障害年金と障害者手帳の違いとは?基本的な仕組みも解説

年金手帳と障害者手帳

障害年金と障害者手帳がよくわからなくて、お困りではありませんか。

障害年金と障害者手帳について、こんなお悩みがよく聞かれます。

  • 障害年金の請求よりも前に障害者手帳を取ったほうがいいんだろうか
  • 障害者手帳を持っていないと、障害年金はもらえないんじゃないか
  • 障害者手帳が3級だから、障害年金も3級になってしまうんじゃないか

障害年金と障害者手帳は、いずれも障害者の生活を支えるための大切な制度です。

両制度ともに障害の重さにより等級分けされ、混同しやすく制度の違いがわかりづらい傾向があります。

そこで本記事では、障害年金と障害者手帳は何が違うのか、両制度の基本的な仕組みもわかりやすく解説します。

障害年金と障害者手帳についてくわしく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

障害年金の基本的な仕組み

障害年金の基本的な仕組みは次の2つです。

  • 障害年金は2種類ある
  • 障害年金の受給要件は3つ

順番にご紹介します。

障害年金は2種類ある

障害年金は、老齢年金や遺族年金と同じように国が運営する年金保険です。

けがや病気で仕事や生活に制限を受けるようになった際に、一定の要件を満たすと障害年金が受け取れます。

障害年金では、うつ病などの精神疾患や知的障害も対象です。

障害年金には、「障害基礎年金」「障害厚生年金」の2種類があります。

障害基礎年金と障害厚生年金を表にまとめました。

年金の種類 初診日※1に加入していた年金制度 等級など
障害基礎年金 国民年金 1級、2級
障害厚生年金 厚生年金 1級~3級
障害手当金※2

※1 初診日とは、障害の原因となった病気やけがで初めて医師の診療を受けた日のこと
※2 障害手当金とは、初診日から5年以内に病気やけがが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときに支給される一時金

障害年金の受給要件は3つ

障害年金は下記の3つをすべて満たすと受給できます。

  1. 初診日要件
    ・障害の原因となった病気やけがの初診日に国民年金か厚生年金に加入中である
    ・20歳前または日本在住の60歳以上65歳未満の人で年金制度に加入していない
  2. 保険料納付要件
    年金の保険料を一定期間以上納付していること
  3. 障害状態要件
    障害認定日もしくは現在、障害の状態が障害等級表に定める基準に該当していること

※ 20歳前に初診日がある場合は納付要件は問われない

障害年金は上記の3つの要件を満たすと支給されますが、障害者手帳の所持は障害年金の受給要件ではありません。

したがって、障害者手帳を持っていない人でも、障害年金の請求をすることができます。

ただし障害者手帳の所持が、障害年金認定の際に参考になることはあります。

障害年金について詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

障害者手帳の基本的な仕組み

障害者手帳とは、知事や指定都市の市長などが発行する下記の3種類の手帳を合わせた呼び方です。

  • 身体障害者手帳
  • 療育手帳
  • 精神障害者福祉手帳

順番にご紹介します。

身体障害者手帳

身体障害者手帳は、身体に一定以上の障害があると認められた人に交付される手帳です。

身体障害者手帳を交付するのは都道府県や政令指定都市・中核市などの自治体で、手帳が交付されるとさまざまな福祉サービスを受けることができます。

原則として手帳の更新はありませんが、障害の程度が変わると予想される場合は手帳交付後一定期間をおいて再認定されることもあります。

身体障害者手帳の等級は1級~7級まであり、手帳が交付されるのは1級~6級までです。

7級単独では手帳は交付されませんが、7級の障害が複数あって6級以上に相当する場合は手帳が交付されます。

また、障害者手帳について詳しく理解したい方は身体障害者手帳とは?等級・メリットについても解説をご覧ください。

療育手帳

療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所で知的障害があると判定された人に交付される手帳です。

療育手帳は、知事や指定都市の市長、児童相談所を設置する中核都市の市長が交付し、自治体により呼び方が違います。

療育手帳の主な名称はこちらです。

  • 愛の手帳(東京都・横浜市)
  • 愛護手帳(青森県・名古屋市)

療育手帳の等級は、厚生労働省では重度(A)とそれ以外(B)となります。

認定区分は自治体によりさらに詳細に分けられ、東京都の場合は1度(最重度)2度(重度)3度(中度)4度(軽度)です。

療育手帳は、交付を受けている方の年齢に応じて、障害の程度を見直す時期が定められています。

18歳未満の方はおおむね2年ごと、40歳未満の方は10年です。

※この記事では、「療育手帳」と統一して記載します。

療育手帳については下記の記事でさらに詳しく解説しています。

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、一定の精神障害の状態に該当する人を対象として、本人からの申請により交付されるものです。

精神障害者保健福祉手帳を交付するのは知事や指定都市の市長で、等級は1級から3級まであります。

手帳の有効期限は交付日から2年が経過する日の属する月の末日までとなっており、2年ごとに認定を受けることが必要です。

障害者手帳について表にまとめました。

身体障害者手帳 療育手帳 精神障害者保健福祉手帳
根拠 身体障害者福祉法 療育手帳制度について 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
交付主体 ・都道府県知事
・指定都市の市長
・中核都市の市長
・都道府県知事
・指定都市の市長
・児童相談所を設置する中核都市の市長
・都道府県知事
・指定都市の市長
障害分類 ・視覚障害
・聴覚・平衡機能障害
・音声・言語・そしゃく障害
・肢体不自由
・心臓機能障害
・じん臓機能障害
・呼吸器障害
・ぼうこう・直腸機能障害
・小腸機能障害
・HIV免疫機能障害
・肝臓機能障害
知的障害 ・統合失調症
・気分(感情)障害
・非定型精神病
・てんかん
・中毒精神病
・器質性精神障害(高次脳機能障害を含む)
・発達障害
・その他の精神疾患
等級 1級~6級
※7級単独では手帳は交付されない
重度(A)
それ以外(B)
※自治体により更に区分されることもある
1級~3級

引用:障害者手帳(厚生労働省)

障害者手帳について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

障害年金と障害者手帳の違いは?

障害年金と障害者手帳の大きな違いは、給付の内容です。

障害年金は要件を満たすと、年金や一時金としてお金が振り込まれます。

一方で、障害者手帳を持つ方は各種サービスが受けられるほか、税金の優遇措置などが受けられます。

順番にわかりやすくご紹介します。

障害年金で受けられる年金額

障害基礎年金と障害厚生年金で受けられる年金額は下記の通りです。

障害基礎年金の年金額(令和6年4月分から)

障害基礎年金の年金額を等級ごとに表にまとめました。

1級

昭和31年4月2日以後生まれ 1,020,000円 + 子の加算額※
昭和31年4月1日以前生まれ 1,017,120円 + 子の加算額※

2級

昭和31年4月2日以後生まれ 816,000円 + 子の加算額※
昭和31年4月1日以前生まれ 813,700円 + 子の加算額※

子の加算額

2人まで 1人につき234,800円
3人目以降 1人につき78,300円

※「子の加算額」は、障害基礎年金を受けている方に生計同一の子がいるときに加算
 「子」とは、18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子

参考:障害基礎年金の年金額(日本年金機構)

障害厚生年金の年金額(令和5年4月から)

障害厚生年金の年金額を表にまとめました。

等級 年金額
1級 報酬比例の年金額 × 1.25 + 〔配偶者の加給年金額(234,800円)〕※
2級 報酬比例の年金額 + 〔配偶者の加給年金額(234,800円)〕※
3級 報酬比例の年金額

※「配偶者加給年金額」は、障害厚生年金1級、2級を受けている方に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるときに加算

3級の最低保証額

昭和31年4月2日以後生まれ 612,000 円
昭和31年4月1日以前生まれ 610,300 円

参考:障害厚生年金の年金額(日本年金機構)

「報酬比例の年金額」とは、厚生年金の加入期間や給与の平均額をもとに算定した年金額です。厚生年金の加入期間や給与の平均額は人によって違うため、報酬比例の年金額もそれぞれ異なる金額となります。

障害厚生年金の年金額は、報酬比例の年金額を元に計算されるため、障害基礎年金のように定額ではありません。

障害厚生年金1級・2級の方は、障害基礎年金1級・2級も合わせて受給となります。

また、障害厚生年金3級には配偶者加給年金額の加算はありませんが、最低保証額が設定されています。

報酬比例の年金額が最低保証額よりも低い場合は、最低保証額の年金額が受給可能です。

障害年金で受けられる金額について、更にくわしく知りたい方は下記をご覧ください。

障害者手帳で受けられるメリット

続いて、障害者手帳の交付で受けられるメリットについて解説します。

  • 医療費などの助成
  • 税金の優遇
  • 公共料金などの割引サービス
  • 障害者雇用枠での就職

4つのメリットについて、それぞれ見ていきましょう。

医療費などの助成

【医療費の助成】
代表的な医療費の助成として、自立支援医療の「更生医療」が受けられます。
障害の軽減、進行の防止、機能回復のために行う手術治療等の費用を一部公費負担されます。

地方自治体で独自に医療費を助成するところもあり、「受給券」を提示すると一部負担金のみで医療機関で診療が受けられます。

地方自治体により医療費助成の内容が大きく異なるため、該当される方はお住いの役所にご確認ください。

【リフォームの助成】
障害者が住む住宅に、手すりを取り付けたり、トイレや玄関などを改修して住みやすくするための費用を助成する制度です。

障害の種類や世帯の所得などで、助成される金額の上限が変わります。

地方自治体により助成金額や受けられるサービスも違うため、くわしくはお住いの役所へご確認ください。

税金の優遇

【所得税や住民税】
納税者本人か、納税者の扶養親族が障害手帳を交付されていると、所得控除を受けられるので、所得税や住民税が軽減されます。

障害者控除を表にまとめました。

区分 控除額
障害者 27万円
特別障害者 40万円
同居特別障害者※ 75万円

※「同居特別障害者」とは、特別障害者で生計同一の配偶者または扶養親族で、納税者本人または配偶者、生計同一の親族のいずれかとの同居を常況する人
参考:障害者控除(国税庁)

この他にも、相続税や贈与税でも優遇があります。詳しくは下記をご覧ください。
参考:障害者と税(国税庁)

【自動車税】
障害者本人や障害者と生計同一の家族等が所有する車について、自動車税・自動車取得税が減免されます。

対象となる障害や減免の内容は、地方自治体により違います。該当される方はお住いの役所へお問合せください。

公共料金などの割引サービス

障害者手帳取得で受けられる主な割引サービスについてまとめました。

NHK 全額免除または半額免除(障害の種類や世帯の収入による)
公共交通機関 鉄道(JR、東京メトロ、東急電鉄など)
バス(東急バス、JRバス関東、小田急バスなど)
飛行機(JAL、ANA、スカイマーク、AIR DOなど)
※この他、タクシーや高速道路の利用料の割引もあります。
携帯電話会社 NTTドコモ(ハーティ割引)
au(スマイルハート割引)
ソフトバンク(ハートフレンド割引)
公共施設 美術館(国立西洋美術館、東京都現代美術館など)
博物館(東京国立博物館、鉄道博物館など)
動物園(上野動物園、天王寺動物園、東山動植物園など)
※USJや東京ディズニーリゾートなどのテーマパークでも入場料の割引が受けられます。

時代の変化に即して、障害者手帳アプリを導入する自治体や事業者が増えています。電子クーポンや施設・店舗のバリアフリー情報を掲載するなど、アプリ導入で障害者手帳が使いやすくなりました。

障害者雇用での就職

障害者手帳を取得すると、障害者雇用枠での就職や転職ができるようになります。

障害者雇用枠とは、企業が障害のある方を採用する制度です。

障害者雇用枠での就職は、一般採用よりも入社しやすい傾向があり、入社後も職場において障害への配慮を求めやすくなるメリットがあります。

企業は障害者雇用促進法により、労働者の2.3%にあたる人数を障害者雇用として採用するよう義務付けられています。これを「障害者雇用率制度」と言います。

企業が障害者手帳を持つ方を雇用することで、障害者雇用率制度の基準を満たすことができます。そのため、企業にとっても障害者雇用枠での採用はメリットがあると言えるでしょう。

参考:障害者雇用率制度(厚生労働省)

障害年金と障害者手帳は別の制度

障害年金と障害者手帳の運営主体や給付内容を比べてみると、両制度は全く別の制度であることがわかりました。

障害年金と障害者手帳では、障害等級の認定基準も違います。

例えば、視力障害では下記の通り定められています。

  • 障害年金1級  両眼の視力がそれぞれ0.03以下のもの
  • 障害者手帳1級 視力の良い方の眼の視力が0.01以下のもの

同じ障害等級1級でも、年金と手帳では視力に差があることがわかります。
障害年金と障害者手帳では認定基準が異なることから、両制度で障害等級が同じにはならないことがあります。

例外として、精神障害で障害年金を受給している場合は、障害年金と同じ等級の精神障害者保健福祉手帳を取得できます。

この場合、年金と手帳の取得の順番が重要です。
先に精神障害者保健福祉手帳を受けていても、障害年金は同じ等級になるとは限りません。

また障害年金と障害者手帳は同時に申請することもできますが、相談先や申請先が違っており、それぞれの相談先は下記の通りです。

  • 障害年金の相談や申請は、市区町村役場もしくは年金事務所や街角の年金相談センター
  • 障害者手帳の相談や交付については、お住いの自治体

障害年金については、障害年金専門の社労士事務所でも相談することもできます。

参考:障害等級表(日本年金機構)

参考:身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)

障害者手帳の等級については、下記の記事で詳しく解説しています。

障害年金の等級については、下記の記事で詳しく解説しています。

まとめ

障害年金と障害者手帳は、ともに障害者の生活を支える制度です。

両制度とも、障害の重症度により等級分けされ混同しやすいですが、別々の法律を根拠に運営されており、給付の内容も全く違う別の制度です。

障害年金と障害者手帳では障害の認定基準も違うため、障害者手帳の交付を受けている方でも障害年金が受給できなかったり、手帳と年金で違う障害等級になることもあります。

ただし精神障害で障害年金を受給している場合は、障害年金と同じ等級の精神障害者保健福祉手帳を取得できます。

障害年金と障害者手帳は同時に申請することも可能です。

障害年金の受給や申請の相談は、障害年金専門の社会保険労務士や年金事務所や街角の年金相談センターへ、障害者手帳の交付についてはお住いの自治体へ相談しましょう。