脳梗塞は脳卒中のひとつで、脳内の血管が詰まることでさまざまな障害が現れる病気です。
厚生労働省の統計によると、脳卒中は2023年の日本人の死亡原因の第4位で、「がん」「心疾患」「老衰」に次いで多くの方が脳卒中で命を落としています。
また、後遺症が残りやすいことでも知られ、体の麻痺や言語障害、高次機能障害など多岐にわたる症状が表れますが、早急に適切な治療を受ければ後遺症のリスクを軽減できます。
この記事では、脳梗塞の治療法を中心に、発症後の一週間がなぜ重要なのか、前兆や職場復帰の可能性についてもご紹介します。
ぜひ最後まで読んで脳梗塞への理解を深めてください。
参考:令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況(10ページ)|厚生労働省
目次
脳梗塞の治療法とは?
脳梗塞の代表的な治療法と、それぞれが適用されるケースや効果について解説していきます。
血栓溶解療法(t-PA治療)
血栓溶解療法は、脳の血管を詰まらせている血栓(血のかたまり)を溶かす薬を投与する治療法です。
主にアルテプラーゼ(t-PA)という薬剤が使用され、日本では2005年10月に認可されました。
血栓溶解療法は、詰まった血管を再開通させ、脳細胞への血流を回復させることを目的に行われます。
- 脳梗塞の発症から4.5時間以内に診断され、治療が開始できる場合
- 脳出血などの危険因子がなく、CTやMRIで適応が確認された場合
なお、治療前の検査等に1時間程度かかるため、遅くとも発症から3.5時間以内に医療機関に到着することが求められます。
血栓溶解療法による効果には次のようなことが挙げられます。
- 血流が再開通することで、脳細胞のさらなる損傷を防げる
- 後遺症のリスクを軽減し、予後を改善する可能性が高い
◆血栓溶解療法の注意点
血栓溶解療法には出血を引き起こすリスクがあるため、次のような人は受けることができません。
- 脳出血の既往がある人
- 検査のときに出血しやすい人
- 大きな手術を受けた人
- 極端な高血圧、高血糖の人
また、t-PAによる血栓溶解療法は医療機関ならどこでも受けられる治療ではありません。
CTまたはMRI検査が24時間実施できるなどの高度医療を提供している専門病院でなければ治療が受けられないことにも注意しましょう。
血管内治療
血管内治療は、カテーテルを使って直接血栓を取り除く治療法です。
足の付け根からカテーテルを入れ、詰まっている血管部分まで誘導して血栓を回収します。
血管内治療には、血栓を砕きながら吸引する方法とステント(筒状の網)で血栓を絡めとる方法があります。
- 脳梗塞を発症してから8時間以内
- 大きな脳血管(内頚動脈、中大脳動脈など)が閉塞している
血管内治療の効果としては以下のようなことが挙げられます。
- 即時に血流を回復させ、重度の後遺症リスクを大幅に低下させる
- 血栓溶解療法と併用することで、さらなる効果が期待できる
◆血管内治療の注意点
脳梗塞を発症したすべての方が受けられる治療法ではなく、ふだん飲んでいる薬や血液検査の結果、過去にかかった病気などにより血管内治療を行えない場合があります。
内科的治療
脳梗塞の再発防止のために、次のような薬を服用します。
抗血小板剤 | 血小板の凝集を防ぎ、血栓の形成を抑制する (代表的な薬剤:アスピリン) |
抗凝固剤 | 血液の凝固を防ぎ、血栓の生成を防止して血液をサラサラにする (代表的な薬剤:ワーファリン) |
ワーファリンについては、納豆やクロレラなどビタミンKを含む食品を摂取できないといった食事制限があるので、医師や薬剤師の指導のもと、正しく服用することが大切です。
脳梗塞は一週間が山って本当?
脳梗塞発症後、脳浮腫が起こる可能性があり、そのピークが発症3〜5日後とされていることから「脳梗塞は発症から1週間が山」と言われています。
脳浮腫を放置していると、脳が圧迫されて血流がいかない部位が広くなったり、脳が頭蓋内から脱出する脳ヘルニアになってしまう恐れがあるのです。
脳ヘルニアは命にかかわるため、脳梗塞発症後の一週間は注意深く観察し適切な治療を受けることが必要です。
脳梗塞の前兆は?
脳梗塞は発症したら早く治療を受ければ、後遺症のリスクが減らせるため、脳梗塞の前兆を見逃さず早く医療機関へ行けるかが大きな鍵となります。
脳梗塞の主な前兆は次のようなものです。
- 顔や手足などが引きつったり、感覚がなくなるなど、「片側だけ」に症状が現れる
- 言葉が出なくなり、言いたいことが言えない
- めまいがして立っていられない
- 片方の目が見えない
- 突然今までにないほどの激しい頭痛に襲われる など
【ACT FAST】脳梗塞の簡易チェック
アメリカの脳卒中協会が推奨する脳卒中の簡易チェックをご紹介します。
Face(顔) | 顔の片側が歪む |
Arm(腕) | 片側の腕や手に力が入らない |
Speech(言葉) | 呂律が回らない |
Time(時間) | 上記の症状がひとつでもあったら、すぐに救急車を呼ぶ |
顔、腕、言葉の3つのチェックのうち、ひとつでもあてはまれば脳梗塞を含む脳卒中の可能性が高いので、早急に医療機関へ行きましょう。
脳梗塞の前兆や原因については、下記に関連記事で詳しくご紹介しています。
脳梗塞の前兆は?頭痛やめまいが出る?予防法もご紹介! 脳梗塞の原因とは?ストレスや食事との関係性も解説脳梗塞発症後に職場復帰できる?
脳梗塞を発症したあと、多くの人が職場に復帰しています。
厚生労働省の発表によると、脳卒中患者の最終的な復職率は50~60%で、後遺症の重症度や周囲のサポートにもよりますが、復職できることが多いといえるでしょう。
脳梗塞の病状が安定したら自分の現状と復職への気持ちをを見つめ直し、主治医に相談しながら復職について具体的に考えてみましょう。
復職すると決心しても後遺症の程度によっては、前とは同じ仕事に就けないこともあります。
例えば「短時間なら勤務できる」「立ち仕事はできない」など、自分ができることと難しいことを明確にして、上司や同僚と相談しながら復職に向けて準備していくことをおすすめします。
脳梗塞の後遺症とは
脳梗塞の後遺症は、損傷を受けた脳の部位によって異なり、「運動障害」や「言語障害」、「高次脳機能障害」など、さまざまな症状が表れます。
主な後遺症や症状を下記にまとめました。
脳梗塞の主な後遺症 | 症状など |
---|---|
言語障害 | 「聞く」「理解する」「話す」のうち、どれかができなくなる |
摂食・嚥下障害 | 食べ物を口に入れて、よく噛んでから飲み込むまでの過程ができなくなる |
運動障害 | 手足の動きをうまくコントロールできなくなる |
視力・視野障害 | 視野の一部が欠損したり、片側だけ見にくいなどが起こる |
高次脳機能障害 | 脳の一部が損傷し、思考・記憶・行動・言語・注意などの脳機能に障害が起こる |
精神障害 | 感情のコントロールができなくなる |
後遺症の程度は個人差が大きく、一部の障害のみが残る場合もあれば、複数の障害が同時に表れる場合もあります。
脳梗塞の後遺症については、関連記事でわかりやすくご紹介しています。
脳梗塞の後遺症とは?言語障害やしびれが出る?症状や仕事復帰を解説脳梗塞で障害年金が申請できるってほんと?
脳梗塞で後遺症がある場合、後遺症の程度により障害年金の支給対象になります。
障害年金を申請するには、一定期間保険料を納付したり、障害等級が国の定める基準にあてはまるなどの条件を満たすことが必要です。
脳梗塞の後遺症は身体の半身麻痺、言語障害や構音障害、高次脳機能障害など多岐にわたり、それぞれに障害認定基準が定められています。
障害年金が申請できる可能性があるか、判断が難しいときは年金事務所や障害年金専門の社労士に相談してみましょう。
自分や家族で障害年金を申請することが難しいときは、ピオニー社会保険労務士事務所がお力添えできます。どうぞお気軽にお問合せください。
障害年金制度の詳細や、脳梗塞での申請については関連記事でご紹介していますのでぜひご覧ください。
障害年金とは【専門家がわかりやすく解説します】 障害年金の受給条件とは?申請に必要な3つの条件と対象者 脳梗塞・脳出血で障害年金を受給するためのポイントと障害認定基準参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
参考:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
まとめ
脳梗塞は、脳の血管が詰まりさまざまな障害を引き起こす病気です。
後遺症が残ることが多いと知られる脳梗塞ですが、早急に適切な治療を受ければ、後遺症のリスクを軽減することができます。
激しい頭痛や言葉が出ないなどの前兆のサインを見逃さず、「脳梗塞かもしれない」と思ったときにはすぐに医療機関を受診しましょう。
また、脳梗塞で後遺症があるときには障害年金を受給できることがあります。
この記事が、発症時の適切な対応や回復への希望を見つける助けになれば幸いです。