「脳梗塞とは、どんな病気なの?」
「前兆はあるの?」
脳梗塞について、こんな疑問をお持ちではないでしょうか?
脳梗塞は、早期発見・早期治療が何よりも重要な病気です。
発症から治療開始までの時間が長くなればなるほど、深刻な後遺症が残るリスクが高まります。
しかし、実は脳梗塞には前兆があり、適切な知識があれば予防や早期発見が可能です。
また、最新の治療法の進歩により、以前に比べて後遺症を軽減できる可能性も高まっています。
この記事では、脳梗塞の基礎知識から、意外と知られていない前兆のサイン、治療法、さらには職場復帰や障害年金の申請までをわかりやすく解説していきます。
「もしも」の時に慌てないよう、ぜひ最後までご覧ください。
目次
脳梗塞とは?
脳梗塞とは、脳の血管が詰まり、脳に血液が届かなくなることで発症する病気です。
脳梗塞は、脳出血やくも膜下出血と並ぶ「脳卒中」の一つで、日本人の死亡原因第4位に挙げられています。
脳梗塞が発生すると、脳に必要な酸素や栄養が届かず、脳細胞が死んでしまいます。
脳細胞は再生できないため、後遺症として麻痺や言語障害などが残るケースが多くみられます。
原因は主に動脈硬化や血栓(血のかたまり)による血管の詰まりで、高血圧、糖尿病、喫煙などの生活習慣が脳梗塞の発症リスクを高めます。
また、発症後の早期対応がとても重要で、治療が遅れるほど後遺症が重くなる傾向があります。
脳梗塞は予防が可能な病気でもあります。
生活習慣の見直しや早期発見を心がけることで、発症リスクを下げることができます。
参考:令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況(10ページ)|厚生労働省
脳梗塞の種類
脳梗塞の種類は、詰まった血管の太さや場所により次の3つに分けられます。
脳梗塞の種類 | 特徴など | 主な症状や発症状況 |
---|---|---|
ラクナ梗塞 | ・脳内の細い血管が詰まって起こる ・影響の出る範囲が狭いので、大きな症状が出ないこともある | ・症状がないため、気づかずに生活する人も少なくない ・気づかず進行することが多い ・自覚症状がない場合がある ・ラクナ梗塞が多発すると、血管性認知症や脳出血を引き起こすこともある |
アテローム血栓性脳梗塞 | ・動脈硬化により脳の太い血管が詰まって起こる ・徐々に進行することが多い | ・体が麻痺したり、しびれが出るなどの症状が出る ・言葉が出づらくなることもある ・就寝中などの安静時にも発症する |
心原性脳塞栓症 | ・心臓でできた血栓が脳内の太い血管に詰まることで起こる ・重症化しやすく、早急な治療が必要 | ・急な頭痛やめまい ・視覚の異常 ・体の半身に麻痺 ・突然発症する |
【ポイント】
- ラクナ梗塞は、気づかないうちに進行することがあるため、定期的な健康診断が重要です。
- アテローム血栓性脳梗塞は、生活習慣病の改善が予防につながります。
- 心原性脳塞栓症は、心疾患(不整脈など)の管理が予防に大切です。
参考:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
脳梗塞に前兆はある?
脳梗塞には前兆となる症状があり、早期発見がその後の命と健康を左右します。
脳梗塞の前兆として、次のような症状が現れることがあります。
- 片側の手足の麻痺や感覚障害
- 言語障害
- 運動失調
- 視力・視覚障害
- 頭痛
これらの症状は一見すると一時的な不調に感じるかもしれませんが、脳梗塞の初期サインである可能性があります。
脳梗塞の前兆を放置すると、本格的な発症に至ることが多いため、早急に医療機関を受診することが重要です。「様子を見よう」と考えず、迷わず専門医に相談しましょう。
一過性脳虚血発作(TIA)に注意
一過性脳虚血発作(TIA)は、脳梗塞の前触れとも言える重要なサインです。
TIAは、脳の血管が一時的に詰まることで、脳梗塞とよく似た症状が現れますが、24時間程度で症状が完全に消失する(多くのケースでは、1~2時間以内に改善)という特徴があります。
例えば、急に片方の手足が動かなくなったり、言葉が出なくなったり、視界がぼやけたりといった脳梗塞の前兆のような症状が現れた後、何事もなかったかのように症状が消えるのがTIAです。
これは、一時的に詰まった血管の血栓が自然に溶けたり、血流が回復したりすることで起こります。
しかし、TIAは決して「一時的な不調」で片付けてはいけません。
TIAは、本格的な脳梗塞が起こる可能性が高いことを示唆する重要な警告信号なのです。
TIAを起こした人のうち、数日から3か月以内に脳梗塞を発症するリスクが高いとされており、特に最初の48時間から1週間のリスクが最も高いとされています。
そのため、TIAの症状が現れた場合は、「体調が悪かっただけだろう」と様子を見るのではなく、必ず医療機関を受診し、適切な検査と診断を受けることが重要です。
参考:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
ACT FASTで脳梗塞を簡易チェック!
アメリカの脳卒中協会が作成した「ACT FAST」という脳梗塞の簡易チェックがあります。
下記のような症状が見られたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
試すこと | 脳卒中の可能性があるとき | |
---|---|---|
Face(顔) | 口を横にひいて笑う | ・口を横にひくと、口がゆがむ・顔が片側だけ下がる・口角が下がる |
Arm(腕) | 手のひらを上にして、両手を前に上げる | ・片方の手が下がる |
Speech(言葉) | 簡単な文章を言う | ・言葉が出てこない・呂律が回らない・言葉が理解できない |
Time(時間) | 発生時刻を確認して | |
Act (行動) | すぐに救急車を呼ぶか医療機関を受診しよう |
脳梗塞を発症して、4.5時間以内に血栓を溶かす治療を開始できれば、後遺症を減らせる可能性が高まります。
参考:くまもと県脳卒中ノート(熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター)
脳梗塞の前兆については関連記事でさらに詳しくご紹介しています。

脳梗塞の原因は?
脳梗塞の主な原因は、「動脈硬化」と「不整脈」の2つです。
脳梗塞は、血管の健康状態や心臓の働きに大きく影響されます。
動脈硬化によって血管が狭くなると、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞を引き起こすリスクが高まります。
一方、不整脈が原因で血栓ができると、心原性脳塞栓症を発症する可能性が増加します。
高血圧や糖尿病、喫煙などの生活習慣がこれらの要因を悪化させるため、日常生活の見直しが必要です。
動脈硬化や不整脈はどちらも予防が可能なケースが多いため、原因を正しく理解し、適切に対処することが重要です。
動脈硬化とは
動脈硬化とは、血管が硬くなり弾力性を失った状態を指します。
動脈硬化は、加齢や生活習慣が原因で血管の内壁がダメージを受け、コレステロールや脂肪が蓄積することで進行します。
これにより血管が狭くなり、血液が流れにくくなります。
- 加齢
- 高血糖
- 高血圧
- 脂質異常症
- 喫煙
- 過度の飲酒
- 肥満
脳梗塞のうち、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞は動脈硬化と深い関係があります。
動脈硬化を予防するには、バランスの良い食事、適度な運動、禁煙、飲酒の制限などの生活習慣改善が効果的です。
不整脈とは
不整脈とは、心臓の脈拍が不規則になる状態を指します。
通常、心臓は一定のリズムで血液を全身に送り出しますが、不整脈があるとこのリズムが乱れ、血流が悪くなります。
その結果、心臓内で血栓が形成されやすくなり、これが脳へ流れると「心原性脳塞栓症」の原因となります。
不整脈は加齢や高血圧、ストレス、疲労、睡眠不足などでも引き起こされます。
特に心房細動と呼ばれる不整脈は、脳梗塞のリスクを2~7倍高めるとされています。
不整脈の予防や治療には、心臓疾患の管理とともに生活習慣の見直しが重要です。
心臓の異常を感じたら早めに医師に相談しましょう。
脳梗塞の原因については関連記事をご覧ください。

脳梗塞の治療
脳梗塞の治療は、早期に血流を回復させることが最優先です。
脳梗塞の治療法には、血液を詰まらせている血栓を溶かす「血栓溶解療法」と、カテーテルを用いて血栓を直接取り除く「血管内治療」の2つが代表的です。
これらの治療は、いずれも時間との勝負です。
脳梗塞が発症したら、1秒でも早く医療機関を受診することが生存率を上げ、後遺症を軽減するカギとなります。
それぞれの治療について詳しく解説します。
血栓溶解療法(t-PA治療)
血栓溶解療法は、脳梗塞を引き起こしている血栓を溶かし、血流を回復させる治療法です。
この治療では、「アルテプラーゼ(t-PA)」という薬剤を点滴で投与し、詰まった血管を再開通させます。日本では2005年に承認され、多くの命を救ってきた治療法です。
ただし、t-PA治療を受けられるのは、発症から4.5時間以内に診断され、治療が開始できる場合に限られますが、脳梗塞の発症時刻が明確でない場合は、t-PA治療が受けられません。
治療には事前に検査が必要で、1時間ほどの準備時間を要します。
そのため、発症から3.5時間以内に医療機関に到着することが求められます。
発症が疑われたら、迷わず救急車を呼び、早急に医療を受けることが大切です。
なお、重度高血圧の人や手術を受けたばかりの人などは、t-PA治療が受けられません。
すべての脳梗塞患者にt-PA治療が適用できるわけではないことも重要なポイントです。
血管内治療
血管内治療は、カテーテルを用いて直接血栓を取り除く画期的な治療法です。
この治療では、足の付け根からカテーテルを挿入し、詰まった血管まで誘導して血栓を回収します。
特に、内頚動脈や中大脳動脈などの太い血管が詰まっている場合に有効で、脳梗塞発症から8時間以内が適用の目安です。(症例によっては発症から24時間以内まで適応が拡大)
血管内治療は、t-PA治療を受けられない場合や、t-PA治療と組み合わせる形で行われることがあります。
最新の医療技術により、以前よりも後遺症の軽減が期待できるようになっています。
この治療も時間が重要なため、発症時には速やかに救急対応を行いましょう。
脳梗塞の治療法については、下記の関連記事でわかりやすくご紹介しています。

脳梗塞の後遺症
脳梗塞の後遺症は、脳の損傷部位によって症状が異なります。
脳梗塞の後遺症には「運動障害」「言語障害」「高次脳機能障害」など、日常生活に影響を及ぼすさまざまな症状があります。
代表的な7種類の脳梗塞の後遺症は次のとおりです。
- 言語障害
- 摂食・嚥下障害
- 運動障害
- 感覚麻痺
- 視力・視野障害
- 高次脳機能障害
- 精神障害
代表的な後遺症には、言葉が話せなくなる「言語障害」、飲み込みが難しくなる「摂食・嚥下障害」、手足が動きにくくなる「運動障害」などがあります。
これらの症状は、脳の損傷部位や程度に応じて個人差があり、すべての症状が出るわけではありません。
リハビリテーションを通じて、少しずつ機能を回復させることが重要です。
脳梗塞でも仕事復帰できる
脳梗塞を経験した後も、多くの人がサポートを受けながら仕事復帰を果たしています。
厚生労働省の統計によると、脳卒中患者の最終的な復職率は50~60%とされています。
復職の可否は、後遺症の重さや職場のサポート体制、本人のリハビリの進み具合によって異なります。
退院後には「できなくなったこと」に直面するかもしれませんが、焦らず主治医や専門家の意見を取り入れながら、自分のペースで進めることが大切です。
また、職場との連絡も重要です。
入院中から職場とコミュニケーションを取り、復職時期や仕事内容の調整を相談しましょう。
無理のない範囲で仕事に取り組むことで、社会復帰への道が広がります。
脳梗塞後の人生を充実させるためには、自分自身を受け入れ、周囲と協力しながら前向きに取り組むことが大切です。
脳梗塞の後遺症については、下記の記事で詳しくご紹介しています。

脳梗塞は再発しやすい?
脳梗塞は、残念ながら再発しやすい病気です。
一度脳梗塞を発症した方は、そうでない方と比べて再発のリスクが高くなります。
アメリカ国立衛生研究所のデータによると、脳卒中(脳梗塞を含む)の再発率は、発症後1年で約12.8%、5年で約35.3%、10年で約51.3%と報告されています。
これは、脳梗塞を経験した方の約半数が10年以内に再発しているということを意味します。
心筋梗塞の場合、1年以内の再発率が2~3%程度であることと比較すると、脳梗塞の再発率が非常に高いことが分かります。
※心筋梗塞とは、心臓の筋肉に血液を送る血管が詰まって血液が流れなくなり、心筋細胞が死んでしまう病気
脳梗塞は、一度発症すると後遺症が残る可能性があり、再発を繰り返すと後遺症が重篤化したり、新たな後遺症が現れたりするリスクがあります。
そのため、脳梗塞の再発予防は非常に重要です。
脳梗塞の再発を防ぐためには、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の管理が不可欠です。
適切な薬物治療と生活習慣の改善によって、生活習慣病をコントロールすることが、脳梗塞の再発予防につながります。
脳梗塞の再発については下記の関連記事でわかりやすくご紹介しています。

参考:日本人コミュニティ初の脳卒中再発から10年:久山研究|アメリカ国立衛生研究所
脳梗塞で後遺症が残ったら?
脳梗塞の後遺症が残り、生活や仕事に支障があるときは、障害年金を申請できる可能性があります。
障害年金は、現役世代の人が障害を負ったときに経済的に支える制度で老齢年金や遺族年金と同じく国が運営している制度です。
令和6年度の年金額は以下のとおりです。
障害の程度 | 障害基礎年金 | 障害厚生年金 |
---|---|---|
1級 | 1,020,000円 ※子の加算額あり | 報酬比例の年金額×1.25 ※配偶者の加算あり |
2級 | 816,000円 ※子の加算額あり | 報酬比例の年金額 ※配偶者の加算あり |
3級 | なし | 報酬比例の年金額 ※最低保証額612,000 円 |
障害手当金 | なし | 報酬比例の年金額×2 ※支給は一度のみ |
報酬比例の年金額とは、厚生年金に加入した期間や納めた保険料により算定されるもので、加入期間が長く、保険料を多く納めた人は年金額が高くなります。
障害年金の審査では、診断書や病歴・就労状況等申立書などの記載事項がとても重要視されています。
しかし、「主治医にどうやって診断書を依頼していいかわからない」「病歴・就労状況等申立書が難しくて書けない」などで障害年金の申請を諦めてしまう人も多いです。
障害年金の申請で困ったときは、障害年金専門の社労士に相談してみましょう。
脳梗塞での障害年金受給については関連記事で詳しくご紹介しています。

参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
参考:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
まとめ
予防と早期発見が重要な脳梗塞は、前兆を見逃さないことが大切です。
特に、一過性脳虚血発作(TIA)は要注意のサインとなります。ACT FASTを覚えておくことで、症状にいち早く気づくことができます。
脳梗塞の治療においては、発症からの時間との戦いとなります。
t-PA治療や血管内治療など、医療技術の進歩により治療の選択肢も広がっています。
ただし、これらの治療には適用時間の制限があるため、少しでも異変を感じたら、すぐに救急車を呼びましょう。
後遺症が残った場合でも、生活や仕事に支障があるときには障害年金を申請できる可能性があります。
障害年金の申請に不安のある方は、障害年金専門の社労士へ相談してみてください。