うつ病や脳梗塞などで働けなくなった場合や、家事など日常生活に必要なことができなくなった場合に、障害年金を受給することができます。
しかし、障害年金を申請するためには多くの書類を用意することが必要です。
もし、申請書類に不備があると「不支給決定」になってしまう可能性があるため、入念な準備が欠かせません。
そこで今回は初めて障害年金を申請する方のために、障害年金の申請の流れをわかりやすく解説します。
目次
【障害年金申請流れ】障害年金申請の7つのステップ
障害年金の申請の流れは主に7つのステップがあります。
まずは、障害年金の申請の流れについて簡単にみていきましょう。
【ステップ1】初診日の確認
障害年金の申請ではじめにするべきことは、初診日の確認です。
初診日とは、医療機関で申請する傷病で初めて診察を受けた日のことです。
初診日が分からないと次のステップに進めないため、初めて病院を受診した日を確認しましょう。
【ステップ2】保険料納付要件の確認
障害年金の申請では初診日の前日時点で、一定以上の保険料を納めていることが必須要件です。
これを「保険料納付要件」といいます。
ステップ1で確定した初診日をもとに、保険料納付要件を満たすか確認します。
【ステップ3】受診状況等証明書の取得
初診の医療機関に受診状況等証明書の作成を依頼します。
ただし、知的障害の場合や、初診の医療機関からずっと変わらずに同じ医療機関に通院している場合は、受診状況等証明書の提出が不要な場合があります。
【ステップ4】診断書の取得
診断書の作成を医師に依頼します。
診断書は8種類あり、傷病や傷病が出ている部位によってどの診断書を使用するかは異なります。
【ステップ5】病歴・就労状況等申立書の作成
病歴・就労状況等申立書とは、発症から現在までの日常生活や就労状況を記載するものです。
診断書のように医師に書いてもらうのではなく、障害年金の申請者本人が自分で作成します。
申請者本人が書くことが難しい場合は、家族などの代理人が記載することも可能です。
【ステップ6】各種提出書類の収集および請求書等の作成
戸籍謄本や住民票など、障害年金の申請で必要な書類を用意します。
必要書類は請求方法や家族の有無などによって変わります。
具体的な申請に必要な書類は後述します。
【ステップ7】年金事務所または市区町村役場へ提出
書類がすべて準備できたら年金事務所または、市区町村役場へ提出します。
障害年金の申請の具体的な流れ
ここからは、それぞれのステップを1つずつ詳しく解説していきます。
【ステップ1】初診日の確認
障害年金の申請において、初診日を確定することはもっとも重要です。
今通院している病院が初めてかかった病院であれば問題ありませんが、それ以前に転院などをしている場合には、一番初めにかかった医療機関を特定することから始めます。
例えば初診日が20年以上前にあるなどで忘れてしまっている場合には、まずはご自身の記憶を整理し、日記や手帳を見たりしながら「何年何月頃」だけでも思い出してみましょう。
初診日の証明(受診状況等証明書の取得)をどうするかについては、後回しにしても大丈夫です。
- 今現在の病名が診断された病院に初めて行った日が障害年金申請の初診日になるわけではありません。
- あくまでも、現在の障害の症状(前駆症状含む)で初めて病院に行った日が初診日になります。
- うつ病などの精神疾患で不眠や抑うつ等で内科を受診した場合、内科が初診日となる場合があります。
- まずは、初診日の病院はどこだったか、いつ頃だったかを思い出すようにしてください。
初診日については以下の記事で詳しく解説しているのでご参考ください。
【ステップ2】保険料納付要件の確認
ある程度初診日を確定させてから、保険料納付要件を確認します。
たまに「ねんきん定期便」などで保険料納付要件を確認する方がいらっしゃいますが、必ず年金事務所または市区町村役場で確認をするようにしてください。
障害年金の要件の1つである保険料納付要件は、年金保険料を納めた日も重要であり、初診日の後に納付した分は算入できないことになっています。
初診日の候補となる日が複数ある場合には、それぞれの初診日について保険料納付要件を確認することをおすすめいたします。
- 初診日が確定したら、まずは請求する障害年金制度の種類が確定します。
初診日に厚生年金の加入者でしたら障害厚生年金、国民年金の加入者や主婦など配偶者であれば障害基礎年金になります。 - 初診日の前日の時点で、2か月前から1年間遡って保険料の未納・滞納がないかを確認します。
直近1年間で1か月も未納・滞納がなければ納付要件はクリアになりますが、1か月でも滞納がある時は、20歳からこれまでの加入記録全部を確認して、3分の2以上納めていれば大丈夫です。
保険料納付要件については以下の記事で詳しく解説しています。
【ステップ3】受診状況等証明書の取得
初診日の証明書を取得します。
すでにカルテが破棄されていて受診状況等証明書が取得できない場合には、いろいろな方法により初診日の証明をしていきます。
(注意:医師法でカルテの保存期間は終診から5年間と定められております。)
また、最初に受診した病院ではカルテが破棄されていて受診状況等証明書が取得できない場合には2番目に受診した病院、そこでもカルテが破棄されている場合には3番目に受診した病院、というように受診状況等証明書が取得できるまで続けます。
実際には下の図のように、「1 診療録より記載したものです。」に〇が付くまで受診状況等証明書を取り続けることになります。
【ステップ4】診断書の取得
初診日が確定したら、そこから1年6か月経過後の「障害認定日」がわかります。
この時点での病状をその当時の医師に診断書を書いてもらいます。
どれだけ医師から協力を引き出せるかが重要になります。
いつもの診察の際には、日常生活や仕事の支障について主治医にお伝えできていないような場合、診断書作成を依頼する際に日常生活や仕事の支障を主治医にお伝えするとよいでしょう。
朝起きて夜寝るまでの生活を振り返って、障害があることで不便に感じていることやできないことをあらかじめメモにまとめておくと主治医に伝えやすいです。
障害認定日請求の診断書は、障害認定日から3か月以内の日付のもの、20歳前に初診日がある方は、20歳前後3か月以内の日付のものを用意します。
障害認定日にはまだ障害の程度が軽く、障害年金が受給できる程度ではなかったが、現在は症状が悪化して障害年金を受給できる程度である場合には事後重症請求をし、現在の日付の診断書を主治医に書いてもらいます。
事後重症請求の診断書は、作成日から3か月以内に年金事務所や市区町村役場に提出しなければなりません。
- 「障害認定日」に障害状態でない場合には、現在の病状を記載した診断書が必要になります。⇒ 事後重症請求
- 「障害認定日」に障害状態で1年以上経過している場合は、障害認定日と現在の診断書の2枚が必要になります。⇒ 遡及請求
【ステップ5】病歴・就労状況等申立書の作成
診断書は医師が内容を記入するのに対して、病歴・就労状況等申立書はご本人が唯一、ご自身の状況を説明して提出できる書類になります。
障害を抱えるご本人が請求する際には、細かく困っていることを訴えて書いている人も少なくありませんが、審査する側が端的に分かるように要点を押さえて、過不足なく書くことが重要です。
- 病名の欄には、現在の診断書に記載されている病名を書いてください。
- 期間は3~5年で枠を区切り、病院が変わった場合には病院ごとに枠を区切ります。
- 病院に行っていない期間がある場合には、枠を区切り、病院に行かなかった理由やその間の症状についても記載します。
- 通院頻度、治療の内容、治療を受けて症状がどうなったのか、日常生活や仕事でできなかったことはどんなことだったのか等を簡潔にわかりやすく記載します。
病歴・就労状況等申立書の書き方については以下の記事で詳しく解説しています。
【ステップ6】各種提出書類の収集および請求書等の作成
すでに取得した受診状況等証明書や診断書、作成した病歴・就労状況等申立書の他に必要な書類等を揃えます。
例えば事後重症請求の場合には、住民票や戸籍謄本は1か月以内に交付されたものでなければなりませんので、注意が必要です。
受診状況等証明書や診断書を取得した後に準備するとよいでしょう。
障害年金の申請で必要な書類を以下にまとめました。
【すべての方がそろえるもの】
年金請求書 | 初診日に加入していた年金により書式が異なります。
・初診日が国民年金の加入中にある場合 ・初診日が厚生年金の加入中にある場合 両方の障害年金を申請する場合は、両方の請求書の提出が必要です。 |
年金手帳、基礎年金番号通知書など | 基礎年金番号、加入期間確認のために必要です。 |
医師の診断書
(所定の様式あり) |
傷病により8種類の書式があります。
障害認定日より3ヶ月以内の現症のものが必要です。 障害認定日と年金請求日が1年以上離れている場合は、直近の診断書(年金請求日前3ヶ月以内の現症のもの)も併せて必要です。 また、診断書に併せて、レントゲンフィルムや心電図のコピーの提出が必要な場合があります。 |
受診状況等証明書 | 初診時の医療機関と診断書の作成をした医療機関が異なる場合に、初診日を確認するために必要です。
カルテ廃棄などで添付ができない場合は、代わりに「受診状況等証明書が添付できない申立書」の提出が必要です。 初診時の病院と診断書を作成した病院が同一の場合は提出不要 |
病歴・就労状況等申立書 | 障害の状態を確認するための補足資料です。 |
戸籍謄本・戸籍抄本・戸籍記載事項証明書・住民票・住民票記載事項証明書のいずれか | 請求書の生年月日を確認するためのものです。
請求日前1ヶ月以内のものが必要です。 加算対象者(扶養親族)がおらず、日本年金機構にマイナンバーの登録がされている方は、戸籍謄本等の添付は原則不要です。 |
受取先金融機関の通帳など
(本人名義) |
カナ氏名、金融機関名、支店番号、口座番号が記載された部分を含む預金通帳またはキャシュカード(写しも可)など
年金請求書に金融機関の証明を受けた場合は添付不要です。 |
【配偶者または18歳到達年度末までのお子様(20歳未満で障害のある子を含む)がいる方】
戸籍藤本
(記載事項証明書) |
子・配偶者について、請求者との続柄および氏名、生年月日を確認するために必要です。 |
世帯全員の住民票 | 請求者との生計維持関係を確認するために必要です。
マイナンバーを記載することで、省略することも可能です。 |
配偶者の収入が確認できる書類
(所得証明書、源泉徴収票など) |
障害厚生年金を請求する場合に必要です。
(障害基礎年金の場合は加算が付かないので不要) |
子の収入が確認できる書類 | 子の加算条件(一定の収入以下)に該当することを確認するために必要です。
義務教育卒業前の子の場合は提出不要です。(高校等に在学中の場合は、学生証のコピーまたは在学証明書など) マイナンバーを記載することで省略することも可能です。 |
子の診断書
(20歳未満で障害の状態にあるお子様がいる場合に必要です) |
障害状態が、障害年金での1級または2級であることを確認するために必要です。
医師または歯科医が作成したものが必要です。 |
参照:日本年金機構
【ステップ7】年金事務所または市区町村役場へ提出
障害厚生年金を請求する方と、初診日が国民年金第3号被保険者期間中の障害基礎年金を請求する方は、年金事務所または街角の年金相談センターに書類を提出します。
それ以外の障害基礎年金を請求する方は、市区町村役場に提出します。
(年金事務所または街角の年金相談センターに提出しても構いません)
申請から受給開始までの期間は?
障害年金申請のための書類を年金事務所や市区町村役場に提出すると、日本年金機構での審査に入ります。
審査にかかる期間は平均で約3か月ほどかかり、その方の障害の種類や時期によっても変わる場合があります。
審査が終わり、無事に支給が決まると「年金証書」と「決定通知書」がご自宅に届きます。
一方、不支給の場合は「不支給決定通知書」が送付されます。
決定通知書が届いた場合
決定通知書が届いた場合は、約1〜2か月後の15日に初めての障害年金が銀行口座に振り込まれます。
その後は偶数月の15日(15日が土日祝日の場合にはその前日)に2か月分ずつが振り込まれます。
不支給決定通知書が届いた場合
不支給決定通知書が届いたものの、審査結果に納得できない場合は「審査請求」という不服申し立てが可能です。
さらに、審査請求でも不支給となった場合は「再審査請求」を行えます。
審査請求・再審査請求についてはこちらの記事をご参考ください。
障害年金は自分で申請できる?
障害年金は国の社会保障制度ですので、基本的にはご自分でできるものになります。
しかし、初診日のカルテが破棄されていて受診状況等証明書が取れない場合や診断書の取得が難しい場合などは、申請に時間がかかったり、不支給になったりする可能性も出てきます。
社労士 石塚
障害年金の申請をご自分でするか迷われる場合には、チェックリストをご用意しておりますのでご利用ください。
社労士に依頼する場合の費用
障害年金の申請手続きを社労士(社会保険労務士)に依頼する場合の費用についてご説明いたします。
社労士に支払う費用は、着手金と成果報酬となることが一般的です。
着手金は、社労士に手続きの代行を依頼し契約を交わす際にまず支払う費用です。
社労士によって異なる場合がありますが、相場としては2~3万円となっております。
成果報酬は、社労士が障害年金申請の代行をして障害年金が受給できた場合にのみ支払う費用になります。
社労士 石塚
障害年金の受給が決まると同時に受給する年金額も決まりますので、事後重症請求の場合には決まった年金額の2か月分が相場となります。
障害認定日が1年以上前に遡って障害年金が受給できた場合には、その10~20%を成果報酬とする場合が多いです。
一般的になじみのない計算方法になりますので、社労士に障害年金申請の代行を依頼される場合には、ご契約の際にしっかりと説明してもらうようにしてください。
さいごに
障害年金を受給するための申請手続きは、多くの書類を取得し、その方それぞれに難しさも異なります。
一つひとつ確実に準備をすれば、障害年金を受給することはできますが、障害年金申請は1人として同じケースはありません。
障害年金の申請準備で難しいと感じた場合は、早めに専門の社労士にご相談してみることをおすすめいたします。