障害年金の申請を検討している人の多くは、「障害手当金」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
「障害手当金と障害年金は、どう違うの?」「障害手当金と障害年金は両方もらえる?」といった疑問を持つ人も多いと思います。
この記事では、障害手当金とはどのような制度なのか、受給条件、具体的な手続き方法までわかりやすく解説します。
さらに、障害手当金と混同しやすい「傷病手当金」との違いについてもご紹介していきますので、ぜひ最後まで読んで、障害手当金の理解にお役立てください。
目次
障害手当金とはどんな制度?
障害手当金とは、病気やけがによって障害状態になった人が、初診日から5年以内に症状が固定した場合に支給される一時金です。
障害手当金と障害年金は同じ制度で運営されており、障害厚生年金3級よりも軽い障害状態と認められた場合に受け取れます。
障害年金の申請を行い、日本年金機構での審査の結果、障害等級3級以上であれば障害年金が受給でき、3級以下であれば「障害手当金」を受け取ります。
障害手当金の役割とは?
障害手当金は、障害状態が固定した時点での生活の立て直しや、将来への不安を軽減する効果が期待できます。
例えば、障害手当金は以下のような用途に活用できます。
- 療養費やリハビリテーション費用の支払い
- 車などの購入費用
- 生活環境の整備費用
- 将来への備え
一時金ではあるものの、ある程度まとまった支給額を受け取れるため、障害のある人を経済的に支える大切な役割を果たす制度といえるでしょう。
障害手当金を受給できる条件
障害手当金を申請できる条件は、以下の3つです。それぞれ見ていきましょう。
初診日に厚生年金に加入していること
障害手当金は障害厚生年金のみにある制度なので、初診日に厚生年金に加入していることが大前提として必要です。
つまり、会社員や公務員として働いている期間に、障害の原因になった傷病で初めて医療機関で診療を受けている人が支給対象となります。
初診日から5年以内に治り、障害厚生年金3級よりも軽い障害があること
傷病手当金が受給できるのは、初診日から5年以内の傷病の治った日に障害厚生年金3級よりも軽い障害があるときです。
「治った」とは、これ以上治療をしても改善する見込みがないこと、つまり「症状が固定した」ことを指します。
障害年金は遅くなっても申請できますが、障害手当金は5年以内に申請しないと受け取れないので、早急に手続きしましょう。
なお、傷病手当金が受け取れる障害の程度については、国民年金・厚生年金保険 障害認定基準|日本年金機構をご確認いただけます。
保険料納付要件を満たしていること
障害手当金を申請するには、以下のいずれかを満たしていることが必要です。
- 初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの加入期間のうち、3分の2以上の保険料を納付、または免除されている
- 初診日において65歳未満で、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納期間がない(令和8年3月31日までの特例)
自分が保険料納付要件を満たしているかを確認するには、正確な年金加入情報が必要です。
お近くの年金事務所や街角の年金相談センターで、年金の加入記録を確認しましょう。
障害年金の保険料納付要件をもっと詳しく知りたい人は、下記の関連記事をご覧ください。
障害年金の保険料納付要件とは?特例・未納があっても受け取れるケース障害手当金をもらえない人とは?
障害の程度を定める日に以下のいずれかにあてはまる人には、障害手当金は支給されません。
- 国民年金、厚生年金または共済年金を受け取っている
- 労働基準法または労働者災害補償保険法等により障害補償を受け取っている
- 船員保険法による障害を支払事由とする給付を受け取っている
国民年金、厚生年金、共済年金から遺族年金や老齢年金を受け取れる人は、障害手当金を受け取れません。
なお、初診日に国民年金に加入していた人は、障害手当金の支給対象外です。
初診日に国民年金に加入していた人は、障害厚生年金を受け取れず「障害基礎年金のみ」を受け取ります。
障害手当金は障害厚生年金のみにある制度なので、障害基礎年金のみを受け取る人は障害手当金は受け取れません。
障害基礎年金と障害厚生年金の違いについては、関連記事でわかりやすくご紹介していますので、ぜひご一読ください。
障害基礎年金と障害厚生年金の違いについて障害手当金でもらえる金額は?
障害手当金の支給額は、以下のように計算します。(いずれも令和6年度の金額)
報酬比例の年金額(障害厚生年金3級の最低保障額:612,000円)× 2
最低保障額:1,224,000円
障害手当金は一度支給を受けると支給終了となるため、支給額が極端に低くならないように「最低保障額」が設定されています。
例えば、年金の加入期間が短い人が障害を負って障害手当金を受ける場合、加入期間のみで算定すると支給額が少なくなり、障害のある人の生活を経済的に支えることは難しくなります。
そこで、最低保障額を設け、年金加入期間が短い人でも100万円程度が受け取れるように配慮されているのです。
障害手当金の支給額は、関連記事でさらに詳しくご紹介しています。
障害手当金の金額や受給条件をわかりやすく解説障害手当金と障害年金の違い
障害手当金と障害年金の主な違いをまとめると、下表のようになります。
障害手当金 | 障害手当金 | |
---|---|---|
支給方法 | 一時金 | 年金 |
障害の状態 | 初診日から5年以内に傷病が治り、障害厚生年金3級より軽い障害があること | 原則として、障害認定日以降に国が定める障害等級にあてはまること |
支給額 | 報酬比例部分×2 (最低保障あり) | 障害等級や報酬比例の年金額等により変わる |
支給される期間 | 一度だけ支給される | 障害等級にあてはまる期間 |
傷病手当金と障害年金の大きな違いは、傷病が「治った」かを見る点です。
障害手当金では「治った」ことが求められますが、障害年金は「治った」ことは必要条件ではありません。
障害手当金の申請の流れ
障害手当金の請求方法は障害年金と同じで、請求書提出までのおおまかな流れは以下のようになります。
事前に保険料納付要件や診断書や戸籍謄本などの必要書類を確認する
障害手当金は障害厚生年金と同じように書類を作成し準備します。
必要書類の作成や準備が難しいときは、障害年金専門の社労士に申請代行の依頼を検討しましょう。
障害年金の詳しい申請方法や必要書類は、下記の関連記事でご確認いただけます。
障害年金申請の流れとは?7つのステップで徹底解説 障害年金請求の必要書類は?提出先やよくある質問もまとめて解説障害手当金の申請窓口
障害手当金の申請窓口は、年金事務所または街角の年金相談センターで、障害厚生年金と同じです。
なお、初診日時点で共済組合等に加入していた人は、初診日時点で加入していた共済組合等が申請窓口となります。
うつ病でも障害手当金はもらえる?
結論からいうと、うつ病などの精神疾患の場合は障害手当金が支給される可能性はとても低いです。
障害手当金を申請できる条件として、「初診日から5年以内に治ったこと」が挙げられています。
うつ病は一度症状が良くなっても再発をくり返すことが多く、「治った」と定義することが難しいため、障害手当金を受け取る条件を満たせません。
日本年金機構によると、令和4年に決定した精神疾患での障害手当金の件数は0件(0%)でした。
精神疾患全体の障害厚生年金の支給件数が21,376件(95.6%)であることを考慮すると、精神疾患での障害手当金の支給は望めないといえるでしょう。
なお、統合失調症、てんかん、知的障害、発達障害は障害手当金の対象外です。
参考:障害年金業務統計(令和4年度決定分),p5|日本年金機構
傷病手当金との違いは?
障害年金とよく似た名称の「傷病手当金」は、健康保険から支給されます。
間違いやすい「障害手当金」と「傷病手当金」の違いについてみていきましょう。
【障害手当金と傷病手当金の主な違い】
障害手当金 | 傷病手当金 | |
---|---|---|
運営する制度など | 厚生年金 | 協会けんぽ 健康保険組合 共済組合 |
受け取れる人 | 初診日から5年以内傷病が治り、障害厚生年金3級よりも軽い障害がある人 | 業務外の傷病で仕事を休み、その間の給与が十分に受け取れない人 |
支給される期間 | 一時金として一度だけ支給 | 支給開始から通算して1年6か月 |
支給額 | 支給額報酬比例部分×2 (最低保障あり) | おおむね給与の3分の2 |
障害手当金は一度だけ支給されるのに対し、傷病手当金は通算で1年6か月と長期にわたり支給される点が大きな違いといえます。
傷病手当金の詳細は、下記の関連記事でわかりやすくご紹介しています。
傷病手当金とは?支給条件から手続き方法までを徹底解説障害手当金と傷病手当金は同時に受け取れる?
障害手当金と傷病手当金の両方を受け取れる場合は、障害手当金が優先されて、傷病手当金は支給されません。
具体的には、傷病手当金の支給合計額が障害手当金と同額に達するまでの期間は、傷病手当金の支給が停止されます。
傷病手当金と障害年金の併給調整をもっと知りたい人は、下記の関連記事をご覧ください。
傷病手当金と障害年金は両方もらえる?併給調整の注意点なども解説参考:傷病手当金と老齢年金等の併給について|協会けんぽ みやざき
まとめ
障害手当金とは、病気やけがによって障害を負い、初診日から5年以内に症状が固定した場合に支給される一時金で、障害等級3級よりも軽い障害が残った場合に受け取れます。
障害手当金は、障害厚生年金と同じ申請方法ですが、必要書類の作成にとまどう人も少なくありません。
障害手当金や障害年金の申請に不安があるときは、障害年金専門の社労士に相談してみてはいかがでしょうか。