心臓の疾患によりペースメーカーやCRT、CRT-Dを装着した場合、障害年金を受給できることを知っている方は多いと思います。
ペースメーカーやCRT、CRT-Dを装着した方が障害年金の請求(申請)をする場合に気を付けるポイントがありますので、ご説明いたします。
目次
心臓ペースメーカーの種類について
心臓の疾患で装着する植込み式の機械で一般的なものはペースメーカーと呼ばれていますが、ペースメーカーはその機能によっていくつかの種類があり、障害年金で認定される等級も異なっています。
障害認定基準では、心臓ペースメーカーの種類ごとに等級が決められています。
2級
- CRT(心臓再同期医療機器)
- CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)
3級
- ペースメーカー
ICD(植込み型除細動器)
ペースメーカーやCRT装着の方の障害認定基準
ペースメーカーやICDを装着している方は3級、CRTやCRT-Dを装着していると2級に認定されますが、場合によってはそれよりも上位の等級で認定されることもあります。
また、当事務所で認定された事例では、障害認定日にはまだCRT-Dを装着しておらず、その数年後にCRT-Dを装着した方がいらっしゃいますが、
- 障害認定日は3級
- 請求日(CRT-D装着時)は2級
という認定で、遡及もすることができました。
臨床所見(自覚症状と他覚所見)と検査結果(異常検査所見)と日常生活(一般状態区分表)によっては、ペースメーカー等の機械を装着していなくても障害年金が受給できるのです。
その根拠となる障害認定基準を以下で説明します。
心疾患は「弁疾患」「心筋疾患」「虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)」「難治性不整脈」「大動脈疾患」「先天性疾患」「重症心不全」の7つの認定基準に分類されておりますが、ペースメーカーやCRT等を装着している方が該当することが多い「心筋疾患」と「難治性不整脈」「重症心不全」をしっかりと見ていきましょう。
臨床所見
症状がない、ある、著しくあるというように判断します
心疾患の異常検査所見
(以下に該当すると異常な検査数値となります)
異常検査所見の区分
- A:安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの
- B:負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
- C:胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの
- D:心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの
- E:心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの
- F:左室駆出率(EF)40%以下のもの
- G:BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml相当を超えるもの
- H:重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの
- I:心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの
(注1)原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等を提出(添付)させること。
(注2)「F」についての補足
心不全の原因には、収縮機能不全と拡張機能不全とがある。
近年、心不全症例の約40%はEF値が保持されており、このような例での心不全は左室拡張不全機能障害によるものとされている。しかしながら、現時点において拡張機能不全を簡便に判断する検査法は確率されていない。左室拡張末期圧基準値(5-12mmHg)をかなり超える場合、パルスドプラ法による左室流入血流速度波形を用いる方法が一般的である。この血液速度波形は急速流入期血流速度波形(E波)と心房収縮期血流速度波形(A波)からなり、E/A比が1.5以上の場合は、重度の拡張機能障害といえる。
(注3)「G」についての補足
心不全の進行に伴い、神経体液性因子が血液中に増加することが確認され、心不全の程度を評価する上で有用であることが知られている。中でも、BNP値(心室で生合成され、心不全により分泌が亢進)は、心不全の重症度を評価する上でよく使用されるNYHA分類の重症度と良好な相関性を持つことが知られている。この値が常に100pg/ml以上の場合は、NYHA心機能分類でⅡ度以上と考えられ、200pg/ml以上では心不全状態が進行していると判断される。
(注4)「H」についての補足
すでに冠動脈血行再建が完了している場合を除く。
一般状態区分表
一般状態区分表に身体活動能力(Mets)をあてはめると、概ね以下のとおりになります。
ア:6Mets以上
イ:4Mets以上6Mets未満
ウ:3Mets以上4Mets未満
エ:2Mets以上3Mets未満
オ:2Mets未満
Metsとは、代謝当量をいい、安静時の酸素摂取量(3.5ml/kg体重/分)を1Metsとして活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すものです。
心筋疾患、難治性不整脈、重症心不全の障害認定基準
臨床所見、異常検査所見、一般状態区分表を踏まえて、ペースメーカーやCRT装着でよく使われる障害認定基準の例示を見ていきます。
心筋疾患
1級の認定基準
病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を融資、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級の認定基準
- 異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級の認定基準
- EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
(注)肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左室流出路狭窄に伴う左室流出路圧較差などが病態の基本となっている。したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心臓エコー検査所見なども参考として総合的に障害等級を判断する。
難治性不整脈
1級の認定基準
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級の認定基準
- 異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級の認定基準
- ペースメーカー、ICDを装着したもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
(注1)難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにも関わらず、それが改善しないものを言う。
(注2)心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となる。
重症心不全
心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は、次のとおりとする。
- 心臓移植…1級
- 人工心臓…1級
- CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)…2級
ペースメーカーやCRT装着の認定で気を付ける注意点
心疾患でペースメーカーやCRT等を装着した方が、障害年金の請求(申請)で気を付ける注意点をご説明します。
ペースメーカーやCRT装着の場合は障害認定日の特例がある
障害年金を請求(申請)できるのは、原則として初診日から1年6か月経過後となります。
しかし、ペースメーカーやCRT等を初診日から1年6か月経過する前に装着した場合には、障害認定日が早まる特例があるのです。
ペースメーカー、ICD(植え込み型除細動器)、CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)等を装着した日を障害認定日とすることができるため、機械を装着したらすぐに障害年金の請求(申請)をすることが望ましいです。
ただし、あくまでも初診日から1年6か月経過する前にペースメーカーやCRT等を装着した場合となります。
社労士 石塚
永久に同じ等級で障害年金をもらい続けられるわけではない
心臓にペースメーカーやCRT等を装着した場合、それだけで3級や2級に認定されるとご説明しました。
しかし、障害認定基準には、見落とすことができない注意書きがあります。
「1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定する」
例えば、CRTを装着して障害年金2級に認定され、2年後に更新(障害状態確認届)があったとします。
その時の臨床症状、検査成績、一般状態区分表の内容によって改めて障害等級を審査し、症状が良好であれば3級に級落ちする可能性もあるということです。
障害基礎年金2級を受給している方でれば、3級はありませんので支給停止となってしまいます。
社労士 石塚
CRT-D装着後は自覚症状等の臨床所見もわずかで、異常検査所見もほぼなく、フルタイムの仕事に復帰されたため一般状態区分表も、「イ 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など」に該当しています。
そのため、再認定で3級となってしまったのです。
ペースメーカー装着後の更新(障害状態確認届)で等級非該当になり、障害年金が支給停止になったという方からのご相談を受けたことはありませんが、ペースメーカーも同じ扱いであれば理論的にはあり得ると思われます。
ペースメーカーやCRT等を装着した方は、どんなことがあっても障害年金をもらい続けることができると安心していることが多いため、更新の際は注意してください。
ペースメーカーやCRT装着の方が働いている場合の障害年金
心疾患でペースメーカーやCRTを装着している方は、無理のない範囲で働いている方も多いと思います。
働いている場合には障害年金をもらうことはできないのでは、というご相談も多いのですが、ペースメーカーやCRTを装着している方が会社員として働いていても障害年金を受給することは可能です。
ペースメーカーやCRTを装着してすぐに障害年金の請求(申請)をする場合の認定では、フルタイム勤務であっても、職場で障害の配慮を受けていなくとも、認定結果を左右することはありません。
しかし、ペースメーカーやCRTを装着してから1~2年以上経ってからの障害年金請求(申請)では注意が必要です。
一般雇用の正社員で、障害の配慮も受けておらず、障害者雇用枠での就労でもないような場合には、「ペースメーカーやCRT装着により症状が安定している=障害の程度が軽い」と判断されることもあります。
また、一般雇用の正社員で障害の配慮も受けていないとなると、当然に一般状態区分表もアやイに該当しますし、障害年金の認定に大いに影響があります。
仮に一般雇用の正社員として働いている場合であっても、ペースメーカーやCRT装着であれば、ご自身で日常生活や仕事上気を付けていることは少なからずあると思います。
ご自身で気を付けていること等を診断書上に書いていただくようにすることも、一つのポイントです。
ペースメーカー装着の方の障害者手帳と障害年金
平成26年4月より、ペースメーカーを装着した方が障害者手帳を取得する場合には1級、3級、4級のいずれかの等級に認定されることとなりました。
それ以前は、ペースメーカーを装着した場合には必ず障害者手帳の等級はは1級でした。
障害年金制度は障害者手帳の制度とは異なりますので、障害者手帳の等級が何級であっても、障害者手帳を取得していなくても、障害年金を受給することができます。
さいごに
ペースメーカーやCRTを装着すると、障害年金3級や2級に認定されますので、装着後すぐの障害年金請求(申請)は比較的容易にできるでしょう。
しかし、臨床所見や異常検査所見によってはペースメーカー装着でも障害年金2級以上に該当することがありますので、できれば社労士にご相談すると安心です。
また、ペースメーカーやCRTを装着した方が障害年金を受給しても、必ず数年に1度の更新(障害状態確認届)がありますので、そのためにも社労士にサポートを依頼することも一つの案です。