近年、「発達障害」という言葉が広く知られるようになりました。
しかし、発達障害への理解はまだ十分とは言えません。
大人になってから発達障害と診断されるケースも増え、不安を抱える人も少なくないでしょう。
この記事では、大人になってから「もしかしたら自分は発達障害かもしれない」と思い始めた方に向けて「発達障害とは何か」をわかりやすく解説します。
最後まで読むと、発達障害の診断場所や発達障害で受けられる支援先もわかります。
大人の発達障害について知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
目次
発達障害とは
発達障害は、生まれつき脳の発達に凸凹があるため、コミュニケーションや認知機能などに偏りや歪みが見られる障害のことです。
先天的な脳発達の偏りが原因のため、大人になって発達障害が発症するわけではなく、幼少期からさまざまな特徴が表れます。
発達障害のある人は、他人とのコミュニケーションが苦手なケースが多く、周囲から「個性的な人」「変わった人」と言われ、疎外感や孤独を感じる人もいます。
発達障害の種類
発達障害の主な種類は、以下の3つです。
- ASD(自閉症スペクトラム障害)
- ADHD(注意欠如多動症)
- LD(学習障害)
大人になって気づく発達障害の大部分が、ASDとADHDです。
発達障害の種類の図を下記に示します。
発達障害のある人は、いくつかの症状を併せ持つことも多く見られ、ASDとADHDの両方の特徴を有するケースもあります。
また、発達障害の特徴の表れ方は人それぞれ違い、同じ診断名でも表れる症状が大きく違うことも少なくありません。
このほかにも、以下のような発達障害があることが知られています。
- 協調運動症
- チック症
- 吃音
- トゥレット症
発達障害の種類や特徴については、以下の関連記事で詳しく解説しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。
発達障害の種類一覧!それぞれの特徴や支援先もご紹介発達障害の特徴
ここでは、大人になって気づくことが多いASDとADHDの特徴をみていきましょう。
ASD(自閉症スペクトラム障害)の特徴
ASD(自閉症スペクトラム障害)は、以前は「アスペルガー症候群」や「自閉症」と呼ばれていました。
2013年から、ASD(自閉症スペクトラム障害)という呼び方でまとめられています。
ASDの特徴を表にまとめました。
特徴 | 具体的な内容 |
---|---|
コミュニケーションを取るのが苦手 | ・その場の空気を読めず、状況に合った行動ができない ・言葉以外での意思疎通が苦手 ・冗談を信じてしまう ・曖昧な指示だとわからない |
こだわりが強い | ・手順ややり方などにこだわる ・決まりごとを守ろうとする ・興味のないことは手をつけない ・臨機応変な対応できない ・同じ作業を繰り返すのが得意 |
ASDのある人は、他人と意思疎通することが難しく、職場や学校に馴染めずに孤独を感じやすいです。
仕事の進め方にこだわりがある場合、臨機応変な対応ができずに「融通が利かない」と上司から評価されることもあります。
こうしたことが続いた結果、次第に職場での信頼を失い、仕事を任せてもらえなくなるケースも見られます。
ASDについてもっと詳しく知りたい人は、以下の関連記事をご覧ください。
ASD(自閉症スペクトラム障害)とは?特徴や診断、サポート体制も詳しく解説参考:ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|e-ヘルスネット(厚生労働省)
ADHD(注意欠如多動症)の特徴
ADHD(注意欠如多動症)は、大きく分けて「不注意」と「多動・衝動性」の2つの特徴が見られます。
ADHDの特徴を表にまとめました。
特徴 | 具体的な内容 |
---|---|
不注意 | ・忘れ物が多い ・よく物をなくしてしまう ・気が散りやすい ・すぐに注意が散漫になる ・集中力が続かない |
多動・衝動性 | ・じっくり待つことが苦手 ・衝動的に行動する ・思いついたことをすぐ口に出す ・他の人の話に割って入る |
ADHDのある人は、思ったことをそのまま口にするため話題が飛びやすい傾向があります。
また、マルチタスクが苦手だったり、時間管理がうまくできず約束の時間を守れないことも多いです。
ADHDの特徴の出方については個人差が大きく、2つの特徴を併せ持つ方もいれば、どちらかの特徴のみを強く持つ方もいます。
ADHDについての詳細は、以下の関連記事でご紹介しています。
ADHD(注意欠如・多動性障害)とは?原因・症状・治療法を解説参考:ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療|e-ヘルスネット(厚生労働省)
参考:ADHD(注意欠如・多動症)|国立精神・神経医療研究センター
なぜ大人になって発達障害だと気づくの?
大人になって発達障害だと気づく原因は、ライフステージや周囲のサポートが変化することが挙げられます。
発達障害は生まれつきの脳発達の偏りからくるものなので、その特徴からくる困りごとは子どものときから見られます。
しかし、子どものころは「まだ小さいから…」「そのうちできるようになるから大丈夫」と言われて、保護者や周囲のサポートでさまざまな困りごとを乗り越えられることが多いです。
そのため、本人は自分が「発達障害かもしれない」という自覚がないまま成長します。
やがて成人し、保護者や周囲のサポートがなくなると、約束した時間や納期が守れなかったり、人間関係がうまくいかず悩んだりして、初めて「自分は発達障害かもしれない」と気づくのです。
発達障害の診断
発達障害の診断は、精神科や心療内科、メンタルクリニックで受けられます。
現在、大人の発達障害を診察する医療機関の数は、あまり多くありません。
地域によって、大人の発達障害を受け入れる医療機関の規模や数にもばらつきがあるため、初診の予約が取りづらいこともあるようです。
発達障害の診察を希望する場合は、早めに予約するといいでしょう。
発達障害の診断の流れ
精神科等を受診すると、以下のような順で進みます。
- 診察
- 検査
- 診断
順番にみていきましょう。
発達障害の診察
精神科等での診察では、これまでの成長過程や現在の生活状況、困りごとなど多岐にわたって聞かれます。
診察時に聞かれることは、以下のようなことが挙げられます。
- 家族や親戚の既往歴
- 学校での成績
- 幼少期から現在に至るまでの友達関係
- 現在の困りごと など
受診する医療機関によっては、診察時間が限られていることもあります。
医師にもれなく伝えるために、あらかじめメモして準備するといいでしょう。
発達障害の検査
発達障害の検査の目的は、発達障害と同じような症状の疾患があるかをみることです。
たとえば、頭部のCTやMRIで認知症や高次脳機能障害の可能性を探り、てんかんが疑われるときには脳波検査を行います。
発達障害の診断
発達障害の診断には、アメリカ精神医学会の診断基準である「DSM-5」※を用います。
※DSM-5は、精神疾患の基本的な定義などをまとめたもの。現在では国際的に精神疾患の診断に利用されている
医師は、問診や検査、行動観察の結果が、DSM-5の診断基準を満たしているか、社会生活に適応できるかなどを総合的に見て診断を行います。
一度の診察では診断がつかず、数カ月ほど継続して診察を受けたのちに診断されることが多いです。
発達障害の診断については、以下の関連記事で詳しく解説しています。
発達障害の診断は受けるべき?病院の見つけ方や診察の流れを解説発達障害の人に向いている仕事
発達障害と診断を受けると、これからの働き方について不安を抱える人も少なくないでしょう。
そこで、大人の発達障害に多いASDとADHDのある人に向いている仕事をみていきます。
ASDの人が向いている仕事
ASDのある人に向いている職種や職業を下記にまとめました。
職種や職業 | 向いている理由 |
---|---|
経理や法務 | ・ルールに沿って進められる業務が多い ・規則に忠実でコンプライアンス意識が高い特性が生かせる |
研究者 | ・特定の事柄に徹底的にこだわる特性が生かせる ・興味があることに高い集中力が発揮できる |
ライン作業や清掃員など | ・ルーティンワークが得意な特性が生かせる |
ASDのある人は、自分の興味や関心のあることと業務内容が重なれば、高い集中力を発揮して成果を残せる可能性があります。
参考:ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|e-ヘルスネット(厚生労働省)
ADHDの人が向いている仕事
ADHDの人が向いている仕事を以下に示します。
職種や職業 | 向いている理由 |
---|---|
デザイナー | ・独創的なアイデアを業務に生かせる ・優れた色彩感覚を作品に投影できる |
起業家 | ・強い好奇心と行動力で、リスクを恐れない ・興味のある事業に集中して取り組める |
プログラマー | ・個人で作業することが多く、他人とのコミュニケーションが最小限で業務にあたれる ・興味のあることに高い集中力を発揮できる |
ADHDの特徴の表れ方は、個人差が大きい傾向があります。
自分の特性を見極めて仕事を選ぶと、適職が早く見つかるかもしれません。
発達障害のある人は、自分の特徴を生かせる仕事に就き、周りのサポートを受けることができれば支障なく仕事ができる可能性があります。
発達障害のある人に向いている仕事をもっと詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。
発達障害に向いている仕事とは?ASD・ADHD・LDの特性や就労支援もご紹介参考:ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療|e-ヘルスネット(厚生労働省)
参考:ADHD(注意欠如・多動症)|国立精神・神経医療研究センター
発達障害の方への支援先
発達障害のある人は、周囲のサポートをうまく活用することで困りごとを減らせる可能性があります。
発達障害のある人が受けられる支援を3つ紹介します。
順番に見ていきましょう。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害者へ専門的な職業リハビリテーションサービスを提供する機関です。
全国47都道府県に設置されており、運営は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が行っています。
地域障害者職業センターは、障害者手帳がなくても利用できるので、医療機関へ行くのを迷っている人は、まずこちらで仕事の相談してみてはいかがでしょうか。
お近くのセンターは、地域障害者職業センター|高齢・障害・求職者雇用支援機構で確認してください。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
障害者就業・生活支援センター(通称:なかぽつ)は、障害のある方の「仕事」と「生活」を支援する公的機関で、全国に設置されています。
障害のある人の希望や能力に合った仕事を見つけるためのアドバイスを行うほか、仕事に必要な知識やスキルの習得を支援します。
また、生活習慣や金銭管理の助言を受けたり、生活設計の相談もできたりする機関です。
お近くのセンターは、障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省をご覧ください。
障害年金と障害者手帳
発達障害の診断を受けると、障害者手帳を受けたり、障害年金の請求ができたりすることがあります。
発達障害で受けられる障害者手帳とは
障害者手帳は、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3つを合わせた呼び方です。
障害者手帳の交付を受けると、福祉サービスが受けられたり、税金が優遇されます。
障害者手帳は、障害のある人の生活を支える大切な制度といえるでしょう。
発達障害のある人は、「精神障害者保健福祉手帳」の交付を受けられる可能性があります。
精神障害者保健福祉手帳を申請するには、その障害での初診日から6ヶ月以上経過していることが必要です。
精神障害者保健福祉手帳の申請等については、関連記事でわかりやすくご紹介しています。
精神障害者保健福祉手帳とは?申請方法まで徹底解説発達障害で受けられる障害年金とは
障害年金は、現役世代の人が病気やけがが原因で生活や仕事に制限を受けるようになったときに請求できる年金保険です。
身体障害だけではなく、発達障害やうつ病などの精神疾患も障害年金の支給対象となります。
障害年金は、発達障害の診断がでれば必ず支給が受けられるものではなく、日本年金機構に請求して審査を受け、認められたときにもらえるものです。
障害年金の請求は、書類の作成の難易度が高く、自分の力だけでは難しいケースが多くみられます。
そんなときは、社会保険労務士に請求手続きの相談をしてみてはいかがでしょうか。
ピオニー社会保険労務士事務所では、障害年金の請求手続きの代行を承ります。
自分で障害年金の請求をすることが不安な方は、ぜひお気軽にご相談ください。
社会保険労務士に障害年金の申請代行を依頼するメリットについては、関連記事で詳しくご紹介しています。
障害年金の申請代行を社労士に依頼する4つのメリットまとめ
発達障害は、生まれつき脳の発達に凸凹があるため、コミュニケーションや認知機能などに偏りや歪みが見られる障害です。
幼少期から発達障害の特徴が表れ、生活するうえで困りごとを抱えることが多くみられます。
医療機関で発達障害の診断を受けると、公的機関でサポートが受けられるほかに、障害者手帳や障害年金が受けられる可能性があります。
発達障害で不安があるときは、ひとりで悩まずに支援先を活用しましょう。