、記録に基づいて確認することが必要です。

YouTubeなどで目先のお金だけを見て繰上げを決めるのは危険です

損益分岐点の試算には将来の障害を反映していないことがあります

動画や記事では、60歳から受け取る場合と65歳から受け取る場合を比べ、何歳まで生きれば総額が逆転するかを紹介することがあります。この比較は、受給額の違いを理解する材料にはなります。

しかし、その表が、途中で病気になり働けなくなる場合や、本来検討できた障害年金を利用できなくなる場合まで織り込んでいるとは限りません。老齢年金の受給総額だけを比べた結果を、そのまま生活全体の有利・不利と考えることには無理があります。

長生きしたときの総額だけでなく、病気や障害を抱えたとき、どの収入と支援で暮らすかを考える必要があります。比較表に含まれていない条件が、ご本人にとっては大きな判断材料になることがあります。

先にもらって運用するという説明にも前提があります

「繰上げた年金を投資に回せば有利」という説明にも注意が必要です。運用益は確定しておらず、値下がりする場合もあります。一方、繰上げによる減額や障害年金の請求制限は、運用がうまくいかなかったからといって元に戻りません。

さらに、病気になったときは、予定していた仕事の収入を得られず、生活費や介助のために資金を使う必要が生じるかもしれません。長期間運用できるという前提が崩れることも考えられます。

運用の可否とは別に、公的年金の受給権と保障をどう残すかを検討してください。投資の見込み収益と、制度上失う選択肢を、同じ確実さの数字として比較することはできません。

情報の発信者よりも説明されている条件を確かめます

YouTubeという媒体自体に問題があるわけではありません。制度の注意点を丁寧に説明している情報もあります。警戒していただきたいのは、「早くもらうほうが得」という結論だけが強く、障害年金や取消し不可の説明がない情報です。

視聴回数が多いことや、説明が分かりやすいことと、ご自身に合う判断であることは別です。受給者本人の生年月日、加入記録、持病、家計、ほかの給付の状況まで確認して出された結論なのかを考えてください。

情報を見る際には、金額だけでなく、誰を想定し、どの制度上の不利益まで説明しているかを確認しましょう。不安や焦りを感じたまま、その場で手続きを決める必要はありません。

生涯減額と取消し不可も見落とせないデメリットです

減額率は生年月日と繰上げる月数で決まります

1962年4月2日以降生まれの方の減額率は、原則として1か月繰り上げるごとに0.4%です。老齢基礎年金を60歳から受け取る場合、最大24%の減額となります。1962年4月1日以前生まれの方は、1か月につき0.5%、最大30%です。

例えば、減額前の老齢基礎年金を年額80万円と仮定し、0.4%の対象者が60か月繰り上げると、年額は60万8,000円という計算になります。これは減額の仕組みを説明する仮定の金額であり、実際の老齢基礎年金の標準額を示したものではありません。

老齢厚生年金については、特別支給の受給開始年齢との関係などで計算が異なる場合があります。動画の数字をそのまま使わず、ご自身の生年月日と記録で試算してもらうことが必要です。

65歳になっても繰上げによる減額はなくなりません

繰上げによる減額は、65歳までの一時的な調整ではありません。65歳に達した後も、生涯にわたって続きます。将来の年金額改定などは別として、繰上げを理由とする減額率が65歳になれば消えるわけではありません。

「65歳までは少なくても先にもらい、その後は通常額に戻る」と考えているなら、制度の理解を改める必要があります。早く受け取った分が、その後の家計にどのように影響するかを確認してください。

特に、後から働けなくなったときは、減額された老齢年金が生活を支える主な収入になる可能性があります。減額と障害年金への影響を別々の小さな注意点として扱わず、合わせて検討することが大切です。

病気になってから繰上げを撤回することは原則できません

日本年金機構は、受給権発生後に繰上げ請求を取り消したり変更したりできないと案内しています。後から障害年金のことを知った場合も、「受け取った年金を返せば、繰上げをしなかった状態に戻せる」と考えないでください。

また、最初の振込がまだなら影響がない、とも判断できません。注意すべきなのは初回入金日だけでなく、繰上げ請求と受給権が発生する時点です。提出後に迷いが生じた場合は、自分で処理せず、速やかに提出先へ状況を確認してください。

取消しができないことを前提に、提出前に疑問を解消しておく必要があります。単なる受給時期のお試し変更ではないという点を、十分に理解しておきましょう。

すでに治療中の方は繰上げ前に障害年金の可能性を確認してください

初診日と年金加入記録を整理することが出発点です

初診日とは、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日です。現在の病院に通い始めた日や、現在の病名が確定した日とは限りません。転院や診断名の変化がある方は、過去の受診も確認します。

そのうえで、初診日に国民年金、厚生年金、任意加入など、どのような加入状態だったかを調べます。長年会社員だったという経歴だけでは、初診日が厚生年金の期間内にあるかは分かりません。

繰上げ前後のどちらに初診日があるかを有利なように選ぶことはできません。繰上げによる制限を避けるために受診歴を省くことも不適切です。記録に基づいて確認する必要があります。

障害認定日の状態と現在の状態は分けて検討します

障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を経過した日です。その期間内に症状が固定した場合などには別の取扱いがあるため、すべての傷病で機械的に1年6か月を当てはめるわけではありません。

認定日当時にどの程度の障害があったか、当時の診断書を作成できるかを確認します。すでに対象等級に該当していた可能性と、今後の悪化による事後重症請求の可能性とでは、繰上げとの関係が違います。

現在は生活に支障が少ないから、障害年金の確認は不要とは限りません。治療が続く病気では、現時点での受給可能性と、将来悪化したときの請求制限を、それぞれ確認しておくことが重要です。

納付要件や等級も満たす必要があります

繰上げをしていなければ、病気になった方が全員障害年金を受け取れるわけではありません。保険料納付要件や障害等級など、ほかの受給要件もあります。障害基礎年金は1級・2級、障害厚生年金は1級から3級が対象です。

納付要件が必要な場合は、初診日の前日における納付状況を、初診日のある月の前々月までの記録で確認します。原則の3分の2の要件や、一定条件下の直近1年間の特例などを、記録に即して検討します。

つまり、「繰上げさえやめれば必ず障害年金をもらえる」という話ではありません。今ある請求の可能性と、繰上げによって失う可能性を正確に整理してから、判断することが必要です。

障害年金以外にも確認したい繰上げの影響があります

任意加入や保険料の追納ができなくなります

老齢年金を繰上げると、国民年金の任意加入や保険料の追納ができなくなります。加入や納付の記録に不足がある方は、将来の老齢基礎年金を増やすための手続きと、繰上げの関係を確認してください。

任意加入をするか、繰上げで受け取るかは、ご本人の記録や家計によって検討する問題です。単に受給開始年齢だけを選ぶのではなく、残されている手続きを含めて比較する必要があります。

未納、免除、学生納付特例などは同じ扱いではありません。加入記録を見ないまま「もう保険料は払わずに受け取ったほうがよい」と決めると、利用できた選択肢を失うことがあります。

在職や雇用保険との関係で想定どおりに受け取れない場合があります

厚生年金に加入して働きながら繰上げ受給をする場合は、給与や賞与などとの関係で老齢厚生年金が支給停止になることがあります。また、65歳前に雇用保険の基本手当などを受ける場合にも、老齢厚生年金との調整を確認する必要があります。

老齢基礎年金と老齢厚生年金では取扱いが異なるため、「働けば年金が全部止まる」「繰上げなら全額が必ず入る」と、どちらかに決めつけないでください。

退職後に傷病手当金を継続して受けている方も、老齢年金との給付調整が問題になることがあります。生活費を確保するために繰上げたのに、別の給付が減るという結果も考えられるため、受給中の制度をまとめて確認することが大切です。

遺族年金や障害者特例への影響もあります

65歳前は、繰上げた老齢年金と遺族厚生年金などをそのまま重ねて受け取れるわけではなく、選択が必要になる場合があります。また、繰上げによって国民年金の寡婦年金を受けられなくなるなどの影響もあります。

さらに、老齢厚生年金を繰上げると、長期加入者や障害者に関する特例措置を受けられなくなります。特別支給の老齢厚生年金の対象となる方は、その特例を確認する前に繰上げを進めないことが重要です。

特別支給の老齢厚生年金を、本来の支給開始年齢から受け取ることと、繰上げ請求をすることは別です。「65歳前に老齢の年金をもらう行為は全部危険」と混同せず、ご自身の年金の種類と手続きを確認してください。

後悔しないために請求前に確認したいこと

年金額の試算に加えて障害年金の制限を具体的に質問します

年金事務所などでは、繰上げた場合と65歳から受け取る場合の年金額を、ご自身の加入記録で確認してください。その際、金額の試算だけで終わらず、治療中の病気や過去の受診歴を伝え、障害年金への影響も確認します。

「今の病気が悪化したら事後重症請求はできるか」「退職後に新しい病気になったら何が制限されるか」「過去の認定日による請求を調べる必要があるか」など、具体的に質問すると論点を整理しやすくなります。

ご家族が手続きを手伝う場合も、本人が不利益を理解することが大切です。毎月の受給額だけを伝え、請求制限について本人が知らないまま進めることは避けてください。

すでに繰上げた方は記録を確認して残る選択肢を調べます

当事務所に寄せられる、繰上げ後に障害年金を受けられず後悔しているというご相談は、この問題が単なる制度上の注意書きではないことを示しています。ただし、相談があることをもって、すべての方が同じ結論になると判断することもできません。

すでに繰上げた方は、請求日が分かる書類、年金証書、受診歴、初診日頃と認定日頃の資料、加入記録を整理してください。認定日による請求を検討できるか、制限される請求方法に当たるかを分けて確認します。

社労士に相談すれば繰上げの効果を消せるわけではありません。制度上できないことはできないと確認したうえで、残されている年金の権利や、医療・生活の支援を調べることになります。

今の生活費と将来の保障を両方考えて決めてください

生活費が足りない状況で、繰上げを避けるためにただ我慢すればよいという話ではありません。就労の見通し、預貯金、受給できるほかの給付、必要な医療費などを整理し、現在の生活を維持する方法も検討する必要があります。

それでも、将来の障害年金への影響を知らないまま決めることと、影響を理解してご自身の事情に照らして決めることは違います。総額の比較で有利に見えることだけを理由に、後から取り戻せない制限を見落とさないでください。

公的年金は、何歳でもらえば得かという計算だけでは捉えきれません。これからの生活が予定どおりにいかなくなったとき、何を支えに暮らすのかまで考えることが、繰上げ請求の前に必要な準備です。

老齢年金の繰上げと障害年金についてよくある質問

持病がなければ繰上げても問題ありませんか

現在持病がないことは、将来の病気や障害が起きないことを意味しません。新たな傷病の初診日が、繰上げ後の年金制度に加入していない期間に来る場合などは、障害基礎年金の制限が問題になります。現在の健康状態だけで、障害年金への影響はないと判断しないでください。

障害年金をもらえるほど重くなれば切り替えられますか

病状が重ければ自動的に老齢年金から障害年金へ変更できるわけではありません。初診日、認定日、納付要件などに加え、繰上げによる請求制限を確認する必要があります。診断書の内容だけでは、事後重症請求ができないという問題を解決できません。

65歳になれば事後重症請求ができるようになりますか

繰上げによる制限が65歳になった時点で解消し、事後重症請求が再び使えるようになるわけではありません。事後重症請求には、もともと65歳前の請求期限があります。過去の障害認定日による請求などが可能かどうかは、別に確認する必要があります。

繰上げ後に障害年金の受給権が確認できたら両方もらえますか

受給権があることと、複数の年金を同時に受け取れることは別です。65歳前は原則として支給事由の異なる年金は選択が必要です。65歳以降は認められる組合せもありますが、すべてを自由に足せるわけではありません。過去の支給との調整も含め、年金事務所で確認してください。

関連リンク:繰上げ後に障害年金を検討できる場合とできない場合

関連リンク:事後重症請求の仕組みと注意点

参考リンク:日本年金機構 年金の繰上げ受給と注意点

参考リンク:日本年金機構 老齢年金の繰上げ請求についての確認書

参考リンク:日本年金機構 65歳前に年金を繰り上げて受け取りたいとき

参考リンク:日本年金機構 障害基礎年金の受給要件と請求時期

参考リンク:日本年金機構 障害厚生年金の受給要件と請求時期

参考リンク:日本年金機構 障害認定基準

参考リンク:e-Gov法令検索 国民年金法第30条と附則第9条の2の3など

参考リンク:e-Gov法令検索 厚生年金保険法第47条と附則第7条の3など

参考リンク:日本年金機構 障害年金ガイド

参考リンク:協会けんぽ 傷病手当金と老齢年金の調整について

さいごに

老齢年金の繰上げ受給には、早く生活費を確保できる面があります。しかし、その代わりに生涯の年金額が減り、障害年金の請求方法も制限されます。うつ病やがん、脳梗塞などで生活が大きく変わったとき、繰上げをしていなければ検討できた障害年金を受けられないことがある点は、重大なデメリットです。

当事務所にも、繰上げ後に障害年金を受給できず後悔している方からご相談があります。YouTubeなどで紹介される受給総額や目先の入金だけでは、ご本人の将来の保障まで判断できません。繰上げを原則取り消せない以上、請求前の確認が欠かせません。

特に治療中の方や持病のある方は、初診日、年金加入記録、障害認定日とその状態を整理し、事後重症請求などへの影響を確認してください。現在の生活を支える方法と、将来の病気や障害への備えを両方考え、ご自身が失う選択肢まで理解したうえで判断することが大切です。