脳梗塞は、脳の血管が詰まり、酸素や栄養が送られず脳細胞が死んでしまう病気です。
2019年には脳梗塞で約6万人の人が亡くなっていますが、幸いにも命を取り留めた場合でも、ふらつきや運動障害などの後遺症が残るケースが多く見られます。
そこで、この記事では脳梗塞の後遺症や症状をわかりやすく解説していきます。
脳梗塞の後遺症が残った場合のサポート体制や、仕事復帰についても紹介するので、脳梗塞の後遺症を詳しく知りたい人は最後まで読んで、ぜひ参考にしてください。
参考:人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡|e-Site(政府統計の総合窓口)
目次
脳梗塞とは
脳梗塞は、脳出血、くも膜下出血と並ぶ脳卒中のひとつです。
脳梗塞は、脳の血管が血栓によって詰まったり、動脈硬化によって血管が細くなったりして脳に血液が行き届かなくなり、脳細胞が死んでしまうことで起こります。
死んだ脳細胞が再生することはなく、死んでしまった脳細胞が司どる機能が失われて、麻痺や運動障害などの後遺症が残ることが多いです。
脳梗塞は血管が詰まる場所や太さによって以下の3つに分けられます。
- 脳内の細い血管が詰まって起こる脳梗塞
- 影響の出る範囲が狭いので、大きな症状が出ないこともある
- ラクナ梗塞が起こっても気づかずに生活する人も少なくない
- アテローム血栓性脳梗塞は脳の太い血管が詰まって起こる
- 脳内の太い血管が詰まるため、脳の大きな範囲で影響が出やすく、目の前が真っ暗になったり、しびれが出る
- 就寝中などの安静時にも発症する
- 心臓でできた血栓が脳内の太い血管に詰まることで起こる脳梗塞
- 急な頭痛やめまいなどの症状が起こりやすい
- 心原性脳塞栓症は重症化しやすい
脳梗塞の前兆については、以下の関連記事でわかりやすく解説しています。
脳梗塞の前兆は?頭痛やめまいが出る?予防法もご紹介!脳梗塞の後遺症とは
脳梗塞の後遺症は、脳の損傷部位によってさまざまな症状が見られ、多くのケースで「運動障害」「言語障害」「高次脳機能障害」などが起こります。
障害の一部だけが残る人もいれば、障害のすべてが後遺症として残る人もいて、症状の出方は人それぞれです。
脳梗塞の後遺症の種類
代表的な7種類の脳梗塞の後遺症と症状をご紹介します。
それぞれ詳しくみていきましょう。
言語障害
言語障害は「聞く」「理解する」「話す」のうち、どれかができなくなる障害です。
脳梗塞によって言語機能に関わる部分が損傷すると、言葉の理解や発話に障害が起こります。
言葉や文字の理解ができなくなる場合があり、「話せない」「字が読めない」「字が書けない」などの症状が出ます。
運動麻痺がある場合、言葉を発音する際に舌や口の動きがうまくできず、発音がしづらくなって、意思の疎通が難しくなることがあります。
言語障害は、日常生活に大きな影響が出る脳梗塞の後遺症のひとつといえるでしょう。
参考:くまもと県脳卒中ノート|熊本大学病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター
摂食・嚥下障害
摂食・嚥下障害は食べ物を口に入れて、よく噛んでから飲み込むまでの過程ができなくなる障害です。
摂食・嚥下障害の症状は下記のようなものがあります。
- うまく食べ物を噛めない
- 口からこぼれてしまう
- 飲み込むまでに時間がかかる
- 飲み込んでもむせてしまう
口から食事を取れなくなると、栄養が十分に取れずに栄養状態が悪くなったり、脱水症状を起こすことがあります。
食べ物が気道に入ってしまい、誤嚥性肺炎や窒息の危険性もあるのです。
摂食・嚥下障害は、食べる楽しみが奪われることから、生活の質(QOL)を大きく損なう可能性もあると言えます。
運動障害
運動障害は、片麻痺や半身麻痺が起こり、手足の動きをうまくコントロールできなくなる障害です。
運動障害の主な症状は下記のようなものがあります。
- ふらつきがあり、つまずいたり転びやすい
- 足を引きずるようになり、歩きにくい
- 階段の昇降が難しい
- 物がつかみにくい
- 字を書くのが難しい
- ボタンを留めるのが難しい
お箸が持てなくなったり、洋服を自分ひとりで着られなくなるなど、日常生活での不便が出やすく、周りの人の介助が必要となる後遺症です。
しびれなどの感覚麻痺
感覚麻痺は、手足の感覚が鈍くなったり、しびれなどが起こる障害です。
感覚麻痺の主な症状は以下のようなものがあります。
- 物が触れても感覚がない
- 温度を感じる感覚が鈍くなり、温かさや冷たさを感じない
肌で温度や圧力を感じる感覚が鈍くなる一方で、異常感覚の症状が出る人もいます。
異常感覚の症状としては、以下のようなことがあります。
- 軽い刺激でも痛みを感じる
- 肌が燃えているような灼熱感を感じる
感覚麻痺があると、脳が正しい感覚を情報として得られないため、歩きづらくなったり、姿勢を保つのが難しくなったりします。
視力・視野障害
脳梗塞で視覚に関わる部分を損傷すると、以下のような症状が表れます。
- 視野の一部が欠損する
- 物が二重に見える
- 視野の片側だけ見にくい
視野障害があると、移動する際に物にぶつかってケガをしたり、文字が読みづらくなるなどの支障が出ます。
視力・視野障害も、日常生活への影響が大きい脳梗塞の後遺症といえるでしょう。
高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、脳卒中や交通事故などの原因で脳の一部が損傷し、思考・記憶・行動・言語・注意などの脳機能に障害がある状態を指します。
高次脳機能障害の主な症状を下表にまとめました。
記憶障害 | ・新しいことを覚えにくくなる ・昔の記憶が抜け落ちて、思い出せない |
注意障害 | ・集中力が続かない ・同時に物事を進められない ・気が散りやすい |
遂行機能障害 | ・計画的に物事を進めたり、段取り良く行動したりすることが難しい ・優先順位がつけられない |
言語障害 | ・言葉が出てこない ・言葉の意味が理解できない |
感情・行動障害 | ・些細なことで怒る ・やる気がない ・衝動的に行動する |
半側空間無視 | ・見えているのに、片側に注意がいかない |
高次脳機能障害は、外見からは分かりにくいことが多く、「見えない障害」とも呼ばれています。
そのため、周囲からの理解を得ることが難しく、「仕事のできない人だ」「怒りっぽくて付き合いづらい」などと誤解されてしまうことも多いです。
参考:高次脳機能障害を理解する|国立障害者リハビリテーションセンター
精神障害
脳梗塞で感情を司る部分に損傷を受けると、感情のコントロールができなくなります。
元々は穏やかな性格の人だったのに、脳梗塞発症後は怒りっぽくなったり、すぐに泣くようになったりするのです。
周囲の人から見ると「人格が変わった」と感じて、とまどうことも多いようです。
このほかにも、脳梗塞の後遺症として以下のような精神障害が表れることが知られています。
脳卒中後うつ
脳卒中後うつは、脳卒中患者の約30%にみられるとされています。
主な症状としては、気分の落ち込み、無気力、集中力低下、睡眠障害、食欲不振などが見られ、意欲や自発性が低下します。
認知症
脳梗塞の後遺症として、認知症に深く関わるのは「ラクナ梗塞」です。
ラクナ梗塞は脳にダメージを与える部分が少ないため、自覚がないまま脳内で多くのラクナ梗塞を発症しているケースがあります。
少しずつ脳の認知機能を司る部分が損傷を受け続けた結果、認知症に至るのです。
記憶障害や判断力の低下など認知症特有の症状に加えて、片側の麻痺や視野障害などの脳梗塞の後遺症が出ることもあります。
脳梗塞でも仕事復帰できる?
厚生労働省によると、脳卒中患者の最終的な復職率は50~60%とされています。
後遺症の重症度や会社や家族のサポートにもよりますが、多くの人が復職しているといえるでしょう。
復職に向けた手順の例をご紹介します。
順番に見ていきましょう。
自分の現状と気持ちを見直す
脳梗塞の病状が安定したら、社会復帰へ向けて現在の自分の状況と気持ちを見直しましょう。
以前はできたことが難しくなっていたり、気持ちが以前とは変化していたりすることもあるかもしれません。
脳梗塞を経験して、自分の中で仕事へのモチベーションが変わったり、生活のなかで大切にしたいことの順位が変わっている可能性もあります。
今後、自分がよりよく過ごせるように、一度自分の現状と気持ちを整理することが大切です。
主治医に復職について相談する
復職を希望する場合、主治医に復職についての相談をしましょう。
主治医に次のようなことを確認します。
- 退院はいつごろできそうか
- 退院後の治療はどのようになるか
- どのくらい回復できそうか
- 復職までどのくらいかかるか など
後遺症がある場合、以前と同じ仕事ができないことも考えられます。
会社からどのような配慮があれば復職できるかなど、気になることがあれば主治医に相談しておきましょう。
職場に現状を報告し、復職について相談する
職場には、定期的に現在の状況を報告をしましょう。
職場の人たちは脳梗塞発症後の病状が気になっていても、入院している人を気遣って、あえて聞かないケースもあります。
療養中は、無理のない範囲で定期的に現状を報告して、職場と接点を持つことがとても大切です。
自分で報告するのが難しいときは、家族にお願いしてもいいでしょう。
現在の病状や後遺症の重症度によっては、復職まで長い期間がかかることも想定されます。
職場と良い関係を保ち、復職について相談したり、復帰後の職場での配慮をお願いしたりできるように今から準備しておくと、職場復帰への不安を減らせるでしょう。
脳梗塞の後遺症について|よくある質問
脳梗塞の後遺症について寄せられる質問にお答えします。
脳梗塞で退院後、車の運転はいつから再開できますか?
車の運転を許可するのは、警察(公安委員会)です。
警察(公安委員会)で臨時適性検査を受け、合格すると運転の再開が認められます。
運転再開の手順は以下のようになります。
- 医療機関で病気や症状を確認してもらう
- 主治医の許可を得る
- 警察(公安委員会)に相談する
医療機関では、てんかんや認知症、失神などの運転免許取消しや停止となる病気や症状がないか確認してもらいましょう。
主治医から運転の許可を得たら、警察(公安委員会)に運転許可について相談します。
安全運転相談ダイヤル #8080
※発信場所を管轄する都道府県警察の安全運転相談窓口につながります。
なお、運転再開が可能かを判断するために、警察(公安委員会)から主治医の診断書などの必要書類を求められる場合もあります。
脳梗塞で後遺症がある場合、どんなサポートがありますか?
脳梗塞で後遺症があるときに受けられるサポートをご紹介します。
地域障害者職業センター
障害のある方々が就職活動や職場定着に向けて、サポートを受けられる専門施設で、全国47都道府県に1つずつ設置されています。
- 面接対策などの就職活動のサポート
- 就職に必要な知識やスキルを身につけるための訓練を実施
- 就職後の職場でのトラブル解決や、職場適応のための支援 など
お近くのセンターは、地域障害者職業センター|独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構でご確認ください。
障害者就業・生活支援センター
障害のある方の「仕事」と「生活」を一体的に支援する機関で、通称「なかぽつ」とも呼ばれています。
- 希望や能力に合った仕事を見つけるためのアドバイス
- 健康管理など日常生活に関する相談
- 関係機関と連携し、総合的な支援を提供 など
全国で337か所展開しており、障害のある人の身近な場所で相談を受け付けています。
障害者手帳
脳梗塞で障害が残った場合、障害者手帳の取得ができることがあります。
障害者手帳は、福祉サービスが受けられたり、税金が優遇されたりなど、障害のある人の生活面をサポートする制度です。
障害者手帳の詳細は、下記の関連記事をご覧ください。
障害者手帳とは【完全初心者向け】障害者手帳の取得やご相談は、お住まいの市区町村役場へお問い合わせください。
障害年金
脳梗塞で障害が残った場合、障害年金の請求ができることがあります。
障害年金は障害のある人を経済的に支える制度で、障害年金の受給要件を満たすと、年金として現金が受け取れます。
障害年金の詳細は関連記事をご覧ください。
障害年金とは【専門家がわかりやすく解説します】障害年金の受給については、年金事務所や街角の年金相談センターへお問い合わせください。
参考:街角の年金相談センター一覧|全国社会保険労務士会連合会
このほか、障害年金専門の社労士事務所でも障害年金の相談を受けています。
ピオニー社労士事務所では、脳梗塞や高次脳機能障害での障害年金受給の事例が多数あります。
お気軽にお問い合わせください。
まとめ
脳梗塞は、脳内の血管が詰まったり、細くなったりして、脳細胞に血液が送られなくなる病気です。
脳細胞が壊死して再生せず、壊死した脳細胞が担当していた機能が失われます。
脳梗塞を発症し、幸いにも命を取り留めても、後遺症として言語障害や感覚麻痺、精神障害などが残ることがあります。
脳卒中患者の50~60%が復職しているとされており、会社や周囲のサポートにより多くの人が社会復帰できるといえるでしょう。